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フォレストサイドハウスの住人達(その11)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2015/05/14 (木) 14:43 ID:ftlgeY7A No.2689
佐原幸恵の失踪劇は6ケ月ほどで終わりました。佐原と幸恵の仲は以前よりまして親密になっています。
幸恵失踪劇が無事ハッピィエンドを迎えることができたのは佐王子保の力が大いに役に立っています。
幸恵は引き続き佐王子の店で働くことになり、浦上千春と佐王子の仲も以前通りになりました。

暇な時間を持て余しているセレブ夫人の多いこのマンションに佐王子が頻繁に出入りするようになった
のです。無事に収まるとは思えません。この章では稀代の竿師、佐王子保とマンションの住人たちが織
なす色模様をできるだけたくさん紹介したいと思います。相変わらず変化に乏しい普通の市民に関する
話題です。ご支援ください。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その11)』
の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきます。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余脱
字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにしま
す。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した当該記事を読み直していただけると幸いです。

・(1)2014.5.8 文末にこの記事があれば、この日、この記事に1回目の手を加えたことを示しま
す。
・記事番号1779に修正を加えました。(2)2014.5.8 文頭にこの記事があれば、記事番号1779に二
回目の修正を加えたことを示し、日付は最後の修正日付です。ご面倒でも当該記事を読み直していた
だければ幸いです
                                        ジロー  


[41] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(353)  鶴岡次郎 :2015/08/21 (金) 12:04 ID:sAzHzxu6 No.2732

真相が明らかになったのはそれからニケ月後でした。

総長の強い指示で、事の真相が表に出ないように抑え込まれていたのです。しかし、組の窮状を救うた
め、仕事の失敗を死で償うと覚悟を決めた神本の話は関係者の間ではあまりに有名な美談になっていた
のです。それが総長指示で白紙に戻ったのですから、誰しもその理由を知りたくなります。しばらくは
その秘密が漏れ出なかったのですが、どうやら総長周辺に仕える女の口からその話が一部漏れ出したよ
うなのです。

ひとたび漏れると、その話は尾ひれを付けてあっという間に広がりました。こうなると、いかに総長と
いえども、どうすることも出来ないのです。

「たとえ自殺でも野蛮なことは許さないと警察から横やりが入った・・」
「マスコミが嗅ぎつけたようだ、もし神本が死ねば大スキャンダルになるところだった」
「総長の隠された弱みを尾花組長が握っていて、その伝家の宝刀を抜いた」
「総長の権威と慈愛を示すため、ほとんどが演出された芝居だった。神本が死ぬことは最初から筋書き
になかったのだ」
「総長は以前から尾花組長の女にご執心で、今回その女を提供して、一時的に神本の首がつながっ
た・・」
「神本はいずれ鉄砲玉になる身、一年か、二年寿命が延びただけだ・・」
など、など、もっともらしい噂話が駆け巡ったのです。

このままでは根拠のないうわさ話が広がり、組に災いを引き起こすことになると総長は判断し、正しい
情報を出来る限り詳細に流すことにしたのです。下手に事実を隠せば、昔と違って数秒で情報は世界に
広がる時代ですから、噂がうわさを産み、とんでもない情報が広がる可能性が高いのです。そして、厄
介なことにいったん情報が拡散するとそれは事実として定着してしまうのです。

賢明な総長は情報社会を生き抜く術をどこかで学習したようで、その知識を今回の事件でも実行したの
です。そして、これも情報社会では大切なことなのですが、誤解が新たな事件を引き起こさないよう、
事件の当事者である尾花組長に真っ先に総長から直接電話連絡をしたのです。

老組長、尾花が神本に告げた内容によると、千春が一人で上部組織の総長宅へ出向き、損害の代償とし
て自らの体を提供することを願い出たのです。当時、神本と彼女は同棲を始めたばかりの頃で、どこか
らか神本の窮状を聞き出し、彼に黙って、総長宅へ一人で出向いたのです。勿論誰もそのことを知られ
されていませんでした。内縁の夫の窮状を知り、思い余った彼女が一人で判断した行為だったのです。

ああ・・、ここで読者の皆様にお断りしておきたいのですが、皆さまがご存知のように千春は神本の内
縁の妻ではありません、有名商社マン浦上の妻で子供もいます。神本の内縁の妻はまだ紹介していない
別の人物です。

千春に惚れこんだ山口をあきらめさせるには千春には夫がいることを告げるのが一番てっとり早いと考
えた神本でしたが、まさか浦上三郎の実名を出すことも出来ません、それで考えた末、神本本人の内縁
の妻にしたのです。その時、神本は内縁の妻との関係をこれほど詳細に説明することになるとは予想さ
えしていなかったのです。

ところが、千春に夫がいることを知れば諦めるだろうと思っていたのですが、山口は神本の予想を裏
切って、千春を譲ってほしいと逆襲に出てきたのです。こんなことになるのなら、最初から千春は人妻
で、夫の名前は明かせないと突き放しておけばよかったと後悔したのですが、〈時すでに遅し〉だった
のです。

神本は自身の経験した内縁の妻との苦しく悲しい過去の出来事を説明して、神本と内縁の妻との仲が容
易に切れないものであることを伝え、山口のひたむきな愛情に冷や水を掛けようと考えているのです。

本来なら、全てをご存知の読者の皆様には千春でなく内縁の妻の実名で神本が語る物語を紹介すべきと
ころですが、それでは刻々と変わる山口の感情の波を伝えることがややこしくなるのです。そこで、読
者の皆様も山口と同じように神本の嘘に乗っていただき、千春が神本の内縁の妻であるとここでは信じ
てほしいのです。そして、千春と神本の悲しくも心温まるストリーを山口と一緒に追っていただきたい
と思っております。よろしくご了承ください。


[42] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(354)  鶴岡次郎 :2015/08/25 (火) 14:20 ID:hPt7ak72 No.2733

勿論、神本が組織に与えた損失は千春の体で賄いきれるほど、簡単なものではありません。莫大な
損失を女一人の体で弁済したいと願い出れば、普通なら笑い飛ばされ、玄関払いされるのが関の山
なのです。しかし、たまたまその日、自宅に居た総長は玄関で騒いでいる千春の声を聞きとがめ、
軽い気持ちで玄関に顔を出したのです。

一目彼女を見た総長は千春のたぐいまれな美貌に一瞬言葉を忘れるほど見惚れていた・・と、側に
居た者が後で言っていました。総長は即座に彼女との面談を許し、応接間に招き入れかなりの時間
を割いて彼女の話を聞いたのです。

ここまででも異例中の異例の事態なのです。組で中堅クラスの神本だって、総長との面談はおろか、
声を掛けられたことさえなかったのです。

彼女の話を聞いた総長はしばらく考えた後、彼女に条件を提示し、彼女の申し入れを受け入れたの
です。結果、彼女は組織に5年間無償奉仕することになり、神本は無罪放免と決まったのです。


前にも言いましたが、千春がいかに絶世の美人でも、彼女一人をどう料理しても、莫大な損失をカ
バーすることは絶対できないのです。勿論そのことを総長は良く知っています。ではなぜ、総長が
千春の願いを聞き届けたのでしょう・・・。

そのことに関しては尾花組長にも総長は何も語りませんでした。ただ、信頼できる筋の話では絶世
の美女である千春を一目見て、総長はその頃彼が熱心に推進している大きな取引で、彼女の使い道
を思いついたようなのです。真相が明らかになった後、心無い人が面白おかしく広げている噂話の
ように、総長が千春に横恋慕したわけではないと思います。傘下に一万人以上の組員を抱える総長
が女の色香に溺れて、大きな事業方針や、組の運営方針を決めるはずがないと思うのです。

「そうですか・・、やはり・・・・、
私が無罪放免になったと組長から聞かされた時、もしかして彼女が動いたのではと思ったのですが、
突拍子もないことですから、その思いを組長に言うことさえできませんでした・・。

実は、あの日以来・・、彼女は自宅へ戻っていないのです・・・。
何かあったのかと心配していたのですが・・・、
個人的なことで騒ぎ立てるわけにもいかないので、
しばらく様子を見るつもりでいたのです・・・。

私を救うため、何処かに身を沈めたのですね・・・・

結局・・、
私は女房に命を救われた・・・、
この上ない、意気地なしの男なんですね・・・」

最期の言葉を吐き出すように言って、神本は力なく肩を落としていました。

「お前がそう思うだろうと総長も心配されて、この真相をひた隠しにされていたのだ。そして、千
春さんもこのことをお前に教えないでほしいと総長にお願いしたそうだ。それが、心無い噂話が行
き交うようになり、このまま放って置くわけには行かないと思われ、総長は事の真相を明らかにさ
れたのだ。

総長からお前に伝えてほしいと言われた・・。
気を強く持って、千春さんを待ってほしい、
根拠のない噂話に狼狽えることのないように・・・とおっしゃっていた。

私からもお願いする。ここで、お前が落ち込み、自棄になるようなら、千春さんの苦労も、総長の
ご配慮も全て台無しになる、いろいろな噂が立つだろうが、ここは堪えて、晴れて5年の年季が明
けて千春さんが戻って来るまで我慢してほしい・・・」

「・・・・・・・」

神本は黙ってただ頭を下げることしかできませんでした。


[43] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(355)  鶴岡次郎 :2015/08/26 (水) 11:31 ID:t3iJt8h. No.2734
その日以来、神本の立場は非常に苦しいものになりました。『命を差し出し、組の窮状を救おうと
した男』から、『女房を売って、命乞いをした男』に、彼の評価は急落したのです。

組の内外で彼の発言力は地に落ちました。誰も彼の言葉を信用しなくなったのです。組長も表向き
は彼を庇護してくれませんでした。それでも彼は組を抜けることなく、黙々と地を這うようにして、
新入りさえ嫌がるような末端の仕事をこなし続けたのです。


「流行の服を粋に着こなし、肩で風を切って街を流していた華やかな表舞台から、下働き以下の地
位に落ちたのです。死にたいと本気で思いました。しかし、勇気を奮い起こしてもう一度死を選ん
だとしても、笑いものになるのは目に見えていました。死ぬことさえ許されない状況に追い込まれ
ていたのです。

こんなことなら、あの時悩み続けないであっさり死んでおればよかったと、何度も思いました。そ
して、今思うとどうにも情けない話ですが、体を投げ出し私を救ってくれた千春の行為を憎んだ瞬
間もあったのです。

もちろん、そんな憎しみの感情が湧いたのはほんの一瞬のことで・・、
千春への感謝の気持ちはずーっと持ち続けていました・・」

命を助けるため苦界に身を沈めた千春の行為を憎むこともあったと語る神本の表情は暗く沈んでい
ました。

「幸いなことに、二年も経つとみんなが私のことを忘れてくれました。組の末端で若い組員に叱ら
れ、顎でこき使われることにも慣れました。組を出て、堅気に戻るよう組長から言われたこともあ
りましたが、千春が戻るまでは組に残ると決めていました。組への未練も、やくざ稼業への執着も
とっくに消えていました。ただここに居れば千春の情報がどこに居るより正確に早くつかめるはず
だと信じていたから組を離れなかったのです」

淡々と語る神本の表情が、千春の名前を出す度に少し柔らかくなるのです。その表情の変化を山口
は敏感に察知できていたのです。山口もまた千春のこととなるとすごく敏感になるようです。

「4年目を迎えるころには、生きていることに心から感謝出来るようになっていました。救ってく
れた千春に心から感謝をささげることが出来るようになっていました。仕事の失敗を死で償おうと
した4年前の自分を懐かしく思い出すことはありましたが、その頃に戻りたいとも、その時の自分
を誇らしいとも思わなくなっていました。

組の序列の中で一番下に位置づけられ、上に上がる可能性はゼロと分かっているのです。新入りが
どんどん上に上がっていくのをただ見ていました。
それでも幸いなことに、上の人から怒鳴られながらも、昔のよしみでしょうか、それともあまり期
待されていなかったせいでしょうか、あるいは組長の深い配慮の結果だったのかも知れませんが、
とにかく、やくざ稼業の中では比較的気楽な責任のない仕事を与えられていました。それは車の掃
除とか、日用品の買い出しとか、キッチンの手伝いとか、ヤクザの本業からかなり離れた仕事だった
のですが・・、そんなことをやっていました。

そんな仕事をしていると、不思議なことに、ヤクザの見栄や、しがらみから解き放たれ、次第に普
通の人間らしい感覚を取り戻すようになるのです。この頃から、千春への愛情と言うか、感謝の気
持ちは、日増しに強くなっていったのです・・」

神本は淡々と語っています。話の途中から、山口の表情から先ほどまで見せていた神本への恐怖心
が消え、神本への畏敬の気持ちが表れているのです、そしてその表情の裏には明らかな落胆の影が、
あきらめの色が広がっているのです。


[44] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(356)  鶴岡次郎 :2015/08/27 (木) 11:47 ID:P5Dz0uuQ No.2735
千春が消えてから5年が経過しました。ある夏の日、夜明け前、神本の住む安アパートの前にタク
シーが止まりました。助手席のドアーが開いて黒ずくめの男が素早く降り立ち、小走りで後部ドアー
の側に立ちました。ドアーが開き、形のいい白い足が伸びてきました。黒ずくめの男が恭しく左手を
差し出しています、慣れた仕草で白い手が男の手に伸びて、その手に支えられ、若い女が一人降り立
ちました。運転手として、個人執事として、黒ずくめの男は5年間こうして女の傍で仕えてきたので
す。今日が最後の仕事になることを男も女もよく知っています。

女は170センチ近い長身で、モデルにしたいほどのスタイルですが、身に付けている衣服は大人し
いフレアーの花柄スカートに白い半そでブラウスです。少し大きめのハンドバックを持っていますが
帽子は着けていません。夜明け前の薄暗がりの中でも、それとはっきり判るほどの凄さの漂う美女で
す。

黒ずくめの男がトランクから比較的大きなスーツケースを四個取り出し、女にその荷物の運び先を聞
いています。女は部屋番号を教え、バッグから鍵を取り出し男に渡しました。会話はどうやら日本語
でない様子です。女の発音も流暢です。

男は二個のスーツケースを持ち、鉄製の外階段を上がり、教えられた二階の部屋の前に立ち、迷うこ
となく鍵を開け、荷物を置き、急いで戻ってきて、残りの二個のスーツケースを部屋へ運び上げまし
た。その間、女はタクシーの側に立ち男の仕事をじっと見つめていました。

仕事が終わった男は女の傍に来て、深々と頭を下げました。女が男に一歩近づき、ハグしています。
男は直立不動です。女は男の頬に軽くキッスをして、男から離れました。女を見つめる男の瞳が
真っ赤になり、少し潤んでいます。女がそんな男に二言三言声を掛けています。男はただ黙ってうつ
むいていました。

女はスカートの裾を持ち上げ、ショーツを一気に脱ぎ取りました。夜明け前の薄暗がりの中でも
はっきりと女陰の陰が男には見えました。女はショーツを男に差し出し、一言、二言囁くように声
を出しました。どうやら、ここへ来る途中かなり前から男にショーツを与えることを考えていたよう
で、女の動きに無駄はありません。

男が両手でショーツを受け取り、丁寧に畳み込み、ポケットから白いハンカチを取り出し、ショーツ
を丁寧に包み込み、それをポケットにしまい込みました。

男がタクシーに乗り込み、タクシーはゆっくり動き出しました。やがてタクシーは薄暗がりの路地に
消えて行きました。女は赤いテールランプが路地の角を曲がるまで、車の後ろ姿を見つめていまし
た。


車が去った後に耳が痛くなるような静寂が訪れています。車が残した排気ガスの香りがあたりに立ち
込めていました。二階建てのプレハブアパートの前に立ち、女はじっとその姿を見つめていました。
女の頬に一筋、二筋、涙の跡が見えます。

ゆっくりと鉄製の階段を上がります。固い金属音がゆっくりと響きます。女は扉の前に立ちました。
表札には二人の名前、男の名前と女の名前が書いてありました。右手を伸ばし、女はそっとその名札
を撫ぜています。何度も、何度も女の指が名札を触っています。

扉を開けると、湿った、少しかび臭い匂いが女の鼻孔を刺激しました。三ヶ月以上この部屋に人がい
なかったことを女は知っているようで、驚いた様子を見せていません。それでも、そのかび臭い空気
の中に懐かしい人の香りを嗅ぎ分け、女は思わず涙をあふれさせています。

南に面して6畳の居間と6畳のDK、それにバス&トイレ、典型的なプレハブアパートです。部屋の
中は比較的綺麗に整理整頓されていました。女は居間のガラス戸を開けました。このアパートは高台
に建っていて、南側の窓からは街並みが展望できるのです。

窓を開けると赤さびた手摺と使い込んだ物干し竿があり、その向こうに町の風景が広がっています。
今顔を出したばかりの太陽が街を黄金色に染めています。

「きれい・・・・・・、
5年前と同じ…、
やっと・・、ここへ帰って来れた・・・・・」

女がぽつりと声に出しました。

女はその場に立ち、深々と深呼吸しました。あふれ出る涙が女の顎から滴り落ちています。


[45] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(357)  鶴岡次郎 :2015/08/31 (月) 13:40 ID:EvYe84ZI No.2736

10時ごろまで女はかいがいしく働きました。今まで住んでいた環境とあまりに違い過ぎるため、
最初は軽い戸惑いもあったのですが、体を動かしていると5年前の記憶が蘇ってきました。

部屋の掃除、洗濯、食器類の点検、食器類は5年前のまま手ずかずで残されていました。女の知ら
ない食器が二、三点と箸が一人前分増えていました。どうやら男は新婚家庭用に準備した夫婦セット
の食器類は使用しないで、5年間一人用の食器を別に準備してそれを使用していた様子なのです。
そのことを知り、女はまた涙していました。

四個のスーツケースの中身は衣類やバッグ、靴そして装飾品でした。それまで暮らしてきた身の回
りの品は勿論、高価な家具類まで含めて、女がその気になれば全て持ち出すことが許されていて、
輸送の手続きもやってくれることになっていたのです。それでも、これからの生活を考えて女は4
個のスーツケースに入る物だけを持ち出すことにしました。

それまでの過ごした屋敷には大きな衣裳部屋があり、その中にたくさんの衣類が収まっていました。
中には有名ディザイナーの手になる高価な物や、派手なパーティ衣装もあり、あれもこれも捨てが
たい気持ちで迷いに迷ったのですが、これからの生活を考えて思い切って地味な衣類を選んでスーツ
ケースに詰めたのです。

そっくり残されていた5年前の衣類とスーツケースから出した衣類を並べて比較すると、流行遅れは
致し方ないにしても、今の女の目で見ると、昔の衣類は恐ろしく派手で、とっぴなデザインと色彩の
物ばかりなのです。

「貧乏だったから質が悪いのは仕方ないけれど・・、
どうしてこんなものを着ていたのかしら・・・、
これでは・・、娼婦ですと公言しているようなものだ…、
とても身に着ける気になれない…」

女は口に出して苦笑いしていました。

5年の歳月が女の趣味を大きく変えたようです。街に立つ娼婦のような衣類だと女自身が言う5年前
の衣服に比べて、スーツケースから取り出した衣類は地味な色合いと控えめなディザインですが、全
てが女の美貌と品格をより際立たせる印象的な洗練された衣服なのです。

シャワーを使い、下着を取り換えて、散々迷った末、胸元が上品かつ大胆にカットされた半そでの淡
い茶のワンピースを選びました。ネックレスとイアリングは鈍い光を放つプラチナの小品です。今日
の訪問先のことも考えて、ごく普通の主婦の一寸した外出着のつもりなのですが、際立った美貌が災
いして、女の狙いとは逆に、質素で飾らない装いが女の持つ気高さをより目立たせる結果になってい
るのです。

小さめの茶のバッグを肩にして女は濃い茶皮のローヒール靴を履き表に出ました。8月の太陽はほぼ
真上に来ていて、容赦ない熱線を地上に降り注いでいます。表通りに出た女はそこでタクシーを拾い
ました。5年前であれば最寄り駅まで歩いたものですが、女はそんな習慣を忘れているようです。

10分ほどで目的の大きな私立病院へ着きました。受付でスタッフと一言二言、言葉を交わした女は
三階の外科病棟へ向かいました。通りすがりの男は勿論、ほとんどの人が彼女を見ています。たぐい
まれな美貌とモデルにしたいようなスタイルが人々の視線を引き付けるのです。そんな人々に女は控
えめに挨拶をしながら、目的の病室へ向かいました。


[46] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(358)  鶴岡次郎 :2015/09/01 (火) 14:19 ID:.5v6Syo. No.2737

その患者は特別室に居ました。応接セットを備えたかなり広い病室です。酸素吸入器を付け、全身
を包帯で巻かれた大柄な男が眠っていました。呼吸は正常で、容態は安定している様子です。

「目下のところは安定していますが、今夜から二、三日が山場です・・・。
正直言って、ここへ担ぎ込まれた時は、かなり難しい状態でした・・・。
ここまで持ちこたえられたのは・・・、
患者さんの生きようとする力のおかげだと思います…」

女が要請すると、直ぐに中年の担当医がやってきて、患者の様態を別室で女に説明しています。千
春の美貌に気おされしたのでしょうか、医者は少し緊張気味です。千春の前に香り高いティーが出
されています、これだけ見ても病院側のこの患者とその関係者への対応は丁重だと判ります。

銃と刃物による傷、そして患者の関係者達を見て、並の人たちでないと病院側は判断しているので
すが、それだからと言って、特別に警戒をしたり、怖がっている様子はありません。十分にお金を
使ってくれる上客と考え、それにあわせ丁寧に対応をしているのです。

「大丈夫なのですよね・・、先生・・」

「どんな患者さんに対しても・・・、
絶対大丈夫ですと医者は言えないものです・・。
我々は全力を傾けて対応しております・・・」

「先生・・・、主人を助けて下さい・・、
危険な状態に陥っていた私を救おうとして、
彼は…、酷いけがを負ってしまったのです・・・」

「・・・・・・・」

「もし・・、主人に万一のことがあれば・・、
私が殺したことになります・・・。
私は生きてはいられません・・・」

「・・・・・・・」

「私・・、主人を助けることが出来るのなら・・・、
私で出来ることがあれば・・、何だってやります・・・。
お願いします…、救ってください・・・」

「・・・・・・」

背筋が凍るほど、凄い美人が涙をあふれさせ、必死で懇願しているのです。二十年を超える医者生
活でも、これほど絵になる患者家族の表情を見たことがないのです。任せて下さいと言い切れない
担当医は、彼女の顔に視線を当てたまま凍り付いたようにしていました。

「ああ・・・、先生・・・、
何かおっしゃってください・・・、
そんなに酷いのですか・・、
先生が匙を投げるほどなのですか・・・」

「ああ・・、いえ、いえ・・、
酷いことはひどいのですが、治癒できない傷ではありません・・、
むしろ助かる可能性はかなり高いと思っております・・・。
万全の処置を施しておりますので、安心してください・・・」

医者の言葉を聞いて女は少しホッとした様子です。

「それにしても・・、あなたのような方にそれほど思われて・・・
患者さんは幸せですね・・、うらやましいと思います・・、

ああ・・、いや、いや、余計なことを言いました・・、
とにかく、私に任せてください、最善を尽くします・・・」

「よろしくお願い申します・・・」

千春が深々と頭を下げています。そして、ほんのりと頬を染めているのです。我を忘れて取り乱し
たことを恥じ入っているのですが、その風情がまた医者の心を揺さぶっているのです。


[47] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(359)  鶴岡次郎 :2015/09/02 (水) 11:54 ID:embuvv8A No.2738
一通り患者の様態説明が終わり、女もそれなりに納得しました。担当医として患者家族への説明は
全て終わったのです。それでも、医者は椅子から立ち上がろうとしません。忙しい身であるはずで
すが、もう少し女と会話を楽しむつもりになっているようです。どうやら、看護師がしびれを切ら
して迎えに来るまで、女とこの部屋にいると決めているようです。

「ところで・・、奥様のお名前は・・、
そうですか千春さんと言うのですね…、
それで納得できました・・・、

患者さんが夢うつつで奥様の名前を何度も呼んでいました・・。

夢の中に出て来た奥様に励まされて、頑張ったのですね…、
離れていても、奥様の励ましが彼を元気づけたのだと思います・・、
ここまで、本当によく頑張りました・・・」

医者の優しい言葉を聞いて大粒の涙があふれ出ています。大粒の黒い瞳が濡れて光っているのです、
前髪が数本白い額に掛って揺れています。そっとほほをぬぐう花柄のハンカチが見事に女の表情に
マッチしているのです。医者は仕事を忘れて女の仕草に見惚れています。

「並の患者さんなら・・、あの体で・・、あのような長旅をしたら・・・、
それこそ・・・、大変なことになっていました・・・。

いろいろ事情はあったと思いますが、あの移動は少し無謀でした・・・。

ああ・・・、もしかすると・・、
奥様はあの無謀な移動をご存じなかったのでしょう・・・」

「・・・・」

はじめから疑問に思っていることを医者はストレートに聞いています。親族であれば患者がどんな
にそれを望もうと、死につながりかねない、あのような無謀な移動を認めるはずがないと思ってい
るのです。

周りの関係者がある事情で・・、多分それは組織の利益を左右する事情があって・・、患者を日本
へ運ぶ必要が出て、むりやり患者を移送したと医者は疑っているのです。そうでなければ説明がつ
かないと医者は思っているのです。

「もし・・、人に言えないことで悩んでおられるなら・・・、
私で良かったら・・、話してみませんか・・・、
これでも医者と言う職業柄だとおもいますが、
口は固い方で、言うなと言われれば、殺されも口を開きません・・」

「・・・・・・」

この質問を受けて女はただうつむいて返事に困っている様子を見せています。

「いや・・、これは余計なことでした・・・・」

担当医はしゃべりすぎたことを恥じて慌てて口を閉ざしています。

瀕死の病床で妻の名を呼び続けた夫、夫を救うためなら何でもやり遂げようとする妻、これほど想
いあっているのに、瀕死の夫の入院に妻は立ち会うことが出来なかったのです。そして傷跡の異常
さを考え合わせると、何か深い事情が二人にはありそうだと医者は考えていました。出来ることな
ら、その訳を知り、女の力になりたいと思っているのです。しかし、今は、そこまでは聞き出す時
ではないと思い直しているのです。

ちなみに医者はいまだに独身です。何度か恋をしたことがあったのですが、恋の道より医学の道を
優先したのが災いして、女達は医者の元から離れていったのです。目の前に居る女が幸せになるの
なら、ひと肌脱いでも良いと医者は珍しく熱い思いを抱き始めているのです。男女の心の動きに敏
感な女がこんな医者の感情を察知しないはずがないのです。

「先生・・、お気遣いいただきありがとうございます…
詳しくはお話しできないのですが・・・、
夫が・・、命を懸けて働いてくれたおかげで・・、
私・・・、
今は・・とっても幸せです、ご安心ください・・・」

夫の異常な入院に立ち会うことが出来なかった妻の事情を知ろうと、立ち入った質問をする医者が、
好意以上の感情を持って接してくれていることを敏感に察知して、女は感謝の気持ちを込めて医者
をじっと見つめていました。医者は眩しそうに女の顔を見て、破顔して口を開きました・・。

「そうですか・・、それは良かった・・・、
あなたのような方が苦労するのは見たくないですからね…、

では・・、これで・・・
ああ・・、今眠っていますが、意識はしっかりしていますので・・、
目を覚ましたら顔を見せてあげてください。きっと喜ぶと思います・・」

「ハイ・・・」

話題を変えた医者を見て、女がホッとした表情を浮かべ、軽く頷いています。入院の経緯をそれ以
上追及して欲しくないのです。


[48] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(360)  鶴岡次郎 :2015/09/03 (木) 10:24 ID:z93g1nyQ No.2739

「ああ・・そうだ・・・、
もしご希望なら、今夜、奥様もご一緒に病室で過ごされてはいかがですか・・・・。
ご希望ならベッドと食事を準備させますが・・」

「お願い申します…」

「ああ・・、そうですか、承知しました。
ぜひそうしてやってください・・、患者が喜ぶと思います・・・。
粗末なものですが・・、後ほどベッドを準備させます・・」

その時ドアーをノックして若い看護師が入ってきて、無言で医者をにらみつけているのです。

〈・・ちょっと綺麗な人が来るといつもこうなのだから・・・、
時間ですよ・・、次の仕事が待っていますよ・・・〉

看護師の無言の表情はそう言っているのです。

「ああ・・、判った、判った・・
今すぐ行くよ・・・」

医者はそう言って立ち上がりました。看護師は千春に向かって一礼し、千春もまた頭を下げてい
ます。

〈きれいな方・・・、
先生がなかなか離れない気持ちが判る・・・〉

看護師が医者を見て、意味ある表情を残して先に部屋を出て行きました。

「ああ・・、それと・・、
何かありましたら、私に直接連絡を取ってください・・・
看護師には判るようにしておきますから・・・・」

女が一歩医者に近づきました。今日の訪問先に合わせて香水はつけていないのですが、女自身の体
臭でしょうか、妙なる、ふくよかな香りが医者の鼻孔を刺激していました。

「先生・・、これは些少ですが・・」

かなり厚い紙包みを女が差し出しております。

「イヤ・・、こんなことはされては・・・、
そうですか・・、それでは・・、遠慮なく・・・」

紙包みを白衣のポケットに慣れた仕草で納めています。

「先生・・・、
こんなことを申し上げると・・、
はしたない女と蔑まれるでしょうが・・」

ここで女は次の言葉を飲み込みました。これから言おうとしている言葉を頭の中でチェックして
いるのです。少し上気した表情で、瞳を潤ませ、それでも真剣な表情で、医者に強い視線を当て、
千春は何かを訴えようとしているようです。

「私・・・、
主人のために出来ることは何でもやりたいのです・・
後で後悔したくないのです・・・・」

「・・・・・・・・」

一方医者は・・、女が何を言い出すのか想像がつかない様子で千春をじっと見つめているのです。

「主人を助けていただけるのなら・・、
私を・・・、
私の身体を・・・、自由にしていただいて構いません・・」

「・・・・・・・・・」

一気にこの言葉を吐き出し、女は医者をじっと見つめています。その言葉の意味が分かったはずで
すが、医者は表情を変えないで女を見ているのです。


[49] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(361)  鶴岡次郎 :2015/09/05 (土) 15:18 ID:vXkA9qX. No.2741

「今の私には・・・、
お礼として差し上げることが出来るのはこの体しかないのです・・
私にとって夫の次に大切なものをささげて、お願いしたいのです。
主人をお願いします・・・」

「・・・・・・・・・」

医者はここでもただ黙って、女を見つめているのです。女は当惑していました。医者の反応が判ら
ないのです・・、いえ・・、医者が沈黙している理由は女には良く判っているのです。この作戦を
実行すると決めた時、一番恐れていたことが今起きていると女は悟っているのです。


治癒する可能性は高いと言って医者は千春をほっとさせたのですが、千春はその言葉を鵜のみには
していませんでした。生死の可能性は楽観的に見ても、半分半分だと思っているのです。カギを
握っているのはこの医者で、彼が能力と誠意を尽くして治療にあたってくれることが、夫の命を救
う唯一の道だと思っているのです。お礼のお金をさらに積み上げることも考えたのですが、医者の
立場を考えるとあまり過激な金額は反って彼をしり込みさせることになると思いました。それで、
次の手を考えたのです。

最初の出会いから言葉の端々に見せる医者の優しさ・・、医者が好意以上の感情を寄せていること
を女の感性が察知していました。『夫を助けたい』、『出来ることは何でもする』その強い思いが
後押しして、女の本能が自分の体を差し出す作戦を思いつかせたのです。

着ているシャツが少し汚れていて、ズボンの折り目が通っていない医者の服装、千春を女と見てい
る熱い視線等々、医者が独身か、あるいはあまり妻から大事にされていないと察知して、〈この男
なら・・、この作戦を実行しても、失敗はないだろう・・〉 と女の本能で判断していたのです。
そして、最悪のケースでも、つれなく断られて、恥をかくことはないだろうと踏んでいたのです。


一方、医者は何と答えてよいか、全くアイデアがないのです。頭の中が真っ白になり、何も考えら
れない状態なのです。それでも、女から誘われている事実は医者の男心を大いにくすぐっていて、
嫌な気分ではないのです。

デートの途中、恋人から突然『私を自由にしてもいい・・』と言われても、その恋が真剣であれば
あるほど、男は少し引きます。女を大切に思うからです。まして今日初めて会った女から・・、そ
れも瀕死の傷を負った患者の妻から誘われているのです。酒の席などでこの言葉を聞かされれば、
男なら誰でも戯言の一つも出し、それなりの対応が出来ると思いますが、医者は当惑の気持ちを通
り越して、ただ、ただ、驚いていました。それと同時に、凄まじい女の気迫に圧倒されているので
す。

『私の命を差し上げます・・・』、女がそう言っていると医者は受け止めていたのです。言葉の内
容はこの上なく隠微で、猥雑な誘いの言葉なのですが、そこにはぎりぎりまで追い込まれた女の覚
悟の気持ちがほとばしり出ているのです。

一目見た最初から好意以上の感情を抱いたきれいな女です、そんな女から誘われれば、男の劣情を
刺激されなかったと言えば嘘になります、しかし、浮いた気持ちになることなど到底できなかった
のです。あいまいな言葉を残し、その場から逃げるように去っても良かったのです。しかし、医者
は逃げませんでした。その場に留まり、鋭くも、悲しい女の言葉をしっかり受け止めていたのです。


[50] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(362)  鶴岡次郎 :2015/09/07 (月) 15:51 ID:CaFij5mg No.2742

医者の沈黙を見て、女はその場に居られないほど自身の軽率な言葉を後悔していました。娼婦の
素性を医者に気付かれたと女は思っているのです。一番恐れていた結果なのです、結婚前の一時期
そうした前科があるだけに、かなり動揺しています。

もう少し慎重に考えれば誰でもわかることだったのです。普通の暮らしをしている家庭の主婦がい
かに夫の命を助けるためとはいえ、初めて出会った男に体を差し出すことなど、絶対、起こり得な
いことなのです。そんなことが出来るのは日頃から体を売る商売をしている女に限られるのです。
そのことに千春もようやく気が付いているのです。

「先生・・・、
どうして・・・、何もおっしゃらないのですか・・・、
きっと・・、
こんなことを誰にでも言っている汚い女だと思っているのですね・・」

消え入りそうな声で千春はこれだけの言葉を絞り出し、恥ずかしさに堪えられないのでしょう、視
線を床に落としています。上から見ると彼女の首から肩にかけて、肌が朱色に染まっているのです。

その光景が・・、消えゆくような哀れな女の姿が・・、男の心を揺り動かしています。

夫を助けることだけ考えている女が、冷静な判断が出来ないまま、自身の体を差し出すと言う暴挙
に出たと医者は受け止めていました。愛する人が瀕死の重傷を負った時、人は時としてとんでもな
い言動をするものだと、それまで何度もこうした修羅場を経験している医者は千春の言動を左程異
常なものだととは思っていませんでした。まして、目の前にいる上品な女の素性が娼婦などと思い
もしていなかったのです。

そんなわけですから、女の甘い誘いをむげに断るわけにも・・、かといって、好意を受け入れるわ
けにもいかず、医者はただ黙りつづけるつもりでいたのです。そうすれば、いずれ冷静さを取り戻
し、女が自分から誘いを引っ込めるだろうと思っていたのです。

しかし、どうやら女は自身が娼婦だと思われたと誤解している様子なのです。これは医者の予想外
の出来事でした。哀れな女の姿を見て、このまま黙っているわけには行かないと、医者はようやく
口を開くことにしたのです。

「ああ・・・、いや・・・、決して・・、
汚い女などと思いません・・・。
それどころか、あなたのご主人を思う気持ちに、唯々、感動しているのです・・・。

私にはあなたが女神に見えます・・。
ご主人は幸せ者ですね・・・・
男なら、一度はそれほど、愛する人から想われたいものです・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

医者の言葉を聞き千春は言葉が出ないほど喜んでいました。

〈ああ・・・、よかった・・・・、
先生は私を娼婦と思っていないのだ・・・〉

千春は涙を浮かべて医者を見つめていました。そして、次に千春がとった行動は、おそらく彼女自
身も予定していなかった、本能的な動きだったと思います。

一歩近づき、医者の首に両手をかけて、ゆっくりと朱色の唇を医者の唇に押し付けたのです。医者
はただその場に棒のように立って、彼女の行為を受け入れていました。女はつま先だって背の高い
医者の唇に体を合わせています。彼の手はしっかりと女の腰を支えているのです。

「ベストを尽くすことを約束します・・・。
奥様のためにも・・・・、最善を尽くします・・・
奥様も気を強く持って、旦那様を励ましてください・・・
ここで奥様が倒れたら、元も子もありませんから・・・・」

千春の肩に両手をかけて、医者は女の顔を覗き込むようにそう言って、潔く背を向けて、部屋を出
て行きました。その足取りは軽やかでした。

〈ああ・・、先生・・、
口紅を付けたまま・・・、
でも・・、誰も気が付かないはず・・・〉

医者の背に、深々と頭を下げながら、女はいたずらっぽい笑いをかみ殺していました。全てをやり
つくした満足感が女の表情に現れていました。



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