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フォレストサイドハウスの住人達(その10)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2015/01/13 (火) 15:46 ID:KJbTWW7o No.2636
浦上千春の隣人、佐原幸恵と言う名を聞いて、記憶力にいい読者であれば、この物語の冒頭で紹介した
佐原靖男のことを思い出されると思います。泉の森公園のベンチに肩を落として座る50男を見て、そ
のイケメンぶりと男のすっかり憔悴したに様子に女ごころを揺り動かされ、すっかり彼に同情した由美
子が彼に声を掛け、おせっかいついでとばかりに彼のマンションまで付いて行き、そこで彼の妻幸恵の
失踪を知らされるのです。

佐原靖男が語る通りであれば、幸恵は夕餉の支度の途中で忽然と姿を消しているのです。警察には失踪
届けを出しているのですが、争った跡がないことなどから単純な家出人として警察は受け止めているよう
なのです。

この章では幸恵が失踪に至るまでの経緯を説明し、できれば事件の解決まで見届けたいと思っています。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その11)』
の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきます。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余脱
字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにしま
す。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した当該記事を読み直していただけると幸いです。

・(1)2014.5.8 文末にこの記事があれば、この日、この記事に1回目の手を加えたことを示しま
す。
・記事番号1779に修正を加えました。(2)2014.5.8 文頭にこの記事があれば、記事番号1779に二
回目の修正を加えたことを示し、日付は最後の修正日付です。ご面倒でも当該記事を読み直していた
だければ幸いです
                                        ジロー  


[31] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(295)  鶴岡次郎 :2015/03/31 (火) 15:42 ID:JIpa2gxI No.2668
その日、佐原は珍しく休暇を取っていました、どうやら午後から私用の予定が入っている様子です。朝
からそわそわして、ゆっくりと進む大時計の針を恨めし気な表情を浮かべて見つめているのです。

トーストと目玉焼きの遅い朝食を済ませた佐原は食器を流しに置いて、居間に戻りました。新聞を取り
上げても活字が頭に入りません。テレビをつけてもこの時間の番組は佐原には馴染みがなく、直ぐ飽き
が来るのです。仕事をしない午前の時間の流れがこんなに緩やかなものだと改めて認識していました。

ようやく予定していた午後二時になりました。自宅前の公園駅から私鉄に乗って30分、Y市の中央駅
に着きます。そこで地下鉄に乗り換えて5分、Y市の繁華街駅を降りて徒歩8分、繁華街から少し離れ
たところにその店はあるのです。

住宅街と飲み屋の連なる商店街の境目あたり、その店のある雑居ビルがひっそりと佇んでいました。常
連客に判ればいい程度の小さな看板が路上に置かれていて、その小さな看板に灯りが入り、その店が営
業中であることを示していました。

狭い階段を上り二階にあるその店の正面玄関に着きました。そこにようやく女たちの顔写真を並べたウ
インドウが置いてありました。その写真の中から幸恵の顔を探し出し、源氏名を確かめました。驚いた
ことに幸恵は実名で店に出ていたのです。彼女を知っている人がその写真を見れば佐原幸恵であること
が容易に判ります。どうやら幸恵には素性をことさら隠す意図はない様子です。

〈ここに潜んでいることを隠そうと思っていない…、
僕に知られることは勿論、知人に知られることも、恐れていない・・、
むしろ、ここに居ることを知ってほしいと思っている様子さえ感じられる…、
僕への恨みがそれほど強いと言うことか・・・、

体を売っていることを知人たちに知らせることで、
彼女自身激しく辱めて、そのことで私を強く罰するつもりだ・・、
おそらく、この事実が公になれば、役員を辞任することになる・・・、
実に巧妙なリベンジ作戦だ…〉

幸恵がこの世界に入った決意の程を感じ取って、胸が痛くなる思いを佐原は噛み締めていました。

扉を開けました、そこは畳一枚ほどのスペースがあり、粗末なカウンターの向こうに立つ、白いシャツ
に黒いベストを着た30過ぎの律儀そうな店員が愛想のいい声を上げて佐原を迎えました。迷わず幸恵
を指名すると、以前に指名したことがあるか否かを尋ねられ、初回だと答えると、店員は少し考えるふ
りをして、今の時間、幸恵は対応可能だが、彼女は特殊プレイが得意なので、普通プレイを希望するの
なら、別の女を選択する道もあると、親切に教えてくれました。

「特殊プレイとはどんなことが出来るのだ・・」

「ハイ・・、家の子は全員、お客様の希望に沿って、どのようなプレイも可能ですが、それでもそれ
ぞれ、最も得意にしているプレィ・スタイルがあります。

幸恵さんは女王様役が得意です・・。

彼女を贔屓にされるお客様は女装されることが多くて、その姿で女王様の苛めを受けるのです。こうし
たプレイがお好みなら、ぜひ彼女をお選びください・・。
どうされますか・・」

「彼女でお願いする・・。
女装して苛められるプレイを希望する・・」

「承知しました・・。
1号室が衣装ロッカーになっております、お好きな衣類をお選びください。
着替えは彼女の部屋、4号室でお願いします・・」

カウンターの男はにこりともしないで事務的にこなし、料金と引き換えに部屋番号札を手渡しました。


[32] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(296)  鶴岡次郎 :2015/04/01 (水) 17:14 ID:oUVvBtsQ No.2669

既に女は部屋で待っていました。男が部屋に入ると、はっとした表情で男を見つめていましたが、直ぐ
に気を取り直したようで営業用の笑みを浮かべ恭しく一礼しました。

驚いたのは男の方です。店のショウウインドウで見た幸恵の顔を頭に描いていたのですが、白髪交じり
の長い髪を肩までたらし、灰色の長襦袢らしきものを羽織り、そこだけが異常に目立つ真っ赤な唇をし
てにっこり微笑んでいるのです。どうやら、ことさら老けたメイキャップを施しているらしく、しわが
目立ち、暗い肌の色なのです。

魔法使い、いや・・、今流行の妖怪砂かけ婆・・、女の姿を一目見て、佐原そう思いました。それでも
清楚な美人である幸恵の面影は色濃く残されていて、奇怪な中に妖艶な魅力が醸し出されているのです。
抑えた照明に照らし出された女の妖しい姿に佐原は我を忘れて見惚れていました。

「ご無沙汰いたしております…、
何時かは、いらっしゃると思っていました…。
ご存知だと思いますが、ここでも幸恵の名前で働いています・・」 

佐原の今日の来訪を予め知っていたような冷静さを見せて、幸恵が挨拶をしています。カウターからの
連絡では初めての客で、50歳ほどの温厚な紳士で、女装でのプレイを好む客だと連絡があったのです。
幸恵にはこの種のお客が一番多いのです。いつもの様に準備を整え、客を出迎えたのです。まさか、佐
原が現れるとは思ってもいなかったのです。

佐原の顔を見て驚いたのは一瞬の間で、懐かしさが込み上げて来て、優しい気分になっています。
寺崎と由美子に出会って以来、佐原と対決するこの日が突然やってくるとの覚悟は出来ていたのです。
佐原の顔を見て、この日が来ることをずっと待っていたことに幸恵は今更のように気が付いていました。

「どうなさいますか・・・、
このままプレイを続けることも出来ますし・・・・、
ここでお話をして時間を過ごすことも出来ます…、
どちらにしても、同じ料金です・・・」

幸恵の優しい声を聴いて、ようやく佐原は我を取り戻しています。

「ああ・・・、そうだな・・・、
少し話がしたい・・、
それにしても、ウイッグとメイキャップの効果は凄いね・・、
すっかり様子が変わって見える…」

「お気に入りませんか・・・、
この店の主人・・、私たちは親方と呼んでいるのですが・・、
その親方の指導で、最初からこの姿で店に出るようにしています…。
案外評判が良くて、ここでは売れっ子なんですよ・・・」

「いや・・、そうだろうね・・・、
僕にとってもかなり魅力的だよ・・、
普段の幸恵もいいが、その姿も素敵だ…」

「ありがとうございます・・・」

「僕が訪ねてきたことに、あまり驚いていない様子だが・・・、
僕が探偵を使って調べることは予想していたのだろうね・・」

「ハイ・・・、
もっと早く見つけていただけると思っていました…」

幸恵の言葉に佐原が何度も頷いています。行方をくらましたものの、幸恵はことさら隠れるつもりはな
かったのです。その証拠にこの店のショウウインドウには幸恵の写真を飾り、実名で店に出ているので
す。出来るだけ早く佐原が幸恵を見つけ出し、最終決着をつけることが幸恵の望みであったのは確かな
のです。その意味で、幸恵が言う通り、ニケ月近く幸恵を見つけ出すことはできなかったのは佐原の失
策と言えます。


[33] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(297)  鶴岡次郎 :2015/04/02 (木) 15:04 ID:5pw./shk No.2670

「ところで突然家出をした理由だが・ ・・、
もしかして・・・、
僕のパソコンを覗いて、僕の汚い性癖を知ったということかな・・・」

「ハイ・・」

「う・・・ん・・・、
やはりそうだったか・・・、
お前の家出を知った時、あの動画が原因だと先ず疑ったのだが・・、
お前がパソコンを使えないと知っていたから・・・、
先ず秘密がバレる心配はないと思っていた…」

「あなたがパソコンを使っているのを日頃から見ていて、私もやりたいと思って、
市が主催したパソコン教室へ内緒で通っていました。
それで、あなたのパソコンを時々覗くようになっていました・・」

「パソコンを勉強していたとはね・・、
一緒に住んでいても案外判らないものだね…、
動画を見た時はびっくりしただろう・・・」

「はい・・・・、
最初はびっくりして・・・、
正直言って・・、
とてもあなたに付いて行けないと思いました・・・
私自身の身の振り方を何とかしなくてはいけないと焦りました・・・・」

「そうだろうな・・、
どんな女でもあの動画を見れば一緒に居たくないと思うはずだ・・・。
何しろ、亭主が女装して、全裸に近い女の手で縛り上げられ・・、
その女からむち打ちを受けて、嬉しそうに悶えているのだからね…」

「・・・・・・」

「私の奇妙な性癖を幸恵に知られるにしても、
あのビデオを見られたのは最悪だった…、
私の不注意から、幸恵に辛い思いをさせてしまった・・・、
言い訳はしない・・・、この通りだ・・・」

「・・・・・・・・」

深々と佐原が頭を下げています。慈愛に満ちた表情で幸恵が佐原を見つめています。

「あの動画を見つけた後、
私一人ではどうすることも出来ないし・・・、
事が事だけに相談する人もいなくて、ただ悩んでいました。

お隣の千春さんご存知でしょう…、
千春さんは若いけれど、男と女の問題については、
私など足元に寄れないほど経験豊富なんです・・・。
彼女なら、いい知恵を出してくれるかも知れないと思いつきました・・。
それで思い切って彼女に相談したのです・・・」

「エッ・・・、
他人にあのことを話したのか・・」

「ハイ・・・、動画も見せました…」

「・・・・・・」

驚きで佐原は次の言葉が出せなくなっていました。


[34] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(298)  鶴岡次郎 :2015/04/03 (金) 16:50 ID:TCW1lzl2 No.2671

いくら親しい仲でも他人にあの動画を見せることなど佐原の常識ではありえないことなのです。佐原の
中に妻への怒りがこみ上げていました。

〈なんてことをするのだ…、
選りによってお隣さんにあの動画を見せるとは…
取り返しのつかないことをしてくれた…

動画をネタにして、恐喝される心配だってある・・、
そうでなくても、これでお隣さんと顔を合わせることが出来ない…〉

外では温厚な人柄で知られていて、その評判を維持するため我慢に我慢をかさね、感情を爆発させるこ
とはないのですが、その反動で佐原は家庭では幸恵に対して暴言を吐くことが多いのです。

この場面でも、負い目がなければ厳しく幸恵を叱りつけるところですが、ぐっと我慢しています。

〈危ない・・、危ない・・・、
危うく幸恵を怒鳴りつけるところだった・・・、
そんなことをすれば、売り言葉に買い言葉で、
幸恵だって黙ってはいないだろう・・、
そうなれば、二人の仲は修復不能になるところだった・・〉

怒りを鎮め、収拾策を巡らしていると、冷静に事態を見極めることが出来ることに佐原は気が付いてい
ます。怒りにまかせて、幸恵を怒鳴りつけていれば、互いの燃え上がった感情に油を注ぐことになり、
つい暴力をふるい、取り返しのつかない事態になっていたかもしれないのです。

〈元を質せば僕のせいだ…、
捨てないで、動画をパソコンに保存していたのが悪いのだ・・、
考えてみれば、ちょっと恥ずかしいことだが、
犯罪行為を隣人に見られたわけではないから・・、
大騒ぎすることはない・・・
しかし、女同士の付き合いとは判らないものだ、
亭主の恥かしい動画を見せるのだからな・・・〉

かっとなった後、冷静になって考えると、女同士の付き合いではそうしたこともあるのかと、まるで他
人ごとの様に、妙に感心する余裕さえ出てきたのです。何事にも失敗を許さない、以前の厳しい佐原で
は考えられない態度です。どうやら、幸恵の失踪事件が佐原を成長させたようです。

「・・・で、お隣さんの反応はどうだったのだ・・」

自身の罪を棚に上げて、動画をお隣さんに見せたことを追求する口ぶりになっています。

「大変なことになった・・、相談に乗ってほしい・・と、
そう言って彼女に動画を見せました。

千春さんは平然として最後まで動画を見ていました。
あまりに冷静な千春さんを見て、私は拍子抜けした気分でした。
私はその気持ちを正直に千春さんに伝えました。

千春さんはにっこり微笑んで・・、
何も知らない私が動転するのは当然だけれど、
男と女の間では、こうした戯れは決して異常なことでなく、
むしろ良くあることだと教えてくれました。
その言葉で私は随分と慰められました・・・。

正直に申し上げます。
動画を見た直後は、私は生きてゆく気力さえ失っていました。
今日こうしてあなたと何とか向き合っていられるのは・・、
すべて・・、千春さんのおかげです。
もし彼女のアドバイスがなければ、
多分・・・、私は・・、酷い誤解をしたまま・・・・」

ここで幸恵は言葉を飲み込み、大きく深呼吸しています。その時のことを思い出したのでしょう、こみ
上げる大きな感情のうねりをゆっくりと飲み込んでいる様子です。

幸恵の様子を見て、結果として千春に相談したことは正解であったと佐原は気が付いていました。誰に
も相談できないまま、一人で問題を抱えていれば、幸恵の精神は崩壊していたかもしれないと佐原はよ
うやく気が付いていたのです。


[35] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(299)  鶴岡次郎 :2015/04/06 (月) 11:31 ID:P8j6s6.Y No.2672
なぜソープに身を沈めたのか、それが佐原の中で一番肝心な、そして一番大きな疑問でした。佐原への
あてつけ行為だとしても、いきなりソープ勤めを選び、その計画を実行するのは、幸恵一人の知恵では
無理だろうと思っていたのです。千春の登場で佐原は幸恵失踪の影に千春が居ると察知しました。そこ
で、思い切って質問することにしたのです。

「千春さんがこの店に勤めることを薦めたのか・・・」

「この仕事を選んだのは私一人の考えで、誰かに勧められたわけではありません。
あの動画を見て、あなたがあのような行為が好きだと判り、
考えに考えた末、思い切って、ソープの仕事をすることにしたのです。

そのことを千春さんに告げると、佐王子さんと引き合わせてくれたのです。
佐王子さんはこの店のオーナで千春さんとは古くから知り合いで・・・、
・・と言うより、親方は千春さんの愛人なのです・・。

親方との関係は千春さんのご主人も認めています。
三人の関係はとても複雑で、私には良く判りません・・。

その方にも、動画を見せ、ソープで働きたいと伝えました。
その方はちょっと考えた後・・・、
詳しい事情は何も聞かないでいろいろ便宜を図ってくれました。
お陰で、家出をした翌日からお店に出るようになりました…」

幸恵は淡々と話しています。それでも、なぜ、ソープで働くことにしたのか、肝心のその理由は明確に
は話しませんでした。この場でその理由を明らかにしないのは、佐原への心遣い、優しさなのだと佐原
は理解していました。


幸恵がY市の佐王子の店で体を売るに等しい仕事をしていると、寺崎探偵事務所から報告を受けた時、
びっくりしましたが、佐原はそれほど意外だとは思いませんでした。パソコンの動画を見た幸恵がリベ
ンジ(報復)のためその店で働くことを選んだと佐原は受け取ったのです。

日頃は優しく、大人しい女性ですが、芯の強いところがあり、酷い仕打ちで佐原に裏切られたと判れば、
リベンジのため自分の体を売ることだってやり遂げる女性だと佐原は考えたのです。

そして、そうした突飛な行動の裏に千春と彼女の愛人である佐王子が存在することを佐原は幸恵から教
えられたのです。おそらく、千春も、佐王子も、幸恵から詳しい説明を受け、彼女に同情して、リベン
ジに肩を貸す気持ちになり、協力を申し出たのだと佐原は考えたのです。

実は、寺崎探偵事務所は幸恵と面談して、千春の存在も、佐王子と幸恵の関係も、全て知っていたので
す。しかし、佐原に提出した報告書にはそのことは一切書かなかったのです。佐原は幸恵から始めて千
春と佐王子の存在を知らされたのです。 


「お前からいろいろ説明を聞いて、
お前の家出の真相がようやく理解できた。
全ての背景が判っても、お前を非難する資格が僕にないとの思いは変わらない。

本来であれば真っ先に頭を下げ、お前の許しを請うべきだったが、
つい・・、いろいろな質問を重ねてしまったことを許してほしい・・・
幸恵・・・・」

ここで佐原は姿勢を正し、床に両手をついて、深々と頭を下げました。突然のことですから、幸恵は
びっくりして佐原を見つめています。

「君に対して僕は酷いことをしたと思っている・・。
決して許されることではないと思っている・・。
改めて、心からお詫びをしたいと思っている…」

「・・・・」

床に頭が着くほど深々と頭を下げる佐原に幸恵が優しい視線を送っています。


[36] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(300)  鶴岡次郎 :2015/04/08 (水) 14:39 ID:XdQwC.hk No.2673
深々と頭を下げて心から謝った、ここで佐原は止めておくべきでした。しかし、黙って家出をして、あ
ろうことかソープに身を沈めた幸恵に対して、抑えきれない不満、怒りが、心の隅のどこかに存在して
いたのでしょう、抑えに抑えていたにもかかわらず、最後になって図らずもそれが吹き出てしまうので
す。多分、準備していた佐原のシナリオにはないセリフを吐き出すことになったのだと思います。

下げていた頭をゆっくり持ち上げ、幸恵の顔を見つめて、佐原はゆっくり口を開きました。

「しかし・・・・、
俺が酷いことしたからと言って・・・、
お前が自分の体を汚すことまでしなくてもよかったと思う・・
それでは・・、あまりにお前が哀れだ…
僕の秘密を掴んだ時、そのことを一言、言ってくれればよかったのだ・・
話し合いで解決することだって出来たはずだと思うのだが・・・・」

「・・・・・」

それまで佐原の謝りの言葉に笑みを浮かべて耳を傾けていた幸恵ですが、次の瞬間、はっとした表情を
浮かべ、息をのみ、佐原を見つめる瞳に、見る見る内に涙が溢れ出ています。彼女の表情を見て、佐原
は言い過ぎたことにようやく気が付いていました。

「ゴメン・・、ゴメン・・・、
ああ・・・、なんてことを言ってしまったのだ…、
こんなはずではなかったのだが・・・
お前を非難するつもりなど、最初からなかったのに・・・」

「いえ・・、良いのです。
あなたからどんなにひどいことを言われても、
それは当然だと思います・・。
私は堪えなけれがいけないのです…」

幸恵にとっては、佐原の非難の言葉は十分に予想できた内容でした。無謀な幸恵の行動を何時、非難さ
れるか怯えていたのです。それがこの場で出てきたのです。

大きな声で反論することを予想していた佐原の予想は裏切られました。幸恵は抑えた調子でゆっくりと
口を開きました。

「あなたのおっしゃることは正しいと思います。
でもこれだけは言わせてください・・・」

涙を浮かべた瞳をいっぱい開いて、幸恵は佐原を見つめています。佐原はその視線に堪えられなくて、
目を逸らし、下を向いています。こんな時、激しく罵倒された方が佐原には良いのです。冷静に対応さ
れると佐原自身の愚かさが浮き彫りになるように感じられるのです。

「今なら・・・、
冷静に考えることが出来る、今なら・・・、
あなたのその言葉が正しいと、私も思います・・・」

ここで言葉を飲んで幸恵は佐原をじっと見ています。幸恵の言葉が止まったので佐原が視線を上げまし
た。佐原と幸恵の目が会いました。幸恵が何を言い出すのか混乱した佐原の頭では全くわからないので
す。ただ、ただ・・、幸恵の怒りがこれ以上膨張しないことだけを祈っていたのです。


[37] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(301)  鶴岡次郎 :2015/04/09 (木) 15:46 ID:ufdy0c1A No.2674

佐原をじっと見つめて幸恵がゆっくり口を開きました。

「でも・・、あの時は・・・
それ以外の選択肢が私には考えられなかったのです・・・、
それほど私は追いつめられていたのです・・・・

あのビデオを見て、あなたの喜ぶ姿を見た時、
私の存在そのものが否定されたと思いました・・・、
何とかしなくてはいけないと思ったのです・・・・」

「そうだろうな・・・
僕は酷いことをしたのだからな・・・
お前が途方に暮れ、正常な判断ができなかったのは当然だ、

先ほどはうっかりお前の行為を責めてしまったが・・、
お前を責めるつもり気など最初から持っていないのだ…、
悪いのは僕で、お前には何の落ち度もない・・、
改めて謝りたい・・、この通りだ・・・・」

佐原はすっかり落ち込んで、深々と頭を下げています。

「そんなに頭を下げないでください・・・、
今、冷静に考えれば、別の道もあったと思っています・・、
謝らなくてはいけないのは、むしろ私の方です・・・・」

「お前に謝る理由はない・・、
悪いのは僕だ…」

「いえ・・、私こそ…
あなたに無断で、この店で働くことにしたのですから・・
結果としてあなたを裏切り、私自身を汚しました…」

「いや・・、そうさせたのは僕だ・・・、
僕の方が悪い・・・」

「いえ・・、私の方こそ…
もっと冷静に考えるべきでした…」

二人は互いに頭を下げ合っています。

「これでは切がありませんね…」

「そうだね・・、両者痛み分けとするか・・
どうだろう・・・、
全て、無かったことにして、元の鞘に戻るとするか…」

「エッ・・、今・・、なんと言いました・・・・。
許してくれるのですか・・・」

「ああ・・、
お前さえ良ければ、戻ってきてほしい…」

「そんな・・・、
許されるとは夢にも思っていませんでした・・、
本当にいいのですか・・・」

許すと言う思いがけない佐原の言葉を聞いて涙ぐみながら無理に笑みを作ろうとしています。

「うん・・、
この店に来た最初から・・、
僕はお前との仲を元に戻すつもりだった・・
その考えは今も変わりない・・・・」

「本当にいいのですか・・・
元々、あなたが嫌で家出をしたわけではなかったので、
もっと早い時期に見つけ出していただいていれば・・・、
事情を話せば、私のわがままを受け入れていただき、
少し汚れたけれど、この程度なら我慢できると認めていただき・・・、
お許しが出て、元の鞘に収まることが出来ると期待しておりました…」

「・・・・・・・」

幸恵の言葉に、佐原が、そうだろう・・と言う表情を浮かべ、何度も頷いています。

「でも・・、一ケ月経ち、二ケ月経ってもあなたは現れませんでした。
私は見捨てられたと悟りました…。

自身の愚かな行為から出た結果とはいえ・・・、
私は戻るべき道を失ってしまったと思いました・・

今日・・、あなたの顔を見た時、うれしかったけれど・・・、
遅すぎたと・・・、心中で泣いていました・・。
戻るにはあまりにも、この世界にどっぷりつかってしまっていたからです。
こんなに汚れてしまっては、あなたの傍に戻れないと泣いていました・・。

まさか・・、許していただけるなんて・・・・、
夢のようです・・、

本当にいいのですか…、
こんなに汚れはてた私を許してくれるのですか・・」

涙をあふれさせ、幸恵は必死で尋ねています。笑みを浮かべて佐原が何度も、何度も頷いています。
そして、ゆっくりと幸恵を抱きしめました。

「うれしい…」

佐原の体を力いっぱい抱きしめて、声を上げて幸恵は泣いていました。
2015.4.10(@一部修正)


[38] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(302)  鶴岡次郎 :2015/04/10 (金) 12:03 ID:1NcWJPlI No.2675
2015、4、10、 記事番号2674に一部修正を加えました。再読いただければ幸いです。


女を抱きしめていた手を緩め佐原が女の顔を真正面から見ています。ほとんど唇が接触するほど二人は
接近しているのです。笑みを浮かべて男が囁きました。

「そうと決まれば・・、
せっかくの準備を無駄にしたくないね…、
ここで楽しませていただくか…」

「はい・・、そうさせてください・・・、
修行の成果をあなたに見ていただくのを楽しみにしていました。
わずか、ニケ月足らずの修行でしたが・・、
親方からも・・、
ご指導いただいたお姉さん達からも、
何時、卒業しても良いと言われています・・・。
私・・、才能があると言われているのですよ・・・・」

「えッ・・・?
修行・・・?
卒業・・・・・?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

愕然とした表情を浮かべ、言葉を失い、佐原がそのまま凍り付いたように幸枝を見つめています。不審
そうに笑みを浮かべて女は男の顔を見ていました。

「そうか・・・・、そうだったのか・・・・、
幸恵・・、もしかして・・、お前は…」

驚愕の表情を浮かべ、女の体から手を離し、一、二歩後退して、その場に崩れるように床に膝を着けま
した。そして膝に両の手を着いて、幸恵をじっと見上げています。無邪気に笑みを浮かべていた幸恵が
夫の突然の変貌に驚き、狼狽えています。

「そうだったのか・・・、
ああ・・・、僕は大変な思い違いをしていた…
そこまでは考えられなかった・・・・・」

がっくりと頭を垂れて、佐原は両膝に両手をついて肩を落としています。これまでこれほど落ち込んだ姿
を幸恵に見せたことはないのです。

「どうしたのですか・・・?
私・・・、何か気に障ることを言いましたか…」

夫の急変に幸恵は動転して、彼の言葉をほとんど理解していませんでした。それで、夫の急変が自分の
心無い言葉のせいかと幸恵は考えたのです、しかし、どう考えても思い当たることはないのです。

「ああ・・・、匂いですか・・・、
匂うんですね…、
嗚呼・・・、どうしょう・・」

幸恵はあることを思い出していました。この世界に入った時、先輩から教えられたことがあるのです。

「この世界に長く居ると、いつの間にかソープの匂いが体に染み込むもんだよ・・、
いくら外見を飾っても、判る人が嗅げば・・、
その世界の泥水にどっぷりつかった女であることがバレちゃうんだよ・・、
幸恵さんも、そうなる前に足を洗いな…」

わずか二ケ月とはいえ、この世界にどっぷりつかり込んでいる幸恵は、消すことが出来ない〈娼婦の匂
い〉をすでに発散させるようになっていると危ぶんでいるのです。

〈匂う…、汚れ果てた匂いだ・・、
贔屓にしていたあの女もこんな匂いをさせていた…
ここまで堕ちているとは思ってもいなかった…〉

かって買った娼婦と妻の匂いに共通点を認めて、妻の実態を改めて認識した佐原は、妻が遠くへ去った
こと悟り、大きなショック受け、その場に跪いたのだと幸恵は考えたのです。

おろおろして夫の肩に手を触れようとして、触れてはいけないものに触れたように慌てて手を引っ込め
ています。汚れはてた体で夫に触るべきでないと、妻はとっさに悲しい判断をしたのです。


[39] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(303)  鶴岡次郎 :2015/04/11 (土) 16:19 ID:phoC0qA. No.2677

傍から見ていると二人の会話は全くかみ合っていないのですが、そのことに二人は全く気が付かないの
です。幸恵と同様、佐原も幸恵の言葉を理解できないほど混乱していたのです。幸恵のつぶやきに耳を
傾ける余裕が無かったのです。男と女も相手を思う気持ちが強すぎて、肝心の相手の言葉を少しも聞い
ていなかったのです。

「幸恵・・・、
お前は・・、
変態趣味の僕を捨てたのではなかったのだね・・」

「変態趣味・・・?
あなたを捨てる・・・?

嗚呼・・・・、そうだったの・・・・
私が嫌いになったのではないのね・・・・」

ここへ来てようやく、男の言葉に耳を傾ける余裕が女に出来た様子です。女の心配したことではなく、
男は意外なことを女に語っているのです。

「僕のことを思って苦界に身を落としたのだね・・、
こんな恰好までして、好きでもない男に抱かれてきたのだね…
全ては、僕の変態趣味を満足させるための修行だったのだね…」

「・・・・・・」

床に座り込み、膝に両手を着いて、幸恵を見上げて涙をあふれさせながら、佐原は声を絞り出すように
して話しています。責められているのでないと察知した幸恵に更に余裕が出来ています。男の言葉に
こっくり、こっくりと女は何度も頷いています。

「幸恵・・、お前と言う奴は…、
薄汚い僕の好みを満足させるため、この世界に入ったのか・・・
そうだったのか・・・・」

頭を垂れ、佐原はじっと考え込んでいます。そして、ゆっくりと頭を上げました。ひと時の興奮が去り、
いくらか、男も冷静さを取り戻している様子です。

「僕は大きな誤解をしていたようだ・・・、
てっきり、裏切った僕に仕返しをするため、
見せしめのため・・、
お前はここで体を売っていると思い込んでいた…」

「そんな・・・、
そんな・・・、仕返しだなんて・・、
一度もそんなことは考えたことがありません・・」

全身を振って夫の思い込みが間違いであることを妻は示そうとしています。佐原が笑みを浮かべて頷い
ています。

「ああ・・、判っている・・・、
今やっと、幸恵の本心が判った・・・。

それにしても・・、ビデオを見て・・、
僕のことを汚いとは思わなかったの…?
軽蔑されても当然の俺をなぜ許したの?…」

「汚いなんて一度も思ったことはありません・・・、
ビデオを見て、びっくりして、戸惑ったことは確かです・・。

でも・・、普段のあなたを良く知っている私には、
ビデオの中のあなたはただ戯れているだけだと判っていました・・。
あの姿があなたの全てだなんて、思うはずがありません…。

それに・・・、
お隣の千春さんも男女の仲ではごく普通のことだと言ってくれました・・・」

「・・・・・・・」

言葉もなく佐原は幸恵を見つめ、じっと彼女の言葉を噛み締めていました。


[40] フォレストサイドハウスの住人達(その10)(304)  鶴岡次郎 :2015/04/14 (火) 12:36 ID:gJ5zJFG2 No.2678
体から立ち上がる娼婦の匂いを夫に悟られたと妻は不安と絶望感を抱き、一方夫は、隠れて変態的な買
春をしたことへの仕返しのため妻が売春婦に身を落したと受け止めていたのです。互いに相手の気持ち
を誤解していたことを知り、幸恵はすこし落ち着きを取り戻しています。そして、愚かな誤解をしてい
た夫に女の本当の気持ちを語り聞かせるべくゆっくりと話し始めました。

「ゴルフも、囲碁も、釣りも、あなたの好きなことを私は何もできません・・、
私はいつもあなたに一方的に可愛がられているだけです・・。
パソコンを習い始めたのも、あなたとの会話の足しになればと思ったからです・・」

幸恵の語りを聞きながら、佐原は徐々に冷静さを取り戻していました。自身の気持ちを切々と語る妻を
かわいいと思えるほど余裕を取り戻していたのです。

「ビデオの中であなたがとても楽しそうにしているのを見て・・、
あの女に強く嫉妬しました・・。

あなたをこんなに喜ばしたことが一度もない・・、
愛しているあなたを喜ばせたい・・・、
この女に負けたくないと思いました…。

出来ることなら、ビデオの中に居る女の様に振る舞いたいと思いました。
でも・・、私にはできないことは最初から分かっていました・・。

千春さんの紹介で出会った親方が、お店で修業すれば、
私でもビデオの中の女のように成れると保証してくれました。
私はびっくりしました・・。

あなたを喜ばせることが出来るのなら、私はどうなってもいい・・・、
そう思うと、後先のことは考えないで・・・、
夢中でこの世界に飛び込んでいました・・・」

「・・・・・・」

佐原は黙って幸恵の言葉を聞いていました。あふれ出た涙が頬を伝わり、男の顎から床に落ちていまし
た。

「それでも、知らない男達に毎日抱かれていると・・、
ふと・・、
平凡だけれど、何も後ろめたさが無かった昔の生活を思い出し、
こんなことをしていては・・、
こんなに汚れてしまっては・・、
とてもあなたの処へ戻れないと・・、
後悔と罪悪感に苛まれることが多くなっていました・・」

佐原の前に座り込み、幸恵も涙をあふれさせながら話しています。

「今日・・、あなたの顔を見た時・・・、
これで、全てが終わったと思いました・・。
修行の成果をあなたに見せて・・、
その後、黙って、今度こそ、絶対見つからない処へ、身を隠すつもりでした。

あなたは許すといってくださいましたが・・・、
私がこのニケ月してきたことを考えると・・・、
元に戻れるとは思っていません・・。
このまま、捨てられても文句は言えないと思っています・・」

覚悟を決めた表情を浮かべ幸恵は佐原の顔をまっすぐに見ていました。どうやら、幸恵は、自身の犯し
た罪を考えると、許されるべきでないと覚悟を固めている様子です。



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