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フォレストサイドハウスの住人達(その10)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2015/01/13 (火) 15:46 ID:KJbTWW7o No.2636
浦上千春の隣人、佐原幸恵と言う名を聞いて、記憶力にいい読者であれば、この物語の冒頭で紹介した
佐原靖男のことを思い出されると思います。泉の森公園のベンチに肩を落として座る50男を見て、そ
のイケメンぶりと男のすっかり憔悴したに様子に女ごころを揺り動かされ、すっかり彼に同情した由美
子が彼に声を掛け、おせっかいついでとばかりに彼のマンションまで付いて行き、そこで彼の妻幸恵の
失踪を知らされるのです。

佐原靖男が語る通りであれば、幸恵は夕餉の支度の途中で忽然と姿を消しているのです。警察には失踪
届けを出しているのですが、争った跡がないことなどから単純な家出人として警察は受け止めているよう
なのです。

この章では幸恵が失踪に至るまでの経緯を説明し、できれば事件の解決まで見届けたいと思っています。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その11)』
の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきます。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余脱
字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにしま
す。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した当該記事を読み直していただけると幸いです。

・(1)2014.5.8 文末にこの記事があれば、この日、この記事に1回目の手を加えたことを示しま
す。
・記事番号1779に修正を加えました。(2)2014.5.8 文頭にこの記事があれば、記事番号1779に二
回目の修正を加えたことを示し、日付は最後の修正日付です。ご面倒でも当該記事を読み直していた
だければ幸いです
                                        ジロー  


[41] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(305)  鶴岡次郎 :2015/04/15 (水) 14:10 ID:AKg2Rbu2 No.2679

覚悟を決めているのでしょう、さわやかな表情で幸恵は口を開きました。

「これだけは絶対言わないでおこうと思っていたのですが・・・、
このまま別れることになれば、その機会もなくなると思いますので、
正直に申します…。

あなたのためだと思って、この世界に入りましたが・・、
途中から・・、この世界に居ることが好きになっています…。

毎日たくさんの男にちやほやされ、
抱かれて、喜悦の限りを味わい・・、
このニケ月間、私は幸せでした…」

佐原を喜ばせる技を身に付けたいと思って、ソープの世界に入ったのですが、たくさんの男達の愛撫に
溺れ、佐原を喜ばせる技を身に付けるという最初の目論見をとっくにクリアしているにもかかわらず、
幸恵は店を辞めなかったのです。もし、佐原が現れなかったなら、行き着くところまでこの世界で生き
てゆく覚悟さえ固め始めていたのです。この世界の水にどっぷりつかり、この世界で生きてゆくことに
生きがいさえ感じ始めていたのです。

「私は…」

「幸恵・・、
もう良い・・、もう良いんだ・・・、
もう・・・、何も言わなくても良い・・」

佐原がやさしく幸恵の言葉を遮りました。

「お願いだ・・、
僕の処へ戻ってきてほしい・・・」

「あなた…、
本当にいいのですか・・・・」

「・・・・・・・」

佐原は黙って幸恵を抱きしめました。二人はその場でしっかりと抱き合っていました。


しばらく抱き合っていたのですが、佐原がゆっくりと幸恵から体を離し、彼女の頬を両手で挟み込み、
囁くように口を開きました。

「幸恵・・、
いけないことをしてきた僕を懲らしめてほしい・・」

佐原が熱い目をして幸恵を見つめ、声を弾ませながら話しかけています。かなり興奮している様子です。
佐原の中でM男が首をもたげ始めているのです。

幸恵がゆっくり立ち上がり、佐原を見下ろしています。欲情する男を見て、どうやら幸恵の中にS老女
の魂が戻ってきた様子です。

「ああ・・、老女様・・、
悪い私に罰を与えてください…」

着ていた衣類をその場で脱ぎ取り、ショーツ一枚になり、幸恵の・・、いえ、老婆の手を握り佐原が懇
願しています。

男の手を振り払い、かなりきつい表情を浮かべ老女が口を開きました。

「薄汚い奴だ・・、裸では目障りだ・・、
これを着なさい・・、これがお前のような男にはお似合いだ・・」

老女がそばにあったワンピースを男に投げ与えました。花柄模様のミニのワンピースです。嬉々として
男がワンピースを身につけています。

「その汚いショーツを脱ぐんだ・・・」

男は言われたとおりその場でショーツを脱いでいます。その場に跪いた男のミニのワンピースの裾を持
ち上げ、勃起した男根の先端が老女を睨みつけています。

「その気になって・・、
一人前に、汚いチ○ポを立たせている・・・、
いやらしい奴だ…」

女が足を上げて男の肩を軽く蹴り、男が大げさな身振りで床に仰向けに倒れ込んでいます。老女が男の
体を踏みつけています。体重を加減して足をのせているのですが、ワンピース姿の男は大げさに四肢を
ばたつかせて大声を上げています。ガウンの下に老女は下着を着けていません、久しぶりに妻の股間を
見た男は更に興奮しています。

男も女も手慣れた様子で演技をしています。男にとっても女にとっても初めての演技相手ですが、二人
にとってはこうしたプレイは何度も繰り返してきた慣れた芝居なのです。

それから一時間余り、あたりに響くような喜悦の声を張り上げて二人はたわむれました。何度か挿入し、
女が数回逝った後、男が最後に女の中に精液を注ぎ込み、さしもの長い戦いも終わりを迎えました。二
人にとって、生涯最高のセックスになったことは疑う余地がありません。


[42] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(306)  鶴岡次郎 :2015/04/16 (木) 17:18 ID:VmfSd7pU No.2680

着替えた幸恵がロビーで待っている佐原のところへやってきました。淡い色のワンピースにカジュアル
シューズのごく普通の主婦の姿です。

「親方にお別れの挨拶をしてくるわ…」

ロビーの側にある店長他スタッフの控室に通じるドアーの方向へ向かおうとした幸恵の手を佐原が捉え
ました。

「今・・、
急いで辞めることはない・・」

握った手を離さないで、笑みを浮かべた佐原が幸恵に優しく語り掛けています。

「エッ・・・
今・・、何と言った・・・?
辞める必要はないといったわね…、
本気なの・・・?」

びっくりした表情で幸恵が佐原を見つめて、問いかけています。

「僕はどちらかと言うと・・、
この店で働き続けてほしいと思っている・・。
勿論、お前が辞めたいと望んでいるのなら、話は別だが・・・」

「それでいいの・・・、
会社に知れると大変なことになるよ・・」

「ハハ・・・、勿論、会社や近所に知られては困るよ…、
奥さんがソープ勤めをするほど旦那の稼ぎが少ないと思われると、
僕の立場がなくなるからな・・・・・
そこのところは、隠し通してほしい・・・・」

「もう・・、そんなことを言って・・・、
本当にいいの、本気にするよ・・、
あなたが許してくれるなら・・・・、
私はこのまま、この仕事を続けたい・・」

「なら・・、そうするといい・・・、
僕もここで働く幸恵が好きだよ・・」

「うれしい・・、
なんだかすべてが思い通りになって・・・、
夢を見ているみたい…」

思ってもいなかった展開で幸恵は興奮して、はしゃぎ気味です。彼女がはしゃぐのは無理がないと思え
ます。思えばこのニケ月間、それまでは夢にさえ見たことがなかった世界に身を投じ、日ごとに違う男
に抱かれ、驚きと悦楽を交互に味わい、そして、アパートに戻れば、不安、焦燥、後悔と・・、ありと
あらゆる感情の荒波に曝され続けてきたのです。並の女性なら、堪えきれなくて、佐原の元へすごすご
と戻る道を選ぶか、誰も知らない土地へ逃げて行ったと思います。よく堪えたといえます。

一方、妻の喜ぶ姿を見ながら、佐原は複雑な気持ちで幸恵を見つめていました。

〈想像した以上に幸恵はこの世界に溺れこんでいる様子だ…、
もし・・、ここを辞めて元の生活に戻しても、
今の様子では、いずれここへ戻ることになるだろう・・、
その時は多分・・、離婚届を残して家出をするだろう・・・。

僕たちが選んだ道だ、どんなことになろうとも、
幸恵を守り、二人で新しい世界を開くのだ・・・〉

幸恵の仕事を続けさせると決断した佐原は、今、未知の世界に一歩踏み出したことをしみじみと噛みし
めていました。


[43] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(307)  鶴岡次郎 :2015/04/17 (金) 17:09 ID:MO/eS5cg No.2681

「お言葉に甘えて・・、
そうさせていただきます…。
勝手なことばかりして、本当に申し訳ありません・・。
でも・・、本当に・・、うれしい…」

幸恵が深々と頭を下げています。

「そうだ・・・、今日のことを親方に報告してきます。
あなたが来たことは親方に伝わっていると思うから・・、
あれでいろいろ気を使う人なのよ・・、
心配していると思うから事の顛末を報告してきます・・」

佐原に背を向けて店長室の方向を一歩踏み出した幸恵がそこで突然立ち止まり、振り返り、かなり高い
声で佐原に声を掛けました。

「そうだ・・、
せっかくだから、あなたも親方に会ってほしい・・・
会えばわかると思うけれど、中々の人物よ・・・」


ドアーをノックすると、内側から扉が開いて、満面に笑みを浮かべた佐王子が佐原夫妻を迎え入れま
した。

「ご主人が来ておられると聞いておりまして・・、
どんな様子かと、少し心配しておりました…。
お二人でここへ顔を出されたということは、悪い話ではないようですね・・」

二人が部屋に入ってきた様子から、事の展開を佐王子はある程度まで読み切っていたようです。

幸恵が手短に事の経過を報告しました。佐王子は何度も頷きながら、上機嫌で聞いていました。

「今、幸恵が報告しましたように、私達夫婦は元の鞘に収まります。
元をただせば私の悪い癖が原因ですから、今回のことに関しては、
幸恵には感謝こそすれ、不満も、怒りも何もありません。
佐王子さんには随分とお世話になりました。改めてお礼申し上げます」

佐原が心から佐王子にお礼を言っています。

「そんなに丁寧にお礼を言われると、どうお応えしていいか戸惑います。
奥様をこの店で働かせている張本人ですから、ご主人がお見えになったと聞いた時から、
一、二発殴られるのは覚悟していたのです。それが、事もあろうにお礼を言われるとは・・。

こんな商売をしていると、人様から感謝されることが少ないのです。
当然のことですが、店で働く女の子のご主人とはこうして会うことさえも稀で、
まして、ご主人からお礼を言われたことは一度もありません。
逆に、脅かされたり、泣かれたりするのはいつものことですが・・・、
ハハ・・・・・」

佐王子が笑い、二人も笑みを浮かべています。

「ところで・・、
幸恵さんはここの勤めを続けたいと希望され、
ご主人もそのことを認めていらっしゃるとのことですね…」

「はい・・、
幸恵がその気になっていますから、好きにさせようと思っています。
いえ・・、正確にいうと・・・、
私自身も・・、幸恵がこの商売をつづけることを望んでいます。
お笑いください・・、
そのことを考えるだけで酷く妬けるのですが・・、
その刺激を考えると、興奮するのです・・・・」

ソープの店主が相手ですから、何も隠さないで恥ずかしい性癖を佐原は隠そうとしていません。

「そうですか・・・、
やはり・・、仕事をつづけるつもりですか・・・・・、
困りましたね…」

簡単に仕事の継続を認めてくれると思ったのですが、意外に難しい顔をする佐王子を見て佐原と幸恵が
不安そうな表情を浮かべています。


[44] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(308)  鶴岡次郎 :2015/04/20 (月) 11:14 ID:qmsjrXpY No.2682
佐原と幸恵の顔をちらと見て、直ぐに視線を外し、テーブルからコーヒー・カップを持ち上げ、中の液
体を一口、口に含み、不味そうな表情をうかべています。

「いえね・・、
幸恵さんがここでの勤めを続けていただくのは、正直言ってありがたいことです。
幸恵さん目当ての常連客もかなりいて、
これから先、ひいきの客がもっと増えるのは確実です・・」
 
「・・・・・・」

それなら何も問題ないだろうと、佐原も幸恵も胸をなぜおろしています。

「ご主人のためソープの技術を身に付ける大きな目的を持って身一つで家を出た幸恵さんは、アパート
代を含めた生活費を稼ぐ必要もあり、これまでは、本当に良く頑張りました。

体の調子が悪い時、嫌なお客の相手をする時、どんな時でも幸恵さんは笑顔で接客してくれました。そ
れだからこそ、トップグループに入るほどの売り上げを上げることが出来たのです。

元の裕福な家庭に戻り、稼ぐことが目的でなく、遊びが目的でこの商売をやることになると、以前のよ
うな接客が出来なくなるのが人の常です。幸恵さんに限ってそんなことはないと、私も思いたいのです
が、心配は残ります・・・」

話の途中から幸恵の表情が変わりました。穏やかに話しているのですが、佐王子の一言、一言が幸恵の
体を刺し貫いているのです。

「悪いことは言いません、旦那様と和解できた今が足を洗うチャンスです。
どんな職業でも未練を残しながら引退するのが良いのです。
どうにも動きが取れなくなってからでは遅いのです。
ここでのニケ月間は夢を見たと思ってください・・」

ここで佐王子は口を閉じ、二人の表情をじっと見つめています。幸恵は下を向き何事か考えに耽ってい
る様子です。佐原はしきりに頷いています。二人の様子を見た佐王子は彼らの反応に手ごたえを感じ
取った様子で、更に言葉を続けることにしたのです。

「今から話すことは、素人の方には話したくないことなのですが、事がここまで来ると黙って居るわけ
にはまいりませんので、思い切って話します。かなり衝撃的な話ですので、ここで聞いたことは、決し
て口外しないでください・・、宜しいですか・・・?」

「・・・・・・」

佐原と幸恵が不安そうな表情を浮かべ、それでもこっくりと頷いています。

「良いでしょう・・、それでは話します・・・。

たくさんの男と接して経験した悦楽の記憶は幸恵さんの体のあちこちに残り、幸恵さんをこれから先、
悩ませると思います。

ストレートに言えば、旦那様がどんなに頑張っても、それだけではとても我慢できない状態が続くの
です。男欲しさに体が悶え、その苦しみはそれを経験した者でないと判らないと言われています。

それでも・・・、幸恵さん・・・、
堪えてください・・、我慢するのです・・、禁断症状に堪えてください。
ただ堪えるのです・・、これがまず大切です。

旦那さん・・・、幸恵さんを十分サポートしてください。
あなただけが幸恵さんを救うことが出来るのです・・、

体に残されたここでの傷跡は、それがどんなに強くても、幸恵さんの場合であれば6ケ月後には跡形も
なく消え去ると思います。しかし、ここで働く期間が増えればそれだけ、体に残る傷跡は深くなり、そ
の傷跡が消えるまでにより長い時間を必要とします。辞めるのであれば、出来るだけ早く辞めるのが良
いのです。

長年ここで働いていて、拭い取れないほど深く悦楽の記憶が刻み込まれた女達をたくさん知っています
が、そんな女たちは結局この仕事から生涯足を洗うことが出来ないのです。それが幸せだと思える女は
良いのですが、この商売から足を洗いたいと思いながら、それが出来ない女は哀れですね・・・、私は
そんな女を沢山見て来ました。幸恵さんにはそんな思いをさせたくないのです・・・・」

幸恵は先ほどから何事か考えに耽っていて、この大切な話は途中から彼女の耳には届いていない様子で
す。幸恵に比べて佐原の反応は際立っています。大きな衝撃を受けた様子です。唖然として、質問も、
反論もできない状態です。


[45] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(309)  鶴岡次郎 :2015/04/22 (水) 15:50 ID:HzBDHctU No.2683

淡々と話していますが、良く聞けば驚くべきことを佐王子は言っているのです。わずか二ケ月あまりの
経験でも幸恵の体に刻み込まれた娼婦の傷跡はそれが消え去るまでに6ケ月も必要だと言っているので
す。もし、幸恵がこの先数年にわたりその商売を続ければ、佐王子の計算に従うと、幸恵は仕事を辞め
た後、十数年間、体の記憶に悩まされ続けることになります。その間禁断症状に堪えきれなくて、また
その仕事に舞い戻ることになれば、負の循環が始まり、生涯その仕事から足が洗えなくなるのです。一
度、この世界の泥にまみれると、大方の女は生涯娼婦を続けることになると佐王子は警告しているので
す。

「この仕事を続けるべきでないと・・・、
もし続けるつもりなら・・・、
遊び心を捨てて、生涯この仕事と付き合うつもりでやれ・・・、
佐王子さんはそう言っているのですね…」

苦し紛れに佐原が佐王子の言ったことを要約して確認しています。佐王子の言葉が理解できないから質
問しているのではありません、そうでないと言ってほしいのです。

「・・・・・・・・」

佐原の質問に佐王子が黙って頷いています。冷酷な佐王子の反応を見て、佐原はがっくり肩を落として
いました。


佐王子の警告は十分説得力のある内容で、反論は勿論、異議さえも、佐原は申し立てることはできない
のです。残された道は、ここで足を洗うか、生涯、娼婦を続けると覚悟して仕事を続ける、この二つに
一つしかないのです。

娼婦を辞めることにすれば簡単ですが、幸恵が納得しても彼女の体がその決定に従えなくなっているの
を佐原は知っているのです。かといって、生涯、妻に娼婦を続けさせる決断が佐原にはできないのです。
何事にも決断の早い佐原が珍しく迷いを見せているのです。

迷い、苦悩している佐原の側で、幸恵は顔面を紅潮させ、息遣いを荒くしています。どうやら佐原とは
別のことで悩んでいる様子です。何事か必死で考えている様子です。ようやく考えがまとまりました。
何事か決心した良い表情をしています。

テーブルに着くほど深々と頭を下げて、緊張した面をゆっくり上げて、幸恵は静かに語り始めました。

「親方・・・、
申し訳ありませんでした・・・、
私の考えが甘かったのです・・・、
親方や、お姉さん方から教わったことをすっかり忘れていました・・・。

『ここへ来るお客様方は、女の体だけでなく、
出来れば、女の心まで買取りたいと高い金を支払っているのだ・・。
私達は、その期待に応えなければいけない、それがプロだ・・』と・・・、

そう教えていただきました・・・」

幸恵の言葉に佐王子が満足そうに頷いています。

「お見通しの通り、私は・・・、何人もの男に抱かれたい・・、
体に刻み込まれた悦楽の思い出を今は捨てることが出来ない・・、
その思いが強くてこの仕事を続けたいと願い出たのです。
要するにスケベな女なのです・・。

そんな気持ちでこの仕事を続ければ、お客様を欺くことになり、真剣に仕事に取り組んでいる他のお姉
さんたちを冒涜することになることにも、気が付いていませんでした。浅はかな考えを持った女をお許
しください・・・・」

佐王子の顔をしっかり見て、緊張した面持ちで幸恵が謝っています。この仕事を続けると決めた時、悦
楽を求めて、楽しめるだけ楽しんで、嫌になれば止めればいいと幸恵は安易に考えていたのは確かなの
です。そんな幸恵の安易な考えを佐王子は簡単に見抜き、手ひどい叱咤の言葉を与えたのです。佐王子
の言葉で幸恵は親方や姉さん達から教わったことをようやく思い出していたのです。

「いや・・、いや・・、
それが判ったのであれば、これ以上私から言うことは何も無い・・、
それで・・、仕事は辞めるのだろう・・・?」

「いえ・・・、
続けさせていただきたいと思っています…」

「・・・・・・」

ちゅうちょしないで答える幸恵の言葉に二人の男が声さえも出せない状態で、驚きの表情を浮かべじっと
幸恵を見つめているのです。


[46] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(310)  鶴岡次郎 :2015/04/24 (金) 11:17 ID:fru7q2xM No.2684
ここまでの流れを読む限り、幸恵は仕事を辞めると言い出すはずだと、二人の男は確信していたのです。
うまい具合に展開したと密かに喜んでいたのです。二人の男が驚いていることなど全く関心がない様子
を見せて、幸恵は畳み込むように話をつづけました。

「親方・・・、
勝手を言って申し訳ありませんが、
一週間に二度ほど、
日に3人から5人ほどのお客様に仕えるペースで、
仕事をさせていただくとありがたいのですが・・・、
いかがでしょうか…」

「できない相談ではないが…」

「その条件でよろしくお願い申します。
勿論、お店には迷惑をかけないよう・・、
これまで以上にまじめに勤めます・・。
年を取って、仕事をつづけることが無理だと思った時、
親方からそう言ってください。
それまで、私から引退を申し出ることはしないつもりです・・・」

生涯、娼婦としてこの店で働くことを申し出ているのです。既に十分腹を固めている様子で、気負いな
く、淡々と幸恵は説明しています。佐原はもちろん、佐王子も幸恵の気迫に押しつぶされたような状態
で、黙りこくって、ただ話を聞いているのです。

「あなた・・・、
この仕事続けても良いとあなたからお許しを得たことをいいことに、
生涯この仕事続けるなどと、
勝手なふるまいをしたことを許してください…。
本来であれば、先にあなたのお許しを得るべきでした。

先ほど、親方からこの仕事の心構えを改めて教えられ、
この仕事続けたいと思う私の心に、もう一度、問いかけました…。
そして・・、決心したのです…」

きりっとした表情で、何者の反対も押し切る決意を見せているのです。彼女の顔を見ただけで佐原は闘
争心を完全に失っていました。

「私はこの仕事が好きです・・・、
勿論、あなたの妻であることはこの仕事よりもっと大切です…。
妻とこの仕事が両立できないのであれば、
迷いなく妻の地位を選びます・・・・。

難しいと思いますが、あなたの理解と協力があれば・・、
良い妻でいながら、この仕事をつづけることが出来ると思います。
ご迷惑をかけないよう、努めます…。
勝手なことばかり申し上げますが、どうか願いを聞き届けて下さい・・」

これだけを一気に語り、深々と幸恵が頭を下げています。男二人顔を見合わせて、申し合せたように大
きな吐息を吐き出しているのです。ここまで畳み込んで説明されると、二人の男には選択肢はそんなに
ありません。

「仕方がないね・・、
元々・・、この仕事をすることに反対するつもりはなかったのだが・・・、
正直言って、生涯この仕事を続けることになるとは思ってもいなかった。

お前が覚悟を決めたのなら、僕は出来るだけ援助することにする・・。
人生は一度だけだ…、
今なら、やりたいことが出来る時期だよ・・・、
思い切り・・、やってみることだ・・・・」

悲壮な覚悟を決めた表情を浮かべ佐原が、絞り出すような声を上げて幸恵に告げました。

「あなた…、
それほどまでに・・・・、
そんなに思いつめられると・・、私・・・・
いえ・・・、そのことは後で・・・・

いろいろ申し上げたいことはありますが、ここでは先ず…、
あなたのお許しを得たことに感謝申し上げます…」

佐原に何か言い残したことがある様子ですが、この場では素直に頭を下げて、幸恵は夫にお礼を言って
います。生涯、娼婦勤めをすると、これから先の運命を決める大きな決断をした割には、幸恵は比較的
冷静です。それに比べて佐原は、戦士を死地へ送り出すような硬い表情を浮かべているのです。


[47] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(311)  鶴岡次郎 :2015/04/27 (月) 14:10 ID:/pBdBjhs No.2685

緊張した表情のまま、少し充血した瞳を佐王子に向け佐原が頭を下げました。ここでも最後までいい夫
の役目を果たすつもりのようです。

「佐王子さん・・、お聞きのような次第です・・・。
私からもお願い申します。
妻のわがままを聞き届けていただきますか・・、

万が一、ご迷惑を掛けるようなことが起きれば・・・、
私が責任を持って対応します・・。
よろしくお願い申します…」

苦しそうな表情を浮かべつつ、それでも明瞭な言葉で佐原は語りました。そんな夫を幸恵は涙を浮かべ
て見つめていました。

「そうですか・・、
お二人がそこまで言われるなら、私に反対する理由がありません。
今まで通り働いてください。
勤務時間の調整はいつもの様に、フロント係と調整してください。
多分、幸恵さんのご希望に沿った形でシフトを組めると思います。

ところで、アパートの方はどうしますか・・、
当然・・、ご自宅からの勤務となりますよね・・」

「できればアパートの方も今のまま使いたいのですが・・・、
勤務予定日の前夜アパートに来て、翌日、仕事をするようにしたいのです。

朝、あのアパートで目覚めて、そしてそこから直接お店に出勤する、
このルーチンだと仕事をする気分が高まると思います。
自宅からだと、どうしてもその気分になるまで時間がかかりますし・・
それに・・、自宅から真っ直ぐお店に来るのは・・、
そうはいっても・・、気が引けますから・・・・」

「なるほど・・、心構えの問題ですか・・・、
確かに・・、ご自宅とこの店では環境に差があり過ぎますからね・・・。
私もその選択が正しいと思います。
費用は余計に掛かりますが・・、
幸恵さんにとって、それは問題ではないでしょうからね…、

ご主人にはそれなりのご不自由を掛けるでしょうが、
週に二日か三日の外泊ですから、なんとか我慢できるでしょう・・、
いやいや・・、これは余計なことを申し上げました。
その件はご夫婦で話し合ってください。私の方はどちらでも対応可能です・・」

勿論、佐原は幸恵のアパート暮らしに反対しません。こうして幸恵の希望通り事が運ぶことになりまし
た。三人の話し合いは終わりました。その日、幸恵は仕事の予定を切り上げて佐原と一緒に久しぶりの
自宅へ戻ることになりました。


店を出て、階段を降り、ビルの外へ出ると、もう夕闇が迫っていて、繁華街の店々には照明が入り、仕
事を終えた顧客たちを迎える体制が整っています。背の高い佐原の左腕にぶら下がるようにして、幸恵
が腕を絡めて楽しそうに話しながら店を後にしています。二人の背を佐王子が見送っていました。

「あれだけ脅かせば、てっきり辞めると思ったのだが・・・、
仕事をつづけることになるとは…、
女の考えることは本当に判らない…、
俺としたことが女の気持ちを読み切れないなんて・・・、
まだまだ修行が足りないね…」

幸恵が下した仕事続行の決断は少なからず佐王子を驚かせたようです。二人の仲睦まじい後姿を見送り
ながら、佐王子はぶぜんとした気分で呟いていたのです。


「お前・・、本当に・・、
一生あの仕事を続けるつもりなの・・」

店から離れると佐原が一番気になっていることを質問しています。

「そんなわけないでしょう・・、
一年も勤めれば、珍しさが消えて、飽きが来るでしょう…、
そうなれば、さっさと辞めるつもりよ…」

「しかし・・・、佐王子さんは大変なことを言っていた・・・・、
その気になっても女の体が許さなくなるのだろう・・、
お前の体が男なしでは生きて行けなくなるのだろう・・・、
辞めたくても、辞めるにやめられなくなるだろう・・・、
そうなったら、本当にかわいそうだよ・・」

「バカね…、
あの言葉を本気にしたの・・・、
あきれた・・・、
あれは女をバカにした言い分なのよ・・、

もしかしたら・・、
私を辞めさせたい佐王子さんの親心かもしれない・・、

いずれにしても、あれは佐王子さんが私達をひっかけるつもりの言葉よ、
ちょっと・・、考えて見たら判るでしょう・・・」

頭ごなしに幸恵に言われて、佐原はきょとんとして半信半疑の表情を浮かべていました。


[48] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(312)  鶴岡次郎 :2015/04/28 (火) 14:38 ID:NYI85yYA No.2686

「まだ判らないようね・・」 

笑みを浮かべて男の顔を見上げた幸恵が少し声を高めて話し始めました。、

「体を売る仕事をしたり・・・、
奔放な性生活を経験すると・・・、
セックスの味が忘れられなくなり・・、
その女は奔放な生活から抜け出せなくなると・・、
佐王子さんはそう言っているのでしょう・・・」

「そうだね・・・・」

「もし・・、彼の言っていることが真実なら・・・、
セックスの良さを知った女は、体の要求に心が負けて・・、
娼婦としてしか生きて行けないことになる・・・。
もしそうであれば、この世は娼婦で溢れかえることになる・・・、
でも・・、周りを見れば、慎み深い女がほとんどで、
そうなってはいないでしょう・・」

「うん・・・、確かにそう言われるてみると・・・、
あの時は、佐王子さんの説明に反論できなかったけれど、
お前に言われて冷静に考えると、
佐王子さんの理論展開には現実味が少し欠ける気がしてきた…」

「昔、娼婦だった人も、乱れた生活をしてきた人も、足を洗った後、大部分の女は大人しく、上品に暮
らしているはずよ。あの店のお姉さんたちに聞いた話だけれど、昔働いていた女の子の多くが、お金を
貯める目的を果たした後、あの商売から足を洗って、結婚して楽しい家庭を作っている人が多いと言って
いた・・」

「そうなのか・・、佐王子さんに騙されたのか…、
お前はそれが判っていて、騙されたふりをしていたのか・・・。
僕はてっきりお前が本気で生涯あの仕事に打ち込む決心をしたと思い込み、
これも運命なら仕方がない、行けるところまでお前に付いて行く・・・、
そんな悲壮な決意を固めていたのだよ・・」

「判っていた・・・、
佐王子さんの言葉を聞いて、あなたが迷っていたのは判っていた・・、
私が・・、それでも、この仕事を続けたいと言った時、
あなたは泣きそうな表情を浮かべていた・・、
それでも、あなたは反対しなかった・・・。
例え私が娼婦に落ちても、私を見守り続ける意思を見せてくれた・・・。
本当にうれしかった・・」

幸恵は涙を浮かべていました。絡め合った腕と腕を通じて二人の血液が音を立てて交流しているような
気分に二人はなっていました。

「ところで・・・、
アパートを引き払わなかったのは、他に理由があるだろう…」

「判った…?」

「そりゃ分るよ・・、
これでもお前の夫を続けて長いからね…
仕事をする心構えを養うため、あのアパートを借りると言っていたが、
何か他に、別の計略があるはずだと思った・・・」

「・・・・・・」

夫にすべてを話そうか、このまま黙って居ようか、幸恵は迷っていました。企みを秘めた悪戯っぽい顔
をして、下から夫の顔をうかがっているのです。

「お前・・、
あのアパートに男を迎え入れたことがあるだろう・・・?」

「・・・・!」

突然の質問に幸恵が慌てています。


[49] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(313)  鶴岡次郎 :2015/04/29 (水) 18:15 ID:Hij4gZ/E No.2687

「やはりそうなんだね・・、
お前は隠し事が出来ない質だから・・、
顔に書いてあるよ・・、
あのアパートで何人かの男に抱かれたね・・」

「すみません・・・、
仕事の流れで・・、つい・・・、
他の場所で会うよりは罪が軽いと思って…
別の部屋にいる姉さん達も盛んにやっていたので…
つい・・、その気になって、やり始めたら、止められなくなって・・、ずるずると・・・。
本当にすみません・・・・」

上から見ている佐原の優しい視線にほだされて、幸恵は素直な気持ちになって白状しています。笑みを
浮かべた表情を変えないで、佐原が頷いています。

「まあ・・、仕方がないよ・・、
仕事をうまく回転させる上で、接待は欠かせないからね・・、
ところで・・・、
当然・・、佐王子さんも迎え入れたのだろう…」

「・・・・・・」

さりげなく一番気になっていることを質問しています。話したくない急所を突かれて幸恵はまた返答に
詰まっています。それでも、ここまで話が展開すれば隠しても無駄だと思った様子で、素直に話し始め
ました。

「何でもお見通しなんですね…、
ハイ・・・、
最初の頃・・、私の様子を見に来て、そのまま・・・、朝まで・・、
でも・・、最近は全く来てくれません・・。
私は拒否していないのですけれどね…」

初めて店に出た頃、幸恵の身を案じて、佐王子は幸恵のアパートを何度か訪ねて、部屋で仕事のマナー
などをみっちり教え込んだのです。そのかいあって幸恵は数日でその仕事になれることができたのです。
しかし、仕事が順調に進み始めると佐王子が幸恵のアパートを訪ねることはなくなっていたのです。

「よく出来た雇い主だね…、
店の子とは厳しく一線を引いているのだね…」

「そうね・・・、
そんなに厳しく線を引く必要はないと思うけれどね・・」

どうやら佐王子がアパートに来ないことで、幸恵は多少不満を持っている様子です。幸恵の言葉が聞こ
えないふりをして、佐原は次の話題に移りました。

「二つの生活拠点を持つことになれば、お前も忙しくなる・・、
身体が一番だから、無理をしないようにするといい・・、
週に三日程度、自宅に居てくれれば、僕は構わないから・・」

「ありがとうございます…」

「アパートに男を迎えることも、無理に制限する必要はない・・、
流れに任せて、今まで通りやると良い・・、
あのアパートにいる限り、お前は独り身だと思えばいい・・。
僕も時々部屋へ通うことにするよ・・、
その時は、安くしてほしいね・・、ハハ・・・・」

「ハイ、ハイ・・・、
承知しました・・・。
私・・、売れっ子だから・・、必ず事前予約してね・・、
嘘、嘘・・、
あなたならいつでも歓迎よ、他の客を追い出すから・・」

二人は体をぶつけ合ってふざけています。

「ただ・・、判っていると思うが、
若い男に騙されて・・、
突然、僕を捨てるのだけは勘弁してほしい・・、
出来ればそうなる前に、丁寧に教えてほしい・・・、
ハハ・・・・」

「もう・・・、
そんなこと・・・、考えたこともありません・・。
それより、あなたこそ・・、.
以前の様に他の店に行かないでくださいね、
その気になったら、店へ来て、私を指名してください・・、
特別に、お店以外でも指名に応じますから・・、フフ…」

自宅がある公園駅に着くと、二人は大きな声を出して、笑いながら家路をたどりました。星がこうこう
と輝き、明日も晴天が予想される空模様です。


[50] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2015/04/29 (水) 18:20 ID:Hij4gZ/E No.2688
新しいスレを立て、新しい章へ移ります。ジロー


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