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フォレストサイドハウスの住人達(その11)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2015/05/14 (木) 14:43 ID:ftlgeY7A No.2689
佐原幸恵の失踪劇は6ケ月ほどで終わりました。佐原と幸恵の仲は以前よりまして親密になっています。
幸恵失踪劇が無事ハッピィエンドを迎えることができたのは佐王子保の力が大いに役に立っています。
幸恵は引き続き佐王子の店で働くことになり、浦上千春と佐王子の仲も以前通りになりました。

暇な時間を持て余しているセレブ夫人の多いこのマンションに佐王子が頻繁に出入りするようになった
のです。無事に収まるとは思えません。この章では稀代の竿師、佐王子保とマンションの住人たちが織
なす色模様をできるだけたくさん紹介したいと思います。相変わらず変化に乏しい普通の市民に関する
話題です。ご支援ください。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その11)』
の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきます。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余脱
字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにしま
す。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した当該記事を読み直していただけると幸いです。

・(1)2014.5.8 文末にこの記事があれば、この日、この記事に1回目の手を加えたことを示しま
す。
・記事番号1779に修正を加えました。(2)2014.5.8 文頭にこの記事があれば、記事番号1779に二
回目の修正を加えたことを示し、日付は最後の修正日付です。ご面倒でも当該記事を読み直していた
だければ幸いです
                                        ジロー  


[2] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(314)  鶴岡次郎 :2015/05/14 (木) 14:58 ID:ftlgeY7A No.2690

佐王子の仕事

朝10時、浦上千春が寝室からようやく出てきました。今日は木曜日で浦上三郎の勤めも、長男の幼稚
園も平日どおりです。どうやら浦上も、長男も家にはいない様子です。
 
激しい夜を過ごしたけだるさが千春の全身からにじみ出ています。ガウンを肩に掛けていますが、腰紐
はありません。洗面所に向かう女の前が肌蹴て、乳房から股間の薄い影までが見えます。どうやらガウ
ンの下は裸の様子です。

「アッ・・・、嫌だ・・・」

突然、女が歩く足を止め、独り言を呟き、股間に右手を差し入れ、腰を折り股間を覗き込んでいます。
愛液と精液で濡れ、洪水の後のようになっていた股間は、水が引き、陰毛が肌に張り付いた枯野の状態
です。

亀裂から、白濁液が滲み出て大腿部に流れ出しているのです。女はその液を掌で拭い取り、その手を鼻
先にかざしています。濃い情事の香りが千春の鼻腔を刺激しています。舌を突き出し、掌にふき取った
液を舐め取り、ごくりと飲み込んでいます。苦いらしく、卑猥な表情を浮かべしかめ面をしながら、そ
れで止めるわけでもなく、丁寧に指先に付着した液まで舐め取っています。

風呂場の前でガウンを下に落としました。身長160センチに届きませんが、全体にふくよかな女体は
女盛りの色香をあたりに振りまいています。後ろから見ても身体のいたるところに赤あざが残っていて、
昨夜の乱闘の様がしのばれます。

さっぱりとした表情でバスタオルを使いながら千春は居間に入ってきました。北向きの部屋から、眼下
の泉の森公園が一望できます。顔と髪を拭い、胸を拭き、両脚を大胆に開いて股間にタオルを使ってい
ます。昨夜の激しかった情事の名残は完全に洗い流され、柔らかな陰毛に包まれた愛の園は完全に復活
しています。

「シャワー・・、空いたよ・・・」

寝室に向かって少し高い声をかけました。低い男性の声がそれに応えています。男が起き出してこの部
屋に来る様子です。ゆっくりとガウンにそでを通した千春は居間のソファーに腰を下しました。そして
水差しからコップに水を入れ、喉を鳴らして飲んでいます。

寝室から男が出てきました。ブリーフをつけただけの半裸の姿です。男の名は佐王子保、既に50歳を
三つほど越えているはずで、見方によっては60歳近いと言う人もいるかもしれません。170センチ
に届かない身長で、面長というより長すぎる顔の持ち主で、太くて黒いまゆ毛と顔の半分を占めるので
はないかと思えるほどの長くて大きな鼻に特徴があります。お世辞でもイケ面とは言えませんが、不快
感を与える顔ではありません。この種の顔が好きな女性も多いと思いますし、一度見ると誰でも絶対忘
れることが出来ない顔だといえます。ただ、首から下の身は見事に鍛えられていて、なめし皮のような
褐色の肌に包まれた肉体には、贅肉の欠片もなく、瞬発力を秘めた筋肉が皮膚の下に見え隠れしていま
す。体のところどころにかなり大きな古傷があるのも、男の厳しい経歴を物語っているようで不気味で
す。

千春が準備したスクランブルエッグとトーストをコーヒーで流し込む簡単な朝食を終えた二人は向かい
合って、のんびりとソファーに腰を下しています。男はTシャツに白い綿の上着とスラックス姿に整え
て、いつでも部屋を出る準備が完了しています。一方、千春は起き出した時着けていたガウン姿のまま
です。恐らくガウンの下は裸のようです。

「○○ちゃんは・・・?
幼稚園に行ったの・・・?
ああ・・、幸恵さんの家に泊まったのか…」

佐王子が千春の長男のことを少し気にしています。幼稚園児の長男は隣家の幸恵宅に預けているのです。
長男は幸恵にすごく慣れていて、幸恵も実の孫のように可愛がっているのです。最近では一人で幸恵宅
に泊まることが出来るのです。

佐王子が訪ねて来て、その日彼が千春宅に泊まりになるのを知って、長男を預かることを幸恵から申し
出たのです。お陰で千春は久しぶりに遅い朝を男と迎えることが出来たのです。

以前の幸恵であれば長男を預かり、千春と男に自由な夜を与えることなど思いつきも出来なかったのです
が、ソープに勤めるようになってから、幸恵はこうした男女の仲に深い理解を示すことが出来るようにな
っているのです。勿論、千春は幸恵にすべてを話しています。

自身の体に中に湧き上がる強い情欲のことも、千春の夫である浦上三郎が決断して、千春に愛人を与え
ることにしたことも、全て幸恵に告げているのです。勿論、千春も幸恵がソープ勤めを続けていること
や、店の近くのアパートを借り、そこへ時々お客を引っ張り込んでいることも幸恵から聞かされている
のです。

歳こそ少し離れていますが、幸恵と千春は今やすべてを話し合い、互いを理解出来る仲になっているの
です。


[3] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(315)  鶴岡次郎 :2015/05/18 (月) 12:56 ID:Otc5Snfk No.2692
「浦上さんは・・・、
いつ頃お帰りなの・・・?」

「多分・・、明後日の夜だと思う・・・
だからね…、
ゆっくりして行って・・・」

浦上は大阪へ出張で週末に帰る予定なのです。千春はソファーに座っていた脚を組み変えました。ガウ
ンの前が開いて、彼女の意図どおり、正面に座っている男に乳房と股間の影を見せつけています。その
様子をチラッと見て、男は視線を窓の外へ向けています。女の意図を察知して男は少したじろいでいる
のです。

男が困惑していることなど眼中にない様子で、ガウンを脱ぎ捨て、全裸になって男の膝に跨りました。
男の顔に両手を掛けて引寄せ、強引に唇をつけています。男もここまでくれば逃げてばかりいられま
せん、二人の唇がそこだけが別の生き物のように動き、互いの舌を吸引しています。

女が男の手を取り股間に添えました。男の指は既にその部分が十分に濡れているのを感じ取っています。
股間を男の指に託して、女は悶えながら、男の上着を取り去り、Tシャツを剥ぎ取りました。褐色の見
事な肉体が女の前に現れました。

目を細めて、舌を出し、女は男の体を舐め始めました。黒い乳首をさんざんに嘗め回し、さらに舌を移
し、筋肉の割れ目が見える腹部を嘗め回し、女はベルトに手をかけ、一気にパンツとショーツをはぎ取
りました。ばね仕掛けの人形の様に男根が勢いよく顔を出しました。女はそれをいきなり咥えこんでい
ます。女の唇から粘液と唾液の入り混じった液体が床に滴り落ちています。

女が男根を右手に握り、巧みに股間に誘導し、腰を落としました。猥雑な音をたて、男根が女陰に吸い込
まれています。女が首を仰け反らせ、大きな悲鳴を上げています。

それから昼過ぎまで、二時間余り、女も男も何年も絡み続けている夫婦のように慣れた様子で、次々と
体勢を変え、喘ぎながら、叫びながら、情事を楽しみました。


昔からの竿師師稼業の約束事を頑なに守り、佐王子は16歳の時から始めているその仕事を今もなお続
けています。おそらく竿師最後の一人になる可能性が高いと思います。

若い頃は名のある組織に籍を置いていた時期もあったのですが、現在は一匹狼で、Y市にソープ店を持
ち、それとは別に彼を信じて金を出す会社重役や、有名商店主などの顧客を相手に、個別に女を世話す
るサイドビジネス・裏売春稼業をしています。サイドビジネスと言うものの、佐王子はこちらの仕事に、
ソープ店経営より興味を持っている様子です。多分、ソープ店経営よりサイドビジネスである裏売春稼
業に竿師として腕を発揮できる場が多いせいだと思います。

サイドビジネスで佐王子が集める女は基本的には素人で、OL、専業主婦など別の仕事を持った女で、
プロの売春婦は扱いません。佐王子にスカウトされた女性はいずれも、最初、彼の体に溺れ、セックス
の虜にされます。女が抜き差しできなくなったところで、売春話を持ちかけるのです。この手順を佐王
子は崩したことがありません。

どうしても売春行為を受け入れない女性は勿論います。そんな時、彼は深追いせず、女を解放します。
嫌がる女を薬や、暴力で言いなりにする方法を勿論彼は知っていますし、過去にその手段を使ったこと
もあるのです。しかし、一匹狼になってからは、無理やり女を従わせることは止めています。一人で仕
切るヤミの売春稼業をうまく進めるためには、女一人一人が佐王子を信頼することが大切で、そのため
には彼も女の人格を尊重し、無茶なことを強制しないと決めているのです。

一方、安全で金離れの良いお客を集めるのがこの闇の仕事で一番大切で、一番難しいことですが、これ
は長年かけて佐王子が作り上げた人脈のおかげで、他の組織ではまねの出来ないネットワークが出来上
がっているのです。


[4] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(316)  鶴岡次郎 :2015/05/20 (水) 14:38 ID:biR0Ui4U No.2693
佐王子の財産である顧客リストは彼が片時も体から放したことがない赤い手帳に記入されています。そ
の手帳が公になればおそらく100人を超える名士の社会的生命が断たれることになるでしょう。そこ
にはお客の住所、職業など個人的情報は勿論、連絡手段、女性の好み、過去に紹介した女の特性、閨で
の趣味、家族構成などが克明に記入されています。

これだけの情報を握っているのですから、彼がこれと思う女をお客に紹介すると、初めての女でありな
がら顧客達は例外なく大いに満足するのです。勿論、客達はすべて社会的に恵まれた人種に属する男達
ですから、佐王子に握られている自身の秘密を守るため、佐王子のことは勿論、女達のことを絶対口外
しないのです。

彼のやっていることは勿論、違法行為です。それだけに顧客達と佐王子の信頼関係が大切になるのです。
佐王子はお客たちの社会的地位と名誉を守るためなら命を懸ける覚悟と姿勢を見せていますし、一方、
万が一、組織の秘密を漏らすような行為をお客が犯せば、有無を言わせず大きな賠償金を巻き上げ、お
客の社会的名誉も地位もぶっ潰すと告げています。

こんなことがありました。裏売春稼業専用の携帯に知らない男から佐王子に電話がありました。

「友人から紹介を受けたのだが・・・」

佐王子の知っている顧客の名を上げ、出来れば女を紹介してほしいと連絡してきたのです。佐王子は丁
寧に対応して、その友人の名前を初めて聞くこと、勿論、女を紹介するなど何のことかわからないと告
げました。その男は事情を察知したようで急いで電話を切りました。

一時間後、その男を紹介してきた顧客に佐王子は連絡を入れました。その顧客は既に友人から連絡を受
けていたようで、自分が大きな過ちを犯したことを自覚して、佐王子からの連絡を待っていた様子でし
た。

「困りました・・、約束を破りましたね…、
これで、あなたとの取引は停止することにいたします…、
違約金をいつもの口座に振り込んでください・・・。

二日以内にお金の振り込みが確認出来なかったり・・・、
これ以上私たちの秘密があなたのせいで漏れるようなことになれば、
私が黙って居ても、組織が黙って居ません。

あなた自身とあなたのご家族の安全を望まれるなら・・。
私の言う通りにして、その後は全てを忘れてください…」

その後佐王子の口座に違約金が入金されていました。かなりの金額で裕福なその男にとってもかなりの
打撃だったはずです。

一方、女達と佐王子の関係はより複雑で微妙です。佐王子のリストにのっている女性はそんほとんどが
専業主婦で、稀に独身の女もいますが、彼女たちは別の職業を持っています。概して、女性たちは表の
生活では何不自由のない生活を送っています。それが、ある時、夫や恋人に隠れ佐王子に抱かれ、彼の
テクと体に溺れ、そして、彼の説得力ある話に背中を押されて、その仕事が公になれば、それまでの安
定した生活から転がり落ちる危険を知りながら売春稼業に身を落としているのです。

前にも言いましたが、最近の佐王子は決して女達に売春を強要しません。

「他の男に抱かれるスリルと、興奮が忘れられないのなら、変なところで男漁りをするより、俺が紹介
する男と遊ぶといい。間違いが絶対起こらない安全な男を紹介するし、万が一、男が付きまとうような
ら、俺が責任を持ってあなたを守り切ります。もちろん、仕事を辞めたいと思えばその日の内に辞める
ことが出来、そのあとは一切互いに関知しないことになっている・・・」

こんな説明を聞いて、その気になる女達ですから、元々その気が多い女達なのかもしれません、あるい
は、案外、全ての女性の心の奥にこうした欲求が潜んでいるのかもしれません。長年の勘と経験から、
佐王子はそんな女性の心の奥に隠された欲望を上手く探り当て、女を説得しているのかもしれません。


[5] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(317)  鶴岡次郎 :2015/05/28 (木) 15:13 ID:TGd1dkCY No.2694

お客と女達は佐王子を信頼し、佐王子も彼等の秘密を必死で守る。この信頼関係が、佐王子が仕事を進
める基本になっています。一ヶ所でもこの信頼関係が壊れるようなら、佐王子の売春組織は崩壊するの
です。一見脆弱そうに見える組織ですが、十年以上この組織が維持され、お客も女達も代替わりがスム
ーズに行われているところを見ると、案外、理想像に近い組織なのかもしれません。少なくとも、薬や
暴力で秩序を守っている組織よりは安定したと言えます。そのことを佐王子は長年の経験から確信して
いるのだと思います。

佐王子傘下の女の中で少し条件が異なるのが浦上千春です。銀座の有名靴店でシューフイッターをして
いる時、佐王子に見込まれて、瞬く間に彼のテクと体に溺れて、売春稼業に身を落したまでは他の女達
と変わらないのですが、浦上三郎との結婚を機に売春稼業から足を洗い、佐王子との縁もその時完全に
切ったのです。

ところが・・、子供を幼稚園に通わせるようになった頃から、千春は抑えきれない情欲に囚われること
になるのです。最初の内は、おもちゃを使った自慰行為で何とか強い情欲を紛らわせていたのですが、
やがて、その自慰行為だけでは強い欲望を抑えきれなくなっていたのです。

千春の異常な様子に最初に気が付いたのは夫の三郎でした。迷わず三郎はこのことを佐王子に連絡しま
した。結婚する時、佐王子から授けられていた警告を浦上は覚えていたのです。

「・・千春さんは素晴らしい性感に恵まれた女性です。
千に一人、いや・・、万に一人の才能だと思います。
近い将来、ご主人がそのことに気が付くことがあるはずです・・。

その時は、必ず私に連絡を入れてください、
お一人で問題を解決しようとしないでください。
扱いを誤れば、千春さん苦しめることになり、
結果として、大切な家庭を崩壊させることになります・・」

佐王子と浦上は何度か電話連絡をし合い、当面の対応策として、佐王子と千春の仲を以前の関係に戻す
ことにしたのです。

こうして、週に一度か二度、浦上の居ない昼間、千春は佐王子に抱かれることになったのです。この処
置で千春の欲求不満症状は落ち着きました。しかし、佐王子も、三郎もこの処置が一時的なもので、い
ずれもっとたくさんの男をつぎ込む恒久対策が必要になると覚悟はしているのです。

SFマンションの千春の元へ通い始めた佐王子は、漫然と千春に会いに行く男ではありませんでした。
直ぐにそのマンションに住まう女たちの動向に目を向けたのです。旦那達を仕事に送り出した後、多く
の女達は数時間の自由時間を手に入れることが出来るのです。若くて、きれいな女たちの情欲は強いの
ですが、そう簡単に男遊びできる環境が周囲に転がっている訳でありません。

こんな状況ですから、カラオケ店、喫茶店などで偶然出会う男達から声を掛けられると彼女たちはかな
り積極的に男の誘いに乗るのです。その様子を注深く観察していた佐王子は彼女らを使ってビジネスす
る仕組みを思いついたのです。

女達をうまく誘い込み、体で虜にして、売春稼業に誘い込みことにしたのです。春を売る場所は原則と
して彼女たちの住まいにしました。お客は佐王子が選び抜いた顧客で、社会的に地位の高い裕福な男達
です。そんな男達ですから、やはり年齢も高く、50歳過ぎになります。こうして、佐王子の〈SFマ
ンションを根城にした買春ビジネス〉が動き出したのです。


[6] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(318)  鶴岡次郎 :2015/06/01 (月) 15:15 ID:.5v6Syo. No.2695
千春との関係ができてから6ケ月ほどで、佐王子は10名ほどの女をこの稼業に誘い込むことに成功し
ました。探せばいくらでも女性は居るのですが、佐王子はこれ以上、このマンションを舞台にしたビジ
ネスでは女を増やさない方針です。

佐王子の狙い通りSFマンションを舞台にした裏売春稼業はヒットしました。商売女を探せばそれなり
に綺麗で体の良い女は多いのですが、そんな女との遊びに飽きが来ている顧客たちには、マンションの
住人である女たちが新鮮に見えました。そして何よりも、顧客達は女の住まいで女を抱くスリルに酔い
しれたのです。お客たちは毎日のように女を求めたのですが、佐王子はそんなお客の要求をやんわりと
制して、週に一度、多くても二度、日に4時間ほどお客の相手をさせることにしています。これも佐王
子の巧みな計略なのです。

一方、自ら進んでこの道に入った女達は割り切ってこの商売を楽しんでいました。レストランの日替わ
りメニュの様にいろんな男を味わうことができる上に、亭主の月給と同じほぼ同じ収入を手に入れるこ
とになるのです。高額の収入を手にすることで女達は忠実に佐王子の指令に従いました。こうして、佐
王子のSFマンション裏売春ビジネスは順調に滑り出したのです。

千春の隣家に住む佐原幸恵は最初から自宅買春婦のターゲットにはなっていませんでした。たまたま千
春を通じて幸恵の話を聞き、佐原に対する幸恵の真摯な気持ちに打たれた佐王子が彼女のためにひと肌
脱いだのです。その経過は前章「幸恵の失踪」で詳しく語りました。現在、幸恵はソープ勤めを続けな
がら、刺激に満ち溢れた夫婦生活を楽しんでいます。二人の幸せな生活は佐王子のおかげだと二人は佐
王子に感謝しているのです。


この本の初めの頃、「二人の女」の章で紹介した峰岸加奈と門倉悠里の二人も佐王子の毒牙にかかった
女です。既に書いたように峰岸加奈は佐王子の誘惑から逃れることが出来たのですが、門倉裕理はまん
まと佐王子の罠にはまり・・、と言うよりは自ら積極的に自宅買春に身を投入しているのです。

門倉裕理にとって、この仕事は欲求不満の解消手段にもなりますし、何よりも高額の収入が魅了なので
す。そしてその割には、他の仕事に比べて危険が少ないと門倉裕理は判断したのです。もし、これだけ
の収入を得ようとすると、それなりの危険を冒して、ソープ店勤めや、水商売に身を投入する必要があ
るのです。それに比べて自宅買春は佐王子が廻してくれるお客を自宅で受け入れ、4時間ほど相手をす
ればいいのです。お客は上品で、悠里にとって一番大切な秘密保持は佐王子が・・、〈命を賭して守
る・・〉と、約束してくれているです。

このように門倉悠里は自宅買収を楽しんでいるようにさえ見えるのですが、悠里の身を案じる峰岸加奈
は、彼女のことが心配でならないのです。加奈のせいで悠里を売春婦にしてしまったと罪悪感に囚われ
ているのです。悠里を救うべく加奈はいろいろと準備を進めている様子です。いずれ、加奈が佐王子と
対決して、悠里を彼の手から奪い返す時が来そうな気がするのです。その時が来れば、報告したいと思
います。 


今日も佐王子は千春の自宅へ来ています。千春の主人である浦上三郎との約束で週に三度は千春を抱く
ことにしているのです。たくさんの女を傘下に収めている佐王子が週に三度も同じ女を抱くのは異例中
の異例です。それだけ佐王子は千春の身を案じているのでしょう、また千春を心から愛しているともい
えます。一方、浦上三郎も週三度以上は千春の相手をする覚悟を決めて、今までのところ何とか頑張って
います。十分すぎる男性力を持った二人の男に抱かれて千春は穏やかの日々を過ごしているように・・、
少なくとも外見上は、そう見えます。


[7] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(319)  鶴岡次郎 :2015/06/04 (木) 17:32 ID:8qwh3Duo No.2696

シャワーを浴び、服装を整えて男が居間に戻ってきました。居間の絨毯の上にバスタオルを何枚も敷
いて、女がその上に全裸の身体を長々と横たえています、どうやら、体内に直接精液を受け入れたよ
うで、軽く開いた亀裂から白い液がにじみ出ているのが見えます。

「じゃ・・、俺はこれで帰るから・・」

佐王子が寝ている千春に声をかけました。

「う・・ん・・、
もう・・、帰るの・・・」

「ああ・・」

「主人は出張で・・・、
今夜は仙台に泊まることになっている・・」

「ああ・・、先ほども聞いたけれど・・、
今夜は泊れないんだ…」

男はそう言って、背中を女に見せて一歩玄関ドアーに向かって踏み出しました。

「待って・・・、
チョッと、待ってよ・・」

慌てた様子で男の背に女が声を掛けています。上半身を床から起こして、男に声を掛けているのです。

「少し・・、
相談したいことがあるの・・」

気だるい様子で、顔にかかった髪の毛を右手で払い上げながら、低い声で言いました。佐王子が振向き、
女の表情を見て、何事か感じ取った様子で、何も言わないで、女の側に腰を下しました。彼女の相談事
をゆっくり聞くつもりになったのです。

「アッ・・そこはダメだよ・・、
濡れているでしょう・・」

絨毯の上に敷いたバスタオルの上に佐王子は座ったのですが、先ほどの情事で千春が大量に噴出した愛
液でバスタオルはべっとり濡れていたのです。白い綿のスラックスに見る見る内に染みが広がっていま
す。

「アラ、アラ・・、大変・・
染みが広がっている・・・、
それでは外は歩けないよ、フフ・・・」

千春が面白そうに笑っています。佐王子は苦笑いをしながら、立ち上がりソファーに新しいバスタオル
を置き、その上に腰を下しています。染みをタオルに吸い取らせるつもりのようです。

「・・・で、
相談したいことって、何だ・・」

スラックスの汚れはさほど気にしていない様子で、佐王子が千春を促しています。先ほど声をかけて来
た時、振り向いた佐王子に垣間見せた千春の必死の表情が男は気になっているのです。

「・・・・・・・」

せっかく声をかけていながら、男が聞く体制を整えているのに、佐王子の視線を避けるように千春は下
を向いています。相談したい内容を口にするのをちゅうちょしているのです。


[8] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(320)  鶴岡次郎 :2015/06/08 (月) 12:29 ID:zbzx47NI No.2697

全裸で床に敷いたバスタオルの上に足を投げ出すようにして座っているのです。彼女の視線はもろだし
になった自身の股間の茂みを捉えているはずですが、そのことを恥らっている様子は見せません。ただ、
じっと固まった様子を見せているのです。

千春の異常な様子に男は気が付きました。情事直後のゆるんだ裸体を曝しているのに、そのことへの恥
じらいさえ忘れたようにして、何事か考えに耽っている女の姿を佐王子はじっと見つめていました。数
えきれないほど体を交え、思いつく限りの痴態を曝し合った仲ですが、正気に戻れば佐王子の前で女の
羞恥心を決して忘れない千春です。こんな気の抜けた姿を見せたことはないのです。今、全ての羞恥心
を忘れるほどの悩みが千春の心に巣くっているのだと佐王子は察知したのです。

その気になってみると、女の表情にかなりのやつれが見えるのです、どこか体に異常があるようにさえ
見えるのです、しかし、佐王子は先ほど終わった情事を思いだしていました。佐王子が舌を巻くほど千
春は貪欲に迫って来ていたのです。体に異常がある女の攻め方ではなかったのです。そして、佐王子は
あることに突然気がついたのです。女を扱いなれた佐王子だからこそ、そのことに気がついたのです。

「千春・・・、
もしかして・・・、
夜も良く眠れないほどなのか・・・」

「・・・・・・」

千春が頭を上げ、佐王子を見つめています。その瞳に見る見るうちに涙があふれています。

「そうか・・、
やはり・・・」

佐王子は絶句して千春を見つめています。千春も佐王子をじっと見返しています。

「その現象が出るのがむしろ遅すぎた気がする・・。
死ぬほど辛いだろうな・・、
俺には経験はないが・・・、判るんだ…、
千春と同じ様に苦しんでいる女をたくさん見てきたから・・」

佐王子がしんみりといい、千春が下を向いたまま、コックリとうなづいています。

「恥ずかしいけれど、正直に言います・・。
ここまで・・、主人と保さんに交互に、毎日の様に抱かれて、
一応・・、身体の疼きは収まっていたのですが・・・、

ここ二週間ほど前から・・、
突然・・・、
酷くなって・・、いつでも欲情するようになっているのです。
身体が・・、あそこが・・・、疼いて我慢できないの・・・・、
恥ずかしくて・・、主人にも言い出せない・・・」

一気に思いを吐き出した千春の瞳から涙があふれ出ています。

「今日だって・・、
あれほど十分に保さんに抱いていただいたのに・・・、
こうしていても・・・、
身体が疼いて、うずうずして・・、たまらないのです・・・、
自分のカラダでない感じで恐い・・・」

涙をあふれさせて千春が切々と訴えました。佐王子は黙って聞いていました。

「保さん・・、
正直に言います・・・」

ここで言葉を止めて、千春はじっと佐王子を見つめました。幸恵が何を言い出すのか佐王子にはある程
度まで想像できました。

「一週間ほど保さんが来てくれなかったでしょう・・・、
私・・、やってしまいました・・・」

「やはり・・、そうか・・・、
数日前から、何となく・・、千春に異変を感じ取っていた・・・。
今考えると、それは他の男の匂いだったかもしれない…、

俺の知らないところで、他の男に抱かれたのだな・・・」

「・・・・・・・・」

多少がっかりした様子を見せながらも、さすがに佐王子です、表情は変えないで、穏やかな口調で聞い
ています。千春がこっくり頷いています。


[9] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(321)  鶴岡次郎 :2015/06/11 (木) 16:54 ID:UJ4zW1Bo No.2698

「それで・・、
どこで・・、誰とやったの・・」

「一か月ほど前・・・、
あまりに辛くて、体の疼きのこと
幸恵さんに全てを話しました・・・。

『そんなに辛いのなら・・、
私のお店に来たら・・・、
千春さんなら、その日から稼げるよ・・・』と・・、
言ってくれた・・・・」

「そうか・・、
その手があったのか…、
幸恵さんが世話をしたのか・・・」

「幸恵さんを叱らないで・・、
彼女は何も悪いことしていない・・・。
それに・・・、最初から、体を売るつもりではなかった・・・・」

いつかは佐王子と夫、三郎に言わなければいけないと思っていたことなのです、一か月前のことを思い
出しながら千春がぽつりぽつりと語り始めました。佐王子は仕事の予定を変更すると決めて、どっかり
と腰を下ろして話を聞く体制になっています。


思い切って体の悩みをすべて幸恵に話した後、彼女に誘われるままY市のアパートへ一緒に行くことに
したのです。幸恵はかなり真面目に佐王子の店で働くよう勧めましたが、千春はその時まだその決心が
ついていませんでした。それでも、幸恵と一緒にそのアパートに行って、彼女がソープで働く雰囲気を
すこしでも味わうことができれば、気も晴れると思ったのです。少なくとも、疼く体を抱えて家に閉じ
こもっているのは一番悪いと千春は考えたのです。

10時過ぎにマンションを連れ立って出て、10半過ぎには幸恵のアパートに付きました。二人はごく
普通のブラウスとスカートの外出着で、どこから見ても一般家庭の主婦に見えます。幸恵のアパートは
6畳の畳敷き居間と4畳半のフローリングの部屋です。女の一人暮らしを思わせる室内で、きれいに整
理されていました。勿論千春は初めてこの部屋を訪ねたのです。

「勤めは明日の予定だから、ゆっくりして行って・・
三時までは良いのよね…
ねえ・・、一緒に買い物に行こう・・・」

幼稚園が終わる三時ごろまで千春が暇なことを知っている幸恵はそう言って着替えを始めました。胸元
が大きく開いた花柄のワンピースで裾はひざ上と言うより股間に近い感じなのです。薄い生地で白い下
着がはっきり見えます。下着は上下ともに布の部分が少ない思いきったものです。メイクもかなり派手
で、幸恵の知り合いが見ても彼女だと簡単には見分けがつかないと思います。

「どう・・・、どこから見ても、
風俗で稼ぐお姐さんでしょう・・・」

確かに幸恵の言う通り、その筋で働く女の雰囲気が出ています。

「こうするとね・・、生まれ変わった気になれるの・・・、
あのマンションに住む主婦ではなく、
ソープで働く一人暮らしの寂しい40女に変身できるの・・・
この姿だと、気の向くまま、どんな事でも、ためらいなくできるのよ・・・」

あっけにとられて返事ができない千春を見て、好色そうな笑いを浮かべながら幸恵が話しています。


[10] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(322)  鶴岡次郎 :2015/06/12 (金) 14:31 ID:XjBERufs No.2699
「そうだ・・・、
千春さんも変身しなよ・・・、
一万円もあれば上から下まで整えることができるはずよ、
いつも行っているいい店が近くにあるの・・・」

幸恵の提案に乗ることになりました。歩いて10分ほどのところにその店はありました。そこで千春は
タイトな白いパンツと、大胆なカットのTシャツを選びました。下着も線の目立たない際どいものを選
びました。それに派手なハイヒールのサンダルを合わせました。

「いいわ・・・、
体の線がきれいに出て・・、とってもセクシー・・・
メイクも合わせると良いよ・・・」

フィッティング・ルームから出てきた千春を見て、幸恵が手をたたいています。豊かな胸が淡い色のT
シャツを持ち上げ、乳房のほぼ全景が見える状態です。肌に張り付いた白いパンツにはクッキリと下着
の線が浮き出て、その下着が布の少ない大胆なものであるのが簡単に判るのです。

洗面所で幸恵が手伝ってメイクをほどこし、千春はどこから見ても風俗店のお姐さんに変身しました。

二人は楽しそうに話し合いながら近くの商店街へ向かいました。歩き方まで大胆です。昼間ですから比
較的人通りは少ないのですが、それでも行き交う男性は必ず二人に目を止めて、中には立ち止まり無遠
慮にじっと見つめる男もいるのです。おそらく夜の商売をする女達だと判断して、遠慮なく見ているの
だと思います。八百屋でも、魚屋でも二人を迎えた店主たちは大喜びで大いにサービスをしました。

「どう・・、千春さん・・・、変身した気分は・・・」

「う・・ん・・、
皆から見られている感じで、悪い気はしないけれど、
少し恥ずかしい・・」

恥ずかしそうな表情を浮かべ千春が微笑んでいます。

「幸恵さん・・・、
ちょっと心配なことがある・・・・、
染みが・・、パンツに染みが出ていない・・?」

ほほを染めて千春が囁くように幸恵に聞いています。

「シミ・・、ああ・・・、そういうこと・・、
どれどれ・・・、見てあげる・・・」

直ぐに幸恵が千春の心配事に気が付いています。人通りが絶えたのを確認して、幸恵が千春の股間を後
ろから覗きこんでいます。少し両脚を開いて、お尻を突き出すようにしてその部分を見えやすくしてい
ます。

「少し滲み出ている・・、
そんなに目立たないけれど・・、
これ以上広がると、ちょっとやばいかも・・・
パットを持っている・・・・・?」

幸恵が声を潜めて千春に告げています。やっぱりと・・、少し落胆した表情を浮かべ、千春が首を振って
います。この時に限って、いつもは持ち歩いているライニングパットを切らしているのです。

露出度の高い服装で街を歩いて、男達の視線を浴びたことで、そうでなくても感度の良い千春はすっか
り欲情しているのです。白いパンツに染みが広がることを気にしなければならない状態になっているの
です。


[11] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(323)  鶴岡次郎 :2015/06/15 (月) 11:33 ID:Etsws6B. No.2700

「想像以上の感度ね…、
ある意味うらやましいけれど、
辛いことは辛いよね・・・」

「うん・・、
男の人の視線をお尻に感じて、ジンジン来ていた・・・、
そしたら・・、魚屋さんにすこし触られてしまった・・
彼の頬をたたくべきだったけど・・・、
つい・・、感じて・・、うれしそうな表情をしてしまった・・・」

「そうだったの・・・、スケベーな魚屋だね…、
アパートまで歩ける・・?
そう・・、何とか頑張ってね・・・」

10分ほどの道のりを二人はゆっくりと歩きました。その気にならなければ気づかないのですが、千春
は両脚を締め付けるようにして歩いています。それでいて、上気したうっとりした表情を隠しきれない
のです。


アパートに着き、身体をぬぐい、冷たい水を飲み、千春はようやく落ち着きを取り戻しました。幸恵は
昼食の支度にとりかかっています。千春はのんびりと雑誌を読んでいます。時間がゆっくりと流れてい
ます。

「ピンポーン・・・」

誰かが訪ねて来た様子です。幸恵がモニターをチェックしています。小さなアパートには不似合いなテ
レビ・インターホーンがこの部屋には設置されているのです。一般木造アパートと変わりない外観です
が、住人は佐王子の店に勤める女達ばかりですから、佐王子が防犯のためこのアパートには不似合いな
ほど高級なモニターシステムが全室に設置されているんです。

「あら・・、やだ・・・、
杉ちゃん・・・・」

びっくりして、それでも嬉しそうな悲鳴を幸恵が上げています。モニターには三十半ばの素朴な感じの
男性が映し出されています。

「仕事明けでね…
明日は幸恵さんの出勤日だと覚えていたから・・、
今日はここに居るだろうと思って・・」

「あら・・、そう・・・、
訪ねて来てくれたのはうれしいけれど・・、
今は・・、ちょっと都合が悪いな・・・・」

「ダメ・・?
北海道往復でくたくたなんだが・・・、
その分溜まっていて・・・、
抜かないと眠ることも出来ないんだ…、
とても明日まで待てないよ・・・」

カメラの向こうで泣きそうな表情をみせて杉下が懇請しています。彼は独身で遠距離トラックの運転手
をしています。幸恵が店に出た時からのファンで、年上の幸恵に甘えることを楽しみにして店に通って
いるのです。そんな杉下を幸恵も可愛がっていて、最近は自宅アパートへも出入りを許している仲なの
です。

「幸恵さん・・、
私なら・・、かまわないで、直ぐにお邪魔するから・・」

事情を察知した千春が幸恵の側に来て、彼女の耳にささやいています。幸恵が片手を上げて千春を拝ん
でいます。


[12] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(324)  鶴岡次郎 :2015/06/17 (水) 14:20 ID:8U/FOdR6 No.2702
「杉ちゃん・・、判った・・・、
ほんの少しの時間だけれど、いい・・・
会うだけだよ・・・・」

「ああ・・、顔を見るだけでいいから・・・」

「そう・・、本当に、少しだけだよ・・・、
さあ・・、入って・・・」

千春が居間に戻り、玄関から彼女が見えなくなったのを確かめて、幸恵がドアーを開けました。杉下が
勢い込んで入ってきました。

「アウ・・・・ゥ・・」

幸恵を抱きしめ、激しく口を吸いだしたのです。挨拶をして、サービスに軽いキッスでも与えて、千春
の居ることを告げ、彼を追い払うつもりだった幸恵にその隙さえ与えない杉下の素早い動きです。

ここまで来ると千春なら恥ずかしい姿を見られても構わないと覚悟を決めたようで、積極的に、激しく
男の口を吸っています。千春の存在を気にしないどころか、むしろ、この際千春に見せつける気持ちが
幸恵の女ごころのどこかで働いのかもしれません。口を吸いあう隠微な音が千春の居る居間まで響いて
います。千春がそっと顔をのぞかせて二人を見ています。薄暗い玄関で二人は我を忘れて抱き合ってい
ます。かなり大胆に身を乗り出して二人を見つめている千春に男は全く気付く様子がありません。

男の手が胸から滑り込み、豊かな女の乳房を直に握りしめています。女が抵抗しないでなすがままに受
け入れているのを知ると、杉下の中で欲望が爆発しました。片手を乱暴に女のスカートに下にもぐりま
せ、幸恵の股間に指を伸ばし、ちゅうちょなく指をもぐりこませています。形ばかりのショーツは既に
片隅に押しやられています。口を吸われ、乳房と股間をいじられている女はくぐもった悲鳴を上げ続け
ています。

女が堪らず片足を上げ男の体に足を絡めています。この行為で男は女の気持ちを察した様子です。巧み
に片手でベルトをはずし、ズボンを脱ぎ取りました。ショーツ一枚になった男は男根を引っ張り出して
います。その先端を女の局部に押し付け、その部分をやさしくこすり始めました。二人の慣れた姿を見
ていると、いつもこうして前戯を繰り返しているのがうかがえます。

千春は二人の前に出るタイミングを計っているのですが、一向に二人は止めようとしません。このまま
では最後まで見せつけられることになりそうなのです。そうでなくても敏感な体がまた燃え始めている
のです。股間はもうそれと分かるほどはっきりと濡れ始め、滴る感じなのです。千春は止めに入るタイ
ミングを完全に失ったようです。このまま二人の行為を最後まで見届けるつもりになっていました。

「まっ・・、待って・・・、待って・・・、
ちょっと待って・・、聞いて・・・、
お客様が・・、奥に・・、居るの・・・」

男からようやく口を外した幸恵が男の手を制して、ようやく声を上げています。このまま進めるのはや
はり問題だと幸恵は正気を取り戻したのです。
居間に視線を転じた男が千春の存在に気が付きました。慌てて幸恵に絡めた手を離しています。

それにしても、幸恵は凄い姿をしています。ワンピースの肩が外され、裾は腰まで巻き上げられ、ワン
ピースはひも状になり 腰のあたりに引っかかっているだけです。両乳房がもろ出しで、紐パンは床に
落とされ、黒々とした局部が顔を出しています。そして、男の右指は局部に挿入されたままです。その
股間に向けて男根が今まさに挿入される寸前なのです。


[13] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(325)  鶴岡次郎 :2015/06/22 (月) 14:10 ID:09tAALD6 No.2703
笑みを浮かべた余裕の表情で男の顔を見ながら幸恵が千春を紹介しました。

「あちらに・・・、お友達の千春さん・・・」

「・・・・・・・・・」

笑みを浮かべた千春が頭を下げています。一人事情を知らなかった杉下が、あわてて何度も頭を下げて
います。幸恵は笑いを堪えています。こちらも笑いを堪えて千春が声を出しました。

「お邪魔するつもりはありません・・・、
直ぐに出て行きますから・・・」

「いえ、いえ・・、俺こそ・・・、
突然、お邪魔したようで・・・、
ゆっくりして行ってください・・・、
俺が出て行きます・・・」

「何、言ってんのよ・・・、
あなたが我慢できても・・、
そこが・・、我慢出来ないでしょう・・・」

幸恵が笑いながら杉下の股間を指さしています。

杉下はズボンを脱ぎ、ショーツにTシャツ一枚の姿です。確かにこのままでは、とても治まり切れない
ほど勃起しているのです。幸恵に指さされて、慌てふためいて杉下がそれをしまい込もうとしています。
なかなかショーツの中に収まりきらないのです。あわてふためいて股間のモノを収納しようとしている
男を二人の女が笑いながら見ています。ようやく無理やり押し込むことができました。それでも、もっこ
り盛り上がった姿は隠しようがありません。千春と幸恵が声を出して笑っています。

「では・・、
私は・・、これで・・・」

千春が立ち上がり玄関で抱き合っている二人に近づきました。千春の足もとが不安定です。まっすぐに
歩こうとしているのですが、微妙に左右に揺れているのです。

「ああ・・、この格好では・・・、
着替えないといけないわね…、でも後にする・・・、
すこし街をぶらぶらしてきます・・・
戻る時、連絡を入れますから・・・・・」

幸恵に声を掛けています。先ほど着替えた派手な姿であることに気付き、もう一度この部屋に戻る必要
があると千春は思い直したのです。
狭い玄関です、杉下のそばを通り過ぎる時、嫌でも千春は男に体に触れるようにしなければその場を抜
けられないのです。

下着一枚になり、局部を女の股間にこすりつけ、挿入直前まで進んだ強い男の精気が千春の敏感な嗅覚
を刺激していました。めまいを起こすような衝撃が千春を襲い、次の瞬間、一歩、二歩千春がよろめい
ています。

「千春さん・・・、大丈夫・・・」

幸恵が手を伸ばし千春の体を支えています。幸恵の手が偶然千春の股間に触れています。

「あなた・・・、こんなに・・・・・、
ダメよ・・・、このままで外へ出ては・・・危ない・・・・」

その部分に触れた時、ぐっしょりと濡れているのに気付いたのです。改めて千春を見ると、薄地のパン
ツの股間に明らかな愛液の染みが大きく広がっているのです。これでは、誰でもその染みに気が付きま
す。そして、女の様子を見れば女がどのような気分でいるのか、何を求めてさまよっているのか、直ぐ
に察知するはずです。

千春はそのことさえもう・・、気が付かない状態なのです。このまま千春を一人で外へ出せば、直ぐに
男たちの目に留まります。そして今の千春は、どんな男から声を掛けられても、簡単に付いて行くこと
になるのです。


[14] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(326)  鶴岡次郎 :2015/06/23 (火) 12:18 ID:Rk8FRASA No.2704
ちょっと考え、幸恵は直ぐに決断しました。

「千春さん・・・、ちょっと待って・・・、
突然で悪いけれど、杉下さんのお相手をしていただけないかしら…、
私・・・、ちょっと体調を崩していて・・」

立ち止まった千春がびっくりして、幸恵を見て、そして杉下を見ています。杉下はもちろん意外な展開
に付いて行けない様子で、ポカーンと口を開けて二人の女を見ているのです。

「ネエ…、
助けると思ってお願い・・・・」

「・・・・・・」

ここへ来てようやく幸恵の目論見が理解出来た様子で、千春は黙って頷いています。

「そう・・・、いいのね・・・、じゃ・、決まりね・・・。
杉さん・・、千春はね、今、休んでいるけど、
以前、東京の一流店で働いていた売れっ子よ・・・、
本来なら・・、相当高いのだけれど、休業中だからいつもの通りでいいわ・・・」

「・・・・・・・・・・」

幸恵と同じ金額で千春を抱いても良いと提案しているのです、勿論杉下に嫌はありません、好色そうな
笑みを浮かべて、黙って頷いています。そして、興奮を抑えきれない様子で、呼吸を荒立て、千春の全
身を下から舐めるように見ています。男の熱い視線を感じ取って、千春の情欲に火が点いています。自
然と体が動き、とろけるような視線を男に向けているのです。おそらく全身から芳香が立ち上がり男の
嗅覚を刺激しているものと思えます。


幸恵がすばやく動き始めました。千春の気持ちが変わらない内にことを進行させるつもりのようです。
押入れを開き布団を敷き始めました。

幸恵の紹介で千春が以前は商売女であったことは理解しているのですが、どこか初々しくて、近寄りが
たいほどの美人ですから、さすがにすぐに手を出す気になれないようで、チラチラと千春に視線を走ら
せながら、手持ちぶさたな様子で布団が敷き終わるのを待っています。千春は神妙な表情を浮かべ幸恵
の仕事を見つめています。

「さあ・・、準備ができた・・・、
終わったらシーツを外して洗面所へ出しておいて・・、
クリニーングに出すから・・」

布団を敷き終わった幸恵が二人に声を掛けました。二人はゆっくりと居間に入りました。近くに来た二
人に幸恵が質問しています。

「ところで、取引は終わったの・・・
まだ・・?
それはダメよ・・、
ここではお金のことは真っ先にはっきりさせる方針だから・・・」

幸恵に言われて我に返った様子で杉下が手にしたズボンのポケットから折りたたんだ数枚の紙幣を取り
出し、その場に腰を下ろしました。そして、未だその場に立っている千春に向かって言いました。

「これが今持っている全部だ…、
本来ならもっと出さなければいけないことは判っているが・・・、
これが今、俺のできる限界だ・・・」

5枚の万札を千春の前に並べています。北海道往復の三日分の稼ぎを握りしめて、まっすぐにここへ
やってきたのです。その有り金全部を千春の前に差し出しているのです。幸恵相手であれば多くても二
枚で足りるはずです。

「・・・・・・」

うっとりした表情を浮かべ、黙って千春はその場にへなへなと腰を下ろしました。そして、杉下をじっと
見詰めています。


[15] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(327)  鶴岡次郎 :2015/06/26 (金) 11:50 ID:t3iJt8h. No.2705

抱かれる覚悟を固めて男の前に居ても、体の代償に金を差し出されると普通の主婦であれば当然のこと
ですが当惑します。気の強い女であればその場で金を突き返し、席を立つのが普通です。しかし千春は
過去に売春の経験があります。金を差し出されることにはそれほど抵抗を感じていないのです。その上、
幸恵の口で休業中の元ソープ嬢と紹介されているのです、この場は娼婦になり切って、お金は受け取る
べきだと、千春の覚悟はすでに出来上がっている様子です。

「これでは・・、足りないのか…」

黙って男の顔を見ている千春の態度を見て、不安になったのでしょう、男が聞いています。Tシャツを
素肌に着けて、ショーツ一枚なのです。その部分が盛り上がり、男が極限まで興奮しているのが千春に
は気になります。狭い部屋ですから千春は男の手が届く距離に座っています。男から野性的な香りが立
ち上がり千春の鼻孔を遠慮なく刺激しているのです。

「千春さん・・・、大丈夫・・・・
それで足りなかったら、そう言ってもいいよ・・・、
嫌なら・・・、何も安売りすることはないから・・・・・」

黙りこくって、男を見つめている千春を見て幸恵が心配そうに口を開いています。親切心から強引に杉
下に抱かせることにしたのですが、それが早とちりで、千春は当惑しているのではと、幸恵は幸恵で心
配しているのです。幸恵の言葉で我に返ったのでしょう、笑みを浮かべた千春があわてて首を振ってい
ます。 

「いえ、いえ・・、不満など・・、
それでは・・・、ありがたく、いただいておきます・・・・・
ふつつか者ですが、よろしくおねがい申します・・・」

頭を下げて二枚の万札を拾い上げ、ハンドバックにしまい込みました。半分以上の金を残した千春を見
て、杉下が少し驚いています。今までたくさんの商売女と接してきて、金が足りないと言われたことは
数限りなくあるのですが、杉下が差し出したお金を半分しか受け取らなかった女は記憶にないです。

「本当にそれだけでいいのか…、
有り金全部と言った俺に気を使っているのなら、その心配は無用だよ・・、
これでも、仲間内じゃ稼ぎ頭だからね…」

「私・・、今は休業中ですから・・・、
だから・・、これで十分・・」

以前の商売では目の前に並べられた4倍近い金額を手にしていた千春です。ただ、ここ数年その商売か
ら離れている千春には現在の相場は判らないのです。しかし、杉下が有り金をすべて差し出した男気に
感動していたのです。男が有り金をすべて投げ出し自分を評価してくれたことが、たとえそれが売春の
代価であっても女にはうれしいのです。勿論、全額を受け取ることはしません。とりあえず、二枚の万
札を受け取ることにしたのです。幸恵は黙って二人のやり取りを見ていました。

「話はまとまったようね…、
二時間ほど、私は外へ出るから、部屋を自由に使ってちょうだい・・」

「幸恵さん・・・、ありがとう・・・、
お言葉に甘えて、お部屋を使わせていただきます・・・・」

そして、男の方を向いて千春が恥じらいながら話しかけました。

「あの・・・、
シャワーを使わせていただいてよろしいでしょうか・・」

「俺に気を使っているのなら・・、
シャワーを使わなくてもいいよ・・・
むしろ・・、そのままの方が良いよ・・」

「杉さんはね・・・、
汚れているのが好きなのよ・・
あなたさえかまわないなら・・、
そのままでお相手したら、どう・・」

「でも・・・、それではあんまり・・」

「心配無用・・、
杉チャンはね…、とっても舐め上手なの、
汚れたところも丁寧に舐めてくれるのよ・・・・、
それだけで、何度も逝かされちゃうのよ・・」

ソープ嬢になり切ってかなりきわどいことを言っています。


[16] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(328)  鶴岡次郎 :2015/06/27 (土) 15:20 ID:P5Dz0uuQ No.2706

マンションに居る時の普段の幸恵からは想像もできない言葉なのです。驚きながらも、このアパートに
来れば完全に変身するのだと言った幸恵の言葉を千春は改めて思い出していました。そして、幸恵の並
々でない好意を千春は噛みしめているのです。

男を求めて悶えて苦しんでいる千春を見かねて、幸恵を訪ねてきた男、杉下に千春を抱かせることを決
め、今はまた、その場の雰囲気を盛り上げるためソープ嬢になり切ってみだらな言葉を乱発しているの
です。幸恵の意図を千春は十分理解していました。そして、昔の商売仲間だと紹介された千春もそれに
見習った対応をしなければ幸恵の好意を無駄にすることになると覚悟を固めているのです。それでも、
久しぶりに知らない男に抱かれると思うとどうしても固くなり、自然に振る舞えないのです。

無理ないことだと思います。今から売春をするのだと頭で理解していても、体が男を求めていても、家
庭に数年閉じこもっていた専業主婦が突然見ず知らずの男を相手にするのですから、緊張して、ガード
を上げるのは当然です。そんな千春の気持ちを和らげるため、あえて幸恵は下品な言葉を多用している
のです。

「幸恵さんたら・・・、
そんな、はしたないことを・・、
杉下さんがびっくりしているでしょう・・・・
私はそんなこと好みません・・・・・」

「あら・・知らなかった、
千春さんは舐められるのが苦手だっけ・・・
私は好きよ・・・、どちらかと言うと…
入れられるよりそちらの方が好き・・・・」

「ああ…、嫌・・・、
そんなこと言わないで・・・、
これでも以前はお嬢様キャラで売っていたのですから・・・」

「ハイ・・、ハイ・・判りました・・・
お嬢様・・・・」

女同士の遠慮のない、軽妙な会話でその場の雰囲気が柔らかに、そして淫らになっています。

「杉下様…、では・・・、お言葉に甘えて・・・、
このままで・・・、汚れたままで・・・、
お相手させていただきます・・・」

「ああ・・・、そうしてくれるとありがたい・・」

「でも・・、驚かないでください・・、
本当に・・、酷く汚れていますから・・・」

「そうなのよ・・、
この子は人一倍感度が良くて、凄く濡れやすいのよ・・・
見てやって・・・、パンツに大きな染みが出来ているでしょう…」

「アッ・・、嫌・・・、幸恵さん・・・、
そんなことまで言って・・、恥ずかしい…
私・・・、濡れてなんかいません・・・・!」

虚を突かれたのです、まさかパンツの染みを幸恵がバラすとは思ってもいなかったのです。慌てふため
いて、股を閉じて、千春はその場にうずくまっています。緊張で股間の染みをすっかり忘れていた千春
です。

「何、言ってんのよ・・・、しっかり見たわよ・・・
やりたくて・・、突いてほしくて・・、
うずうずしているのでしょう・・」

「ああ・・、そんな・・・、
幸恵さん・・、酷い・・」

幸恵に必死で抗議をしているのですが、目がキラキラ輝き、肌がピンク色に染まり、千春は確実に欲情
しています。もう少しで幸恵の狙い通り、千春は堕ちるはずです。


[17] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(329)  鶴岡次郎 :2015/06/30 (火) 16:16 ID:/qZtzg5g No.2707

「杉チャン・・、この娘(こ)・・、その気になって・・・、
お汁をいっぱい出しているのよ・・・、
ほら・・、パンツの上までいやらしい染みが出ている・・・、見てやって・・・」

「ああ・・・、幸恵さん・・・、
ダメ・・、そんなこと言っては…」

幸恵の言葉攻めに千春は完全に翻弄されています。恥ずかしくて、全身を折り曲げ、男の視線から本気
で逃れようとしているのです。興奮で息を荒立てながら男は女二人のやり取りをじっと見ています。

ここまでくれば杉下が動き出すはずと幸恵は計算していたのですが、予想に反して杉下は一向に動こう
としません、股間をこれ以上は無理と思えるほど緊張させて女二人の戯れを見ているのです。

「ああ・・、世話が焼けるな・・・、
これでは今日中に終わらない・・・・
二人とも子供じゃないんだから・・・」

痺れを切らした幸恵が動き始めました。千春の側に来た幸恵が、うずくまって体を丸く折り曲げている
千春を畳の上に押し倒しました。声を上げて千春が両脚を宙に泳がせています。すかさずその足首を幸
恵が両手で握り、いっぱいに脚を広げています。

「ああ…あ・・・ん、ダメ・・・・」

畳に背を着けて両脚を幸恵の手でいっぱいに開かれている情けない格好で千春は悲鳴を上げています。
それでも、ここまで来ると観念したのでしょう、嫌がっていますが、激しい抵抗ではありません。自分
の意志でしっかり両脚を開いているのです。男の視線が遠慮なく千春の股間に向けられています。

「杉チャン・・・、凄いでしょう・・・、
朝からこの調子なのよ・・、
ずっと濡らしているのよ・・・」

「違う・・、違う…、
お二人のキッスを見て、少し興奮しただけよ…」

「少し・・、興奮した・・・・?
こんなのは少しとは言わない・・、
もう・・、びしょ濡れだよ…、
スケベーな匂いでいっぱい・・・・」

「ああ…、嫌・・・」

股間に顔を寄せています。千春が本気で逃げようとしています。

「どう・・・、
こうすると感じるでしょう・・・・・」

「ああ・・・、ダメ・・・・・ェ・」

右手を伸ばし拳骨を作って乱暴に千春の股間を突いています。体をのけぞらし、本気の悲鳴を千春が上
げています。おそらく新たな愛液が噴出しているはずです。

「杉チャン・・、後は任せたよ・・」

千春の様子を見届けて、これで自分の役目は終わったと思ったのでしょう、千春の股間に入れていた体
を抜きながら、幸恵は杉下に言葉をかけているのです。今にも飛びかかりそうな表情を浮かべて二人の
女の戯れを見ていた男がこっくりと頷き、幸恵と交代して千春の両足首を握りました。

「ああ・・・、ダメ…」

男の感触を感じ取り千春が悲鳴を上げています。その声には媚びるようなニュアンスが多分に含まれて
いるのです。この瞬間、他人同士の男と女の垣根が崩れ、男を迎える準備が女に整ってきたようです。


[18] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(330)  鶴岡次郎 :2015/07/01 (水) 15:20 ID:.5v6Syo. No.2708

すかさず、男が女の股間に顔をうずめています。女は自身の意志で両脚を開き、男の頭に両手を付けて、
悲鳴を上げながら首を後ろにのけぞらせています。男はうめき声を発しながら、股間に頭を押し付け、
その部分に歯を当てているのです。

「杉チャン・・・、どうしたの・・・
裸にしないの・・・
遠慮なくやりなさい…
その娘(こ)も・・、それを望んでいるのよ・・・・」

彼にとっては出会うことの少ない女、神々しいほど、若くてきれいな女を前にして、少し攻めの手を緩
めてパンツをはぎ取るのためらっているのです。いつもは乱暴なほど手荒に女を裸に剥くのが好きなの
です。

幸恵の挑戦的な言葉に男より先に千春が反応しています。股間を男に預けたまま、Tシャツを脱ぎ棄て
ました。そして、パンツのジッパーを開き男に目で合図を送っています。男の手が一気にパンツをはぎ
取りました。女は体をくねらせて恥ずかしがっていますが、両脚はしっかり開いたままです。

「ああ・・・、杉下さん・・・・、
見ないで・・・、恥ずかしい・・・・・・」

先ほど来の刺激を受けて、興奮して、無意識にショーツのボトムを亀裂に食い込ませていたことを女は
すっかり忘れている様子です。亀裂に食い込んだ布はひも状になり、濡れた毛がはみ出し、陰唇もその
大部分が姿を現しているのです。男の指が伸びて、陰唇に優しく触れています。指の先端を吸い込み、
汁を吐き出しながら微妙に蠢いています。千春はブラを自分の手で外しました。そして、男がショーツ
をやさしく取り去りました。

「うれしい・・・、いっぱい・・、いっぱい・・、
可愛がってください・・・・・」

全裸になって両脚をいっぱい開いて男に局部を曝しています。内股が愛液で光り、新しい汁がぶつぶつ
と湧き上がっているのです。女が陰唇に指を添え、サーモンピンクの内側まで余すことなく見せつけて
います。千春は完全にスイッチが入った様子です。

女の大胆な行動を見つめていた男が勢いよく立ち上がりました。そして、Tシャツを脱ぎ、ショーツを
一気に脱ぎ取りました。ばね仕掛けの人形の様に男根が飛び跳ねるように出てきました。さすがに肉体
労働を稼業としている男の体は見事です。贅肉のかけらも見当たりません。

「ああ・・・、凄い・・・・」

千春の夫、浦上三郎も見事な体をしていますが、杉下の比ではありません。股間の男根はごく普通サイ
ズですが、本人が言う通り「溜まっている」状態らしく、お腹にくっつくほど勃起して、その先端から
粘液があふれ出て、床に糸を引いているのです。
 
男根に視線を当てたまま、うっとりと誘う表情を浮かべ女がさらに大きく両脚を開いて、左手指を使って
陰唇を開いているのです。陰唇がまるで別の生き物のようにぱくぱくと蠢いています。


我慢の限界に来たのでしょう、飛びつく様に男が女の股間に噛みついています、そう・・、まさに噛み
つくと言うのが正しい表現です。
痛みを感じたのか、堪えがたい快感のせいなのか、両手を後ろに着いて、頭を後ろに垂れてのけぞらせ、
両脚をいっぱいに開いて、股間に男の頭を受け入れているのです。

男は呻きながら女の股間にかじりつき、音を立てて愛液を吸っています。そして体を回転して、男根を
女の顔に近づけました。


[19] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(331)  鶴岡次郎 :2015/07/08 (水) 18:24 ID:zbzx47NI No.2709
目の前に来た男根を女が右手で握っています。

「ああ・・・、熱い・・・・」

先端から汁をたらしているそれをちゅうちょなく女が咥えこんでいます。

〈ああ・・・、凄い・・・、
この香り・・・、好き・・・、癖になりそう・・〉

口いっぱいに広がる野性的な香りに千春は脳裏に稲妻が走るような気分になり、一瞬気を失いかけてい
ます。

「それでは、わたし・・、
ちょっと出かけてくるからね…、
二時ごろには戻るから・・・」

幸恵の声が二人に聞こえたのかどうか、ドアーを閉める幸恵の背中を、獣のような唸り声が・・、男の
モノとも、女のモノともわからない悲鳴とうなり声が襲っていました。


「そうか・・・、
そういう経緯(いきさつ)だったのか…、
誰かが仕掛けて、そうなったわけではないのは判った・・・・・・、

好き者同士が幸恵さんのアパートに偶然集合して、
その結果、成るように成ったわけだ…」

千春の告白を聞き、佐王子がさめた表情で呟いています。千春が黙って頷いています。

「それにしても幸恵さんの部屋でお客の相手をしたのはまずかったな・・
素人は歯止めがきかないから・・・、
千春の味を知ると何時までも付きまとうことになる・・・」

佐王子が難しい表情を作って、独り言のようにつぶやいています。佐王子の様子を見て、千春は少し怯
えている様子を見せています。それでも、それから先の言葉を封じるように慌てて口を開いています。
何か隠している様子です。 

「以前から素性の判らない男には気を付けろと言われていたから、
抱かれたお客さんには私の素性は話していない…、
幸恵さんの仕事仲間で、たまたま幸恵さんを訪ねたことにした・・・」

「それにしても、男にとっては、とんでもなくラッキーなことだな・・・、
幸恵を抱くつもりで来たら、とびっきり上玉の千春が居たのだから・・・
・・・で、それからどうしたの・・・・・」

「それからって・・・・・、
だから言ったでしょう・・、
私がその杉下と言う男に抱かれたって・・・」

「ああ・・、そこまでは納得した・・・、
それで終わっていれば、いいのだが・・・、
そのままでは終わらなかったはずだと思うのだが・・・」

杉下に抱かれたと告白すれば無罪放免になると千春は期待していたのです。予想に反して、佐王子の追及
は止まらないのです。それでも千春は強気を崩さず反論しています。

「終わるも終わらないも・・・、
私が杉下に抱かれて・・・、
一時間余り・・、久しぶりだったから・・、ほんとうに良かった・・・
もう・・、良いでしょう・・、この話は・・・・」

「何か隠していないか・・・、
萌え狂った二人・・、いや・・、三人かな・・・、
一回限りの絡みですんなり終わるはずがないと思うが・・・、

例えば・・・
二人が狂っている現場に幸恵さんが戻って来るとか・・・・」

「エッ・・・、どうして判るの・・
見ていたの・・、
いえいえ・・、
そんなことはないわね・・・・」

千春が心底びっくりした表情で佐王子を見ています。うっかり秘密を暴露してしまったことさえ気づか
ないほど驚いているのです。佐王子はすました表情で千春を見ています。

「参りました・・・、
保さんにはかないません・・・、
佐王子さんには読めたのですね…、
我慢出来なくなった幸恵さんがすぐ戻って来るのが読めたのですね・・、
何もかも話します・・、スミマセンでした・・・」

頭を下げて千春が謝っています。佐王子にはかなわない。特に男女のことでは彼には何も隠すことはで
きないと観念しているのです。

「30分ほどで、彼が一度逝って・・、
二人でじゃれあっているところへ、幸恵さんが戻ってきたのです・・」

観念した千春が告白を始めました。


[20] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(332)  鶴岡次郎 :2015/07/13 (月) 15:30 ID:IvZE0jc. No.2710

街に出たものの、杉下に股間をいじられ、口を吸われ、挿入直前にまで行っていたのです。二人が絡み
合う悲鳴を背にして部屋を出てきたのです。股間の疼きは幸恵を苦しめました。明らかな湿りが股間に
感じ取れるのです。店に出ることも考えたのですが、明日出勤と決めているルーチンを壊す気になれな
くて、店に出るのは何とか思いとどまったのです。それでも身体が疼いて、千春に男を譲ってきたこと
が、今になって思い出され、悔しくなるのです。

〈今頃は・・・、二人で狂ったように抱き合っているのだろう・・、
ああ・・、私も欲しい・・、固いチ○ポが欲しい・・・〉

千春と杉下の絡まり合っている姿を妄想しながら、近所の小さな公園内をふらふらと歩いていました。
もしこの姿をよその男に見られたら、直ぐ餌食になっていたでしょう。幸いなことにこの時間、子連れ
の母親達以外の人影は見えないのです。

〈ああ・・・、やりたい・・したい・・・、
誰だって良い・・、ここへ入れてくれるだけで良い…〉

ベンチに座り、脚を絡み合わせて必死で欲望を抑え込んでいるのです。その時、突然あるアイデアが浮
かびあがりました。

「そうだ・・・、
三人でやればいいだ…」

思わず声に出して、今思いついたアイデアを口にしています。主婦からソープ嬢に転身して半年足らず
です、一度もその経験はないのです。それでも、複数の男女が入り乱れて交わる話は仕事仲間から時々
聞かされていて、一度は体験したいと思っていたのです。急いで幸恵はアパートへ戻ることにしました。


扉を開けるとムワーと生臭い、しかし脳裏を痺れさせるような性交臭が幸恵の鼻孔を襲いました。そし
て、千春が男の股間に頭を埋めて男根を咥えている光景が目に飛び込んできました。入口に向けた千春
の股間から白い液体が流れ出しているのも見えました。どうやら一回戦は終わった様子です。

部屋に入り、静かにロックして、歩きながらワンピースを脱ぎ捨て、下着をはぎ取って、無言で二人の
側へ行きました。上を向いて千春の唇に男根を預けていた杉下が幸恵に気が付き、驚いた表情を浮かべ
ています。幸恵は黙って、男のそばに腰を下ろし、屈みこみ男の口にむしゃぶりつきました。

「ああ・・、幸恵さん・・・
帰ってきたのね…」

熱心に男根をしゃぶっていた千春がようやく幸恵の登場に気が付いています。男根を吐き出し笑みを浮
かべて幸恵に声を掛けているのです。幸恵が笑みを返しています。

「外を歩いていたら、なんだかつまらなくなって・・・、
一緒に遊ぼうと思い立って、戻ってきた・・・、
迷惑だと思うけれど、仲間に入れて・・」

「迷惑だなんて・・・、
元々幸恵さんの相手を私が譲り受けたのだから・・、
幸恵さんがしたいと思うなら、私は遠慮します・・」

「あら・・、ダメよ・・、千春さんが止める必要はない、
一緒に楽しみましょう・・、
私・・、三人でするのは初めて・・、ドキドキしている・・」

「ああ・・・、三人で遊ぶのね…、
良い考え・・、以前・・、何度か遊んだ経験はあるけれど・・、
その味を忘れるほど昔のことよ・・・、とっても楽しみ・・・」

幸恵の登場は千春には予想外の出来事で驚いている様子ですが、幸恵が3Pをするつもりで帰ってきた
ことを知り、むしろ積極的に幸恵を迎え入れているのです。


[21] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(333)  鶴岡次郎 :2015/07/15 (水) 16:03 ID:Etsws6B. No.2711
幸恵が上半身を担当し、千春が下半身を担当することがその場の流れで決まりました。二人の女は互い
に顔を見合わせながら、競うように男の体を嬲り始めました。深く浅く巧みに男根を口で舐めている千
春、千春の行為を横目で見ながら、男の乳首、首、そして唇へ情熱的に唇と舌で刺激を与えている幸恵
です。二人の女は全裸で、既に一回戦を終えている千春は勿論のこと、燃える体を持て余していた幸恵
のその部分は滴り落ちるばかりに愛液で溢れているのです。

ここまで杉下の意向は全く無視されていて、彼はただの傍観者の様に女達のやり取りを黙って見ている
のです。それでも、二人に体を弄ばれている男の体は直ぐに反応して、極限まで高まっています。頃合
いを見て千春が男から離れました。

〈幸恵さん・・、どうぞ・・〉

千春の目がそう言っています。嬉しそうに幸恵が頷いています。そして、男の体に乗り上げるようにし
て自身の体を投げ出しています。男の指が女の股間に伸び、局部に指を入れています。悲鳴を上げ、幸
恵は高々と足を持ち上げいっぱいに開いています。彼女の局部はその部分だけが別の生き物のようにぱ
くぱくと動き、盛んに泡を吹き出し、男の指を咥えこんでいるのです。

男が一気に挿入しました。悲鳴を上げる幸恵、急ピッチで腰を打ち付ける男、そんな二人の様子をじっと
見つめて千春は自身の乳房を右手で無意識に握りしめていました。

千春に見られていると思うだけで幸恵も男も異常に高まるようで、互いに獣のような喘ぎを発しながら
頂点を目指して体をくねらせているのです。他人の交わりを見るのは初めてではありませんが、こんな
に真剣な絡みを見るのは千春にとっては初めてでした。愛液の飛沫がかかるほどに二人の接点に顔を寄
せそこを見つめています。

白い泡が噴出し、愛液の飛沫が泡となって宙に舞い上がっているのです。おそらく官能的な香りが立ち
込めているはずですが、もう麻痺してしまった千春の嗅覚ではその隠微な香りを嗅ぎ分けることができ
ないのです。

男と女が同時に高いうめき声を上げて、けいれんし始めました。互いに相手の体に噛みついています。
その部分から血がにじみ出て、二人の唇の周りが鮮血で染まっているのです。

「フ・・・ゥ・・、
久しぶりに気をやった・・
杉チャン・・・、本当に良かった・・・」

幸恵が微笑みを浮かべて男に言っています。男が黙って頷いています。全力投入した様子で、声を出す
のもおっくな様子です。それでも、男は女を抱いた手を解かないで、優しく女の背中を撫ぜているので
す。男根は萎えているはずですが、二人は交わったままです。おそらく幸恵の意志で接続を解かないの
でしょう。

「ゴメンナサイね…、
直ぐに譲るから・・、もう少し待っていて・・・・
もう少しこうしていたいの・・」

「ううん・・、良いの・・・、ゆっくりやって・・・、
幸恵さん・・、とってもきれいだった・・・、
セックスする姿がこんなにきれいに見えるなんて・・・、
私・・・、想像もしていなかった・・・・」

上から幸恵を覗き込みながら千春が感動した表情で語りかけています。

「あら・・・、きれいだなんて・・・、
あなただから、見せることが出来たけれど・・、
こんな恥ずかしい、汚い姿、他人には見せられない・・・。

私・・、いやらしいこと・・・、
いっぱい言ったでしょう・・」

「うん、言ったよ・・・、
『チ○ポいいとか・・』、『おマ○コしびれるとか・・』、
とても聞いていられないほどいやらしいことをいっぱい言っていた    
最期には、『殺して・・』て叫んでいた・・・」

「へえ・・・、そうなんだ…、そんなこと言ったの・・・
全然・、覚えていないけれど・・・、恥ずかしいね…」

「女の人が本当に逝く姿を初めて見た気がする・・。
ちっともいやらしいとは思わなかった・・、
それどころか、どこか神々しい気分になっていた・・・。

人の営みとは、こういうことなんだと・・、
幸恵さんの悶える姿を見て感じた・・・。
そして・・・、
私自身も一緒にいい気持になる感じで、とっても嬉しかった・・」

「そう・・・、うれしいわ、そう言ってくれると・・・
千春さんが見ていてくれる思うと、余計興奮して・・、
普段のセックスだと、どこか冷めたところがあるのだけれど・・、
今日は何もかも忘れていた・・・。

最初は恥ずかしいと思ったけれど、
そんな気持ちはすぐ消えて・・、
気持ちが良くなることだけを考えることが出来た・・。

我を忘れる・・、その感じを、
この歳で初めて感じることが出来た・・・。
なんだか癖になりそうで怖い…」

幸恵と千春が微笑みを浮かべ話し合っています。


[22] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(334)  鶴岡次郎 :2015/07/17 (金) 15:04 ID:8U/FOdR6 No.2712
一人は腹上に男を乗せ、全身を脂汗で濡らし、両脚をいっぱいに開いて男根を股間に咥えこんで、今終
わったばかりの性交の余韻の中にとっぷり浸かっているのです。そして、もう一人の女は全裸で、今
たっぷり見せつけられた絡みの興奮で滴るほどに体を濡らしているのです。

そんな恰好のまま二人の女は本当に楽しそうに話し合っています。どうやら二人の女の間には男を取り
合う競争心は芽生えていない様子です。それどころか、幸恵が大満足したセックスの喜びを分かち合う
雰囲気さえ出ているのです。このまま放っておけば杉下のモノの良さや、その味について意見交換を始
めるかもしれません。女性特有の優しさのなせることなのでしょうが、男には理解不能な光景です。

一方・・、男は・・・、まだ幸恵の上に居て、女の顔に頬を寄せて目を閉じています。彼もまた、深々
と精を吐き出した余韻の中に深く沈み込んでいる様子です。そして、二人の接点はまだしっかり交わった
ままなのです。

先ほど幸恵は直ぐに代わると千春に言ったのですが、男の様子では千春に挑む気力も、体力も残ってい
ない様子です。どうするのでしょうか・・・。他人事ながら気になります。


「そうか・・、幸恵さんは大満足だったわけだ・・
初めての3Pはことのほか燃えると言われているからな・・・。
幸恵さんは新しい世界を知ったことになるね・・・。

次は千春の番だね・・、
飛びかかっていったら、
男はどうした・・、逃げ出さなかったか・・・」

佐王子がことさら下品な言葉を使って聞いています。

「逃げ出しはしませんでしたが・・・、
幸恵さんが終わった後・・、
二人で杉下さんの体を弄繰り回したのですが・・、
杉下さんは直ぐには蘇りませんでした・・」

「そうだろうな・・、それでもよくやった方だよ・・」

「ハイ・・、私もそう思います…」

佐王子の言う通りで、現役ソープ嬢と一万人の中の一人と言われる稀代の感性を持った千春をとにも
かくにも一度は満足させたのです。普通の男にこれ以上の仕事を求めることはできません。

「それでどうした・・?
その男が役に立たないと判って焦っただろう・・・、
一度火の点いた体だ・・・、
千春は勿論、幸恵さんだって燃え尽きるまで治まらないだろう・・」

「ハイ・・・、おっしゃる通りです・・。
私も、幸恵さんも、もっと欲しくて、
そのことを口に出せないもどかしさで少しいらついていました・・。

そんな私達の様子を見た杉下さんから新たな提案がありました・・。
私も、幸恵さんも・・、何も考えないでその提案に飛びつきました・・。
それは・・・・・・」

佐王子から視線を外し千春は何故か言い淀んでいます。


[23] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(335)  鶴岡次郎 :2015/07/20 (月) 15:42 ID:Mlvj/caM No.2713

千春が言葉を選んでいる様子を見て、あることに気が付いた佐王子が手助けの渡り舟を出しています。

「まさか・・・、
別の男を呼び込んだりしていないだろうな・・・・」

「判りますか・・・、
ハイ・・、おっしゃる通りです。
そのまさかです・・・」

「・・・・・・」

笑みを浮かべたまま、あきれた表情を佐王子が作っていますがそれほど驚いた様子を見せていません。
佐王子にとっては想定範囲内の女二人の行動なのでしょう。佐王子に図星を刺されて、それでも悪びれ
ず、千春は淡々と語り始めました。


幸恵に唇を、男根を千春に預けてしばらく彼女たちの動きに任せていたのですが、杉下は直ぐに、女達
の要求に自身の体が付いて行かないことに気が付いたのです。だらしがない自分に比べて女たちはます
ます元気になっているのを絶望的に感じ取っていたのです。

女が求めているのに、その要求に応えられない時、男は他人が思う以上に打ちのめされます。思うに任
せない自身の体をのろいながら、それでも男は必死で女を喜ばせる解決策を模索するのです。この時の
杉下もそうでした。女達を独占する道を捨て、女たちを喜ばせる道を優先したのです。彼はあるアイデ
アを思いついたのです。

「幸恵さん・・・、
隆司を知っているだろう・・、
彼を呼んでも良いかな・・・」

「タカシ・・、ああ・・隆司チャンね、
確か、杉チャンの相棒だったわね…」

「そうだ、いつもの様に彼と一緒に北海道へ出かけ・・、仕事明けで、二人とも幸恵さんに会いたい気
持ちだったが、二人一緒は無理だから…と、話し合って・・と、言うよりジャンケンして、俺が今日幸
恵さんに会いに来て、明日は隆司が店へ行くことにしたのだ・・」

「じゃ・・、今日、隆司ちゃんは一人で居るのね・・」

「うん・・、競輪に行くと言っていたが・・
どうせ、目が出ていないと思う…、
どうだろう・・、彼をここへ呼びたいのだが・・・」

幸恵が無言で千春に目で問いかけています。千春が笑みを浮かべてこっくり頷いています。

「いいわ・・、隆司ちゃんに連絡を取って・・」

隆司もまたこのアパートに出入りを許されている数少ない顧客の一人なのです。気心が知れている隆司
なら大歓迎だと幸恵は即断したのです。杉下が携帯を取り出し、隆司を呼んでいます。直ぐに応答が
あったようです。やはり競輪場に居る様子で、杉下が想像したように負け続けているようで、そろそろ
引き上げるつもりでいたのです。

「詳しい事情はこちらに着いてから話すが・・・、
幸恵さんともう一人、すごい美人がいるのだ、
ああ・・、勿論・・、偶然のことだ・・・

今からこちらに来ないか・・、
ああ・・、そうだよ、幸恵さんのアパートだ・・・、
うん・・、そう言うこと・・、4人で遊ぶんだ・・・

ああ・・、もちろんだよ・・、
幸恵さんも・・、もう一人の女性もそのつもりになっている・・、
そう・・、女二人とやり放題だよ・・・、腰が抜けるほどな・・・、

ああ・・・、スミマセン・・・・」

携帯を耳にあてたまま、杉下が女たちに頭を下げています。うっかり卑猥な言葉を使ったことを女たち
に謝っているのです。女二人は複雑な笑みを浮かべて頷いています。電話の向こうで隆司が興奮して大
声を上げているのが、直接会話をしていない幸恵と千春にも聞こえてきます。

杉下の卑猥な言葉、『やり放題・・』は女たちの子宮を直撃していました。二人は体を熱くして杉下の
交渉を見守っているのです。


[24] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(336)  鶴岡次郎 :2015/07/22 (水) 17:09 ID:09tAALD6 No.2714

「エッ・・、一人じゃない・・」

杉下が大声を上げています。女二人が杉下の顔を不安そうに見ています。せっかく体を熱くして期待し
た男の影が消えるのを心配しているのです。

「山口が一緒か・・・、
エッ・・、一緒に連れて来たい・・!
それは・・、まずいな…、無理だと思うよ・・・・。

エッ・・・、彼が金を出すと言っているのか・・・・
彼は当てたのだね…」

どうやら隆司は友達と一緒のようで、事情を知った友達は一緒にアパートに行きたいと言っている様子
なのです。そして決定的なことは、隆司は競輪で一文無しになっていて、幸運にも目が出て、それなり
に稼いだ山口が軍資金を出すと言っている様子なのです。

「金か・・、
勿論それがなくては、全ての話は無かったことになるね…、
ちょっと待て・・、
幸恵さんと相談してみる・・・」

電話を握ったまま杉下が幸恵に声を掛けました。

「幸恵さん・・、男三人ではダメかな・・・、
隆司の他に、山口と言う若い男がここへ来たいと言っているのだが・・
隆司がこちらの事情を話したようなのだ・・・」

幸恵は山口と言う男を知らないようで、あまり乗り気ではない様子です。

「ダメかな・・、
山口はまだ若いけれど、同じ運転手仲間で良い奴なんだが・・」

粘る杉下です。幸恵が困り果てて千春の顔を見ています。千春には反対する理由はない様子です、幸恵
にしても同様です。困った表情を浮かべていますが、それは表面上のことで、最後には笑みを浮かべて
二人の女は軽く頷き合っているのです。

「その山口さんと言う若い男、本当に大丈夫だろうね・・・、
後々・・、うるさく付きまとわれると困るからね・・、
杉チャンを信用して、今日だけは特別だよ・・・」

不承不承受け入れるところを見せています。本音は断るつもりはなかったのですが、安易に受け入れて
は女を安く売ることになると、女の本能で抵抗して見せたのです。それに佐王子から指導されていて、
知らない男を部屋に呼ぶことにはかなり神経を払っているのも事実なのです。


「おや、おや・・、
話は急展開だね・・、男二人が新たに加わるのか…」

千春の話をここまで聞いて佐王子が笑いながら軽く茶々を入れています。何もかも話すつもりになって
いる様子で、千春は佐王子の表情を読み取りながら、淡々と説明しています。佐王子の表情を見る限り、
それほど怒っていないのが千春にとって救いになっています。

「隆司さんと山口さんは、近くの競輪場からタクシーを飛ばして直ぐにやってきました・・・」

隆司は40過ぎの中年男で、杉下と雰囲気が似ていて、幸恵もよく知っている優しい男です。山口は3
0前に見える今時のイケメンで、身長も高く、女が放って置かない良い男でした。二人とも杉下の運転
手仲間で、杉下を親分のように慕っているのです。その日、競輪で珍しく当てた山口のおごりで二人し
て女たちの居る所へ繰り出そうと相談しているところへ、タイミングよく杉下からの誘いがあったので
す。

幸恵ともう一人「凄い美人」がやる気になって待っていると聞いて、隆司も山口もいきり立たせて駆け
つけたのです。狭い部屋にはショーツ一枚の杉下と、Tシャツにショーツ姿の女二人が待っていたので
す。それまで、男一人女二人で何をしていたのか、一目瞭然の様子なのです。駆けつけた男二人もすぐ
にショーツ一枚になりました。狭い6畳の部屋が獣達の生臭い匂いで、息苦しいばかりになっています。


[25] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(337)  鶴岡次郎 :2015/07/24 (金) 15:59 ID:OAQYrdCE No.2716

「結局・・・、二人で三人の男を相手にしたのか・・・
最初から5Pか・・・、
素人集団はこれだから怖いんだ・・
隣近所に聞こえるほどの大騒ぎだったろうね…」

「ハイ・・・、スミマセン…、
子供が帰ってくる三時ごろまで・・・、夢中で騒ぎました。
多分・・、いえ・・、確実に両隣の部屋には騒ぎが聞こえたと思います」

「そうだろう・・、
その時間、みんな家にいるはずだからな・・、
お隣さんから苦情が来ただろう」

「ハイ・・・・、後で聞いた話ですが・・・・、
隣の住人から・・、仲間のお姐さんたちですが・・、
幸恵さんはさんざんにからかわれたそうです…。
次には仲間に入れてほしいと言ったお姐さんもいたそうです・・・」

「おい、おい・・・、隣の住人まで巻き込んだの・・
頼むよ、これ以上混乱を起こさないでくれよ・・」

「フフ…、心配ですか・・・・、
大丈夫ですよ・・、しっかりしたお姐さん達ばかりだから・・、
仲間に入れてくれと言うのは、軽い冗談だと思います・・、
でも普通のアパートだったら、確実に大問題になっていたと思います・・」

苦笑を浮かべながら問いかける佐王子をからかうように千春が軽口で答えています。佐王子のご機嫌が
そう悪くないのを知って千春は喜んでいるのです。もし、不機嫌な様子を見せれば、直ぐに話を打ち切
るつもりだったのです。

「お隣さんに乱交が知られていると判り、
恥ずかしくて、私は本気で心配したのですが・・・、

『・・・お互いさまよ・・、
私だって、さんざん悩まされているのだから・・』と・・・、
幸恵さんは笑っていました・・・

お姐さんたちも相当遊んでいるようですよ・・・、
ふふ…」

「まあ・・・、そうだろうな・・・
で・・・、そんなに、良かったのか…」

「ハイ・・・、それは…、
複数の男を同時に相手するのは何年振りかのことでしたが、
今回の様に我を忘れたのは初めてでした・・・・」

まだ独身の頃、佐王子の傘下で売りをやっていた頃、複数の男を相手にしたことは何度かあったのです
が、客たちは全員が老域に足を入れた紳士たちで肉体的に過激な遊びではなかったのです。今回は40
代の男二人と20代の男一人で、まさに旬の男が相手ですから、千春にとってもほとんど初体験の5P
だったのです。

「『こんなに深く逝ったのは初めて・・・』と、
幸恵さんも言っていました・・・」

「・・・で、
遊んだのは、その時一度だけなの・・・・」

「エッ・・、は、はい・・・、
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

佐王子に睨まれて、千春は首をすくめています。


[26] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(338)  鶴岡次郎 :2015/07/25 (土) 14:20 ID:hPt7ak72 No.2717

「いえ・・・、隠さず申し上げます・・・・
味を占めた5人は定期的に幸恵さんの部屋に集まり、
何度か遊びました・・・、スミマセン・・・・。
10回には届いていないと思いますが、正確には数えていません・・・」

「そうか・・・、
そこまで行っていたのか・・・・」

佐王子の表情から笑みが消えています。心配そうな表情で千春が男の表情の裏を読み取ろうとしていま
す。

「声を掛ければ、男達はあらゆることに優先して、仕事の予定でさえ変更して、部屋に集まってくれま
した。

私は…、勿論、誘われれば嫌とは言いませんでした・・・。
多分・・、私が一番・・、この遊びに積極的だったと思います。
私が一番・・、溺れ込んでいたと思います。

一番冷静だったのはリーダの幸恵さんでした。遊びに参加しないでみんなが絡み合うのを見ている時間
が長かったように思います。飲み物や、食べ物など、彼女が調達して準備してくれていました。それで
も複数の男と遊ぶのが面白いと言って、この遊びをそのものは嫌ではなかった様子です。

このようにみんながこの遊びに狂っていました・・。スミマセン・・・・」

スミマセンを連発して、視線を床に落とし、千春はしんみりと語っています。乱交の魅力にとり込まれ
た自身の体をのろっているようにも受け取れる口ぶりです。

佐王子の表情が更に引き締まってきています。何事か気になることがある様子です。

「二度、三度と回を重ねると、明らかな変化が私の身体に起きていました。
私を抑え込んでいた何かが弾け飛んだようです・・・。
自分でもはっきり判るほど、私の身体は変わりました・・・。

私の身体が自分のモノでないと思えるほど、
家事をしていても、買い物に出ても、
いつも悶えていることが多くなりました・・・」

「そうか・・、遂にそこまでたどり着いたのか・・、
話を聞きながら、そうでなければいいと思っていたが・・、
そうか・・、ギアーが数段上がったのかもしれないね…」

佐王子の心配は的中したようです。万人に一人の天分を持った千春の才能が完全に花開いたのを確信し
たのです。

「千春がそうなれば・・、一度きりで終わるはずはないよな・・・。
・・で、その都度ちゃんと・・、
お金はいただいていたのだろうな・・・」

「ハイ・・、
正直言って私は・・、無償でもよかったのですが・・・
幸恵さんが・・、親方にきつく言われているからっと言って・・・、
その度、比較的沢山のお金をいただきました・・・
男の方々もお金を出すのが当然だと思っていたようです・・・」

佐王子が黙って頷いています。
 
「三人とも一人暮らしですが、貯えはそんなにない様子で、
私達と遊ぶため、彼らは一生懸命働いてお金を稼ぎ・・・、
仕事が終わると、有り金を握って駆け付けてくれました・・・」

「それが基本だよ・・、そうでなくてはいけない・・」

「おっしゃる通りです・・・・。
私もそのことがどんなに大切か、今回のことで身にしみてわかりました。
今考えると、それが男達にとって、転落への歯止めになっていたようです。
お金を出すことが男達を堕落から救っているのだと知りました・・・」

「・・・・・・・」

妙なことを言いだした千春の言葉に佐王子がびっくりしています。しかし、千春は案外真剣な様子で、
情熱的に語り始めました。


[27] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(339)  鶴岡次郎 :2015/07/28 (火) 15:06 ID:TGd1dkCY No.2718
「もしお金をいただいていなければ、毎日のように、男達はやって来て、
私達もそれを歓迎して、男達と私たちの間に破滅的なドロドロした関係・・、
セックスだけでつながった男と女の典型的な関係ができ上っていたと思います」

佐王子が、その通りだと言わんばかりに頷いています。

「そうなれば、男は女を抱くことだけが日々の目的になり、つらい仕事をやらなくなり、
いずれお金が切れると、その日の生活費にも困るようになり、女にせびるようになるかもしれません。

そうなると、当然女は逃げ出します。やがて、全てを失った男は社会の底辺を這いずる回る生活に堕ち
て行くと思います・・」

何時でも、無償で女を自由に抱ける環境に身を置くと、男は女に溺れて、仕事をしなくなり、結局、浮
浪者に堕ちると千春は言っているのです。

「まあ・・、この程度の遊びで男がそこまで堕落するとは思えないが・・、
確かに・・、美味しい獲物が無償で手に入るようになると、
誰でも、安易に生きるように成るのは確かだがね…、
まあ・・、千春の言うことは大筋で間違っていないと思う・・・・」

佐王子が笑みを浮かべて首を捻りながらも、千春の説を支持しています。

「一方私自身も、お金をいただくことで、ある歯止めと言うか、自制心が出来ていたようです。お金を
いただくと、娼婦に徹する気持ちが出来て、お客様を喜ばせることを第一に考え、私自身の気持ちは二
の次に考えることができるようになっていたのです。

もし、お金をいただいていなければ、体の欲するまま、私はもっとわがままを言って、毎日、24時間、
男達にサービスを求め、セックスをいっぱい要求したと思います・・」

〈・・男三人を次々と失神させるほどセックスに耽っていて・・、
それでも自制していたと、言うの・・?
もし・・自制していなければどうなるの・・・、聞くのも怖いね・・・・〉

笑みを浮かべ黙って千春の話を聞いている佐王子は内心では千春の底知れない情欲の凄さに密かに感嘆
していたのです。佐王子の内心でのつぶやきを聞きわけたかのように千春がそのことに触れて来ました。

「今の私だったら、いつまでもセックスを続けられると思う…、
そして最後には精も根も尽きて、
最悪そのまま死を迎えるまで狂い通すと思う・・・。
自分でも私自身の体が判らない・・・、
本当に恐ろしくなります・・・・」

「・・・・・・・・・・・」

黙って佐王子は頷いていました。あまりにも凄い話を聞かされて、とてもコメントできないのかもしれ
ません。

「三人の男を相手に遊ぶのは本当に楽しかった・・・、
でも・・・、回を重ねるに従い・・・、
罪悪感と言うのか・・、空虚感と言うのか・・、
事が終わった後、不安定な感情が私の中に湧き上がることが多くなっていた・・」

セックスの後、それが強烈な刺激を伴うものであればあるほど、よけいに、罪悪感の伴う、ある種の空
虚感を味わうものです。まして、夫や、愛人の目から隠れて、愛してもいない男達と乱交をして、生涯
最高のアクメを味わったのです、女であれば、いや人であれば当然、罪悪感に苛まれ、自身への嫌悪感
を強く抱くものです。千春がセックスの後、罪悪感を抱くようになったのは当然のことだと思います。


[28] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(340)  鶴岡次郎 :2015/08/03 (月) 14:54 ID:z93g1nyQ No.2719

その日も、3人の男と激しいセックスした後、彼らを送り出し、乱れた部屋の中に千春と幸恵がほ
とんど裸体で座っていました・・・、互いに顔を見合わせようとしません。

猛烈な性臭が漂う部屋の中は、乱れに乱れていて・・、夜具は誰のモノともわからない性液でぐっ
しょり濡れ・・、枕は部屋の隅に追いやられ、丸められたちり紙が部屋いっぱいに散らばっていて、
千春と幸恵の下着がボロ布のようにあちこちに転がっているのです。

その中に座って、全裸の千春は激しい罪悪感と、自己嫌悪感、そして、全身を襲う空虚感と戦って
いたのです。

「男達が帰った直後が一番つらかった・・。
シャワーを使いたくても体が動かないのです。
それでいて、性感は研ぎ澄まされていて、その部分は勿論、体のどこに触れても、
思わずうめき声を上げるほど全身に快感が走るのです・・・。

そこから流れ出る愛液の残渣でさえ、私を刺激して苦しめるのです・・」

全身が性器になったような感触を千春はそのように語りました。佐王子はただ黙って頷くばかりで
した。

「幸恵さんを見ると、後ろ手で体を支えるようにして座り込み、脚を投げ出し、両脚をいっぱい開
いているのです。彼女もまた恍惚感の中に沈み込んでいるのです。

股間から白い液が流れ出しているのさえ、彼女は無頓着な様子なのです。全身が性液と汗で濡れて
光り、疲れがありありと見えるのですが、お化粧が所々はがれたその顔は恍惚とした、ふぬけのよ
うな表情で、いましがた終わったばかりのセックスを反芻している様子なのです。

見ている私が恥ずかしくなるような姿なのです。
自分も・・・きっと・・・、
こんな醜悪な色狂いの女の姿を曝しているのだと気づきました。

恥ずかしい・・、こんなに落ちぶれた自分が悔しい・・、
自分自身を抹殺したい・・・と、その瞬間強く思いました・・・」

下を向き、低い声で千春は苦しそうに語っています。佐王子は冷めた表情で黙って聞いています。

「それでも・・・、3日も経てば幸恵さんの誘いに乗って、
いそいそとアパートへ出かけていたのです・・・・。
バカな私でしょう・・・・」

自嘲的な笑みを浮かべて千春が佐王子に同意を求めています。佐王子は目を閉じて黙って頷いてい
るだけです。

「あきれてコメントできないのですね・・・・、
当然だと思います。
でも・・、こんな私に、遂に神のお裁きが下りました・・・」

少し口調を変えて千春が話し始めました。

「幼稚園に通っている長男と一緒に風呂に入った時のことです・・・、
『ママ・・、クチャイ・・・・・』と子供が言ったのです・・」

その日午前中、幸恵は男達と散々に遊び、男達の飛沫を全身に受け止めていたのです。良く体を
洗ったのですが、4歳児である長男の敏感な嗅覚から逃れることができなかったのです。

「長男の声は神の声だと思いました。
まだまだ続けたい気持ちは強かったのですが・・、
保さんにも、主人にもバレていない内に、思い切って止めることにしたのです・・」

「・・・・・・・・」

佐王子は相変わらず黙って頷いています。

「まだ続けたいと言う幸恵さんを説得して、これが最後と決めた遊びを堪能した後、もうお仕舞だ
と男達に伝えました・・。

その夜、私・・・、一人で泣いていました・・・・。
今でも・・、あの関係を清算して良かったと思う半面、あの頃が恋しくて・・・」

唇をかみしめて千春は何かに堪えている様子を見せています。


[29] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(341)  鶴岡次郎 :2015/08/06 (木) 16:16 ID:ohByYJ6I No.2720

「それで・・・」

それまでただ黙って聞いていた佐王子がようやく口を開きました。

「男達は大人しく引き下がったの・・・」

「杉下さんと隆司さんは快く納得してくれました。多分彼らもこんな刺激的な遊びは長続きしな
いし、続けるべきでないと考えていたのだと思います。
それでも若い山口さんは、なかなか納得しませんでした・・・」

「そうだろうな・・・・」

「それでも・・、他の男に説得されてその場は不承不承納得して、山口さんは大人しく引き下がり
ました。帰る時には男達一人一人が女二人をハグしてくれて、余分にお金をくれました。
私・・、少し泣いていました・・。

ところが・・、二週間後に幸恵さんの店へ山口さんが一人でやって来たのです」

「店に来た客は断ることはできないからね…、
山口も考えたわけだ…」

「ハイ・・、あの日以来、杉下さんのグループとは縁が切れたと思っていた幸恵さんは、山口さん
に指名されて、正直びっくりしたそうです・・」

「山口は以前のように遊びたいと言い出したのだろう・・・・」

「ハイ・・そうです
部屋に入るなり、真剣な表情で・・、
もう一度5人で遊びたいと幸恵さんに要求したのです・・・」

「忘れきれなくて・・、
ずーっとそのことを考え続け、
自分の感情を抑えきれなくて・・、
幸恵さんの店にふらふらと来てしまったのだね・・・、
山口がなんとなく哀れに思えてくるね…」

佐王子がしんみりと、自分に言い聞かせるようにつぶやいています。

「『みんなで決めたことだから・・、
あれは夢だったと思って忘れてほしい・・』と・・・、
幸恵さんは心を込めて説明したのです。

元々・・、自分が無理を言いだしたことは判っていたらしく、
涙を流しながら、『悪かった・・』と言って納得して、
その日、せっかく大金を払って幸恵さんを指名していながら・・、
何もしないで店を出たのです・・・」

「それだけでは・・、
終わらなかったのだろうな…」

「その通りです・・!
三日後にまた店にやってきて、その時は髭を剃らずに、少しやつれた様子で、
何か思いつめているようで、幸恵さんは少し怖かったそうです・・」

「やはりな・・・、厄介なことになったな・・」

佐王子にはその先の展開が読めているようで、表情を曇らせています。

その日、幸恵は適当に相手して、山口の要求をはぐらかせていたのですが、山口はまるで駄々子の
ように、5人で遊びたいと幸恵に涙ながらに懇請したのです。そして、幸恵がその要求に応じない
と判ると、一転して、少し居直った様子で、凄みを効かせ、『千春の居所を教えろ・・』と幸恵に
迫ったのです。

恐怖を感じた幸恵は店のスタッフを呼びました。百戦錬磨のスタッフになだめられて山口はその日
はすんなりと引きさがりました。それから数日経っても山口は店に顔を出さないのです。さすがの
山口もスタッフにまで事情を知られては、店に顔を出す事をあきらめたと幸恵は思ったのです。そ
して、これで終わったと密かに喜んでいたのです。


[30] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(342)  鶴岡次郎 :2015/08/07 (金) 14:11 ID:CaFij5mg No.2721

「ところが・・・、終わってはいなかったのです・・・。
それから2週間後、今度はアパートへ押しかけて来たのです・・」

「そうだろうな・・、
若い男が色に溺れると始末が悪いんだ…
千春の処へはやって来なかったのか・・・?」

「私は連絡先を一切男達には教えていませんから直接の被害は無かったのですが、
幸恵さんは本当に困ったと言っていました。

お店へ来るのは、商売ですから黙って受け入れても・・・、
アパートに来てストカーのように付きまとうのは困ると言っていました・・」

「良くあることだよ・・・、
若い奴はソープ嬢が見せる商売上のサービスを恋だと錯覚することがあるのだ、
まあ・・、直ぐに醒めるモノだが・・・」

「最初の内、二度ほどは、幸恵さんも彼に同情して部屋に入れていたのです・・・、
部屋に入ると、私を呼び出せと言うだけで、何もしないで、ただ座っているのです。
時々は泣き出したりしたそうです・・・。
幸恵さんは優しい人ですが、思わず強い言葉を出して励ますことが多かったようです・・・」

山口はかなり参っているようで、もう・・、自分の行為の目的と意味さえ分からなくなり始めてい
たのです。ただ、千春への執着心は衰えないばかりか、彼女の顔さえ見ることができないと判ると、
その執着心は異常に高まり、世の中の全ての仕組みが自分に敵対して、千春へのアプローチを阻害
していると思い込み始めていたのです。 

幸恵の前で涙を流しながら、千春を呼び出せ、、居どころを教えろ・・、と言っている間は未だ良
かったのですが、千春に会わせないのは幸恵のたくらみだと思い始めていたのです。最後には、手
を上げて脅かすふりをし始めたのです。そうなってしまっては、当然のことながら、幸恵は山口の
入室を拒みます。

そのことでよけい荒れるようになり、どんどん扉をたたいて・・、中へ入れろと騒ぐようになった
のです。

「困り果てた幸恵さんは・・・、
杉下さんに相談したのです・・」

「・・・・・」

首を振り、苦しい表情で佐王子が黙って頷いています。どうやら佐王子には若い山口の気持ちが良
く理解できている様子で、ここまで来るとこの話の結末も見えているのかも知れません。


ある日、山口を連れた杉下が幸恵のアパートを訪ねて来ました。神妙な表情をしている山口と、普
段は見せない真剣な表情の杉下を見て、幸恵はただならない雰囲気を感じ取っていたのです。

「幸恵さん・・・、
今までこいつがいろいろご迷惑をおかけしたことを私からも謝ります・・・。
こいつが持っている有り金をかき集めて来ました。
二十万あります・・・・。

今まであなたにご迷惑をかけたお詫びの印のつもりです・・。
とてもそれには足りない金額ですが・・、収めてください・・・。」

「・・・・・・・・・」

幸恵がお茶を出すのを待って、杉下が白い封筒を差し出しました。驚きながらも幸恵は黙ってその
白い封筒を見ていました。


[31] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(343)  鶴岡次郎 :2015/08/08 (土) 16:51 ID:zbzx47NI No.2722

白い封筒を見ているだけで、それに手を出さない幸恵の様子を見て、杉下がゆっくりと口を開きま
した。

「幸恵さんから連絡を受けて、こいつがしていることを初めて知りました。
驚いて本人に確認しました。すべて幸恵さんがおしゃっていた通りでした・・」

「・・・・・・・」

幸恵の訴えを杉下と山口が全面的に認めたことを知り、幸恵はひとまずは安どしていました。杉下
に相談したことが無駄にならなかった、山口はともかく杉下は信用できそうだと思っていたのです。

「なぜストーカーまがいの迷惑行為をするのか、私は問い詰めました。
驚いたことに、本人も自分のしていることが良く判っていないのです。
気が付いたら幸恵さんのアパートの前に立っていたと言っているのです。

彼がその時どんな心境だったのか私にも良く理解できませんが、
想像するに、千春さん恋しさのあまり、自分の気持ちが制御できなくなり、
異常な行動に走ったのではと私は理解しました・・。
恋は人を盲目にすると言われますが、
こいつの場合も、その言葉が当てはまると思います…」

「・・・・・」

口には出しませんが杉下の言葉には幸恵は不満を持っていました。

〈女が振り向いてくれないからと言って・・・、
ストカーまがいの行為をしていながら・・、
自分のしていることが判らないなんて・・・、
そんなこと・・、信じられない・・・
杉下さんもしょせん男・・、山口さんの肩を持つのだ・・〉

最初は杉下を信用できると思たのですが、彼の話を聞いて二人への警戒心を幸恵は強めていました。

「時間をかけてゆっくり話し合い、本人も冷静に自分自身を見つめることが出来たようです。
幸恵さんにひどい迷惑をかけたこともようやく分かったようです。

幸恵さんに迷惑をかけた償いをすべきだと私は話しました。それで今日、二人でこうしてやってき
たのです。償いの気持ちを形で表したいと言って、山口が言い出し、私もけじめをつける意味で効
果があると思い、この金を幸恵さんに差し出すことを決めたのです・・。

そういうわけで、この金でどうこうしようという下心は何もありません。
今までのお詫びのつもりです・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・」

山口が本心から反省しているとは思えなかったのです。幸恵はここでも白い封筒に手を出さないで
じっと黙って居るのです。

「幸恵さん・・・、
一つお願いがあります・・・・・」

杉下が切り出して来ました。やっぱり何か下心があったのだと、20万円と引き換えに何を要求す
るのかと、幸恵は身構えています。

「こいつを千春さんに会わせていただけませんか・・・、
いえ・・、変な意味でなく・・・、
何処か然るべきところで話を聞いていたければいのです」

「それは出来ません・・・、
千春さんは一切の関係を断ちたいと言っていますから・・、
私でさえ、あれ以来一度も会っていないのです・・・・」

「そうでしょうね・・、
あの時・・、最後に会った時・・・、
これで遊びは終わると約束しましたからね・・。

いまさら、昔のことを蒸し返すのは男の風上にも置けない行為だと思います。
それを承知でお願いしているのです・・。

一度・・、一度だけでいいのです・・・。
こいつを千春さんに会わせていただけないでしょうか・・・・」

杉下が深々と頭を下げ、それに合わせて、山口も畳に付くほど頭を下げています。あまりに熱心な
二人の男の態度に幸恵の気持ちは揺らいでいました。元はと言えば幸恵と千春の遊び心から始まった
トラブルなのです、一切の責任がないとは、言いきれないと幸恵は思い始めているのです。

「ダメだと思いますが・・・、
千春に都合を聞くだけは、聞いてみます…、
それでいいですか・・・」

「・・・・・・・」

二人の男は互いに顔を見合わせて、しばらく間をおいて、それでもゆっくりと頷いています。


[32] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(344)  鶴岡次郎 :2015/08/11 (火) 12:11 ID:UJ4zW1Bo No.2723

「随分と思いこまれたものだね…、
それで・・、千春はどうしたの・・・・?」

「勿論、私は断りました・・・。
会えば・・、私だってグラつきますから・・・、
お断りするのが、彼のためにも、私にとっても・・・、
最善の策だと思っていましたから…」

幸恵はY市のあるホテルのロビーへ杉下と山口を呼び出し、千春の返事を伝えました。二人の男は
その返事を予想していたようで、がっかりした様子を見せていましたが、大人しく、その日は引き
下がったのです。

「それで終わりになるかと思ったのです・・・、
でも・・、彼は引き下がらなかったのです・・・」

それから数日後、山口は幸恵のアパートの近くに現れたのです。ドアーを叩くわけでなく、大声を
上げるわけでもなく、アパートから少し離れた高台、幸恵の部屋が見える場所に立ち、何時間も部
屋の窓を見ているのです・・・。そして幸恵が店に出勤する時間になると消えるのです…。

「そんな日が何日も続いたのです・・・」

「何だか・・、悲しいね…」

どうやら佐王子は山口の立場に感情移入している様子で、思う女の顔さえ見ることができない男の
悲哀を噛み締めている様子なのです。うがって考えると、山口の千春への思いに、佐王子自身の千
春への感情を重ね合わせているのかもしれません。

「堪りかねた幸恵さんは杉下さんに強く抗議しました。
杉下さんも驚いてすぐに動くと幸恵さんに約束したのです。

ところが・・、
あれほど慕っていた杉下さんにも山口さんは従わなくなっていたのです。
最期には杉下さんも匙を投げて、幸恵さんに手を引くと謝ったそうです。
山口さんを止める手段を幸恵さんは失ってしまったのです・・」

「山口は完全に孤立したのだね…
そうなると、並のことでは山口は引かないね…
何か手を考えないといけないね・・・・」

「ハイ・・・、その通りです・・。
どうしようもなくなって・・・・、
最後にはお店のスタッフさんの力を借りたと・・・、
幸恵さんが言っていました・・」

佐王子が大きなため息をついています。

「そうか・・、それでつじつまが合う・・・・、

詳しい事情は何も聞かされなかったが・・・、
『幸恵さんが若い男に付きまとわれていたので、
追っ払っておきました・・』と・・、
神本から報告を受けたことがあった・・・・。

その時は・・、良くある話なので、聞き流していたが・・・、
この事件の元凶が千春だったとは・・、
今の今まで・・、気が付かなかったよ・・・」

「申し訳ありません・・・、
ご迷惑をおかけしました…」

殊勝な表情を浮かべ千春が深々と頭を下げています。


連絡を受けたスタッフの神本は、先に店で乱暴しようとした山口をうまく抑え込んで追い払った人
物です。勿論、山口とは面識があり、彼が千春と会いたがっていることも、ストカーまがいの行為
を続けていることもすべて承知しているのです。

幸恵のアパート前で神本は張り込みを始めました。張り込みを初めて3日目に、何も知らない山口
がやってきたのです。


[33] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(345)  鶴岡次郎 :2015/08/12 (水) 16:13 ID:XjBERufs No.2724

一度幸恵の店で会っているので山口は神本の顔を良く知っています。その時は上手く丸め込まれ、
体よくつまみ出された苦い経験があるのです。あの時は、店の制服である白いシャツに蝶ネクタイ、
黒のズボンでした。それでも十分の迫力を見せていて、蛇に睨まれた蛙のように山口は何の抵抗も
出来なかったのです。今日見る神本はその時と全く雰囲気が違っていました。

180センチを超える身長の山口に十分対抗できるだけの体躯を誇り、その上山口よりかなり体重
がありそうなのです。それだけでも並の人物には出せない迫力が出ているのに、今日は明らかに素
人離れした服装なのです。神本を一目見て明らかに山口は動揺しています。

「山口さんと言いましたね…、
幸恵さんの依頼を受けて、あなたが現れるのを待っていました・・・」

「・・・・・」

低い声ですが、良く通る声です。山口は黙って神本を見ています。普通の男なら神本を見るだけで
逃げ出すと思います。神本もその効果を期待して、普段はあまり着ないそれなりの服装を整えてこ
こへ来たのです。

ところが・・、さすがに恋に狂った山口です。千春のためなら一歩も、引かないと覚悟を決めてい
るのでしょう、ぐっと踏み止まり、挑戦的な視線を神本に向けているのです。

「毎日のようにここに現れているらしいですね…、
そんなことをされては、近所迷惑なのです・・、
何よりも、幸恵さんが怯えて、店に出られないと言うのです・・」

「俺は…、何もしていない・・・
ただ・・、ここに立っているだけだ・・・」

「それが迷惑なのですよ・・・、
あなたほど立派な体格の男がここに立っていれば、
たいていの女は怖気づきますよ・・・」

「俺は…、ただ・・、
千春に・・、
いや・・、千春さんに会いたいのだ…、
千春さんの居所を教えてほしいだけなんだ・・・」

「千春に会いたいのですか・・・・・・」

ここで神本が次の言葉を飲み込みじっと、山口を見つめています。山口もひるまず睨み返していま
す。

二分・・、いや・・、せいぜい、30秒間程度のにらみ合いが続きました。多分、山口にはこのに
らみ合いが永遠に続くと思えたはずです。沈黙に堪えかねた山口が先に口を開きました。

「何だよ・・、
そんな目で俺を見るな・・・、
千春に会いたいと言うのがそんなに悪いことか・・・」

挑戦的な口調で、それでも不安げに山口が言葉を吐き出しています。


[34] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(346)  鶴岡次郎 :2015/08/13 (木) 18:32 ID:IvZE0jc. No.2725
明らかに喧嘩口調の山口の言葉をやんわりと受け流し、微笑みを浮かべて、神本がゆっくりと口を
開きました。山口が興奮すればするほど冷静になる、全て計算された行動です。

「幸恵さんから聞きませんでしたか・・・、
千春は会いたくないと言っているのですが・・・」

「そのことは確かに聞いた・・・
しかし・・、幸恵の言うことが信用できないのだ・・、
千春から直に返事が聞きたいのだ・・・。
あの幸恵と言う女が邪魔をしているとしか思えないのだ・・」

「幸恵さんがあなた方の邪魔をしている・・・・?
それは山口さん・・、大きな誤解ですよ・・・」

「誤解・・・、そんなことはない、俺には判るんだ・・・。
幸恵は千春を俺から隠しているんだ…」

「そんなことを言っては幸恵さんがかわいそうです・・・・。
あなたと千春の仲を裂こうなど、これぽっちも幸恵さんは考えていません。
それどころか、千春に会わせたいといろいろ努力しているのですよ・・」

「そんなことが信じられるか…」

「信じるか信じないかはあなたの気持ち次第ですが、
私はこれぽっちも嘘を言っていません・・・。

山口さんの千春を思う純真な気持ちに動かされて、
幸恵さんはあなたの希望をかなえてやりたい、
あなたを千春に会わせたいと・・・、
商売気を忘れて奔走しているのです・・・・」

「・・・・・・・・」

それまで反抗的な態度を見せていた山口の様子が変わり、口を開かなくなりました。彼なりに何か
を感じ、何かを考え始めたようです。神本の言うことを信じる気持ちが少し出てきたのかもしれま
せん。

「それでもどうすることもできなくて・・、
幸恵さん一人の力ではどうすることも出来ない大きな障害があって・・・、
幸恵さんは本当に困っているのです・・・。
そこを判ってほしいのです・・・」

「・・・・・・・」

神本の巧みな説明に山口は完全に引き込まれています。今まで幸恵が邪魔をしていると本気で
思っていたのです。それがどうやら間違っていると判ったのです。山口は必死で今聞いた神本の言
葉を反芻してその意味を読み解こうとしているのです。

山口の様子を見て、神本はもう・・、これ以上の説明は不要と思ったようで、黙って山口を見つめ
ています。

〈どうやら・・、幸恵さんは邪魔をしている訳でなさそうだ・・・、
それどころか、千春に会わせたいと尽力してくれているらしい・・・。
本当かな・・、

よく考えてみれば・・、
この男は俺ごとき素人の小物には嘘は言わないように思える・・・、
この男にとって、嘘を言ってみても何の得がないからな・・、
この男を信用してみようか・・・・。

そう言えば幸恵さんは何時でも俺に優しかった・・・、
俺が強気に出たものだからが、部屋に入れてくれなくなったが、
最初は快く部屋に招き入れてくれていた・・・・。

・・・とすると、何が問題なのだ…、
この男は、幸恵さんが大きな障害を抱えていると言っていた・・・
そうか・・、それだ・・・・〉

ようやくそのことに思いが行ったようです。顔を上げ、神本の顔に視線を当て、山口は強い調子で
言葉を出しました。


[35] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(347)  鶴岡次郎 :2015/08/14 (金) 13:40 ID:bzScPSTA No.2726
「あなたの言うことを、とりあえず信用することにした・・・、
そこで・・、一つ教えてほしい・・・、
幸恵さんが抱えている大きな障害とは・・・、
一体・・、何なんだ・・・・」

「よく聞いていただきました・・・、
その障害とは・・・・。
私の存在なのです・・・・」

「エッ・・・、あなたが障害だと・・・、
俺が千春に会えない理由があなただと・・・・」

まじまじと神本の顔を見ています。

「エッ・・・・・、
まさか・・・、そんなことが・・・・」

ようやく神本の言わんとすることが判ったようで、思わず声を出し、大きく目を見開いて、ぼう然
と神本を見つめているのです。

「ようやくお分かりいただけたようですね…、
お世話になったようですが・・・、
ご推察の通り・・、
千春は私の女です・・・。

今日ここへ来たのは私の口からあなたに直接このことを伝えるためです。
これ以上、千春に手を出すのを止めて下さい・・・」

その一言で、はた目にもはっきり判るほど山口はがっくりときました。しばらく言葉を出せない状
態で下を向いて、放心状態なのです。

後になって神本は、この時の山口の様子を幸恵に次のように言っていました。

〈俺が千春さんの男だと知った時の驚きようは、半端でなかった・・・、
それにしても・・、千春さんに男がいるとは思わなかったのかね…、
30近いソープの女に男が一人もいないと思うのがおかしいだろう・・・。

それだけ女を知らない純情な男っていうことかな・・・。
同情したよ・・、出来ることなら本当のことを教えてやりたかった・・・〉

神本は山口にかなり好感を抱いている様子です。


神本の前で一分以上頭を下げていた山口がゆっくりと頭を上げ、真正面から神本をにらみつけてい
ます。どうやら苦悶の末、ある結論に達したようすです。

「判りました・・・、
あなたのおっしゃることは良く・・・、判りました・・・。
あなたがここに現れた理由も、目的も良く判りました・・・」

「・・・・・・」

神本がゆっくり頷いています。

「あなたの説明を聞いて、全てが判りました・・・。
幸恵さんと千春さんは隠れて時々男遊びを楽しんでいたのですね・・
それが・・、私が騒いだためにあなたにバレて・・・、
幸恵さんはどうにも動きが取れなくなっていた・・・
幸恵さんの不自然な態度がそれで説明できます・・

悪いのは独り相撲をとっていた私だったのですね…」

「・・・・・・・・・」

頭の良い男らしく、山口は事の次第を完全に理解したようです。神本が黙って何度も頷いています。
彼の瞳に山口をいたわる気持ちが溢れていました。


[36] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(348)  鶴岡次郎 :2015/08/15 (土) 17:26 ID:Etsws6B. No.2727

山口が納得して、これでトラブルが治まったと神本はほっとしていたのです。千春は勿論、目の前
にいる山口も、そして幸恵にも、誰にも損失を与えないで、誰の名誉を傷つけることもなくこの事
件を丸く治めることが出来たのです。うまい筋書きで山口を説得できたと神本は密かに自己満足を
噛み締めていたのです。

「今回のことがすべて私の一人相撲だったことは認めます。
お騒がせしたことは深く謝ります・・・。
しかし・・・、私の千春さんへの気持ちに嘘はありません…」

自分と同じほど立派な体躯を持ち、風俗街で働いていて、おそらく修羅場での経験は山口の想像を
超えるほど豊富と思える神本を恐れることなく強い視線を投げかけているのです。そして、その強
い男の女だと知りながら、あえて千春への熱い思いをぶちまけているのです。山口はまさに命を懸
けて男の前に立っているのです。何も恐れるものがない様子です。

「千春さんがあなたの女だと知った上で・・・、
改めてあなたに聞きたい・・・、

なぜ風俗街で彼女を働かせているのですか・・・、
あんなに素晴らしい女性をなぜ他の男に抱かせるのですか・・・

もし・・、彼女をそんなに大切に思っていないのなら・・、
彼女を幸せにできないのなら・・・」

ここで言葉を切り、山口は大きく深呼吸しました。神本の表情からとっくに笑いは消えています。
若い山口の顔をじっと見つめています。次に山口が何を言い出すのか神本にはある程度想像できた
のですが、一方では、まさかそこまでは言わないだろうと半信半疑な気持ちも持っているのです。

「お願いがあります…、
聞いていただけますか・・・・」

「・・・・・・・」

静かな落ち着いた口調で山口は語りかけました。神本は黙って頷いています。

「僕に彼女を譲ってください・・・、
僕の妻に下さい・・・・、
お願いします・・・・・」

「・・・・・・・・」

深々と頭を下げる山口を神本はじっと見つめていました。やはりそこまで決心していたのかと驚き
で次の言葉が出せないです。予想出来た言葉でしたが、それでもまさかこんなに素直に切り出して
くるとは予想していなかったのです。

〈彼が本気であるのは良く判った・・、
それまでいろいろトラブルに巻き込まれ、
正直・・、命の危険を感じた修羅場は何度も踏んできた・・・・。
しかし、この時ほど、追い込まれ、返事に窮したことは無かった・・・。

いい加減な返事をすれば、彼に隙を見抜かれ・・・、
その場に叩き伏せられる危険さえ、ひしひしと感じていた・・・・。
私も全力を挙げて真剣勝負する覚悟を固めていた・・。

それには、先ず優勢に仕掛けている敵の矛先をかわして、
私自身も作戦を練る時間が必要だと感じていた・・・
ここは小休止が必要だと思った・・・・〉

後になって、この時の気分を神本は幸恵にこう語っていたのです。


[37] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(349)  鶴岡次郎 :2015/08/16 (日) 17:24 ID:mpkueo7A No.2728

幸恵のアパートの前で二人は睨み合っているのです。大きな男が二人、屋外でにらみ合っていれば
いやでも人目に付きます、若い山口は人目を気にしませんが、神本はそうはいきません、騒ぎを起
こすと立場上不利なことは判っています。旧悪を穿り出されることにもなりかねないのです。

「山口さん・・、
ここで立ち話を続けるのもなんですから・・・、
どうですか・・・、向こうにちょっと小奇麗なカフェがあるのですが…」

そこは歴戦の勇士、神本です、笑みを浮かべてこの場は停戦を申し入れ、山口を誘って近くの喫茶
店へ行くことにしたのです。

三分ほど歩いたところにその店はありました。その時間、店にいるのは近所の主婦グループ一組で、
比較的閑散としています。二人は奥まった席に座りました。体のでかい男二人、一人は明らかにそ
の筋の人に見えますので、嫌でも人目に付きます、主婦たちがチラチラと二人を見ています。二人
が席に着き、笑みを浮かべた神本が穏やかにコーヒーを注文するのを見て、何かもめ事が起こるの
を期待していた女たちは二人への関心を直ぐになくして、元の会話に戻っています。

この店に来る道々、神本は反省していました。幸恵から山口のことを聞かされた時、『店の子は売
り物・・、陰でこそこそ手を出されては困る・・』と、脅かしを掛ければ素人の若造一人なんとで
もなると考えていたのです。しかし、山口と顔を合わせて話し合う内に、千春を思う山口の真剣な
態度に同情して、親切心からを『千春は私の女だ・・』と、余計なことを教えてしまったのです。
この親切心が山口の恋心をさらに刺激してしまったのです。神本から千春を奪い取ることを真剣に
考え、堂々とそのことを神本に宣言しているのです。どうやら、神本からなら千春を奪えると山口
は確信しているようすなのです。 

今、目の前にいる若い男は千春を得るためならあらゆる犠牲・・、命さえ惜しまない化け物になって
いるのです。厄介なことになったと神本は考えあぐねていました。最後には、多少の暴力をちらつか
せて、本気で脅かせばなんとかなると思っているのですが、素人相手に、それも若い男に、そんなこ
とをするのは大人げないと思う余裕もあるのです。

「山口さんと言いましたね…、
あなたが千春のことを真剣に考えていただいているのは良く判りました」

あくまでも下手に出て、相手を刺激しない作戦を取っています。

「しっかりした仕事に就いていて、その上イケメンで、若く、背も高い、千春の相手として申し分
はありません。出来るのことなら、あなたの希望に沿いたいとさえ思います・・、そうすれば千春
は今より幸せになるかもしれません・・・」

やたらに褒める神本を気味悪そうに山口が見ているのです。ここらで良いだろうと神本は攻勢に出
ることにしました。

「あなたが真剣に千春を愛している気持ちはよく理解できました。
そして、あなたは千春の相手として私よりふさわしいかもしれません・・・、
それでも・・・、
千春は、どんなことがあっても譲れません・・・・
それには訳があるのです・・・・・・」

山口をしっかり見つめて、神本はゆっくりと心を込めて話しています。山口も神本の強い視線を
しっかり受け止めています。両勇譲らずといった雰囲気です。二人の強い気持ちがぶつかり合い、
彼らの周りだけが、息詰まるような雰囲気です。


[38] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(350)  鶴岡次郎 :2015/08/18 (火) 12:00 ID:ItOSmQa. No.2729

おいしそうに神本はコーヒーを啜っています。そんな神本を山口はじっと見つめています。コーヒ
ーにも手を出さないのです。明らかに少し苛ついています。神本は結論を急がないと決めているの
です。じっくりと話を進めるつもりなのです。

山口の要求は単純明快で千春を奪うことだけで、それ以外のあらゆる条件を受け入れないと決めて
いるのですから、彼のペースに乗らないことが肝要で、彼の矛先をかわしながら、山口の反応を確
かめつつ、神本はその都度戦略を変えるつもりなのです。

そう言っても、この場に至っても、確実に勝てる策が思いつかないのです。神本はとにかく誠意を
尽くして山口に接することにしました。負けることが許されない勝負で万策尽きた時、下手な策略
は考えないで、彼なりに誠心誠意を尽くして、自身の信じる道を突き進む、それが神本の生き方な
のです。そのやり方で、今までたくさんの修羅場を生き抜いて来ることが出来たのです。


「私は仕事に就いていると言いながらも・・、
ご存知のように、大威張りで世間を歩けるような仕事ではありません。
御覧の通り、形(なり)はデカいのですが、ブ男な40男です・・。
あなたに比較して何のとりえもない男です・・。

それでも・・・、
千春を愛することでは決して、山口さんに負けないつもりです…」

40歳を超え、組員として、また風俗街の住人として経験豊富な神本が一回り以上年下の素人男を
相手に真剣な表情で、情婦への熱い思いを話しているのです。腕力や、金の力でなく、男の真心で
勝負を付けようと神本は若い山口に挑んでいるのです。果たして神本にどんな勝算があるのでしょ
うか・・。


「私と千春はもう10年以上の関係です・・。
勿論、長い関係があるからと言って、そのことだけで良いとは思っていません。
私にとって、彼女は妻以上の存在です・・。
神だ・・と、言えば笑いますか・・・、
しかし、私にとって・・、彼女はまさに神なのです・・」

妻を神だと平然と言い放つ神本を山口は不思議な動物を見るような目つきで見ていました。

「そうですよね・・、
妻を神以上の存在だと突然言い出しても、お分かりいただけないでしょうね・・、
『こいつ頭がおかしいのでは…』と、思うかもしれませんよね・・」

山口の視線の意味を感じ取って、神本が苦笑しています。

「私と千春がここまで歩んできた道をかいつまんでお話しします。
それを聞けば、多分・・、私たち二人の腐れ縁と言うのでしょうか・・・、
彼女の私に対する気持ちはともかく・・・
私とあなたは男同士ですから・・、
少なくとも・・、彼女を神だと思う…、
私の彼女に対する気持ちを少しは理解していただけると思います。

この話を他人にするのはあなたが初めてです。
大恩ある親方にも詳しくは話していないことです・・・」

山口の視線を避けるように下を向いて、ぼそぼそと低い声で神本は話しています。

「その昔、組員だった時、取り返しのつかない大きな失敗をして、
組に大きな損害を作ってしまったことがありました・・・。
私が10度生き返っても、それでも返しきれないほどの金額だった・・。
その時、私は自ら命を絶つ道しか残されていないと思いました・・・」

「エッ・・・、
仕事の失敗を・・、命で償うのですか・・・、
そんな・・・」

「・・・・・」

山口がびっくりして思わず声を出しています。神本がゆっくりと頷いています。


[39] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(351)  鶴岡次郎 :2015/08/19 (水) 14:08 ID:SmwrFcrM No.2730
やくざ映画の一シーンのような話ですが、神本の表情を見る限り嘘を言っている様子はないのです。
驚きを抑え、平常心をとりもどそうと努めているのですが、体は正直なもので、恐怖からなのか、
緊張からなのか・・、山口の全身が彼自身でも制御できないほど震え出しているのです。

〈やはりこの男・・・、只者ではない…、
仕事に失敗したから言って、命を差し出すなど・・・、
ドラマの中でしかありえないと思っていたが・・・、
この男は平然とそのことを語っている…、
そんな世界で生きてきた男なんだ・・、恐ろしい男だ・・・。

その男から、私は女を奪おうとしている・・・、
そんな無茶なことが、本当にできるのだろうか・・、
この場から、すぐに逃げ出すべきだ・・、今なら間に合う・・、

しかし・・、千春のことはどうするのだ…、
彼女を幸せにできるの私以外居ないのだ・・、

もし、ここで逃げだせば・・、
彼女は永遠に救われない…、そんなかわいそうことは出来ない…、
僕は最後まで戦う・・・・、
死ぬのはやはり怖いが、多少のケガなら堪えて見せる・・・〉

襲い掛かる恐怖と必死で戦い、山口は神本の前にじっと座っていました。

「山口さん・・・、どうしましたか・・・、顔色が悪いですよ・・・、
こんな話が面白くないようでしたら、止めますが・・・」

「いえ・・・、良いんです・・、続けてください・・・、
思いがけない話を聞いて、少しびっくりしました・・・。

ここから今逃げだしても・・、後で後悔すると思います。
いつかは確かめなくてはいけない事実ですから・・、
今・・、聞かせてください・・・」

山口の返事を聞いて神本は頼もしそうに山口を見て、軽く頷いています。

〈ここで逃げだすような男なら苦労しないのだが・・・〉と、神本はむしろ山口の男ぶりに惚れ直
していたのです。

「それでは続けます…、聞くのが嫌になったら、そう言ってくださいね・・・。
直ぐに止めますから、元々、人様に得意そうに語る内容ではないのですから・・」

冷たい水を一口、口に含み、神本はゆっくりと話し始めました。

「私の決心を周囲の者は何となく感じ取ったようで、そのことが組の幹部にも伝わったのですが、
上部組織の圧力に抵抗し切れない組の幹部は、死で償うと言う私の意志を黙認せざるを得ない状況
でした。みんながはれ物に触るように遠巻きで、その時が来るのを待っている感じでした。私は完
全に組の中で孤立し、失敗の責めを一人背負って死を待つだけでした。残された課題はどんな死に
方をするか、それだけでした・・・・」

自身で決めたこととはいえ、確実に迫る死を神本はどのように受け入れていたのだろうと・・、神
本の顔をチラチラと盗み見ながら、山口は感嘆の思いで彼が淡々と語るストリーを聞いていました。

「山口さん・・・」

「はい・・・」

「確実に迫って来る死を待つ気分など・・、
味わったことはないですよね・・」

「はい・・、想像もできません…」

「あれもしたい・・、これもやっておきたい・・と、思うのですが、
結局、何もできないのですよ・・、
終日何もしないで、公園のベンチに腰を下ろし、遊んでいる子供たちを見て、
ぼんやりと時を過ごしていました・・

その一方で頭の中は、そのことだけを考え、狂いだしそうなのです・・・、
生きたい・・、この場から逃げ出したい・・・、
こんなに弱い男だったのかと、自分自身を軽蔑していました・・・・・」

その時を思い出したのでしょう、店の窓から見える街並みに視線をやり、神本は虚ろな表情を浮か
べていました。


[40] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(352)  鶴岡次郎 :2015/08/20 (木) 16:56 ID:Mlvj/caM No.2731

神本の覚悟は組の関係者誰もが知るようになっていました。そして、その日が来るのはどんなに遅
くても一週間以内だと囁いていたのです。そして二、三日が経ち、その日が、今日にもやってきて
もおかしくないと・・、事情を知る誰もが思っていたある日、組織を束ねる老組長の尾花から神本
に電話がありました。直ぐに組事務所へ来いという連絡で、いつものと違って少しハイテンション
な口調でした。

事務所に入ると数人居た組員が全員一斉に椅子から立ち上がり、神本に深々と一礼しました。この
儀式は今日に限ったことでないのです。二週間ほど前から何となく始まっているのです。

組長の部屋には幹部数人と組長の尾花がいましたが、神本が部屋に入ると一斉に彼に視線を当て、
彼らもまた組員と同様深々と頭を下げたのです。

ソファーに座るように勧められ、組長の前に神本は座りました。他の幹部は全員が部屋を出て行き
ました。部屋に残ったのは組長の尾花と神本だけです。

神本はひょうひょうとした表情です。既に決意を固めたすがすがしい表情をしているのです。組長
はそんな部下の顔を見ながら何故か、場違いな朗らかな表情をしているのです。

「神本・・、喜べ・・・、 
お前は死ななくていいことになった…」

「・・・・・・・・・・」

尾花が何の前置きなく結論から先に話しました。神本は組長の言葉の意味を良く理解できていませ
んでした。ポカーンと組長を見つめていたのです。70歳を過ぎた組長、尾花の目に涙が光ってい
ました。可愛い子飼いの部下神本が死を覚悟しているのに、彼は何もしてやることが出来なかった
のです。神本を見送った後、彼は引退を決めていたのです。

「助かったのだよ・・・、
先ほど総長から俺に直々電話があった・・・。
組の責任も、神本の責任も、問わないことにしたと連絡があった・・。
今まで通り、働いてほしいとおっしゃっていた…」

「総長が・・・、許すと・・・、
そう言ってくださったのですか・・・・。
本当ですか・・、信じられないです・・・・」

「そうだよ・・、助かったのだよ…」

「そうですか・・・・」

神本はふらふらと立ち上がり、窓際に行き、組長にも見せたくないのでしょう・・、カーテンに顔
を付け、肩を震わせていました。物心ついてから、人前で神本が泣いたのはこの時が最初で、おそ
らく最後だと思います。

その日の夜には神本は一人逝くつもりだったのです。侍の古式にのっとり腹をかっ捌いて最後を飾
ると決心していたのです。既に短刀は購入済みでした。遺書もそれなりにまとめていました。後は
刃を腹に突き刺せば、全てが終わることになっていたのです。
 
ひと時の激しい感情の動きをようやく抑えて神本が窓から離れソファーに戻りました。

「なぜ総長は・・、私を許したのですか・・・、
もしかして・・、組長が努力していただいたおかげですか・・・?」

「それが判らないのだ・・、総長から指示を受けたのは神本の罪と、組の罪を許すと言うことだけ
で、それ以上の情報は何も与えて下さらなかった。

もちろん、お前の助命願いは何度も、何度も出したが、正直に言えば、この件では私は一度も総長
にお会いすることさえできなかった。お前の助命願いは全て若頭経由だった。それほど、総長の怒
りは強いのだと私は理解して、申し訳ないが、私の力ではお前を救えないとあきらめていたのだ」

「そうですか・・・、
組長でないとすると・・、
私のことを思って総長を動かすことが出来る人・・、
そんな力のある方は他に思いつきません・・・・

もしかして・・、あいつが・・・、
いや、いや・・・、
そんなことは考えられない・・・」

何事か思いついた様子ですが、神本はその思い付きを口には出しませんでした。それほど、根拠の
乏しい思い付きだったのです。


[41] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(353)  鶴岡次郎 :2015/08/21 (金) 12:04 ID:sAzHzxu6 No.2732

真相が明らかになったのはそれからニケ月後でした。

総長の強い指示で、事の真相が表に出ないように抑え込まれていたのです。しかし、組の窮状を救うた
め、仕事の失敗を死で償うと覚悟を決めた神本の話は関係者の間ではあまりに有名な美談になっていた
のです。それが総長指示で白紙に戻ったのですから、誰しもその理由を知りたくなります。しばらくは
その秘密が漏れ出なかったのですが、どうやら総長周辺に仕える女の口からその話が一部漏れ出したよ
うなのです。

ひとたび漏れると、その話は尾ひれを付けてあっという間に広がりました。こうなると、いかに総長と
いえども、どうすることも出来ないのです。

「たとえ自殺でも野蛮なことは許さないと警察から横やりが入った・・」
「マスコミが嗅ぎつけたようだ、もし神本が死ねば大スキャンダルになるところだった」
「総長の隠された弱みを尾花組長が握っていて、その伝家の宝刀を抜いた」
「総長の権威と慈愛を示すため、ほとんどが演出された芝居だった。神本が死ぬことは最初から筋書き
になかったのだ」
「総長は以前から尾花組長の女にご執心で、今回その女を提供して、一時的に神本の首がつながっ
た・・」
「神本はいずれ鉄砲玉になる身、一年か、二年寿命が延びただけだ・・」
など、など、もっともらしい噂話が駆け巡ったのです。

このままでは根拠のないうわさ話が広がり、組に災いを引き起こすことになると総長は判断し、正しい
情報を出来る限り詳細に流すことにしたのです。下手に事実を隠せば、昔と違って数秒で情報は世界に
広がる時代ですから、噂がうわさを産み、とんでもない情報が広がる可能性が高いのです。そして、厄
介なことにいったん情報が拡散するとそれは事実として定着してしまうのです。

賢明な総長は情報社会を生き抜く術をどこかで学習したようで、その知識を今回の事件でも実行したの
です。そして、これも情報社会では大切なことなのですが、誤解が新たな事件を引き起こさないよう、
事件の当事者である尾花組長に真っ先に総長から直接電話連絡をしたのです。

老組長、尾花が神本に告げた内容によると、千春が一人で上部組織の総長宅へ出向き、損害の代償とし
て自らの体を提供することを願い出たのです。当時、神本と彼女は同棲を始めたばかりの頃で、どこか
らか神本の窮状を聞き出し、彼に黙って、総長宅へ一人で出向いたのです。勿論誰もそのことを知られ
されていませんでした。内縁の夫の窮状を知り、思い余った彼女が一人で判断した行為だったのです。

ああ・・、ここで読者の皆様にお断りしておきたいのですが、皆さまがご存知のように千春は神本の内
縁の妻ではありません、有名商社マン浦上の妻で子供もいます。神本の内縁の妻はまだ紹介していない
別の人物です。

千春に惚れこんだ山口をあきらめさせるには千春には夫がいることを告げるのが一番てっとり早いと考
えた神本でしたが、まさか浦上三郎の実名を出すことも出来ません、それで考えた末、神本本人の内縁
の妻にしたのです。その時、神本は内縁の妻との関係をこれほど詳細に説明することになるとは予想さ
えしていなかったのです。

ところが、千春に夫がいることを知れば諦めるだろうと思っていたのですが、山口は神本の予想を裏
切って、千春を譲ってほしいと逆襲に出てきたのです。こんなことになるのなら、最初から千春は人妻
で、夫の名前は明かせないと突き放しておけばよかったと後悔したのですが、〈時すでに遅し〉だった
のです。

神本は自身の経験した内縁の妻との苦しく悲しい過去の出来事を説明して、神本と内縁の妻との仲が容
易に切れないものであることを伝え、山口のひたむきな愛情に冷や水を掛けようと考えているのです。

本来なら、全てをご存知の読者の皆様には千春でなく内縁の妻の実名で神本が語る物語を紹介すべきと
ころですが、それでは刻々と変わる山口の感情の波を伝えることがややこしくなるのです。そこで、読
者の皆様も山口と同じように神本の嘘に乗っていただき、千春が神本の内縁の妻であるとここでは信じ
てほしいのです。そして、千春と神本の悲しくも心温まるストリーを山口と一緒に追っていただきたい
と思っております。よろしくご了承ください。


[42] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(354)  鶴岡次郎 :2015/08/25 (火) 14:20 ID:hPt7ak72 No.2733

勿論、神本が組織に与えた損失は千春の体で賄いきれるほど、簡単なものではありません。莫大な
損失を女一人の体で弁済したいと願い出れば、普通なら笑い飛ばされ、玄関払いされるのが関の山
なのです。しかし、たまたまその日、自宅に居た総長は玄関で騒いでいる千春の声を聞きとがめ、
軽い気持ちで玄関に顔を出したのです。

一目彼女を見た総長は千春のたぐいまれな美貌に一瞬言葉を忘れるほど見惚れていた・・と、側に
居た者が後で言っていました。総長は即座に彼女との面談を許し、応接間に招き入れかなりの時間
を割いて彼女の話を聞いたのです。

ここまででも異例中の異例の事態なのです。組で中堅クラスの神本だって、総長との面談はおろか、
声を掛けられたことさえなかったのです。

彼女の話を聞いた総長はしばらく考えた後、彼女に条件を提示し、彼女の申し入れを受け入れたの
です。結果、彼女は組織に5年間無償奉仕することになり、神本は無罪放免と決まったのです。


前にも言いましたが、千春がいかに絶世の美人でも、彼女一人をどう料理しても、莫大な損失をカ
バーすることは絶対できないのです。勿論そのことを総長は良く知っています。ではなぜ、総長が
千春の願いを聞き届けたのでしょう・・・。

そのことに関しては尾花組長にも総長は何も語りませんでした。ただ、信頼できる筋の話では絶世
の美女である千春を一目見て、総長はその頃彼が熱心に推進している大きな取引で、彼女の使い道
を思いついたようなのです。真相が明らかになった後、心無い人が面白おかしく広げている噂話の
ように、総長が千春に横恋慕したわけではないと思います。傘下に一万人以上の組員を抱える総長
が女の色香に溺れて、大きな事業方針や、組の運営方針を決めるはずがないと思うのです。

「そうですか・・、やはり・・・・、
私が無罪放免になったと組長から聞かされた時、もしかして彼女が動いたのではと思ったのですが、
突拍子もないことですから、その思いを組長に言うことさえできませんでした・・。

実は、あの日以来・・、彼女は自宅へ戻っていないのです・・・。
何かあったのかと心配していたのですが・・・、
個人的なことで騒ぎ立てるわけにもいかないので、
しばらく様子を見るつもりでいたのです・・・。

私を救うため、何処かに身を沈めたのですね・・・・

結局・・、
私は女房に命を救われた・・・、
この上ない、意気地なしの男なんですね・・・」

最期の言葉を吐き出すように言って、神本は力なく肩を落としていました。

「お前がそう思うだろうと総長も心配されて、この真相をひた隠しにされていたのだ。そして、千
春さんもこのことをお前に教えないでほしいと総長にお願いしたそうだ。それが、心無い噂話が行
き交うようになり、このまま放って置くわけには行かないと思われ、総長は事の真相を明らかにさ
れたのだ。

総長からお前に伝えてほしいと言われた・・。
気を強く持って、千春さんを待ってほしい、
根拠のない噂話に狼狽えることのないように・・・とおっしゃっていた。

私からもお願いする。ここで、お前が落ち込み、自棄になるようなら、千春さんの苦労も、総長の
ご配慮も全て台無しになる、いろいろな噂が立つだろうが、ここは堪えて、晴れて5年の年季が明
けて千春さんが戻って来るまで我慢してほしい・・・」

「・・・・・・・」

神本は黙ってただ頭を下げることしかできませんでした。


[43] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(355)  鶴岡次郎 :2015/08/26 (水) 11:31 ID:t3iJt8h. No.2734
その日以来、神本の立場は非常に苦しいものになりました。『命を差し出し、組の窮状を救おうと
した男』から、『女房を売って、命乞いをした男』に、彼の評価は急落したのです。

組の内外で彼の発言力は地に落ちました。誰も彼の言葉を信用しなくなったのです。組長も表向き
は彼を庇護してくれませんでした。それでも彼は組を抜けることなく、黙々と地を這うようにして、
新入りさえ嫌がるような末端の仕事をこなし続けたのです。


「流行の服を粋に着こなし、肩で風を切って街を流していた華やかな表舞台から、下働き以下の地
位に落ちたのです。死にたいと本気で思いました。しかし、勇気を奮い起こしてもう一度死を選ん
だとしても、笑いものになるのは目に見えていました。死ぬことさえ許されない状況に追い込まれ
ていたのです。

こんなことなら、あの時悩み続けないであっさり死んでおればよかったと、何度も思いました。そ
して、今思うとどうにも情けない話ですが、体を投げ出し私を救ってくれた千春の行為を憎んだ瞬
間もあったのです。

もちろん、そんな憎しみの感情が湧いたのはほんの一瞬のことで・・、
千春への感謝の気持ちはずーっと持ち続けていました・・」

命を助けるため苦界に身を沈めた千春の行為を憎むこともあったと語る神本の表情は暗く沈んでい
ました。

「幸いなことに、二年も経つとみんなが私のことを忘れてくれました。組の末端で若い組員に叱ら
れ、顎でこき使われることにも慣れました。組を出て、堅気に戻るよう組長から言われたこともあ
りましたが、千春が戻るまでは組に残ると決めていました。組への未練も、やくざ稼業への執着も
とっくに消えていました。ただここに居れば千春の情報がどこに居るより正確に早くつかめるはず
だと信じていたから組を離れなかったのです」

淡々と語る神本の表情が、千春の名前を出す度に少し柔らかくなるのです。その表情の変化を山口
は敏感に察知できていたのです。山口もまた千春のこととなるとすごく敏感になるようです。

「4年目を迎えるころには、生きていることに心から感謝出来るようになっていました。救ってく
れた千春に心から感謝をささげることが出来るようになっていました。仕事の失敗を死で償おうと
した4年前の自分を懐かしく思い出すことはありましたが、その頃に戻りたいとも、その時の自分
を誇らしいとも思わなくなっていました。

組の序列の中で一番下に位置づけられ、上に上がる可能性はゼロと分かっているのです。新入りが
どんどん上に上がっていくのをただ見ていました。
それでも幸いなことに、上の人から怒鳴られながらも、昔のよしみでしょうか、それともあまり期
待されていなかったせいでしょうか、あるいは組長の深い配慮の結果だったのかも知れませんが、
とにかく、やくざ稼業の中では比較的気楽な責任のない仕事を与えられていました。それは車の掃
除とか、日用品の買い出しとか、キッチンの手伝いとか、ヤクザの本業からかなり離れた仕事だった
のですが・・、そんなことをやっていました。

そんな仕事をしていると、不思議なことに、ヤクザの見栄や、しがらみから解き放たれ、次第に普
通の人間らしい感覚を取り戻すようになるのです。この頃から、千春への愛情と言うか、感謝の気
持ちは、日増しに強くなっていったのです・・」

神本は淡々と語っています。話の途中から、山口の表情から先ほどまで見せていた神本への恐怖心
が消え、神本への畏敬の気持ちが表れているのです、そしてその表情の裏には明らかな落胆の影が、
あきらめの色が広がっているのです。


[44] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(356)  鶴岡次郎 :2015/08/27 (木) 11:47 ID:P5Dz0uuQ No.2735
千春が消えてから5年が経過しました。ある夏の日、夜明け前、神本の住む安アパートの前にタク
シーが止まりました。助手席のドアーが開いて黒ずくめの男が素早く降り立ち、小走りで後部ドアー
の側に立ちました。ドアーが開き、形のいい白い足が伸びてきました。黒ずくめの男が恭しく左手を
差し出しています、慣れた仕草で白い手が男の手に伸びて、その手に支えられ、若い女が一人降り立
ちました。運転手として、個人執事として、黒ずくめの男は5年間こうして女の傍で仕えてきたので
す。今日が最後の仕事になることを男も女もよく知っています。

女は170センチ近い長身で、モデルにしたいほどのスタイルですが、身に付けている衣服は大人し
いフレアーの花柄スカートに白い半そでブラウスです。少し大きめのハンドバックを持っていますが
帽子は着けていません。夜明け前の薄暗がりの中でも、それとはっきり判るほどの凄さの漂う美女で
す。

黒ずくめの男がトランクから比較的大きなスーツケースを四個取り出し、女にその荷物の運び先を聞
いています。女は部屋番号を教え、バッグから鍵を取り出し男に渡しました。会話はどうやら日本語
でない様子です。女の発音も流暢です。

男は二個のスーツケースを持ち、鉄製の外階段を上がり、教えられた二階の部屋の前に立ち、迷うこ
となく鍵を開け、荷物を置き、急いで戻ってきて、残りの二個のスーツケースを部屋へ運び上げまし
た。その間、女はタクシーの側に立ち男の仕事をじっと見つめていました。

仕事が終わった男は女の傍に来て、深々と頭を下げました。女が男に一歩近づき、ハグしています。
男は直立不動です。女は男の頬に軽くキッスをして、男から離れました。女を見つめる男の瞳が
真っ赤になり、少し潤んでいます。女がそんな男に二言三言声を掛けています。男はただ黙ってうつ
むいていました。

女はスカートの裾を持ち上げ、ショーツを一気に脱ぎ取りました。夜明け前の薄暗がりの中でも
はっきりと女陰の陰が男には見えました。女はショーツを男に差し出し、一言、二言囁くように声
を出しました。どうやら、ここへ来る途中かなり前から男にショーツを与えることを考えていたよう
で、女の動きに無駄はありません。

男が両手でショーツを受け取り、丁寧に畳み込み、ポケットから白いハンカチを取り出し、ショーツ
を丁寧に包み込み、それをポケットにしまい込みました。

男がタクシーに乗り込み、タクシーはゆっくり動き出しました。やがてタクシーは薄暗がりの路地に
消えて行きました。女は赤いテールランプが路地の角を曲がるまで、車の後ろ姿を見つめていまし
た。


車が去った後に耳が痛くなるような静寂が訪れています。車が残した排気ガスの香りがあたりに立ち
込めていました。二階建てのプレハブアパートの前に立ち、女はじっとその姿を見つめていました。
女の頬に一筋、二筋、涙の跡が見えます。

ゆっくりと鉄製の階段を上がります。固い金属音がゆっくりと響きます。女は扉の前に立ちました。
表札には二人の名前、男の名前と女の名前が書いてありました。右手を伸ばし、女はそっとその名札
を撫ぜています。何度も、何度も女の指が名札を触っています。

扉を開けると、湿った、少しかび臭い匂いが女の鼻孔を刺激しました。三ヶ月以上この部屋に人がい
なかったことを女は知っているようで、驚いた様子を見せていません。それでも、そのかび臭い空気
の中に懐かしい人の香りを嗅ぎ分け、女は思わず涙をあふれさせています。

南に面して6畳の居間と6畳のDK、それにバス&トイレ、典型的なプレハブアパートです。部屋の
中は比較的綺麗に整理整頓されていました。女は居間のガラス戸を開けました。このアパートは高台
に建っていて、南側の窓からは街並みが展望できるのです。

窓を開けると赤さびた手摺と使い込んだ物干し竿があり、その向こうに町の風景が広がっています。
今顔を出したばかりの太陽が街を黄金色に染めています。

「きれい・・・・・・、
5年前と同じ…、
やっと・・、ここへ帰って来れた・・・・・」

女がぽつりと声に出しました。

女はその場に立ち、深々と深呼吸しました。あふれ出る涙が女の顎から滴り落ちています。


[45] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(357)  鶴岡次郎 :2015/08/31 (月) 13:40 ID:EvYe84ZI No.2736

10時ごろまで女はかいがいしく働きました。今まで住んでいた環境とあまりに違い過ぎるため、
最初は軽い戸惑いもあったのですが、体を動かしていると5年前の記憶が蘇ってきました。

部屋の掃除、洗濯、食器類の点検、食器類は5年前のまま手ずかずで残されていました。女の知ら
ない食器が二、三点と箸が一人前分増えていました。どうやら男は新婚家庭用に準備した夫婦セット
の食器類は使用しないで、5年間一人用の食器を別に準備してそれを使用していた様子なのです。
そのことを知り、女はまた涙していました。

四個のスーツケースの中身は衣類やバッグ、靴そして装飾品でした。それまで暮らしてきた身の回
りの品は勿論、高価な家具類まで含めて、女がその気になれば全て持ち出すことが許されていて、
輸送の手続きもやってくれることになっていたのです。それでも、これからの生活を考えて女は4
個のスーツケースに入る物だけを持ち出すことにしました。

それまでの過ごした屋敷には大きな衣裳部屋があり、その中にたくさんの衣類が収まっていました。
中には有名ディザイナーの手になる高価な物や、派手なパーティ衣装もあり、あれもこれも捨てが
たい気持ちで迷いに迷ったのですが、これからの生活を考えて思い切って地味な衣類を選んでスーツ
ケースに詰めたのです。

そっくり残されていた5年前の衣類とスーツケースから出した衣類を並べて比較すると、流行遅れは
致し方ないにしても、今の女の目で見ると、昔の衣類は恐ろしく派手で、とっぴなデザインと色彩の
物ばかりなのです。

「貧乏だったから質が悪いのは仕方ないけれど・・、
どうしてこんなものを着ていたのかしら・・・、
これでは・・、娼婦ですと公言しているようなものだ…、
とても身に着ける気になれない…」

女は口に出して苦笑いしていました。

5年の歳月が女の趣味を大きく変えたようです。街に立つ娼婦のような衣類だと女自身が言う5年前
の衣服に比べて、スーツケースから取り出した衣類は地味な色合いと控えめなディザインですが、全
てが女の美貌と品格をより際立たせる印象的な洗練された衣服なのです。

シャワーを使い、下着を取り換えて、散々迷った末、胸元が上品かつ大胆にカットされた半そでの淡
い茶のワンピースを選びました。ネックレスとイアリングは鈍い光を放つプラチナの小品です。今日
の訪問先のことも考えて、ごく普通の主婦の一寸した外出着のつもりなのですが、際立った美貌が災
いして、女の狙いとは逆に、質素で飾らない装いが女の持つ気高さをより目立たせる結果になってい
るのです。

小さめの茶のバッグを肩にして女は濃い茶皮のローヒール靴を履き表に出ました。8月の太陽はほぼ
真上に来ていて、容赦ない熱線を地上に降り注いでいます。表通りに出た女はそこでタクシーを拾い
ました。5年前であれば最寄り駅まで歩いたものですが、女はそんな習慣を忘れているようです。

10分ほどで目的の大きな私立病院へ着きました。受付でスタッフと一言二言、言葉を交わした女は
三階の外科病棟へ向かいました。通りすがりの男は勿論、ほとんどの人が彼女を見ています。たぐい
まれな美貌とモデルにしたいようなスタイルが人々の視線を引き付けるのです。そんな人々に女は控
えめに挨拶をしながら、目的の病室へ向かいました。


[46] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(358)  鶴岡次郎 :2015/09/01 (火) 14:19 ID:.5v6Syo. No.2737

その患者は特別室に居ました。応接セットを備えたかなり広い病室です。酸素吸入器を付け、全身
を包帯で巻かれた大柄な男が眠っていました。呼吸は正常で、容態は安定している様子です。

「目下のところは安定していますが、今夜から二、三日が山場です・・・。
正直言って、ここへ担ぎ込まれた時は、かなり難しい状態でした・・・。
ここまで持ちこたえられたのは・・・、
患者さんの生きようとする力のおかげだと思います…」

女が要請すると、直ぐに中年の担当医がやってきて、患者の様態を別室で女に説明しています。千
春の美貌に気おされしたのでしょうか、医者は少し緊張気味です。千春の前に香り高いティーが出
されています、これだけ見ても病院側のこの患者とその関係者への対応は丁重だと判ります。

銃と刃物による傷、そして患者の関係者達を見て、並の人たちでないと病院側は判断しているので
すが、それだからと言って、特別に警戒をしたり、怖がっている様子はありません。十分にお金を
使ってくれる上客と考え、それにあわせ丁寧に対応をしているのです。

「大丈夫なのですよね・・、先生・・」

「どんな患者さんに対しても・・・、
絶対大丈夫ですと医者は言えないものです・・。
我々は全力を傾けて対応しております・・・」

「先生・・・、主人を助けて下さい・・、
危険な状態に陥っていた私を救おうとして、
彼は…、酷いけがを負ってしまったのです・・・」

「・・・・・・・」

「もし・・、主人に万一のことがあれば・・、
私が殺したことになります・・・。
私は生きてはいられません・・・」

「・・・・・・・」

「私・・、主人を助けることが出来るのなら・・・、
私で出来ることがあれば・・、何だってやります・・・。
お願いします…、救ってください・・・」

「・・・・・・」

背筋が凍るほど、凄い美人が涙をあふれさせ、必死で懇願しているのです。二十年を超える医者生
活でも、これほど絵になる患者家族の表情を見たことがないのです。任せて下さいと言い切れない
担当医は、彼女の顔に視線を当てたまま凍り付いたようにしていました。

「ああ・・・、先生・・・、
何かおっしゃってください・・・、
そんなに酷いのですか・・、
先生が匙を投げるほどなのですか・・・」

「ああ・・、いえ、いえ・・、
酷いことはひどいのですが、治癒できない傷ではありません・・、
むしろ助かる可能性はかなり高いと思っております・・・。
万全の処置を施しておりますので、安心してください・・・」

医者の言葉を聞いて女は少しホッとした様子です。

「それにしても・・、あなたのような方にそれほど思われて・・・
患者さんは幸せですね・・、うらやましいと思います・・、

ああ・・、いや、いや、余計なことを言いました・・、
とにかく、私に任せてください、最善を尽くします・・・」

「よろしくお願い申します・・・」

千春が深々と頭を下げています。そして、ほんのりと頬を染めているのです。我を忘れて取り乱し
たことを恥じ入っているのですが、その風情がまた医者の心を揺さぶっているのです。


[47] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(359)  鶴岡次郎 :2015/09/02 (水) 11:54 ID:embuvv8A No.2738
一通り患者の様態説明が終わり、女もそれなりに納得しました。担当医として患者家族への説明は
全て終わったのです。それでも、医者は椅子から立ち上がろうとしません。忙しい身であるはずで
すが、もう少し女と会話を楽しむつもりになっているようです。どうやら、看護師がしびれを切ら
して迎えに来るまで、女とこの部屋にいると決めているようです。

「ところで・・、奥様のお名前は・・、
そうですか千春さんと言うのですね…、
それで納得できました・・・、

患者さんが夢うつつで奥様の名前を何度も呼んでいました・・。

夢の中に出て来た奥様に励まされて、頑張ったのですね…、
離れていても、奥様の励ましが彼を元気づけたのだと思います・・、
ここまで、本当によく頑張りました・・・」

医者の優しい言葉を聞いて大粒の涙があふれ出ています。大粒の黒い瞳が濡れて光っているのです、
前髪が数本白い額に掛って揺れています。そっとほほをぬぐう花柄のハンカチが見事に女の表情に
マッチしているのです。医者は仕事を忘れて女の仕草に見惚れています。

「並の患者さんなら・・、あの体で・・、あのような長旅をしたら・・・、
それこそ・・・、大変なことになっていました・・・。

いろいろ事情はあったと思いますが、あの移動は少し無謀でした・・・。

ああ・・・、もしかすると・・、
奥様はあの無謀な移動をご存じなかったのでしょう・・・」

「・・・・」

はじめから疑問に思っていることを医者はストレートに聞いています。親族であれば患者がどんな
にそれを望もうと、死につながりかねない、あのような無謀な移動を認めるはずがないと思ってい
るのです。

周りの関係者がある事情で・・、多分それは組織の利益を左右する事情があって・・、患者を日本
へ運ぶ必要が出て、むりやり患者を移送したと医者は疑っているのです。そうでなければ説明がつ
かないと医者は思っているのです。

「もし・・、人に言えないことで悩んでおられるなら・・・、
私で良かったら・・、話してみませんか・・・、
これでも医者と言う職業柄だとおもいますが、
口は固い方で、言うなと言われれば、殺されも口を開きません・・」

「・・・・・・」

この質問を受けて女はただうつむいて返事に困っている様子を見せています。

「いや・・、これは余計なことでした・・・・」

担当医はしゃべりすぎたことを恥じて慌てて口を閉ざしています。

瀕死の病床で妻の名を呼び続けた夫、夫を救うためなら何でもやり遂げようとする妻、これほど想
いあっているのに、瀕死の夫の入院に妻は立ち会うことが出来なかったのです。そして傷跡の異常
さを考え合わせると、何か深い事情が二人にはありそうだと医者は考えていました。出来ることな
ら、その訳を知り、女の力になりたいと思っているのです。しかし、今は、そこまでは聞き出す時
ではないと思い直しているのです。

ちなみに医者はいまだに独身です。何度か恋をしたことがあったのですが、恋の道より医学の道を
優先したのが災いして、女達は医者の元から離れていったのです。目の前に居る女が幸せになるの
なら、ひと肌脱いでも良いと医者は珍しく熱い思いを抱き始めているのです。男女の心の動きに敏
感な女がこんな医者の感情を察知しないはずがないのです。

「先生・・、お気遣いいただきありがとうございます…
詳しくはお話しできないのですが・・・、
夫が・・、命を懸けて働いてくれたおかげで・・、
私・・・、
今は・・とっても幸せです、ご安心ください・・・」

夫の異常な入院に立ち会うことが出来なかった妻の事情を知ろうと、立ち入った質問をする医者が、
好意以上の感情を持って接してくれていることを敏感に察知して、女は感謝の気持ちを込めて医者
をじっと見つめていました。医者は眩しそうに女の顔を見て、破顔して口を開きました・・。

「そうですか・・、それは良かった・・・、
あなたのような方が苦労するのは見たくないですからね…、

では・・、これで・・・
ああ・・、今眠っていますが、意識はしっかりしていますので・・、
目を覚ましたら顔を見せてあげてください。きっと喜ぶと思います・・」

「ハイ・・・」

話題を変えた医者を見て、女がホッとした表情を浮かべ、軽く頷いています。入院の経緯をそれ以
上追及して欲しくないのです。


[48] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(360)  鶴岡次郎 :2015/09/03 (木) 10:24 ID:z93g1nyQ No.2739

「ああ・・そうだ・・・、
もしご希望なら、今夜、奥様もご一緒に病室で過ごされてはいかがですか・・・・。
ご希望ならベッドと食事を準備させますが・・」

「お願い申します…」

「ああ・・、そうですか、承知しました。
ぜひそうしてやってください・・、患者が喜ぶと思います・・・。
粗末なものですが・・、後ほどベッドを準備させます・・」

その時ドアーをノックして若い看護師が入ってきて、無言で医者をにらみつけているのです。

〈・・ちょっと綺麗な人が来るといつもこうなのだから・・・、
時間ですよ・・、次の仕事が待っていますよ・・・〉

看護師の無言の表情はそう言っているのです。

「ああ・・、判った、判った・・
今すぐ行くよ・・・」

医者はそう言って立ち上がりました。看護師は千春に向かって一礼し、千春もまた頭を下げてい
ます。

〈きれいな方・・・、
先生がなかなか離れない気持ちが判る・・・〉

看護師が医者を見て、意味ある表情を残して先に部屋を出て行きました。

「ああ・・、それと・・、
何かありましたら、私に直接連絡を取ってください・・・
看護師には判るようにしておきますから・・・・」

女が一歩医者に近づきました。今日の訪問先に合わせて香水はつけていないのですが、女自身の体
臭でしょうか、妙なる、ふくよかな香りが医者の鼻孔を刺激していました。

「先生・・、これは些少ですが・・」

かなり厚い紙包みを女が差し出しております。

「イヤ・・、こんなことはされては・・・、
そうですか・・、それでは・・、遠慮なく・・・」

紙包みを白衣のポケットに慣れた仕草で納めています。

「先生・・・、
こんなことを申し上げると・・、
はしたない女と蔑まれるでしょうが・・」

ここで女は次の言葉を飲み込みました。これから言おうとしている言葉を頭の中でチェックして
いるのです。少し上気した表情で、瞳を潤ませ、それでも真剣な表情で、医者に強い視線を当て、
千春は何かを訴えようとしているようです。

「私・・・、
主人のために出来ることは何でもやりたいのです・・
後で後悔したくないのです・・・・」

「・・・・・・・・」

一方医者は・・、女が何を言い出すのか想像がつかない様子で千春をじっと見つめているのです。

「主人を助けていただけるのなら・・、
私を・・・、
私の身体を・・・、自由にしていただいて構いません・・」

「・・・・・・・・・」

一気にこの言葉を吐き出し、女は医者をじっと見つめています。その言葉の意味が分かったはずで
すが、医者は表情を変えないで女を見ているのです。


[49] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(361)  鶴岡次郎 :2015/09/05 (土) 15:18 ID:vXkA9qX. No.2741

「今の私には・・・、
お礼として差し上げることが出来るのはこの体しかないのです・・
私にとって夫の次に大切なものをささげて、お願いしたいのです。
主人をお願いします・・・」

「・・・・・・・・・」

医者はここでもただ黙って、女を見つめているのです。女は当惑していました。医者の反応が判ら
ないのです・・、いえ・・、医者が沈黙している理由は女には良く判っているのです。この作戦を
実行すると決めた時、一番恐れていたことが今起きていると女は悟っているのです。


治癒する可能性は高いと言って医者は千春をほっとさせたのですが、千春はその言葉を鵜のみには
していませんでした。生死の可能性は楽観的に見ても、半分半分だと思っているのです。カギを
握っているのはこの医者で、彼が能力と誠意を尽くして治療にあたってくれることが、夫の命を救
う唯一の道だと思っているのです。お礼のお金をさらに積み上げることも考えたのですが、医者の
立場を考えるとあまり過激な金額は反って彼をしり込みさせることになると思いました。それで、
次の手を考えたのです。

最初の出会いから言葉の端々に見せる医者の優しさ・・、医者が好意以上の感情を寄せていること
を女の感性が察知していました。『夫を助けたい』、『出来ることは何でもする』その強い思いが
後押しして、女の本能が自分の体を差し出す作戦を思いつかせたのです。

着ているシャツが少し汚れていて、ズボンの折り目が通っていない医者の服装、千春を女と見てい
る熱い視線等々、医者が独身か、あるいはあまり妻から大事にされていないと察知して、〈この男
なら・・、この作戦を実行しても、失敗はないだろう・・〉 と女の本能で判断していたのです。
そして、最悪のケースでも、つれなく断られて、恥をかくことはないだろうと踏んでいたのです。


一方、医者は何と答えてよいか、全くアイデアがないのです。頭の中が真っ白になり、何も考えら
れない状態なのです。それでも、女から誘われている事実は医者の男心を大いにくすぐっていて、
嫌な気分ではないのです。

デートの途中、恋人から突然『私を自由にしてもいい・・』と言われても、その恋が真剣であれば
あるほど、男は少し引きます。女を大切に思うからです。まして今日初めて会った女から・・、そ
れも瀕死の傷を負った患者の妻から誘われているのです。酒の席などでこの言葉を聞かされれば、
男なら誰でも戯言の一つも出し、それなりの対応が出来ると思いますが、医者は当惑の気持ちを通
り越して、ただ、ただ、驚いていました。それと同時に、凄まじい女の気迫に圧倒されているので
す。

『私の命を差し上げます・・・』、女がそう言っていると医者は受け止めていたのです。言葉の内
容はこの上なく隠微で、猥雑な誘いの言葉なのですが、そこにはぎりぎりまで追い込まれた女の覚
悟の気持ちがほとばしり出ているのです。

一目見た最初から好意以上の感情を抱いたきれいな女です、そんな女から誘われれば、男の劣情を
刺激されなかったと言えば嘘になります、しかし、浮いた気持ちになることなど到底できなかった
のです。あいまいな言葉を残し、その場から逃げるように去っても良かったのです。しかし、医者
は逃げませんでした。その場に留まり、鋭くも、悲しい女の言葉をしっかり受け止めていたのです。


[50] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(362)  鶴岡次郎 :2015/09/07 (月) 15:51 ID:CaFij5mg No.2742

医者の沈黙を見て、女はその場に居られないほど自身の軽率な言葉を後悔していました。娼婦の
素性を医者に気付かれたと女は思っているのです。一番恐れていた結果なのです、結婚前の一時期
そうした前科があるだけに、かなり動揺しています。

もう少し慎重に考えれば誰でもわかることだったのです。普通の暮らしをしている家庭の主婦がい
かに夫の命を助けるためとはいえ、初めて出会った男に体を差し出すことなど、絶対、起こり得な
いことなのです。そんなことが出来るのは日頃から体を売る商売をしている女に限られるのです。
そのことに千春もようやく気が付いているのです。

「先生・・・、
どうして・・・、何もおっしゃらないのですか・・・、
きっと・・、
こんなことを誰にでも言っている汚い女だと思っているのですね・・」

消え入りそうな声で千春はこれだけの言葉を絞り出し、恥ずかしさに堪えられないのでしょう、視
線を床に落としています。上から見ると彼女の首から肩にかけて、肌が朱色に染まっているのです。

その光景が・・、消えゆくような哀れな女の姿が・・、男の心を揺り動かしています。

夫を助けることだけ考えている女が、冷静な判断が出来ないまま、自身の体を差し出すと言う暴挙
に出たと医者は受け止めていました。愛する人が瀕死の重傷を負った時、人は時としてとんでもな
い言動をするものだと、それまで何度もこうした修羅場を経験している医者は千春の言動を左程異
常なものだととは思っていませんでした。まして、目の前にいる上品な女の素性が娼婦などと思い
もしていなかったのです。

そんなわけですから、女の甘い誘いをむげに断るわけにも・・、かといって、好意を受け入れるわ
けにもいかず、医者はただ黙りつづけるつもりでいたのです。そうすれば、いずれ冷静さを取り戻
し、女が自分から誘いを引っ込めるだろうと思っていたのです。

しかし、どうやら女は自身が娼婦だと思われたと誤解している様子なのです。これは医者の予想外
の出来事でした。哀れな女の姿を見て、このまま黙っているわけには行かないと、医者はようやく
口を開くことにしたのです。

「ああ・・・、いや・・・、決して・・、
汚い女などと思いません・・・。
それどころか、あなたのご主人を思う気持ちに、唯々、感動しているのです・・・。

私にはあなたが女神に見えます・・。
ご主人は幸せ者ですね・・・・
男なら、一度はそれほど、愛する人から想われたいものです・・・・」

「・・・・・・・・・・・・」

医者の言葉を聞き千春は言葉が出ないほど喜んでいました。

〈ああ・・・、よかった・・・・、
先生は私を娼婦と思っていないのだ・・・〉

千春は涙を浮かべて医者を見つめていました。そして、次に千春がとった行動は、おそらく彼女自
身も予定していなかった、本能的な動きだったと思います。

一歩近づき、医者の首に両手をかけて、ゆっくりと朱色の唇を医者の唇に押し付けたのです。医者
はただその場に棒のように立って、彼女の行為を受け入れていました。女はつま先だって背の高い
医者の唇に体を合わせています。彼の手はしっかりと女の腰を支えているのです。

「ベストを尽くすことを約束します・・・。
奥様のためにも・・・・、最善を尽くします・・・
奥様も気を強く持って、旦那様を励ましてください・・・
ここで奥様が倒れたら、元も子もありませんから・・・・」

千春の肩に両手をかけて、医者は女の顔を覗き込むようにそう言って、潔く背を向けて、部屋を出
て行きました。その足取りは軽やかでした。

〈ああ・・、先生・・、
口紅を付けたまま・・・、
でも・・、誰も気が付かないはず・・・〉

医者の背に、深々と頭を下げながら、女はいたずらっぽい笑いをかみ殺していました。全てをやり
つくした満足感が女の表情に現れていました。


[51] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(363)  鶴岡次郎 :2015/09/08 (火) 13:40 ID:zbzx47NI No.2743
神本達6人の勇士は全身に数えきれない傷を負い、あるビルの地下駐車場に居ました。もう数時間
も戦っているのです。

おそらくこのビルの外にはかすかですが銃声音は聞こえているはずです。ビル・オーナーが地元の
名士であり、権力者ですから、誰かが異常音を連絡しても、警察はビルの警務室に連絡をして、異
常がないと言われればそれ以上の介入はしないのだと思います。

既に敵味方共にかなりの負傷者が出ているのです。それでも、鬼神もかくやと思われる神本の超人
的な働きと、強い闘争心に支えられて、神本の達6人全員の戦う意欲は衰えていませんでした。

味方の三倍は居る敵の攻勢に堪えかねた神本達が、背後に壁を背負う背水の陣を敷いて、ここが死
に場所と覚悟を決めた時でした、それまでに圧倒的な攻勢をかけていた敵が、潮が引くように、神
本達の前から消えたのです。

後でわかったことですが、両軍のトップ同士の間で話し合いがつき、敵の軍勢が引き上げたのです。
その後数時間、神本達は古びたビルの片隅で籠城をつづけました。夜明け前、抗争停止の連絡がよ
うやく届いたのです。戦いが終わったと聞かされた時、神本達6人はその場に立っていられないほ
ど疲労困ぱいしていました。

直ぐに負傷者全員その地の病院に担ぎこもれ、輸血や傷の手当てを受けました。その二日後、医者
が止めるのを聞かないで、一番重症な神本だけが4時間の飛行機旅を敢行して日本に戻ってきたの
です。飛行機旅は一等席を数席買い取り、現地の医者と看護師が同行しました。そして、空港から
救急車を飛ばして、都内の有名私立病院に担ぎ込まれたのです。この病院は以前から神本の所属す
る組織が大切にしてきたところで、普通ならかなり問題になる患者の神本を病院側はすんなりと受
け入れたのです。

『日本へ帰りたい』、『死ぬのなら日本の地を踏んでからにしたい・・』と血の叫びをあげる神本
の言葉を組織の幹部は全面的に受け入れたのです。ほんの少し前、神本は組織の中では誰からも顧
みられることがない最下級の組員だったのです、それがこの戦場で、敵味方共に「鬼神」と呼ぶの
を憚らないほどのヒーローに変貌していたのです。

どんな組織でもそうですが、神本の所属する組織では特に、命を懸けた戦いにおけるヒーローの言
葉は絶対と言う伝統があるのです、組織の幹部たちは医者たちを説得して神本が要求した蛮行、日
本への移送をやり遂げたのです。

飛行機旅も、途中のケアーもふんだんに金を使って考えられる限りの手を尽くしました。その甲斐
あって、とにもかくにも、生きて治療を受けられる状態で日本の病院に担ぎ込まれたのです。

現地の医者は勿論、日本の医者も、瀕死の重傷を負った神本の日本移送と言う無謀な要求に眉をひ
そめながらも、献身的に働いてくれました。たぶん、神本の声にならない叫びを受け入れ、たとえ
それが蛮行とも呼べる行為であったにしても、仲間の組織員が結束して必死でやり遂げようとして
いる姿勢と意欲が、医者たちの心を揺り動かしたのかもしれません。


「待ちに待った、五年の年季が明けました・・。
それでも、すんなりと当初の約束が守られたわけではなく・・・、
お定まりのように、いろいろありましたが・・、
最終的には、晴れて・・、千春を取り戻すことができました。

彼女には言いませんでしたが・・、
私はその時密かな誓いを立てました・・・、
彼女にこの命をささげると誓いました・・。
その気持ちは今も変わっていません・・」

千春への熱い気持ちを神本は静かに語っています。大怪我を負い、生死の境をさまよった戦いの話
は山口には話さないと決めている様子で、『いろいろありましたが・・』の言葉で片づけているの
です。もし、本当のことを知ったら、山口の神本に対する気持ちは更に高いものになっていたと思
います。眩しいものを見るような目で山口は神本を見ていました。


[52] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(364)  鶴岡次郎 :2015/09/09 (水) 16:46 ID:DJ/XTMmY No.2744

「千春が戻ってからちょうど一年・・・、
色々とごたごたはありましたが・・・、
私と千春は組を抜けることができました・・・。

堅気で平穏に暮らす・・、
それさえあれば、他に何もいらない・・・
二人の気持ちはその点で一致していました。

ひょんな縁で今の親方と知り合い、拾い上げていただき、
何も聞かないで、私と千春に住まいを与えていただき、
私は親方の店で働かせていただくことになり、今日にいたります・・・・」

静かに話す神本の言葉に山口が何度も、何度も頷いています。

「中学を卒業して直ぐに組織に入りました。そこでの生活しか知りません。そこを抜けた時はどう
生活していいか皆目わかりませんでした。堅気で生活するイロハを親方から教わりました。親方に
は言葉で言い尽くせないほどお世話になりました・・・・、足を向けて眠れない気持ちです・・・」

この場に佐王子本人がいるように神本は深々と頭を下げているのです。畏敬の気持ちをその表情に
浮かべ、山口は神本をじっと見つめていました。

「私はもうじき50になりますが、今が一番幸せな時間だと実感しております・・・」

しみじみと語る神本の気持ちが山口にはなんとなく判るのです。命の危険を感じることのない安穏
な生活のありがたみは、その生活を失った時初めて気が付くのだと、山口は納得していたのです。

「親方のおかげで経済的には彼女を店で働かせる必要はないのですが、時々彼女は東京のソープ店
に出ています。多分、その仕事が好きなのだと思います。そして、店に出ていると、いろいろ誘惑
も多く、色事が好きですから、外で他の男に抱かれることもあります・・。

あなたには申し訳ないのですが・・・、
あなたとの出会いも彼女の好色な遊び心から出来た縁だと思います・・・」

山口が悲しそうな表情を浮かべ軽く頷いています。

「後になって、あなたの気持ちを幸恵さんから知らされて、若いあなたを迷わせたことを千春は本
当に悔やんでいます。あなたの純真な気持ちを結果として弄んだことを千春は本当にすまなかった
と言っています。直接お会いして頭を下げたいと言う彼女を押しとどめたのは私です・・・。

あなたとお会いすれば、千春だって女です、魅力的なあなたを見れば、そんなに強くあなたを拒否
することができなくなるはずです、そうなれば、あなたを余計に苦しめることになると思ったから
です。

私からも謝ります・・・。千春を許してやってください・・」

話を終えた神本が山口を真正面から見つめて、そして深々と頭を下げました。感情が高まり、涙が
溢れそうになるのをかろうじて抑え込み、山口もまた深々と頭を下げていました。完璧なまでの敗
北感で山口は押しつぶされそうになっていたのです。

〈千春さんを愛する気持ちでは決して負けていない・・、
しかし・・、地獄の苦しみの中を生き抜いた二人だ…、
僕など入る隙間は、彼らの仲には存在しないのだ・・・・
彼らの間には不滅の絆が存在するのだ・・・〉

これほど強い絆で結ばれた男と女の関係を山口は他に知りません。その中に割って入るのはほぼ絶
望的だと感じ取っていたのです。彼女を奪い取る自信が・・、彼女と暮らす楽しい夢が・・、彼の
中で音を立てて崩れていくのを、山口はじっと見つめているのです。


[53] フォレストサイドハウスの住人達(その11)(365)  鶴岡次郎 :2015/09/10 (木) 15:34 ID:wxS83My2 No.2745

神本が・・、多分本人はそのつもりはなかったと思いますが、止めの刃を山口の胸に深々と差し込
みました。

「千春は私の命そのものです・・。
今こうして曲りなりに生活できているのは全て彼女のおかげです・・、
おそらく彼女なしではこの先、私は一瞬たりとも生きてゆけないと思います・・・、

だからと言って、無理やり彼女を私に縛り付けておくつもりはありません・・
彼女が去ると言えば、私は黙って頷くだけです・・、
多分・・、その後・・、私は一人静かに命を絶つと思います・・・・」

「・・・・・・・・・」

驚くべき覚悟を、一つ間違えば戯事ともとられかねない覚悟を、何事もないように平然と妻の浮気
相手である若い山口に語っているのです。驚きの表情を隠さないで山口は神本を見つめていました。

〈千春を奪うなら・・、
俺を殺してからにしろ・・・〉 

言外にそう言っている・・・と、山口は受け止めていたのです。凄まじい殺気さえ山口は感じ取って
いたのです。

恐ろしく時代がかった、こっけいにも取れる言葉ですが、聞いている山口には彼の言葉が不自然に
は思えないのです。千春に心底惚れている山口だからこそ、千春を神だと讃え、千春は自分の命そ
のものだと、語る神本の気持ちが良く判り、千春との別れは、それは自身の死を意味すると言う神
本の言葉をその言葉どおり受け入れることが出来たのです。完全な敗北を山口は噛みしめていまし
た。

「長い話になりましたが・・、
どうでしょう・・、山口さん・・・、
千春のことはあきらめて、許していただけますか・・・・」

「こちらこそ、ご迷惑をかけました・・・。
人には話せないお二人の秘密までお聞かせいただきありがとうございました。
これから先、このことでご迷惑をおかけすることは絶対ないと思います・・。
何時か・・、お二人のような結婚が出来ればと思っています・・。
それでは・・、これで失礼します…」

山口が立ち上がり、一礼して、大股で店を出て行きました。一度も振り返ることなく・・・。

それ以降、山口は幸恵の店にも、アパートにも顔を出さなくなりました。『俺の女に手を出すな』
と、少し凄みを聞かせたと神本は幸恵に報告したそうです。

勿論、山口が口を開かない限り、二人の男が喫茶店で対決した真相は誰も知らないのです。そして、
おそらく、山口に語った神本の話・・、妻が突然消えて以来5年間、神本は千春への愛を貫き通し
たこと・・、そして、妻もまた、夫のひたむきな愛に応えて、5年後には夫の元へ戻ってきたこと、
こうした事実を山口以外、誰にも話したことがないと言う神本の話に嘘はないと思います。そして
おそらく、これから先、神本が夫婦の話を人に話すことはないと思います。人妻に真剣にほれ込ん
だ山口のひたむきな気持ちに報いるため、山口は重い口を開いたのです。

神本の話を聞いて、互いに信じあう男と女には怖いものは何も無い、真剣に惚れると言うことはど
んな時でも相手を信じることが出来ると言うことだと、山口は確信できたと思います。これから先、
山口は神本とその妻の深い絆を事あるごとに思い出すでしょう、その思い出のストリーが山口の心
を和ませ、勇気づけることになると思います。


[54] 新しい章へ移ります  鶴岡次郎 :2015/09/11 (金) 14:16 ID:UJ4zW1Bo No.2746
新スレを立て、新しい章へ移ります。ジロー


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