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フォレストサイドハウスの住人たち(その6)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 16:25 ID:qM/Z/gzY No.2480

佐王子に説得されて、シュー・フィッターの仕事に専任することを決意した加納千春は、佐王子が
描いた戦略通り、見事に闇の仕事を切ることに成功しました。それだけではなく、仲間の店員たち
も彼女の巧みな誘導で足を洗うことができたのです。一番喜んでいるのは何も知らされていない店
長かもしれません。
さて、闇の仕事を切り捨てた千春に次の仕事が待っています。佐王子の言う通りであれば、「管理
された形で売春をする仕事」が待っているはずですが、どんな展開が待っているのでしょうか、相
変わらず普通の市民の物語を語り続けます。ご支援ください。なお、トンボさんのご指摘に従い物
語の冒頭で、これまで語ってきた登場人物を整理して説明をいたします。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました(2)』、文頭にこの記事があれば、記事番号1779に
    二回修正を加えたことを示します。ご面倒でも読み直していただければ幸いです
                                        ジロー   


[2] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(132)  鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 16:33 ID:qM/Z/gzY No.2481

千春の結婚

加納千春の物語は、一区切りまで、もう少し続くのですが、彼女の近状報告をする前に、ここらで今
まで語り続けてきた他の女たちのことを少し整理させていただきます。

何度か断片的に紹介しているのですが、フォレストサイドハウス(通称FSハウス)があるこの町
の概要を改めて説明したいと思います。

都心からメトロに乗って20分弱、メトロに接続した私鉄沿線にこの町は広がっています。駅前に
泉の森公園が広がっています、・・と言うよりは公園の側に地下駅の入り口が作られているのです。
したがって、通常の私鉄沿線駅前の様に、駅を中心にして商店街やマンションが立ち並んでいるわ
けではなく、公園の側に地下駅の入り口がひっそりと存在する。そんな光景です。

公園は一丁目一番地にあり、ここを中心にして町は東西にそれぞれ、西八丁目と、東八丁目まで市
街地が広がっています。本来ですと、土地番地を西二丁目とか、東四丁目と呼ぶべきところですが、
土地の人は西と東を省略して、単に二丁目とか、四丁目と呼びます。したがって、この町には二丁
目が二つ存在するのですが、土地の人は特に困っている様子ではありません。この物語でも特に問
題がある時以外は土地の習慣に従い二丁目とか、四丁目とか呼ばせていただくことにします。

公園の北側に隣接して、・・と言うより公園の敷地内に泉の森荘が建っています。この建物は公園
より、そして地下駅より、その建造歴史が古く、この周りが原生林に取り囲まれていたころから、
現在の位置に建っていたといわれています。この建物はいわゆる賃貸アパートで、その管理人夫妻
が美津崎一郎と愛です。美津崎夫妻と泉の荘の住人については先に紹介した作品「一丁目一番地の
管理人」を参考にしてください。 

泉の森公園は一辺が5キロメートルほどの正方形の地形で、その中央に地名の由来になっている泉
があり、一説では富士山からの流れ落ちた伏流水がここで湧き出ていると言われていて、今でもコ
ンコンときれいな水が湧き出ています。このわき水で出来た直径500メートルほどの池が、公園
の中央にあります。池の正式名はあるはずですが、土地の人はただ池と呼んでいます。

池の周りはうっそうとした原生林に取り囲まれていて、森の中を縦横に散策道路が走っています。
FSハウスは泉の森荘と公園を挟んだ対面の位置、公園の南側に片側二車線の道路を挟んで建って
います。

この物語の発端で、泉の森荘の管理人夫人、美津崎愛を訪ねようとして、公園内の散策路を歩いて
いた鶴岡由美子が公園のベンチに座っている初老の男性、佐原靖男に遭遇するのです。後で判った
ことですが佐原は大手生命保険会社の役員で、50歳過ぎですが、泉の森荘へ急ぐ由美子が思わず
足を止めるほどの魅力を持ったイケメンでした。

哀れを誘うイケメン佐原をそのままに捨て置けない由美子が声をかけると、彼女のやさしさと不思
議なオーラに動かされたのでしょうか、初対面の由美子に男の妻幸恵が失踪したことを告げたので
す。

根がおせっかいの由美子は妻に失踪された佐原の自宅を訪問することになります。佐原の自宅はF
Sハウス1613号室でした。由美子が佐原宅を訪問した時、偶然、隣室1614号室から出てき
た男性と、狭く、薄暗い廊下で肩を触れ合うほど接近したのです。その男はどうやら隣室の住人で
はなく訪問客のようで、男は由美子に気が付きませんでしたが、由美子はその男の顔に見覚えがあ
りました。男は昔チョットした因縁のあった竿師、佐王子保だったのです。

佐原の自宅を訪ねた由美子は幸恵の失踪した後のキッチン、居間、そして彼女の部屋を見て、幸恵
が拉致されたのではなく、自分の意志で家を出ていったことを察知していました。そして驚いたこ
とに、幸恵は佐原が勤めに出た後、何度か自宅へ戻っていることも分かったのです。

〈・・幸恵は自宅近所に身を潜めている。命の危険はなさそうだ、夫婦間の愛憎に絡んだ失踪かも
しれない、そして、幸恵の失踪には隣室に出入りしている竿師、佐王子保が何らかの形で絡んでい
る可能性が高い・・〉

由美子はそう断定していたのです。


[3] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(133)  鶴岡次郎 :2014/02/27 (木) 15:58 ID:cZ3CpOAU No.2482

門倉悠里と峰岸加奈、二人はFSハウスの住人で、共に30歳代中ごろの女ざかりを迎えているの
ですが、子宝にまだ恵まれていません。一流会社に勤める夫が出勤した後は、暇な時間をカラオケ
に費やすのが二人の楽しみになっているのです。

二人は数年前、ほとんど同じ時期にこのFSハウスへ移り住んで来て知り合いになりました。感受
性が高く、万事に奔放な考え方を示す悠里と慎重で頭の良い加奈は、一見正反対の性格でとても気
が合いそうには思えないのですが、どうしたわけか、初対面の時から心を許しあえる気持ちになり、
間もなく無二の友達になっていました。

二人の夫は目下出世街道をまっしぐらに走っているエリートで、どうしても妻への愛情表現に手抜
きが出る年頃なのです。そんな二人の楽しみはカラオケです。家事を朝の内に済ませると、昼過ぎ
隣町のカラオケ店に入り、午後4時ごろまでここで過ごすのです。最初は純粋にカラオケを楽しん
でいましたが、ひょんなことからカラオケ店に来た男たちと知り合いになり、楽しい時間を過ごし
たのです。一度男たちと楽しい時間を過ごすとその味が忘れられなくなり、カラオケ店へは男漁り
が目的で来るようになったのです。彼女たちの男選びの基準はしっかり決まっていて、イケメンで
ある必要はなく、後腐れのないセックスが出来る男、面倒を引き起こさない男、それを基準にして
選んでいるのです。そしてどんなにいい男に巡り合っても一度限りと決めていて、決してリピート
はしないと決めていたのです。

ある日、いつもの様に男を待っている時、部屋のドアーを開けて一人の中年男が二人を訪ねてきま
した。最近複数の男を相手にする面白さを覚えていた二人は、単独で訪ねてきた男を断るつもりで
した。その男を追い払うため加奈が立ち上がり扉の側に立つ男に近寄ったのです。男まで一メート
ルに近づいた加奈は、何か大きな衝撃を受けたようで、一言も言葉を発することができないまま、
その場に立ちすくんでいました。

男は170センチに満たない身長で、スリムといえば聞こえはいいのですが、少し痩せ気味で、そ
れがその男をすこし貧相に見せていました。面長の顔は良く見れば、それなりにいい男なのですが、
睫と鼻が異常に目立つ濃い顔で、そのため全体にアンバランスな印象を受けるのです。ただ、一度
会うと決して忘れないと思える顔でした。そして何よりも、一目その男を見た女は・・、どんな境
遇の女であっても・・、その男を意識せざるを得ない心境になるのです。たぶん、女性だけが、い
え、メスだけが感知できる動物的な魅力をその男は身につけているのだと思います。

加奈は無言でその男の手を取り部屋に引き入れました。少し離れたところからその様子を見ていた
悠里は少し不機嫌になっていました。悠里にとって、男の質はどうでもよくて、数が重要なのです。
少なくても、三人以上の男を同時に相手にすることを悠里は望んでいるのです。

そんな悠里でしたが、その男が近くに来て、彼の香りを嗅ぎ、彼の持つ得体の知れないオーラを全
身で感じ取った時、腰が抜け、全身が痙攣するほどの衝撃を受けていました。大げさに言えば、男
が大きな男性器に見えたのです。下半身から力が抜けて、女性器が滴るほど濡れているのを感じ
取っていたのです。

二人の女はその男、佐王子保に溺れました。それまで男たちに抱かれ、何度も何度も昇天し、全身
の水分をすべて吐き出すほど感じても、そして、男たちがどんなに熱心に誘っても、決してリピート
に応じなかった二人ですが、ここへ来て、佐王子以外の男と遊ぶ選択肢を二人の女は自ら進んで捨
ててしまったのです。こうなると遊びが遊びでなくなることを、二人の女は一番良く知っていて、
それを警戒していたのですが、女の本能に理性が負けたのです。

佐王子と会うのであれば、わざわざカラオケ店に行く必要がなく、二人の女と一人の男は、昼間か
らシティ・ホテルの一室で絡み合うようになったのです。しかし、よく言われることですが、よほ
どのことがない限り、3Pの関係は長続きしません、加奈と悠里も、結局佐王子を取り合うことに
なり、同じマンションに暮らしていながら、二人の女は間もなく顔を合わせることさえしなくなった
のです。

二人の女が互いにけん制しあっている隙間をうまく突いたのでしょう、佐王子は悠里を攻め落とし、
当初の狙い通り彼女の自宅を根城にした売春婦に仕立て上げることに成功したのです。

一方、加奈は佐王子の本心を見抜き、佐王子の魔の手から親友、悠里を救い出そうと決心したので
す。彼が女に使用する媚薬に秘密があると察知した加奈はその媚薬に対抗する手段を見つけるため、
あちらこちらに出かけて、何やら懸命に調べているようです。いずれ、加奈が佐王子に真っ向から
対決するシーンを目にすることになると思います。


ここまでFSハウスに住まう人々の生活を少しだけ垣間見てきました。何不自由なく幸せな生
活を送っているように見えるFSハウスの住人も、一皮剥けば、心の闇を抱えている人々が多
いことに気が付きます。そしてそうした人々の心の闇にこっそり分け入り、そこに住み着いている
人物の存在に我々は気が付きました。

竿師、佐王子保。本来彼の活躍場所は燦々と日の当たるFSハウスのような表舞台ではないは
ずです。ごみごみした都会のうらぶれた街角にひっそり建つ、薄汚いアパートが彼には似合うので
す。それでも彼は、何故か、このFSハウスに彼の拠点を構築しようとしております。

既に、FSハウスの自宅から失踪した幸恵はどうやら佐王子の罠にはまっているようですし、悠里
は彼の手にかかり自宅で売春稼業を始めました。そして、FSハウスの他の部屋、われわれの
目の届かない誰かの部屋で、彼の体に屈した主婦が悠里と同じように仕事をしているかもしれない
のです。

これから先、佐王子が仕掛けた糸に釣られた女がどのように生き、どのようにあがくのか、その物
語をゆっくり追ってゆきたいと考えております。


[4] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(134)  鶴岡次郎 :2014/02/28 (金) 13:54 ID:Zv4UM1Hs No.2483
ここでまた、加納千春の物語に戻ります。今のところ、千春とFSハウスとの縁は見えませんが、
既にこの物語のキーマン佐王子とは遭遇していて、彼の軍門に下り、彼の目指す「ビジネスとして
管理された売春」の一角を担う一人に登録されそうな流れです。

闇の仕事から足を洗って三ヶ月、千春は元気に働いています。時折、肌寂しく感じる時はあるので
すが、どうしても我慢できなくなると佐王子に連絡するのです。そうすると時間を空けて千春を抱
いてくれるのです。

今日も元気に千春は働いています。フイッテイングルームで、千春は50過ぎの見るからに洗練さ
れた紳士の相手をしています。どうやら、これと思う一足が決まった模様です。紳士がクレジット
カードを出し、千春が携帯端末で決済処理を済ませました。そして、靴の入った紙袋を紳士に手渡
しました。その瞬間、紳士がポケットから名刺大の赤いカードを取り出し、千春に手渡しました。

一瞬ハッとして千春が紳士の顔を見上げました。紳士も千春の顔を直視しています。

「よろしければ、今晩いかがでしょう・・」

千春はその場に凍りついたように紳士を見つめていました。一分ほどそのまま時間が経過しました。
やがて、ニッコリ微笑んだ千春が口を開きました。

「私でよければ、喜んで・・、
それでは、少々お待ちください」

個室から出た千春は自身のロッカールームへ戻り、名刺大のメモ用紙を手にして戻ってきました。

「ここでよろしいでしょうか・・」

紳士がメモに視線を走らせ、黙って頷いていました。千春は店の玄関までその紳士を見送りました。
カウンターの中に居る店長もニコニコ顔でその紳士に頭を下げていました。勿論、靴を買い求めて
くれた顧客への挨拶です。まさか、千春の身体も売れたとは店長は想像さえしていないのです。


陰の仕事の最終交渉はほとんど千春の勤める店内で行われます。佐王子と事前に交渉を済ませてい
る紳士が赤い札を差し出し、そのお客で問題ないと判断すれば、千春は小さく頷き、赤い札を受け
取り、メモを手渡すのです。そこには今夜の時間と場所が記入されているのです。これでその夜、
彼女はその紳士に買い取られることになるのです。もちろん、彼女の好みで商談不成立にすること
も許されているのですが、体調不良の時以外、彼女はお客を断ったことがありません。

お客のほとんどは中年過ぎの社会的に高い地位に居る紳士で、売春の代金は別ルートで決済され、
千春は給料の数倍に当る金額を毎月手にするようになっていました。

お客達は店で働く千春を観察し、最終的に千春が気にいれば赤い札を差し出すのです。実物を見て、
千春への興味が失せるようなら、そのまま店を出ればいいのです。

これまで千春を見て、断った男は居ません。女性にそれほど飢えていない男達で、その上かなり高
額の料金を事前に支払っているわけですから、彼らはなまじの女では納得しないのです。もし、美
しく着飾った千春をキャバレーの薄暗い照明の下で見れば、千春ほどの女でも、何人かのお客は赤
い札を出すことをためらうことがあると思えます。
しかし、一流店舗の中で、制服姿で生き生きと働く千春を見ると、彼等の興味と欲望は一気に膨れ
上がり、千春を早く自分のものにしたいと思うようです。

女性は普段の生活場所の中でこそ本当の美しさを見せるものですが、佐王子はそのことをよく知って
いて、職場や、家庭の中で働く普段着姿の女たちをお客に見せることで、女たちの本来の魅力を男
たちに見せつけているのです。佐王子が特別の売春拠点でなく、FSハウスのような普通の生活拠点
を彼の稼業の拠点として選んでいる理由がなんとなくわかります。女を最高の状態で見せることに長
けた佐王子の巧みな仕掛けがここでも大きな効果を発揮しているのです。


[5] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(135)  鶴岡次郎 :2014/03/01 (土) 13:40 ID:nGTOWyI2 No.2484

千春自身にも大きな変化が出ています。以前は靴を売りたいがための献身的なサービスが高じて、
先輩の春美に見習って体さえも差し出すようになり、最初こそおずおずと抱かれていたのが、慣れ
てくると好色な体質からにじみ出る欲望を抑えることができなくなり、その行為そのものにのめり
こむようになり、ついには商売気抜きでお客の顔を見れば、習慣的に体を差し出すようになってい
たのです。

そんな状態ですから、男たちに抱かれた後は自己嫌悪感と罪悪感にいつもさいなまされていたので
す。おそらくその状態が続けば、お店で買春行為がバレる前に、千春は精神的に崩壊し、職を離
れ、社会の底辺にまっすぐに落下する道をとることになったと思えるのです。

佐王子と知り合い、彼のマネージメントの傘下に入ってからは、表の仕事と一線を画して、体を売
ることが仕事と割り切って男に抱かれることになったのです。普通であれば売春行為は女にとって
転落の一歩なのですが、千春の場合は違いました。

抑えきれないきれない体の要求に耐えかねて、周囲の目を盗んでこそこそとお客を誘惑する必要が
なくなり、佐王子に連絡すれば、毎日でも男に抱かれることができるようになったのです。以前に
比べて千春の精神状態は極めて安定しているのです。勿論、体を売っていることへの罪悪感は皆無
ではありませんが、だれに迷惑をかけるわけでもないと割り切れば、もともと好色な体質を持つ千
春はこのアルバイトを楽しむ余裕さえ持つようになり、昼間は店員、夜は娼婦の生活に違和感を
持たないで馴染んでいるのです。

また、佐王子に紹介された医院へ定期的に出向き、避妊や感染病への対策を処置してもらうように
なり、その関係の心配が消えたことも千春の気持ちを安定させる一要素にもなっているのです。

もともと好きでシューフィッターの道に入った千春ですから、迷いの消えた千春はすべての情熱を
この仕事に向けています。そして今では、実績とその能力から紛れのなく店内で一、二を争う
フィッターになっているのです。

この店では、シュー・フイッターは単に靴だけでなく紳士のファッションに関しトータルコーデイ
ネーションにまで手を伸ばすのが普通になっています。というのも、千春の勤める店は靴店からス
タートしたのですが、その後服飾関係や、バッグ、アクセサリー部門にも進出して、今では男性
ファッションの一流ブランドの一つにまで成長していて、一階が千春の勤める靴売り場で二階、三
階が高級紳士服と小物を扱う店になっているのです。その関係で、お客が望めば千春達はトータル
コーデネイトをやることも珍しくないのです。

千春に赤い紙を出し、彼女を買い求めることになったお客たちは、彼女のご機嫌どりのつもりで、
彼女にアドバイスを求め、靴や衣服を買い求めることがあります。それまで靴や服装に気を配らな
かった男性たちがほとんどだったのですが、千春が与えたファッションアドバイスで買い求めた靴
や衣服を身につけると、妻や部下がまず驚き、男達もまんざらでない気分になるのです。そして、
それまではどちらかというと自信の持てなかった自身のビジュアル面でもかすかな自信を持つよう
になっていたのです。

そうなると不思議なことに男達の仕事もより順調に展開しはじめたのです。どうやら千春と付き合
うことで、性的な面に止まらず、ビジュアル面でも、男達は一度失った自信を取り戻し、仕事の出
来る男にさらに磨きを掛けることになるのです。

こうして、ベッドの上で悶える超淫乱な売春婦の表の顔、プロフェッショナルなファションアドバ
イサーの一面を知ることで、男達は千春を再評価し、さらに千春にほれ込み、リピートで彼女を抱
くようになったのです。

彼女を取り囲む男達のファングループが瞬く間に出来上がりました。勿論男達は互いに他の男達の
存在をほとんど知りませんが、リピートで彼女を求める安定したお客集団が出来たことで、佐王子
と千春のビジネスは開業数ヶ月で安定域に入っていたのです。@2014/3/2


[6] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(136)  鶴岡次郎 :2014/03/02 (日) 11:50 ID:JeEqyR.Q No.2485
2014/3/2 記事番号2484に一部修正を加えました。

千春は週に二、三度ほどのペースで客を取ります。千春の体調が悪い時や、どうしてもその気にな
れないお客が来た時は、千春は赤い札を受け取らないのです。佐王子とお客の関係はかなり強固な
利害関係で、良く言えば強い同族意識、信頼関係で、結ばれていて、彼らは佐王子の売春システム
を守り通すことを第一に考えていますので、千春がわがままを言っても、お客達は笑って引き下が
り、決して無理強いしない姿勢を見せていました。

お客たちは制服姿の千春を抱くことに執着します。通常は勤務が終わるとロッカーで私服に着かえ
るのですが、お客の予約が入っていると制服のまま店を出るのです。そんな時、千春は一切の下着
を取り払ってブラウスと紺のタイトスカートだけを着け、店の前で車を拾って、そこから数キロ離
れた指定ホテルへ向かうのです。ホテルの予約と支払いは佐王子の手の者が済ませているので、千
春はフロントでカギを受け取り部屋に向かいます。

部屋に入ると待ちかねていたお客が千春を抱きしめます。一日働いた女の体には様々な匂いや汚れ
が付いているのですが、大半のお客はシャワーに入る前の千春の体をほしがります。ブラウスとタ
イトスカートを脱がさないで、衣服をめくりあげて体を嘗め回すのです。下着がないことを確かめ
ると男たちの欲望に一気に火が付きます。

女をその場に押し倒し、ブラウスのボタンを全部外し、獣のように乳房にかぶりつくのです。激し
い痛みに耐えかねて女が大きな悲鳴を上げますが、男はその悲鳴を喜びの声だと勘違いして、さら
に強くかみしめるのです。うっすらと血がにじみ出るほど強くかみつくことも少なくありません。

スカートを腰までまくり上げ、女の両足をいっぱいに開き、男は足のつま先に舌を絡めます。視線
を芳香を放つ黒々とした股間の亀裂に向けているのです。男の舌はつま先から太もも、大腿部へと
進みます。そう若くない男たちはここで一気に攻めることを好まないのです。ゆっくりと攻め上が
り、女が喘ぎだすのをじっと待つ余裕を持ち合わせているのです。

大腿部を過ぎた男の舌はゆっくりと臀部を嘗め回し、香りがきついはずの菊座も丁寧に嘗め回しま
す。千春は男の舌がその部分を攻撃することを前もって知っていますので、使用後は何時も丁寧に
指を使って中まできれいに洗う習慣を身につけています。

男の舌がいよいよ股間を攻めます。ここに至るまでに千春は一、二度軽く逝っています。それほど
多くない陰毛を時々口に含みながら、男たちの舌は一番汚れた部分に到達します。この部分が男た
ちにとって、一番おいしい部分で、その香り、味、その蠢き、すべて生のまま賞味したいと男たち
は思っているのです。そのことを熟知している千春は使用後、この部分にはビデを使用しないので
す。丸一日下着に包まれていたそこは、野生のまま温存されているのです。そこは男たちが狂喜す
る芳香に包まれた楽園なのです。

むせびながら丹念にホール周りに舌を使い、男たちは泉から湧き出るかぐわしい聖水で喉を潤すの
です。この頃には千春はわけの判らない悲鳴を上げて、のたうち回っているのです。こんなになって
も制服を脱ぎ捨てることが許されません。
毎度のことですが、清楚な風貌の千春が一転して狂気の形相を浮かべ、四肢をいっぱいに広げて、
もだえる様は、男たちの征服欲をこの上なく満足させるようです。

頃合いを見て男の舌がホールの中にねじ込まれます。中には長い舌を持った人もいて、膣内に数セ
ンチ舌を挿入し、その中をかき混ぜる芸当をやり遂げる人物もいるのです。こうなると舌は第二の
男根と言えます。そんな男に巡り合うと千春は本物の男根を受け入れた時より、激しく感じるので
す。

一時間を超えて全身を嘗め回す男も少なくありません、中には、なめるだけで挿入に至らないで終
わる男もいます。どうやら、中年過ぎの男にとって、若い千春の体に付着した汚れや香りは、彼ら
にとってこの上ない精力剤であり、癒しの元になるようです。

性交そのものはそれほど濃厚なものでなく、正上位で挿入して、10分程度で完了するのが一般的
です。その都度精液を出す人もいれば、ほとんだ出さない人もいます。何度か千春を買うごひいき
さんにはゴムなし挿入を許しています。
千春の体を守る意味と、お客に悪い病気を感染させないため、佐王子の指示で、千春は定期的に指
定医院へ出向いています。ここで避妊処置と時に応じて洗浄等の治療も受けているのです。

ベッドの上で過ごす時間は長くて二時間ほどで、ことが終わるとシャワーを交互に浴び、持参した
私服に着替え、千春はお客と一緒に近くのレストランに出向き、遅い夕食をとるのが普通です。千
春は話好きでおしゃべりです。どんな人物といても会話が途切れることがないのです。これは千春
の隠された才能の一つだと思います。

中年過ぎの男にとって、若い女性、それも飛び切りの美人とたわいない会話を交わす機会など、ほ
とんどありません、実の娘との間でも会話らしい会話が存在しないが普通なのです。そのためで
しょうか、性的行為の後に待っているレストランでの会話が楽しみで千春を指名するお客もいるほ
どです。

お客との会話で必ず出る話題は次の質問です。最初からそんな質問をしてくる人は稀ですが、何度
か会っていると必ずその疑問をぶつけてくるのです。

「そんなに若くて、きれいで、その上仕事もできるのに・・、
なぜこの仕事をしているの・・?
お金のため・・?・・」

本気で千春の身を心配するお客が多いのです。お金が必要であれば出資をしても良いと言い出す男
も多いのです。

「・・多分この仕事が好きだからだと思います。
でも・・、本当に好きだからやっているのかと、聞かれると・・、
少し違う気がするのです。勿論お金がほしくてやっているわけではありません」

あいまいな笑みを浮かべてこのように返事するのがいつものことなのです。千春自身も自分の気持
ちが良く分からないようなのです。お店での戯れから客に身を任せるようになり、佐王子と出会い、
この道に本格的に入り込んだのです。気が付けば、すっかりその道に馴染んでいる自分自身を見つ
けて、動揺することもあるのです。ただ、この道に入ったことを後悔したり、この道から出ようと
思うことはないのです。やっぱりこの道が好きなんだと思う込むことにしているのです。

いろいろ思うことがあっても、ただ、一つ確かなことは、もし佐王子に出会うことがなければ、
もっと違う道を歩いていただろうと千春は思うのです。彼が居るからこそ、本業のシューフイター
の仕事を完璧にやり遂げながら、その陰で売春行為を楽しむことができていると彼への感謝の気持
ちを忘れたことがないのです。


こうして、千春と佐王子の仕事は二年ほど何事もなく続きました。勿論、千春の表の商売も順調で、
シュー・フイッターとしての千春の名前は業界で不動のものになっていたのです。@2014/3/2


[7] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(137)  鶴岡次郎 :2014/03/05 (水) 16:42 ID:UJWHxZXs No.2487
千春は29歳の春を迎えました。もともと清楚な雰囲気を身につけた美人でしたが、女ざかりを迎
えた体はむっちりと豊満になり、同年代の他の女性では考えられないほど充実した性生活の効果で
しょうか、美しさに加えて、ぞくぞくするような色気が全身からにじみ出ているのです。

行儀よく足を交叉して、照明がそこまでは十分届かない店内の隅に立って、お客を待っている千春
を見ると、彼女の周りが別世界に見えるほど、神秘的な雰囲気に満たされているのです。そして、
お客が一歩、お店に入るのを目ざとく見つけると、だれよりも先に、淑やかに近づき、ゆっくりと頭
を下げるのです。

十分の間を取って頭をあげます。絶妙のタイミングで、伏し目の視線を一瞬の間に転じて男性客に
向けるのです。妖しい笑みを浮かべ、黒目がちの瞳で下から見上げられた男性は、ただそれだけで
全身が震えるほどの興奮を味わうことになります。

何度か彼女を抱いているお客も、店で千春を見るたびに、自分がこの女を抱いた事実をどうしても
信じきれない感情にとらわれるのです。淑やかで、神々しささえ感じるほどの美人です。近寄りが
たい、高貴な雰囲気を醸し出しているのです。
この女を抱きしめ、今、目の前に見える紺のタイトスカートを一気に巻き上げ、濡れそぼった秘所
に唇を寄せ、そこをむさぼり、思うまま弄んだ記憶が幻だと思えるほど、微笑みを浮かべて頭を下
げている清楚な千春とベッドの上の娼婦にはギャップがあるのです。

それだからと言って、取りつきにくい女ではありません。千春の場合、出会う男性には誰にでも愛
想よく、親しく接するのです。そんなはずはないと判っていても、この女は自分に好意を持ってい
ると、彼女に出会ったすべての男性がそう思い込むほど千春の態度は優しいのです。

女は一度抱かれると、一寸した仕草に、人目が途切れたわずかな時間に、その男だけに通じる信号
を送り出すのが一般的です。それが、意識されたものなのか、無意識に出たものなのか、女性本人
もよく判らないようですが、男女の仲とはそうしたものだと思うのです。千春の場合、どんな男性
にも優しく接するので、抱かれた男とそれ以外の男に接する時の態度に大きな差が見当たらない
と・・、そう思えるのです。この現象は、ひょっとして千春のたぐいまれな性感、生来の男好きの
体質から来ているものかもしれません。


29歳になり、経験、技量、販売実績、お客の評判、どれをとってもナンバーワンの千春は売り場
責任者として毎日忙しく過ごしています。そんなある日、長い冬がようやく終わりを告げるような
陽射しが見えて、人々がコートを片手にかけて歩く姿が見られるようになったある日、一人の若い
男、浦上三郎がまさに迷い込むようにして、彼女の店に入ってきました。

商用が早く終わり、報告をメールで送り、社に帰るのを止めた浦上は、飲み屋に入る時間調節の目
的で、街角の高級靴店に入ったのです。平均的な35歳のサラリーマンである浦上が手を出せるよ
うな金額の靴はその店にはありませんでした。それでも、どこか亡妻、明菜に似た雰囲気を持つ千
春の勧めに抵抗できないで浦上はフィッテイング・ルームに入ったのです。

店の客ではないと千春には最初から判っていたのです。それでも、その日はなぜか体が疼いて、同
年代のイケメンをからかってみたくなったのでしょう・・。強引に個室へ連れ込み、珍しいことで
すがドアーを閉め、内鍵をかけました。千春は何か企んでいるようです。勿論、店長をはじめ他の
店員たちは千春のたくらみに誰も気が付いていません。

最初はブラウスの隙間から豊かな乳房を見せる作戦をとっていたのですが、お客の反応が今一なの
で、部屋の隅でブラウスのボタンを3つも外し、さらにタイトスカートをたくし上げ、ブルーの
ショーツを巧みにちらつかせ始めたのです。しかし、千春は意外な事実にやがて気付くことになる
のです。

三年前までは毎日破廉恥な行為を見せて、お客を誘惑していたのです、千春の行為は計算しつくさ
れた熟練の技で裏打ちされています。どこまで見せればお客がどう反応するか千春はよく知ってい
るのです。

ところが、乳首が見えるほどにサービスをしているのに、若い浦上の股間に変化がないのです。本
来であれば、男の股間ははち切れるばかりに成長して、ズボンの前を押し上げる男根の雄姿を垣間
見ることができるはずなのです。ところが何も変化はないのです。千春の体に全く興味を見せない
浦上に千春は逆に興味を持ちました。少しむきになったと言った方が当っているかもしれません。


[8] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(138)  鶴岡次郎 :2014/03/06 (木) 11:28 ID:CarytEd. No.2488

密室に近い空間ですから、千春がその気になればどんな破廉恥なことでも出来ます。隙を見てかな
り強引に浦上の股間にタッチしたのです。男はかなりびっくりしていますが、嫌がっている様子は
なく、千春のなすがままです。

〈こんなことをされても・・、
この人平然としている。

大物なのか…、鈍感なのか…、
それとも大変な遊び人なのか・・
いずれにしても、嫌がっていない、

若い男だと、突然、怒り出したりするものだけれど・・、
どうやらこの男は大丈夫なようだ・・
久しぶりに最後まで追い込むか・・・〉

お客を弄ぶのは実に三年ぶりです。すっかり忘れていた感覚が蘇っています。弄ぶ男としては申し
分ないのです。若い男を弄ぶのは久しぶりです。遊び心半分、スケベ心半分の気持ちで千春は、迷
いなく最後まで攻め抜くことにしたようです。

もう・・、股間に指を絡ませ、ズボンの上からですが、遠慮なくそこをまさぐりながら、ブラウス
のボタンをすべて外し、ブラを押し下げ、乳首が良く見えるようにしました。両乳房の全景が男か
ら見えるはずです。さらに、タイトスカートの裾を上に巻き上げ、ブルーのTバックショーツを見
せ付けたのです。

ここまでやって、その部分に変化を起こさなかった客は今までいません。90歳を越えたお客の男
根でさえ、ここまでのサービスで変化の兆しを引き出した実績を千春は持っているのです。

ようやく浦上の股間に変化が見えてきました。ただ、少し盛り上がった男の股間を見ても、千春は
満足していませんでした。完璧な勃起とは程遠い状態だと判断したのです。自尊心を大いに傷つけ
られた・・、千春の心境はまさにそれでした。何が何でも、浦上を完全勃起させると決意したので
す。

「お客様・・、これなどいかがでしょう・・、
良くお似合いですよ・・・」

そういいながら、千春は男のジッパーを引き下げ、指を入れています。直接男根をつかむつもりの
ようです。

「アッ・・、ああ・・、凄く良い靴だネ・・、
だけど、こんなに高価な靴は私には不向きだよ・・、
毎日酷使するから、靴がかわいそうだよ…、残念ながら・・」

「そうですか・・、目下セールス中ですから・・・、
お買得だと思いますが・・」

靴が話題になっていますが、もう・・、二人にとって靴はどうでもいい存在になっています。千春
の指が直接男根にふれ、それを指でつかんでそっと引っ張り出しています。男の目が明らかに泳い
でいます。千春は両脚を更に開いてTバックショーツの全景を見えるようにしています。

ブラウスの前を開き、ブラをいっぱいに引き下げ、乳房のほとんどを見せ、スカートを腰の辺りま
で巻き上げ、股間を僅かに覆うブルーの布を見せているのです。小さな布切れからかなりの陰毛が
食み出ています。50歳過ぎの男性が最も好む風景の一つで、本来ですとボトムを少し横にずらせ
て、亀裂の全貌を見せるのですが、若い浦上には少し毒気が強すぎるかもと、さらし過ぎに配慮す
る慎重さも見せています。


[9] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(139)  鶴岡次郎 :2014/03/11 (火) 13:39 ID:c1q096I2 No.2489

この仕掛けは効果があった様子です、彼の視線は彼女の股間に釘付けです。そして、男根がようや
くむっくりと動き始めました。ここまで来ると、あとは押しの一手です。男根を指で操りながら、
浦上を見上げて、にっこり微笑みました。股間に手を伸ばす店員の意図を男は計りかねているよう
ですが、迷惑そうにはしていません。

千春の手にした男根は、ようやく・・、本当にようやく、ひとり立ちできる状態までになっている
のです。同時に発情臭がそこから舞い上がっています。千春のお気に召した香りのようで、男根に
顔を近づけその香りを深々と吸い込み、うっとりとした表情を浮かべています。その香りから、こ
の男は本来、性的に相当強い男だと千春は感じ取っていました。修練を積んでいる千春はその部分
の香りを嗅ぐだけで男の強さをある程度まで判断できるようになっているのです。.

「千春さん・・・」

胸に付けた千春のネームプレートを見て浦上が彼女を下の名前で呼びました。

「千春さんにお礼申し上げます…」

興奮した口調ではなく、むしろ、冷静な、低い口調で、男がささやいています。おやと・・、千春
が男に視線を向けています。股間を勃起させた男たちの生態をよく知っている千春は、目の前の浦
上の態度が、口調が、そして雰囲気が、いつも接している欲情した男たちとどこか違うのを察知し
ていました。今から女を抱く浮かれた様子は皆無で、むしろ何か真剣勝負をするような雰囲気さえ
漂わせているのです。千春は手を止めて、男の話を聞く姿勢を見せました。

「ココがこんなになったのは、実は4年ぶりなのです・・」

「・・・・・・・」

少しはにかみながら、千春が握っている股間を指差し、浦上が語り始めました。やはり何か事情
があったのだと、男根に指を絡ませたまま、千春は納得の表情を浮かべています。

「4年前、妻を癌で失いました・・。
それ以来、女性に接していません・・。

いえ・・、接していないのではなく、できないのです…。
その気になって、いかがわしい場所へ、何度も足を運んだのです・・。
しかし・・、いざその時になると・・、ダメでした・・。

女性を抱くと妻の顔が浮かび上がるのです。
多分妻が許さないのだと・・、本気でそう思っています・・。

何度も、何度も、そんなことを繰り返して・・・、
私はダメになったと覚悟を決め、あきらめました・・・・
妻の亡霊と一生過ごすのも悪くないと思い始めていたのです・・」

話を聞きながらも、千春は浦上の股間をもみ続けました。その部分の緊張は更に高まり、ほぼ完全
勃起状態になっています。先端から透明な液が出て、千春の指を汚しているのです。

「ああ・・、ずいぶん大きくなりましたね…
本当に久しぶりです。自分のモノとは思えない気持ちです・・」

女に握られた自身の男根を、珍しい別の生き物を見るような視線で、しみじみと、男は眺めている
のです。

「何故、ここまでしていただけるのか、私にはその理由が判りませんが、
千春さんの手で立派になったこれを見ると、感激で涙が出る思いです。
千春さんが女神に思えます・・・。

不思議な力をお持ちなのですね・・・
千春さんの力が妻の亡霊を押し返したのですね…
妻は…、千春さんならいいと許可してくれたのだと思います・・」

これまでの苦労と絶望の期間を思い出したのでしょう、男根を見つめる男の瞳に涙があふれ出てい
るのです。もともとやさしい気持ちを持った千春です、涙を流す男の気持ちが良く理解できている
ようです。男根をゆっくりしごきながら、女もまじめな表情に戻り、やさしい視線を男に向けてい
ます。ただ、男根だけがこの場の雰囲気を理解していない様子で、いきりたち、透明な液を吐き出
しながら周りに芳香を発しているのです。


[10] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(140)  鶴岡次郎 :2014/03/12 (水) 15:46 ID:yf1Td5ac No.2490

男根を握った右手が疲れたのでしょうか、左手に持ち替え、右指に付いた粘液を舌で舐めています。
視線は男に向けて、笑みを浮かべているのです。

「そんなに感激していただくと、こちらが恥ずかしくなります。
お店からは、淫らなことをしてはいけないと、注意されているのですが、
気に入った方にお目にかかると、
つい・・、我を忘れて奉仕してしまうのです・・・。
悪い癖ですね…、
お店にはこのことは秘密にしておいてくださいね・・」

男の涙には気が付かないふりをして、千春が答えています。男根をもろ出しにした背広姿の男性と、
紺のタイトスカートを腰まで巻き上げ、両脚をいっぱいに開いてショーツをさらけ出し、白のブラ
ウスの前をいっぱいにはだけ、二つの乳房をあらわに出した女が男根をその手に握りしめて、男を
見つめているのです。

この上なく隠微な光景ですが、どうしたわけか二人の様子は意外に真剣みを帯びていて、あたかも
公園のベンチに座った初対面の男と女が遠慮がちに見つめあっている雰囲気なのです。

「・・・で、この先はどうされます・・・。
十分に使える状態になっていますが、ここで止めますか・・」

艶然と好色そうな笑みを浮かべて、握っている男根をゆっくり振りながら、千春が訊ねています。.

「千春さんさえよろしければ、
いつものメニュウー通りに最後までやっていただくと、
私としてはこの上なくありがたいのですが・・・」

さすがに一流商社の営業マンです、隙を見せずうまい交渉術を発揮しています。

「いつものメニュー通りね…、
そういわれてもね・・、
ここ三年は閉店休業だったから・・・、
忘れてしまったわ…、
いいわ・・、思い出しながらやってみる、
不味い料理だったらそう言ってね、別のメニュウを出すから・・・・
それでは・・、まず最初は・・、アフ・・・ㇷ・・・」

言葉が終わらない内に千春は、パクリと亀頭に唇をかぶせていました。空いた手を腰に伸ばし、巧
みにショーツの紐を解いて自身の下半身を解放しているのです。はらりとショーツが床に落ち、濡
れた亀裂が顔を出しています。驚きの表情を浮かべ、それでも嬉しそうな表情で男が亀裂に視線を
向けています。

しばらく男根をしゃぶった後、頃合いを見て、男の手を取って立ち上がらせ、一気にズボンと
ショーツを引き下ろして、床を男に寝かせました。そしてそのまま男の上に跨り、男根にかぶりつ
いています。男の眼前に濡れそぼった亀裂が宛がわれています。男は当然のように亀裂に食いつき、
愛液を啜り始めています。

見る見るうちに男の顔が愛液で濡れ、ネクタイにも、ワイシャツにも愛液の飛沫が降りかかってい
ます。


[11] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(141)  鶴岡次郎 :2014/03/17 (月) 13:06 ID:r/3YMEEY No.2491

結局、男は最後まで行きませんでした。その場で射精することもできたのですが、限界に近くなった
ところで千春の背中をたたき、そこまでで終えることを女に告げたのです。

「止めるの…?
最後まで行けばいいのに、もう少しだったのに・・」

中途で止められ女は少し不満そうな表情を見せています。

「ここまででも、僕にとっては大変な経験だけれど、
これ以上は、無理だよ…」

男の理性が店内でのこれ以上の行為を止めたようです。女は黙って男の指示に従いました。


「ありがとうございました。本当にお世話になりました・・。
お礼と言うには、とても足りないのですが、この靴をいただくことにします。
今日の記念に千春さんを思い出しながら、大切に愛用します・・」

身支度を整えた二人が少し照れながら微笑みを浮かべて見つめ合っています。男は給料の20%ほ
ど値になる靴を買い求めることにしたのです。室内には蒸れたような二人の体液の香りが充満して
いるのですが、もちろん二人は気が付いていません。

「お買い上げ、ありがとうございます・・、
喜んでいただけて、努力した甲斐がありました・・
それでは少々お待ちください・・・」

売上伝票とコーヒーそして特別に熱いおしぼりを準備して千春が戻ってきました。男がおしぼりを
使おうとしないので千春が使用を促しています。

「当分、お風呂に入らないし、顔だって洗わないつもりです。
あなたの香りに包まれて、暮らしたいのです…」

「あら・・あら・・、
嘘でもそう言われるとうれしい・・」

本当にうれしそうに千春が笑って答えています。

「あんなことをしてしまって、少し反省をしています。
お店の名誉のために言いますが、普段はあんなこと絶対しないのよ・・、

今日は朝から私・・、少し変だった・・、
女にはそんな日が月に何日か来るのよ・・、
そこへ、素敵な三郎さんが現れたわけなの…、
言ってみれば、半分以上は三郎さんが悪いのよ…」

千春が艶然と微笑んで、親しみを込めて男を名前で呼んでいます。既に名刺交換を済ませているの
です。

「ここで千春さんに会えたのは僕にとって本当にラッキーでした。
恥ずかしくて、医者にも行けないで、このまま僕の男が終わるのかと、
覚悟を決めていたのです・・・。

世の中がつまらなくなって・・、
このままだったら、僕は多分ダメになっていたと思います・・」

「とっても立派なモノだのに・・、
お若いのに、反応が薄いものですから、
私の魅力が乏しいせいだと・・、
つい・・、向きになりました・・。

正直に言うと、立派になった時は『やったー!』と思いました。
私のスケべーなところが、役に立ったのですね・・」

その日、佐王子の予定が入っていたのですが、それをキャンセルする連絡を入れ、千春は浦上の誘
いを快諾しました。そして、食事の後、むしろ千春が誘うようにして、二人は近くのホテルへ向か
いました。


[12] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(142)  鶴岡次郎 :2014/03/24 (月) 12:05 ID:y.J4P896 No.2492

ホテルに着くと男と女はシャワーを使い、体をきれいにしました。バスタオル一枚を身にまとった
男と女がベッドサイドに立ち、見つめあっています。男はかなり身長が高く、学生時代柔道をやって
いたというだけあって、筋肉が盛り上がった見事な体をしています。

男の体から立ち上がる香気に千春は酔いしれていました。慣れ親しんでいる中年男たちの加齢臭と
は異なる、干し草の香りに似た野生的な異性の香りに千春は衝撃を受けていました。シャワーを
使った直後ですが滴るほど濡れ始めているのです。

〈・・これが男の香りなんだ・・、
おじさんたちの匂いも、決して嫌いではないけれど、
この香りを嗅ぐとさすがに違いを感じる・・・〉

男は千春の裸体の美しさに圧倒されていました。この時点で、彼のEDは完全にその姿を消してい
ました。腰に巻いたバスタオルが大きな棒を入れたように持ち上げられているのです。

男はゆっくり女を抱きしめ唇を寄せてゆきました。目を閉じた女がやや唇を緩めて男の接近を待って
います。唇が重なり合い、二人の舌が絡み合いを始めると、男の腕に力が入り始めました。 

強く腰を引き寄せられた女がうめき声をあげながら男の唇を貪り食っています。彼女の口の端から
二人の唾液が混じり合った物が糸を引いて床に落ちています。女の乳房は男の厚い胸板で極限まで
押しつぶされています。

男の片脚が女の両脚を割り、深々と入れ込まれ、女は進んで足を開いています。二人のバスタオル
はすでに床に落ちています。

「アッ・・」

女が悲鳴を上げました。大腿部に載せて女を持ち上げたのです。男の毛深い大腿部が亀裂に食い込
んでいます。女の悲鳴が断続的に続きます。亀裂からあふれ出た愛液が男の脚を濡らしています。
女をベッドの上に下ろしました。女は両脚を開いたままで、うるんだ瞳で男を見つめています。天
を衝くほどに勃起した男根が女の視線を捉えています。

亀裂からあふれ出た透明な液がシーツに流れ落ちています。すべて準備が完了しています。男は
ゆっくり腰を下ろし、女の両脚を両手で握りました。女がうめき声をあげ、進んで脚を広げてい
ます。待ちきれない様子です。

ここで男の動作が不自然に止まりました。女がいぶかしげな表情で男を見上げています。そして、
女は何事かを察知した様子です。

「今日は大丈夫な日です・・、
そのままで・・、浦上さんさえよければ・・、
かまいませんから・・」

ささやき終わった後、男から視線を外し、女は頬を染めています。安全日であることを告げたので
す。初めての男に避妊処置をしていると言えるはずがなく、安全日だと伝えたのです。実のところ
は、一番欲情する時を迎えていて、今が一番危険な時期なのです。

男が女の顎に手を添えて持ち上げ、唇を寄せました。女が勢いよく、その唇に食いついています。
抱き合ったまま二人はベッドに倒れこみました。男が女の両脚を割り、体を入れました。


[13] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(143)  鶴岡次郎 :2014/03/26 (水) 14:54 ID:rjH3b9vI No.2493

舌を使うことなく、指すらも触れないで、男は男根を直接ソコへ挿入しようとしているのです。こ
れほどストレートな性交を女は忘れていました。初めての時、激烈な痛みを感じたあの野性的な性
交を女は思い出していました。

〈ああ…、そのまま入れるの…
凄い・・、ああ・・、たまらない…
来て・・、早く・・、来て・・・・!〉

男根の先端がそこに触れる感触で、女は一気に高まり、悲鳴を上げ、それだけで潮を噴き上げてい
ました。

亀頭が触れただけであふれるほどの潮を浴びせられ、男はびっくりしています。女性経験がそれほ
ど多くない男にとって初めての経験でした。勿論亡妻は普通の育ちで、ベッドでも淑やかな女性
だったのです。挿入前に潮を浴びる異常な刺激を受けて一気に男根が膨張しています。これほどま
でに男根が膨張するのをいままで男は経験したことがありませんでした。

男は完全に狂い始めていました。獣のような唸り声を発して男は一気に挿入しました。激しい破裂
音と女の発する断末魔のような悲鳴が部屋中に響いています。女は両手を男の背中に絡め、いっぱ
いに開いた両脚を宙に突き上げています。

「うっ・・・・ッ・・・」

男根が食いちぎられるような激痛を感じ取りながら、脳天を貫く,恐ろしい快感に襲われ、男は一
気に吐き出しました。挿入してから2分と経過していないのです。当の本人でさえ驚くほど大量の
精液が注ぎ込まれています。その流れが永遠に続くと思われるほど射精は続きました。

「ああ…、熱い・・、熱い・・・・
い・・、いっぱい・・・

あっ、あっ・・・・ッ・・・・、ダメ…・、
ああ・・、ダメ・・・」

女の両脚が激しく痙攣して、その後突然、力を失った両脚が音を立ててベッドに落ちました。女も、
男も、動かなくなりました。二人は重なり合ったまま動かなくなったのです。女が男の肩に歯を当
て、その部分から鮮血がにじみ出ています。

男と女の妖しい、強い香りが部屋中に満ち、異常な静けさが訪れています。二人の男女がこの部屋
に入ってから、まだ20分も経っていないのです。


それから10分ほどたって、最初に男が覚醒しました。いっぱい精気を吐き出し萎えた男根はしっか
り女の膣に咥えこまれていました。そのことに気が付いて男が驚いています。勿論初めての経験で
す。終わった後も離さない女に出会ったことが今まで無かったのです。男の気配を察知して、女が
うっすら目を開けました。間近に男の顔があるのを見て、女が慌てて瞼を閉じています。そして、
もう一度ゆっくり目を開け、男の顔を確認して、恥ずかしそうにっこり微笑みました。

「アッ・・、血が・・・・・
ゴメンナサイ・・、痛いでしょう・・・」

男の肩に鮮血がにじみ出ている傷を見つけて、女が傷にそっと手を添えています。

「なんともないですよ・・」

「でも・・、かなり血が出ている・・」

ちょっとためらいを見せた後、女が傷口に唇を当て吸い付いています。痛みを感じたのでしょう、
男が顔をしかめています。女は懸命に吸い始めました。両手、両脚を男の体に絡めて、男の肩に吸
い付き、ゆっくりと腰を動かしています。女唇には男根がまだ咥えこまれたままです。女の口の周
りには鮮血が付き、女の表情をより妖しく変えています。


[14] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(144)  鶴岡次郎 :2014/03/29 (土) 14:36 ID:qv924nOo No.2494

肩の傷に女の唇を押し当てられ、男はその痛みに耐えかねて顔をゆがめています。できることなら
そっとしておいてほしいと男は思っているのですが、鮮血の味を感じ取った女はその行為を止める
どころか、さらに熱心にその部分に食いつき、盛んに血を吸い取っています。

どうやら鮮血は女の欲望を掻き立てる様子です。四肢に力を入れて女は男の体に自身の濡れた体を
押し付けて、全身をくねらせ始めました。目は欲望に輝き、膣には新たな愛液が噴出しています。
膣内に取り込まれたままの男根にもその影響はすぐに表れました。

〈ああ・・、この動きは何だ・・・
根元をやさしく締め付けられ・・・、
先端が舌でなめられているようだ・・・
これが・・、噂に聞く名器なのか・・・
凄い……〉

絶妙な膣の動きに男は感動していました。一気に男根が固く、膨張しています。男根の膨張に呼応
して、女唇の蠢きが更に活発になっています。膣内に保存されていた大量の精液が逆流して、男根
と女唇の隙間から、破裂音を発して宙に吹き出しています。二人の体が交わったあたりに、吹き上
げられた精液が雪の様に舞っています。

四年ぶりに女体を抱いた三十男の欲望はとどまるところを知りません。女もその欲望によく応えま
した。大方の女であれば、ギブアップしているところですが。千春は対等以上の対応をしました。
二人はそれから三時間余りホテルで過ごしました。その間、驚いたことに二人の体は一度も離れる
ことはなかったのです。

4年間欲望をため込んでいた男根もすごいことはすごいのですが、そんな男を相手にして三時間余
り抜かずに性交できたのはたぐいまれな吸引力を持つ千春の女陰のおかげと言えます。おそらく男
も女も、数えきれないほど逝ったはずです。逝った後、いち早く覚醒した者が仕掛けて相手を挑発
し、抜かずに性交を繰り返したのです。


この日を契機に二人は週に一度ほどの頻度で付き合い始めました。勿論、最初の時の様に狂気の様
相を見せた性交は影をひそめましたが、男も女も互いの肉体を相性のいい相手を感じたようで、会
うたびごとに新しい発見をして、二人は愛の時間に何もかも忘れて埋没していたのです。

二人の関係は佐王子の知らないことでした。浦上と付き合いながらも、千春は佐王子からの指示を
断らないでお客を受け入れていました。勿論同じ日に抱かれることはありませんでしたが、前の日
に浦上と過ごした次の日に佐王子が紹介してきた男に抱かれることも少なくありませんでした。こ
の時は、さすがに中年男の体臭が鼻につき、千春にしては珍しいことですが、いやいやながら体を
託すことになっていたのです。

二ヶ月ほど付き合いが続きました。最初の出会いから、千春はかなりみだらな本質を浦上にさらけ
出しました。その後の付き合いでも、千春はベッドでは何も隠さないで、むしろ浦上を翻弄するつ
もりで、彼女の持っているすべての能力と技を発揮しました。当然、女性経験がそれほど多くない
浦上は千春の過去と現在に大きな疑惑を抱くようになっていたのです。


[15] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(145)  鶴岡次郎 :2014/03/30 (日) 13:59 ID:4LyMcnsc No.2495

二人で熱い時間を過ごし、両親と住む自宅へ千春を送り届けた後、その帰り道、浦上は一人酒場に
入り、彼女のこと、そして二人の将来を考えるのです。そんなとき何より気になるのは彼女の卓越
したベッドワークです。亡妻とはもちろん比べものにはなりません、おそらく想像を超える男性経
験があると浦上は睨んでいるのです。

〈年に似合わず、すごい女だ・・・、過去のことは何も話さないが…、
これほどの女だ、いろいろなモノを背負っているのは確かだろう・・
もしかすると・・、今も特定の愛人がいる可能性が高い…

それにしても・・、どうして、
千春さんは何も隠そうとしないのだろう…、
むしろ、ベッドでは僕をからかっているかのように奔放に振る舞っている…〉

独身女性であれば、多少は自制して、奔放な経験を隠すのが当然だと浦上は考えたのです。

〈僕のことは何とも思っていないのだ・・、
金も、地位もない、僕のような若造は、
彼女にとって、遊び相手の一人にも加えてもらっていないのかも・・〉

高級靴店からの連想で、千春にはしかるべき金持ちの愛人がいるはずと、浦上は想像するように
なっていたのです。

〈とても、僕などが付き合いきれる相手ではない…、
早く別れるべきだろう・・・・、
でも・・、これから先、これほどの女性に会うことは、先ずないだろう・・
別れるには、あまりにも惜しい、
どうするか・・・・、行けるところまでやってみるか・・〉

千春と熱い時間を過ごした後、浦上は自身の心に毎回のように問いかけていたのです。このまま付
き合いを続けても、千春を自分のモノにすることはできそうもないと思えるのです。早くあきらめ
た方がいいと考えるのですが、千春とこのまま別れるという選択肢が彼の心のどこにも存在しない
ことは浦上には何となく判っていたのです。

一方、千春も今までのお客とは異なる若い浦上に強く惹かれていました。浦上がまず千春の体に取
り込まれたのとは逆に、千春の心がまず彼に靡いたのです。

確かに若い浦上の体は今までの男にない魅力秘めていましたが、何が何でもその体が欲しいとまで
は千春は思わなかったのです。性的な満足感であれば、浦上と同じ程度かそれ以上の快感を与えて
くれる男は他に何人もいたのです。

千春は同年代の女性と比較して、肉体関係の経験は豊富ですが、こと恋愛経験となると女子高生
だった頃の淡い恋愛だけなのです。勿論、肉体関係が深まるとその男が好きになるのは当然ですが、
千春の相手は妻子持ちの中年過ぎの男たちですから、千春が本気で恋をする対象ではなかったので
す。燃えるような恋心を抱く相手に今まで巡り合ったことがないのです。

浦上に会って、肉体交渉を続けるうち、千春の中に彼への強い恋心が生まれていました。彼に抱か
れるのはうれしいのですが、彼と食事をしたり、夜の街を一緒に散歩することのほうが千春にとって
はもっと楽しいことになっていたのです。

出会った最初の頃はベッドでは意識的に奔放に振る舞っていたのですが、彼への恋心が募ってくる
と、明るい照明の下で裸を見せることさえ恥ずかしく感じるようになっていたのです。最初は抵抗
なく口に含むことできた男根も、最近では、彼に見つめられているのが恥ずかしく、そっと唇をつ
けるのがやっとの状態になっているのです。

気持ちがいい時、お客たちが喜ぶのでそれが習慣になっていたのですが、大きな声で叫んでいたい
やらしい言葉も、二人の時は影を潜め、ただ可愛いいうめき声をあげるまでに変化していたのです。


[16] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(146)  鶴岡次郎 :2014/03/31 (月) 16:51 ID:tTrsDF4Q No.2496

千春自身、そんな感情を持て余しているのです。恋愛経験の乏しい千春はこの恋心をどこへ向ける
べきか、そして、何を目指すべきか、その方向を知らないで、ただおろおろと狼狽えているのです。
そして、毎回思うのは過去への後悔だけなのです。

〈もっと早く、三郎さんに会いたかった…、
いまさら繕ってみたところで、三郎さんは既に気が付いているはず、
出会った最初から、男のあそこを咥える女なんか、どこにもいない・・、

千人近い男を受け入れたアソコはいくら綺麗に洗っても、
元には戻せない・・、
こんな汚い女は三郎さんの側に居てはいけないのだ・・・〉

浦上を愛するようになると、彼を知るまでは苦痛でもなく、むしろ楽しい行為であった買春行為が
千春の気持ちに重く圧し掛かってきました。

前日、浦上に抱かれ、体のいたるところに彼の匂いが残っている状態で、客に抱かれるのもつらい
のですが、中年過ぎで絶倫のお客に弄ばれた翌日、巨根を受け入れた膣はまだ前日の痺れを記憶し
ており、お客の残した精液がその中に歴然と残っている状態で浦上を迎え入れる時、千春は全身が
震えるほどの罪悪感に襲われるのです。

「ああ・・、今日はダメ…、
すごく汚れている時だから、そこには口を付けないで・・
お願い…、済みません…」

いつもの様に浦上が局部に口を付けようとした時、千春は脚を強く閉じて、必死の表情を浮かべお
願いするのです。勿論男は笑みを浮かべて女の言葉に従います。もし、強引に男がそこに口を付け
ていれば、明らかに自分とは異なる他の男の匂いを浦上は嗅ぎ取ったはずです。

佐王子に事情を話せば、この商売から何時だって抜けることができるのを千春は知っているのです
が、あえて佐王子には何も話しませんでした。悩みながらも、千春は裏の商売を続けたのです。

浦上への罪悪感、背徳感、そしてその行為を続ける自身への嫌悪感、そんな感情に苛まれながら、
じっと耐え、千春はお客に抱かれるのです。最初は冷静に職業的な対応に努めるのですが、お客の
攻めが佳境に入ると、たぐいまれな性感を持つ千春ですから、心の在り方とは裏腹に、千春の体は
喜悦にもだえ、悦楽の愛液でじっとりと濡れるのです。

そして、ひと時の忘我の境地から覚めると、千春は絶望の奈落へ突き落されるのです。奈落の底で、
必死で生きる道を探っているその姿には、大罪を犯し、一身を神にささげると決めた修道女のよう
な雰囲気さえ漂よわせているのです。

客に抱かれることをなぜ千春は止めないのでしょうか、何がそれほどまでに彼女を売春稼業に駆り
立てるのでしょうか、おそらく、この質問を彼女に直接ぶつけても、彼女自身明快な答えを出すこ
とはできないと思えます。

ただ、千春は一人になるといつも次のように呟いているのです。そこには彼女が悩みながら自身の
体を汚す行為を続ける悲しい理由が語られているのです。

〈私のような女は、普通の結婚を夢見てはいけないのだ、
三郎さんの綺麗な気持ちを受け入れる資格がないのだ・・、

この仕事を続けていれば・・・、
いずれ三郎さんは私の正体に気付くはず、

三郎さん…、私から告白することはできないけれど、
早く・・、私の汚い姿に気が付いてほしい・・・・、
そして・・、口汚くののしって、私をボロ布の様に捨ててほしい…〉

どうやら千春がこの稼業を続ける一つの理由は、泥にまみれることで、浦上に傾きかけている自身
の気持ちに歯止めをかけることにあるようです。汚れた体をさらに汚して、その姿を最愛の男にさ
らす・・、千春の内面にそんな自虐的な屈折した感情が存在するようです。

そして、もう一つの理由は千春の体が、彼女の本性が、その家業を続けることを求めているからで
す。おそらく千春自身も気が付いていないと思いますが、セックスは千春にとって、麻薬のような
存在になっていて、お客に抱かれるその瞬間は、喜悦の中で、過去のことも、浦上と迎えるべき将
来の夢も、全てを忘れることができるのです。


[17] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(147)  鶴岡次郎 :2014/04/02 (水) 14:47 ID:tMslJCJI No.2497

相手には問いただすことができない悩みと、募る恋心の狭間に立って、男と女は互いに心の中に激
しい葛藤を抱きながら、それでも二人は会うことを止めませんでした。二人が最初に出会ってから
三ヶ月が経過していました。この頃には、男も女も次の段階に進むべきだと、二人の関係について
潮時の到来を感じ取っていたのです。

いつものように激しい時間を過ごし、ホテル近くのプチ・レストランで遅い夕食を摂っている時、
話があると、改まった表情で浦上が話しかけてきました。

「ご存知のように、私はバツ一の身だが・・・、
こんな私でも良ければ・・・、
結婚してほしい・・・・・」

「・・・・・・」

浦上は千春を真っ直ぐ見て言いました。

千春29歳、浦上35歳の時です。浦上の態度と日頃の付き合いから、いつかこんな話が出ると予
想できていたのでしょう、千春は驚いた様子を見せないで、じっと浦上を見つめていました。

「ありがとうございます・・、
本当に嬉しい・・、
もう・・、私にはこんな言葉は永遠に聞けないと思っていました」

堪えられないのでしょう・・、ここで言葉を切り、ハンカチで目をぬぐっています。男は神妙な表
情でじっと待っています。

「女の子って・・、物心がつくと、いつの日か、自分だけの王子様が現われて、
手を取り、宮殿に案内してくれる日を、夢見ているのです。

それが、25を過ぎ、30歳近くになると、
私には王子様は来ないかも・・と、思い始めるのです・・・」

うっすらと涙を浮かべて千春は話しています。この調子ならいい返事が聞けそうだと浦上は喜んで
います。

「せっかくのお言葉ですが、
浦上さんのお申し出を受けることは出来ません・・・」

「エッ・・・・」

低い声ですが、千春はよく通る、明瞭な発音で浦上に伝えました。それまでいい返事を予感してい
た男は、ビックリして次の言葉を出せないのです。

「出来るものなら、浦上さんのお申し出を受けたい・・、
心からお慕い申し上げている浦上さんと結婚したい・・。
しかし、私はそんなことは出来ない・・、
いいえ、そんな世間並みの幸せを求めてはいけない女なのです・・」

「理由(わけ)を教えてください・・。
何が原因なのですか、理由(わけ)も知らないで、
このまま別れるなんて出来ません・・」

浦上が当然の質問をしています。

「理由(わけ)を聞かないで下さい。
聞けば私が嫌いになります。
何も聞かないで、このまま別れてください・。
せめて、良い思い出だけを残して別れたいのです・・」

目に涙を浮かべ、千春は必死の表情を浮かべ、浦上に訴えています。


[18] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(148)  鶴岡次郎 :2014/04/03 (木) 11:21 ID:mRzcyLUI No.2498

千春の必死の表情を見て、この場になっても千春が必死で隠そうとしている事実があるのだと浦上
は察知して、事態が最悪のシナリオで展開し始めたことを冷静に噛みしめていたのです。

〈そうか・・、やっぱり男がいるのだ、
それも人には言えない不倫の関係…、
問題は、その男にどこまでかかわっているかだ…〉

どうやら浦上はかなり出来る男のようです。予想した最悪の事実を突きつけられても、浦上は決し
て希望を失っていませんでした。どこかに抜け道があるはずだと考えを巡らせているのです。

〈お金だけの関係であれば、こちらにも勝算がある…、
しかし・・、心も体も男に惹かれているとなると・・、
厄介なことになるが・・〉

想像したように愛人がいる、それもかなり深い関係の男がいると浦上は受け止めていました。勿論
このことは彼の想定範囲内のことです。黙ったまま、平静な表情で千春を見つめているのです。

「三郎さんと初めて男女の関係を結んだ時、
いずれこの日が来ると思っていました。
最初から分かっていたのです。

でも・・、判っていても、止めることはできなかった…、
どうすることもできなかった…」

ここで女が顔を伏せ、肩を震わせて泣き出しました。男は言葉を発しないで、女の姿をじっと見つ
めていました。遅い時間ですから店内にはそれほどお客は多くないのですが、それでも千春が泣い
ている姿を見て、心配そうにこちらを見ている人もいました。

やがて・・、ゆっくりと千春が顔をあげました。頬は濡れていますが、涙は出ていません。決意を
固めた厳しい表情をしています。

〈ああ・・、
なんてきれいな顔なんだろう・・・、
ぼくは、千春を心から愛している…〉

男は・・、この場にふさわしくない・・、ここまでの経過をすべて忘れたように、魂を奪われた、
うっとりした表情で女を見つめていました。

「今日でお別れです・・。
お店にも・・、もう・・、来ないでください・・・。

これまで本当に楽しかった…、
幸せな時間をありがとうございました・・・・

これからは、街で会っても、互いに知らない関係です。
さようなら・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

涙も見せずこれだけのことを言ってのけました。浦上にそれ以上の追求をゆるさない、断固たる意
志を込めた表情です。この世の物とは思えない千晴の表情に取り込まれていた浦上は現実に引き戻
され、何も言えないで、ただ千春の顔を見つめていました。

〈きれいな顔をして、僕の息の根を止めるような言葉を吐いている・・・、
・・どうしてこんなに強く、僕を拒否するのだろう・・、
何かがあるはずだ・・、彼女をこんなにかたくなにする何かが・・、

今ここで、そのことを追及しても、彼女は絶対吐かないだろう…、
この場は、これ以上事態をこじらせないことが大切だ…〉

現実に戻った浦上の頭の中で、いろいろな考えが駆け巡っていました。結婚の申し出を断り、その
上、別れ話の理由さえ告げようとしないのです。何か・・、かなり異常な事実が女の態度をかたく
なにしている、そして今、女は普通ではない状態に居ると、浦上は判断していたのです。


[19] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(149)  鶴岡次郎 :2014/04/05 (土) 15:11 ID:D8QYWfSM No.2499

男は冷静な表情で女を観察しています。どうやら、浦上は千春をあきらめたわけではないようです。
彼なりに千春の意志の固さを読み取り、他人の目が多いこの場で追求することの愚かさを察知して
いるようです。ここで女を更に追い込めば、女は心にもないことを言ってしまい、更に遠くへ彼女
を追いやる危険があると浦上は察知しているのです。このあたりがさすがバツ一経験者であり、交
渉ごとに長けた優秀な商社マンと言えます。

一方女は違います。意に反して別れを切り出した女は男の深層心理を理解することなどできる状態
ではないのです。別れを切り出せば、男から何らかのリアクションがあるはずだと構えていた千春
は、何も言わないでじっと自分を見つめている浦上を見て、戸惑い、そしてその後、深い失望の中
に落ち込んでいたのです。


〈ああ・・、とうとう言ってしまった…、
心にもないことを…、

三郎さん、あきれて言葉も出せない様子・・、
当然だよね・・、
理由も言わないで別れてくれという女を許すはずがない・・・、
これで、すべてが終わってしまった…。

それでも・・、せめて、私の手を取り
『行かないでくれ…』と言ってほしい…。
でも・・・、それは無理な望み・・、

何も理由を言わないで、突然別れ話を出したのだから、
殴られても文句が言えない身・・、

ああ・・・、とうとう・・、私の夢が消えてしまった…〉

あまりにかたくなな態度を見せる千春に嫌気がさして、二人の仲はこれで終わりだと浦上が判断し
て、何も反論しないのだと千春は受け止めていたのです。

ゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げて、潔く浦上に背を向けました。そして、一歩、二歩、店
の出口へ向けて歩を進めたのです。浦上が立ち上がり、声を出しました。かなり大きな声で、その
声は静かな店の中、隅々まで届きました。

「千春さん・・・・!
もう、一度・・、一度だけでいい・・、
会う機会を作ってください・・・」

女は立ち止まりました、しかし振り向きません。店内のお客にも、店員たちにも、浦上の声を届い
たようです。劇的な別れの場に立ち会い、全員が我がことの様に、不安な気持ちで、じっと千春を
見つめているのです。

「私から連絡を入れます・・・、
その時はぜひ・・、会ってください・・・」

千春の背に浦上が静かな声で頼みました。

「・・・・・・・・」

背を見せたまま、千春がこっくり頷きました。浦上はもちろん、店内のお客も店員も、その場にい
るみんながホッとして顔をほころばせているのです。

千春はそのまま振り向かないで、しっかりした足取りで店を出て行きました。男はじっと千春の背
を見つめていました。その後、千春が帰りのタクシーの中で涙をあふれさせ、必死で声を押さえて
いたのを、浦上は知らないと思います。


[20] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(150)  鶴岡次郎 :2014/04/07 (月) 12:21 ID:Cv1rvMRg No.2500

次の日、千春はいつもの様に出勤しました。そして佐王子からいつもの様に連絡がありました。そ
の客を断らず、千春は指定されたホテルに出向き、そこで待っていたお客に抱かれました。60歳
近い会社役員でした。いつも以上に千春は乱れました。悶え狂う千春の瞳になぜか、いっぱい涙が
あふれていました。その客が帰った後、千春は佐王子に連絡をいれました。

「・・佐(サァ)さん…、お願い…、抱いてほしい…、
今日は一人になりたくないの……」

泣きながら話す千春の声に異常な気配を感じ取り、佐王子は理由を聞かないで、すぐその場で予定
を変更して、そのホテルへ行くことを約束しました。

佐王子が驚くほど千春は乱れ、最後には失神してしまいました。一時間後、千春がようやく目覚め
ました。佐王子はソファーに座りスコッチの水割りを飲んでいました。

「私・・、気絶したようネ・・・
こんなに濡れているし・・・、恥ずかしい・・・」

カラダの下にバスタオルを二枚敷いているのですが、少し絞れば愛液が滴り落ちるほど、それは濡
れているのです。全裸の身体を起こし、眩しそうに男を見ながら、女がかすれた声で話しかけてい
ます。大声で叫び続け、女の声が少し枯れているのです。

「佐(サァ)さん・・、
私・・、求婚された・・・。
都内にある大手商社に勤める35歳の男性・・。
バツ一で、4年前、奥さんを癌で亡くして、子供はいない・・、
お店で出会った・・・、とっても素敵な人なの・・・」

「・・・・・」

手にしたグラスをテーブルに置いて、佐王子が千春を見ています。ベッドの上に座り千春が微笑ん
でいます。べっとり濡れた股間が男の視線を捕らえています。

「とってもうれしいお話で、
多分・・、私にはラストチャンスだと思う・・
こんないいお話は、もう来ないと思う・・」

「ラストチャンスでもないと思うが・・、
千春がいいと思う男であれば、きっとお前にふさわしい男だよ・・・
経験豊富な千春がその気になるほどだから、あちらの方も使えるのだろう・・」

「ハイ・・・、
佐(サァ)さん以外の男と関係して初めて失神しました・・」

「そうか・・、それなら何も文句ないな・・」

「でも・・・、
私、きっぱりと断ってしまった・・・」

「・・・・・・・・」

驚いた表情で佐王子が千春を見ています。今にも泣き出しそうな彼女の表情を見て、立ち上がり
ベッドに近づいてきました。男根がブラブラと揺れていました。


[21] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(151)  鶴岡次郎 :2014/04/08 (火) 15:45 ID:9W89rUJU No.2501

彼女の側に座り、女の肩に右手を掛け、顔を覗き込みました。男の股間から千春の好きな強い香り
が立ち上がり女の鼻腔を刺激していました。

「だって・・、
こんな汚い女が、あの方のお嫁さんになれるはずがない・・・」

「お前・・、まさか・・・、
何もかも言ってしまったのか・・・?」

千春がゆっくり首を振っています。

「何も言っていない・・、
でも・・、何も知らない素人女とは思っていないと思う…
私…、ベッドでは何も隠さなかったから…、

いずれそのことがバレて、蔑まれ・・、捨てられる前に、
私から・・・、別れて欲しいと告げた。
別れる理由(わけ)は聞かないで欲しいとも言った」

「相手はそれで納得したの・・?」

千春がまた首を振っています。

「もう一度・・、会って欲しいと言っていた・・。
私は・・、会いたいけれど、もう・・・、会えない・・、

会えば、もっと離れたくなる・・・、
辛いの・・・、
だって・・・、どうしょうもないもの・・・・・」

そこで千春は大粒の涙を流し始めました。顎から落ちた水滴が裸の大腿部に落ちていました。


千春から別れ話を切り出され、とりあえずその場で結論を出すのは先延ばしにしたのですが、事態
は不利な状態であると浦上は覚悟していました。数日経って、ほとぼりがさめるのを待って、浦上
から連絡を入れるつもりだったのです。

ところが、あの日から2日後に、思いがけなく千春から連絡が入りました。電話の向うで他人行儀
な語り口で話す千春の声を、浦上は悲しい思いで聞いていました。彼女から連絡を入れてきて、話
がしたいと言って来たのは、決していい話ではなく、決定的な別れの言葉を告げるためだと浦上は
察知していました。

指定された時間より20分以上前に喫茶店に入ると、一番奥まった席に既に千春が来て待っていま
した。彼女の側に、浦上の知らない50歳程の男が座っていました。浦上の知らない種類の男、サ
ラリーマンではない雰囲気の男です。その男の持つ独特のオーラ、そして、その男にすべてを託し
て、寄り添うように座っている千春の姿を見て、浦上は奈落の底へ落ちるような絶望感に襲われて
いました。

〈・・・あの男は何者だ…、
どう見ても素人とは思えない雰囲気だが…
あの男が千春の愛人なのか・・・・・

そうだとすると…、
千春を取り戻すのは不可能かも…〉

普段、佐王子は目立たない、平凡な服装をしています。ところが今日は、紫色のカラーシャツに、
純白のブレザー、そして濃紺の細身のパンツ、白と紺のコンビの高級靴を身に着けているのです。
どこから見ても隙のないその筋のお兄さんの雰囲気を出しています。さすがに良く似合います。

佐王子を見て、浦上は完ぺきなまでに打ちのめされていました。少し残っていた千春奪還の希望を
浦上は完全に失っていたのです。


[22] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(152)  鶴岡次郎 :2014/04/09 (水) 16:25 ID:RBTVHB1o No.2502

浦上とその男は硬い表情のまま初対面の挨拶を交わしました。浦上は社用の名刺を差し出したので
すが、その男は佐王子保と名乗り、名刺は持っていないと卑屈な笑みを浮かべて言いました。

「初対面早々で、失礼だと思いますが…、
佐王子さんのご職業を教えていただけませんか…」

一番気にかかっていることを浦上が素直に聞いています。佐王子が笑いながら答えました。

「浦上さん・・・、正直な質問ですね・・。
何者だろうと私のことをあれこれ考えておられるのでしょう・・、
本来であれば素人の方に正体を明かさないのがお決まりなのですが・・・・、

いいでしょう・・、
今日のところは、私の稼業を伏せていては、話が進みませんので、
何もかも、きれいさっぱり、お話しすることにします…」

やや芝居がかった口調で、もったいをつけています。浦上はぶぜんとした表情で佐王子を見つめて
います。

「あなたのように、何不自由のない家庭で育ち・・、
良い大学を出て一流商社にお勤めのお方はご存じないかもしれませんが・・、
私は・・・、竿師をやっています。
竿師ってご存知ですか・・・?」

「・・・・・・」

男の言葉にビックリして、男の顔を見て、そして千春の顔を見ています。千春の表情は変わりませ
ん。そうした話題が出ると覚悟をしていた様子で、千春は顔色も変えていないです。それでも固い
表情を保ったままです。

「女を騙して・・、騙すと言っても、口先だけでなく、私の身体で女を騙すわけです。
女が私の身体から離れられなくなった頃を見計らって、女から金を巻き上げるのです。
勿論、女に金がないと判ると、私のために働いてもらいます・・。

こんなことをやっているのが、竿師です・・・・」

勿論、聞きかじりですが、浦上も竿師のことはそれなりの知識を持っていたようです。そして、千
春と一緒にいる男が竿師だと判ると、全身が震えるほどの恐怖心と奈落にまっさかさまに落ちるよ
うな絶望感を抱いていました。

「そんな汚い仕事をしている竿師の私が千春と一緒にここへ来た・・。
どうして、千春と一緒にいるのか、
その先を聞きたくない・・、知りたくない・・と、
浦上さんは感じておられるのではないですか・・・」

ここで口を閉じ、笑みを浮かべたまま佐王子は浦上の表情を見ています。必死で心の中にある動揺
を隠そうと浦上は頑張っています。

「もし、このまま何も聞かないで帰るとおっしゃるのなら、
私は無理に引きとめません・・・・。
当然、あなたと千春の仲もここで終わり、私もあなたの前から消え、
ここでお会いしたことも含め、これから先も、一切関係がないことにします・・」

浦上の心の動揺をあざ笑うかのように、誘いの言葉をかけているのです。浦上にはほとんど佐王子
の言葉が聞こえていませんでした。必死で立ち直ろうと努めているのです。

「どうですか・・、浦上さん…・、
貴方が聞きたいとおっしゃるのなら、
私と千春の関係、そして、私が千春に何をしてきたか、
全て話したいと思いますが、どうされますか・・・?」

浦上は堪えました。この場を逃げ出せば全て終わりになり、千春を失うことにはなるが、これ以上
の被害は受けないのです。逆に、このままこの男の話を聞けば、どんな難題を吹きかけられるか
判ったものではないのです。それなりの金を要求され、ことがこじれれば、一流商社社員の身分さ
え危なくなる可能性が出てくるのです。


[23] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(153)  鶴岡次郎 :2014/04/11 (金) 14:45 ID:BBZ/K3K. No.2504
10秒、30秒、・・60秒ほど浦上は黙ったまま男の顔を見つめていました。千春が心配して浦
上の顔を見上げるほど、彼の沈黙は続いたのです。佐王子はさすがです、浦上の強い視線を真正面
から受けても、視線をそらすことなく、表情を変えないで堪えているのです。やがて・・、ゆっく
りと浦上が口を開きました。

「お話をうかがわせていただきます・・。
貴方がご存知のことを全て、ありのまま全て話してください。
結婚を申し込んだのはそれなりの覚悟を決めての上です。
千春さんが私を受け入れたくない理由をしっかり確認したいのです」

姿勢を正し、しっかり男の顔を見て、浦上は明瞭な言葉で、それでいて静かな口調で返事しました。
表面上、浦上は完全に立ち直っています。彼の様子を見て、先ほどまで見せていた笑いの表情が佐
王子から消えています。

「千春を罠にかけたのが、4年前です・・。
その頃、彼女は入社4年目で、シュー・フイッターとして実績を重ね、
店内でも段々にその実力が認められるようになっていました・・」

ゆっくりと佐王子が語り始めました。その先の話の展開がわかるようで、さすがに千春は耐えがた
い表情を浮かべ面を伏せています。千春を見て浦上は少し心配そうにしていますが、案外冷静な表
情です。千春につらい思いをさせても、この機会に千春の過去をすべて知りたいと浦上は決めてい
るようです。

「当時千春が勤めていた店の恥を話すことになるので、これから話すことは、聞き流して記憶にと
どめないようにしてほしいのですが・・・・、

多分、浦上さんには想像もできないことだと思います、詳しい内容は省略しますが、当時、千春の
店では限られた数人の女店員がお色気サービスをして、靴の売り上げを競っていました・・」

どうやら千春は浦上との出会いを佐王子に話していない様子です。偶然、訪問した店で、千春のお
色気サービスを受けたことが縁で、浦上は千春と知りあい、結婚を申し込むまでに二人の仲が発展
したのです。こうした経験から浦上には佐王子の話はよく理解できました。勿論、お色気サービス
の内容を知っているとは浦上は言いません。

「千春のお客と私のお客は良く似た種族に属する方々で、金が有り余っていて、それでいてスケ
ベーな方々です。そんなお客から千春たちの店の噂を私が聞きだすのは時間の問題でした。

お客様方の噂話を聞いた私は、商売に使える女がその店にかなり居そうだと直感しました。早速、
その店を覗いた私は数人居る女性フイッターの中で際立つ女を見つけ出しました。それが千春で
す・・・」

そこで口を止め、佐王子はコーヒー・カップに口を添え、不味そうな表情を浮かべました。コップ
の中のコーヒーはすっかり冷めているのです。そうした動作の中でも視線は浦上から外さないので
す。浦上もしっかり佐王子の目を捉えています。

「私はあらゆる手を使って千春を誘惑しました。その結果、彼女は私に惚れ、いや・・、多分私の
カラダに惚れたのだと思いますが、とにかく、彼女は私の言いなりになってくれました。

勿論、私もそれなりに千春に大切にしました。しかし、私はプロの竿師です。何のわけなく女に惚
れることはありません。付き合うようになってしばらくしてから、千春に男を紹介しました。

私に溺れていた千春はいやいやながらも、あがらうことが出来ないで、私が宛がった男達に抱かれ
ました。それ以来4年、千春は表の仕事と並行して、私と一緒に裏の稼業を続けています・・・」

竿師の佐王子と関わった以上、堕ちるところまで堕ちた筈だと、浦上は千春の身の上を予想してい
たのです。予想通りの内容を聞いて、ビックリはしていませんが、その事実を改めて突きつけられ
て、浦上はひどく落胆していました。そして、激しい感情が浦上の中から湧き上がっていました。

浦上の落胆した様子と、吹き上がる感情の処理に耐えかねている浦上を見て、佐王子は複雑な表情
を浮かべ、千春は消え入りそうに恥じ入っているのです。おそらくこの時点で、佐王子と千春は三
人の話し合いはここで終わると観念していたのです。


[24] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(154)  鶴岡次郎 :2014/04/15 (火) 16:01 ID:QJBcMWNY No.2505
浦上が席を立って、それを最後に二人の関係が終わると、千春は覚悟を決めていました。それだ
けに、衝撃的な話を聞いても席を動かず、ただ黙って佐王子を睨み付けるようにしている浦上を
見て、千春は当惑していました。

〈三郎さん・・、何を考えているのだろう…、
裏切られた怒りと、あまりにひどい私の話を聞いて・・、
あきれ果て、怒ることさえ忘れているのかもしれない…。

いずれにしても、これで終わった…、

何も知らせないで、判れるより、
むしろ、こうした形で終わることができたことを感謝すべきかもしれない・・〉

浦上の中に噴出した感情は、不思議なことに千春への怒り、蔑みの感情ではありませんでした。激
情の矛先はもっぱら佐王子に向けられていたのです。あからさまに千春の過去を暴き立て、彼女を
辱める佐王子に対して、浦上は怒りで身体を震わせていたのです。

〈なんて男だろう…、
果たして・・、ここまであからさまに・・、
何も隠さず、売春行為まで僕に話す必要があったのか・・、

もう少し、こちらの気持ちを汲んでいれば、そこまで言わないだろう・・、
側に居る千春をそこまで辱める必要はないだろう・・・、

愛人とか、情婦とか・・、やんわりと言えばそれなりに理解できるのに、
もう少し受け入れ易い言葉を選ぶことだって出来たはず・・・。

いや、いや・・、これは彼の作戦だ…、
嫌がらせの事実を並べ立て、僕を彼女から引き離そうとしているのだ・・
彼の挑発に乗ってはいけない…〉

浦上は必死で戦っていました。そして、佐王子がことさらのように千春の悪事をバラしているのは、
浦上を千春から排除しようとする佐王子の強い意志が働いていると考えたのです。そうであれば、
そんな作戦に乗ることは出来ない。浦上は自身の信念を貫く気持ちをあらわに出して、佐王子を睨
みつけていたのです。

「佐王子さん・・、
それであなたのお話は終わりですか・・、
もう・・、隠していることは有りませんね・・」

静かに、抑揚の無い調子で浦上が言葉を発しました。予想に反して冷静に反応する浦上を見て、佐
王子が本心で驚いた表情を浮かべています。

「いや・・・、驚きましたね…、浦上さんは冷静ですね…・、
こんな話を聞いても、さすが一流会社の方は肝が据わっているというのか、
割り切っていると言うのか、案外平静ですね・・、驚きました・・」

佐王子が、本心で驚いた表情を浮かべています。千春もびっくりして浦上を見つめています。

「もしかしたら・・、
浦上さんはこの程度の話は予想できていたのですね、
素人には見えない私が千春と同席しているのを見て、
この話の展開を予想していたのですね…、

う・・・ん・・・、それにしても、たいしたものだ・・、
サラリーマンにしておくのはもったいない度胸ですね・・、はは・・」

佐王子の低い笑い声が空ろにその場に広がっています。


[25] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(155)  鶴岡次郎 :2014/04/16 (水) 15:33 ID:zUhgHqm6 No.2506

佐王子の嘲笑を浴びても浦上は表情を動かしません。千春は・・、もう・・、この先の展開が全く
読めないようで、うつろな表情を浮かべ二人の男をかわるがわる見ているだけです。

「佐王子さん、あなたの真意が良く判りません。
あなたは、千春さんの過去をことさらの様に印象悪く暴き立てていますよね・・・。
何か企みがあるように思えてならないのですが・・・」

衝撃的な千春の秘密を聞かされ、ここで浦上が正常心を失い、狼狽え、わめき散らすことさえ想像し
ていたのです。それが、佐王子の暴露話を冷静に受け止め、その内容を分析し、その暴露話の裏に
隠された佐王子の企みさえ、浦上は暴こうとしているのです。

佐王子の予想を裏切る浦上の反応だったのです。浦上の言葉に、否定も肯定もしないで佐王子はた
だ苦笑を浮かべているだけです。そして、浦上が案外手ごわい相手と分かったのでしょう、彼から
積極的に浦上に攻撃をかけないと決め、ここは浦上の出方を見る姿勢を見せているのです。

勿論、佐王子の戸惑いを浦上は的確に捉えていて、それまで押されぱなっしだった佐王子に対して、
一矢報いた気分になっていたのです。

「お答えがないようですが・・・、
いいでしょう・・、
あなたが何を企んでいるか、今はそのことには触れないでおきます・・」

あっさり浦上が佐王子の追及を止めています。一呼吸おいて浦上が口を開きました。すっかり落ち
着いた様子で普段の浦上に戻っています。

「あなたが私より先に千春さんと関係を持ったことは認めます。
しかし、これだけは言っておきたいのです。

このままあなたとの関係を続けたとしても、
その先・・、千春さんが幸せになるとは思えないのです・・・」

ここで次の言葉を飲み込みました。愛しい千春の名前を口に出したことで、浦上の中にこみ上げって
くる何かがあるようです。それまで冷静さを見せていた表情にわずかな変化が出ています。無理も
ありません、最愛の恋人が最悪の男に奪われようとしているのですから…。

「私は千春さんを誰よりも深く愛しています。
多分、あなたより、私は千春さんを幸せにできると思っています・・

お願いです・・・、
千春さんのことを少しでも気にかけているのなら、
僕たちの関係に口を挟まないでいただきたいのです…」

さすがの浦上も自分の気持ちを抑えきれなかったようです。千春を恋する気持ちが浦上の中で暴発
しているのです。佐王子を睨み付けるようにして、それまで考えていた筋書とは違う挑戦的な言葉
を吐き出してしまったのです。

学生時代武術に励み、180センチを超える偉丈夫です。取っ組み合いになれば、小男の佐王子を
押さえつける自信が浦上にはあるようです。腕力勝負への自信が挑戦的な言葉を吐き出させたのか
も知れません。

「おや・・、おや、相当な自信ですね…・、
しかし、そうとばかりは言えないと思いますよ…、
あなたから見て、今の千春は不幸に見えますか・・?

毎日好きな仕事に情熱を燃やし、
夜ともなれば、私が紹介した紳士たちの手で天国に上る思いをしている。
まさに、千春は女ざかりを謳歌していると思うけれどね…」

笑みを浮かべた佐王子がやんわりと反論しています。


[26] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(156)  鶴岡次郎 :2014/04/17 (木) 13:21 ID:r/3YMEEY No.2507
佐王子に反論しようと浦上は思ったのです。しかし、彼の言う通り、千春にはどこにも陰が見当た
らないのです。売春というみじめな稼業を4年も続けていた女の陰がどこにも見当たらないのです。
それどころか、今を盛りに咲き誇る女の魅力を満々と湛えて、毎日を楽しんでいるのが良く判るの
です。浦上は黙って佐王子を睨み付けているだけでした。

「それにね・・、
あなたは何か勘違いをしているようだ・・・
あなたは、千春との関係に口を出すなと言っているが・・・・、

俺の女に手を出したのは・・・、
浦上さん・・・、
それは・・、あなただよ…」

一転して笑みを消し、鋭い視線を浦上に向けました。浦上がはっとして身構えています。

佐王子の突き刺すような視線を浴びて、浦上は全身が金縛りにあったような気分で、視線を外すこ
とも、言葉を発することも出来なくなっていました。取っ組み合いになれば、小男の佐王子を難な
くねじ伏せることができると思っていた自信は吹き飛んでいます。背筋が寒くなるような殺気さえ
浦上は感じ取っていたのです。どうやら佐王子がその本性を見せ始めたようです。

「俺の女を寝取っていながら、俺に向かって、
平然として、二人の関係に口を出すなと言っている・・・。
俺のことを素人でないと判っていながら、俺に歯向かっている・・。
浦上さん・・、あなたの、その勇気は認めるよ…。

しかしね・・、よく考えてほしいのだよ…、
本来なら、あなたはボコボコにされても、文句が言えないのだよ、
浦上さん…、あなたは俺の女を寝取ったのだからね・・・・」

抑揚のない、低い声で佐王子は語っています。浦上の知らない修羅場を何度もくぐってきた男だけ
が持つ不気味さを存分に見せつけながら佐王子は笑みさえ浮かべて話しているのです。浦上はただ、
黙って聞いていました。逃げ出さないで佐王子の話を聞いている・・、そのことだけ取り上げても、
浦上はよくやっているとほめてやりたいと思います。並の男ならとっくに逃げ出しているでしょう。

「俺は大人しく話し合うつもりでここへ来たんだよ・・、
その俺に向かって、口を出すなとあなたは言っているのだよ・・、
これは誰に聞いてもらっても、あなたが間違っていると言うだろうね…・

浦上さんが認めているように、俺が先に手を付けて、
千春は今では俺の女になっているのだよ、
俺の女に手を出した男に、俺が文句をつけるのは当然だろう・・
頭の良い浦上さんならこの道理が判るだろう・・・・・・」

ゆったりとした口調で、笑みをたたえて、それでもすさまじい殺気を迸らせながら佐王子は話して
います。さすがに怯えた表情を隠せませんが、それでもけなげに、浦上は目を逸らそうとはしませ
んでした。必死で睨み返しているのです。

言いたいことを言い尽くしたのでしょう、佐王子が口を閉じ、次の言葉を出そうとしないでじっと
浦上を見ているのです。今度は浦上が答える番です。そのことが判っていながら、浦上は口を開く
ことができませんでした。背中に冷たい汗が流れているのを感じ取りながら、浦上は必死で恐怖心
と戦っていました。

口がからからに乾き、舌が上あごに張り付いたようになっているのです。ゆっくりと右手を伸ばし、
テーブルの上のコップに指をかけました。震えているのが彼にも判ったのでしょう、コップを持った
手を持ち上げないで、しばらくじっとしています。そして、おもむろにコップを取り上げ、喉に冷
たい水を流し込みました。手の震えはかろうじて止まっています。


[27] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(157)  鶴岡次郎 :2014/04/18 (金) 15:56 ID:eFWSYnIQ No.2508

火照った体の隅々に冷たい水が行き渡っています。浦上は大きく息を吐き出しました。それだけで、
浦上は立ち直っていました。四肢に力がみなぎり、彼の中に戦う意欲がむらむらと湧き上がってい
ました。表情から怯えは消えています。浦上の変化に佐王子も気が付いた様子です。目を細めて、
若い浦上の様子をじっと見つめています。

「佐王子さん・・、熱くなりすぎて、少し言い過ぎました。
おっしゃる通り、千春さんとあなたの間に横から入り込んだのは私です、
その意味で、あなたが私に文句を言うのは当然です・・。
私からあなたに文句を付けるのは、明らかに道理に反します。
それは認めます・・・

しかし、たとえ道理に反していても、すべての人から批判を浴びようとも、
人が人を好きになることを止めることはできません・・・・」

冷静に戻った浦上は、話の展開でも、話の筋でも、その道を踏み外したのは浦上自身だと気が付い
たようです。このままでは佐王子に寄り切られると危機感を感じ取っていたのです。謝るべきとこ
ろは素直に謝り、劣勢を立て直すことにしたのです。

「佐王子さん…、
あなたにはとうてい許せないことだと思いますが・・、
私は千春さんを愛してしまったのです。
この気持ちはどうすることも出来ません。

なたにとっては、迷惑この上ない話だと思いますが、
あなたの愛人である千春さんを私は愛してしまったのです。
千春さんの幸せを願うことでは、私とあなたは同じ立場に居ると思います。

そこで一つお願いがあります。
これから先、万が一、私が千春さんと離れることになって、
千春さんとあなたの関係がこのまま続くことになっても、
あなたに、絶対守ってほしいことなのですが・・・・、
聞いていただけますか・・・・・」

必死の表情を浮かべ浦上が話しています。佐王子が黙って頷いています。

「ありがとうございます…。
あなたは先ほど、『・・俺が先に手を付けた、俺の女だ・・』と言いましたね・・、
その他、この場で口に出すことさえできない、蔑みの言葉をたくさん使いました。

千春さんに少しでも愛情を感じておられるのなら・・、
いえ・・、千春さんのことを大切に思っておられるのであれば・・・、
いえ・・、あなたが千春さんを愛しているのは、僕には良く判るのです。
そうだからこそ・・、こうして申し上げているのです…。

千春さんを辱める言葉は使わないでほしいのです。
千春さんを人前で辱めるのは止めて欲しいのです・・・・」

やや怒気を含めながら浦上が話しています。苦笑を浮かべて佐王子が頷いています。心配そうな表
情で千春が浦上と佐王子を交互に見ています。

「あなたが本当に千春さんを愛し、千春さんもそれで満足して、私よりあなたを選ぶというのであ
れば、残念ながら、私は引き下がるより他に道はないと思います。しかし、あなたの話を聞いてい
て、あなたが判らなくなっています。私が引き下がることが千春さんの幸せに結ぶ付かないと思い
始めているのです・・」

佐王子を真正面から見つめて、浦上が渾身の気持ちを込めて話しています。

〈・・この男はなんていい顔をしているのだろう・・・!
この瞬間、惚れた女のために、すべてを捨てている・・・・・、
俺にもこんな時があったのだろうか・・・忘れてしまったな・・〉

焦点の合わない、遠くを見るような視線で浦上の顔を見ながら、佐王子は過ぎ去った昔を思い出し
ていました。

「男女の愛の形は人それぞれに違うことは、経験の浅い私にも何とかわかります。
それでも、私にはあなたの気持ちが判りません・・・。
あなたは千春さんを本気で愛しているのに、
その一方で、あなたは稼業の駒として千春さんを利用しています。

あなたの話通りであれば、5年間、千春さんは女の盛りを犠牲にして、あなたに奉仕した勘定です。
このままあなたとの関係を続けることが、
千春さんの幸せに結びつくとは、とうてい私には思えないのです・・」

静かに、明瞭な言葉で浦上は話しています。千春はやや面を伏せて、聞いています。佐王子は視線
を宙に向けています。二人それぞれに、浦上の言葉に深い感銘を受けているようです。


[28] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(158)  鶴岡次郎 :2014/04/19 (土) 12:26 ID:T3Gxc42E No.2509

かなり厳しく非難されているのですが、佐王子は何も反論しません。反論する材料がないのか、あ
るいは反論する意欲がないのか、いずれにしても佐王子は口を閉じたままです。酷くやられている
のですが、佐王子の表情は穏やかで、満足げな様子さえ見せているのです。千春は下を向き、肩を
震わせています。

千春の様子はともかく、佐王子の態度は浦上には不可解であり、不気味です。浦上は勝利を確信で
きないまま、最後の言葉を出すことにしたのです。まさに運を天に任せる心境だったのです。

「佐王子さん…、どうでしょう・・・
ここらで、千春さんを自由にしていただけませんか・・。
千春さんの幸せのために、決断してください…。

それとも、未だ絞り足りないというのですか・・・」

後には引かない毅然とした覇気を見せて浦上が言い切りました。冷静に戻った浦上に隙はありませ
ん、さすがの佐王子も反論できないのでしょうか・・・。

胸の内にあるものを全て話し終わった浦上がことをやり遂げた満足気な表情を浮かべ、佐王子を見
ています。挑戦的な言葉を投げかけられた佐王子ですが、なぜかこの場にふさわしくない嬉しそう
な表情を浮かべているのです。

「もし、私が千春を手放したら・・、
あなたはどうするのですか・・・?」

「どうするって・・・、
今、ここで、貴方にそれを言わなくてはいけないのですか・・」

「ぜひ、聞かせてください・・・、
千春も同じ気持ちだと思います・・・」

佐王子が千春をチラッと見て、ゆっくり語りかけています。千春がコックリ頷いています。どうや
ら佐王子の作戦に浦上はすっぽり嵌ったようで、ぎりぎりの瀬戸際に追い込まれ、男の本音を吐き
出す羽目に追い込まれた様子です。

「私の求婚を断った理由が・・、
今あなたから聞いた彼女の過去が原因であるというのなら・・・・」

ここで言葉を止めました。佐王子も、千春も、まさに固唾を飲んで、浦上の次の言葉を待っている
のです。浦上は目を閉じて、もう一度彼自身に問いかけていました。

「私はそんな過去を問題にしません。
私は改めて、千春さんに結婚を申し込みます・・」

冷静な声で浦上は答えていました。そして、心の内にいるもう一人の彼自身に、もう一度問いかけ
ていたのです。

〈本当にそれでいいのだね・・、
売春婦の千春を妻に出来るのだね・・〉

自分自身に問いかけ、涙を流し、浦上をじっと見つめている千春を見て、浦上は自分に迷いがない
ことを確信していたのです。

「判りました・・。
今日を限りに私は千春から手を引きます。
私から千春の過去を暴き立てることを勿論しません。
それに、誰かが少しでも千春の過去に触れようとしたら、連絡してください。
私が身を呈して、それを防ぐことをお約束いたします。
それが、せめてもの私のお礼奉公です…」

そのタイミングを待っていたようにすらすらと口上を述べ立てる佐王子を見て、ようやく佐王子の
真の狙いに浦上は気が付いていました。まんまと彼の罠にはまり込み、本音を吐き出したことに気
が付いているのです。勿論悪い気分ではないようです。


[29] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(159)  鶴岡次郎 :2014/04/20 (日) 14:55 ID:b/c3IKNs No.2510
千春がそっと右手を伸ばし、浦上の左手をつかんでいます。それに気が付いた男が右手を女の手の
上に載せています。男と女は黙って視線を絡ませ会っています。女の瞳に涙があふれ、水滴が頬を
伝って、きれいな顎から滴り落ちています。男がハンケチを出して、女の頬をぬぐっています。女
が微笑み、男が笑顔でその微笑みに応えています。

目の前で繰り広げられる控えめな男と女の行為を佐王子は黙って見ていました。この喫茶店に入って
から初めて・・、いや、おそらく彼の生涯でも数えるほどしかないと思いますが、胸の内をあからさ
まに表情に表わしているのです。今にも泣きだしそうな、悔しさを抑えきれないような、それでい
て、慈愛を含んだ、あきらめを感じ取った、満足げな表情を浮かべているのです。

二人にしばらくの時間を与えて、頃合いを見て佐王子がゆっくりと口を開きました。

「私の出番は終わったようなので・・、
ここで失礼します・・」

「アッ・・・・佐王子さん・・、
えっ・・、帰るのですか・・、
そうですか・・・、本当にありがとうございました・・」

二人の世界に入り込んでいた男と女は、今更のように佐王子の存在に気が付いて、びっくりして佐
王子を見ているのです。さすがに、千春があわてて、感謝の言葉を告げています。千春の慌てた様
子が、とってつけたような感謝の言葉が、佐王子の胸にぐさりと突き刺さっていました。

〈俺の存在を忘れるほど舞い上がっているのだ・・、
いいよ・・、いいよ、
俺のことは忘れてくれ・・、
それがお前の幸せにつながるのだ・・〉

愛に溺れた男と女は時として、周囲にいる善良な者を知らず知らずに傷つけることがあります。こ
の時の佐王子がまさに愛する二人の犠牲者なのです。勿論二人はそのことに気が付いていません。
佐王子も傷つけられたそぶりさえ見せないのです。

「浦上さん・・、
今日は失礼なことを数々申し上げましたが、
これすべて千春を愛するが故に口に出したことです。
浦上さんであれば私の気持ちはお分かりいただけると思います・・・。
では・・・、これで・・・」

いろいろ言いたいことはあるはずですが、好敵手に敗れた侍の様に、恨み言も、捨て台詞もなく、
むしろ、あっけないほどあっさりと別れの言葉を言い切り、浦上に一礼して、佐王子は立ち上がろ
うとしました。

「佐王子さん・・!
チョッと待ってください・・・」

浦上が声をかけました。立ち上がりかけた腰を下ろし、佐王子が浦上の顔を見ています。一呼吸を
置いて、浦上が口を開きました。一言、一言、言葉を選びながら、慎重に語り始めました。

「佐王子さん・・、一つ教えてください・・・・
売春のこと・・、貴方が言わなければ・・、
僕はそのことを永久に知ることはなかった。

あなたの愛人だと・・。
それだけ言えばすむ話ではなかったのですか・・・」

「確かに、私が言わなければ、千春さんも自ら進んで自身の恥を話すことはしないでしょうから、
秘密は表に出ることはなかったと思います。

それなら、何を好んでそこまでさらけ出したのか・・・・。
当然の疑問ですね…、さすがは浦上さんです・・」

佐王子が一応感心して見せています。

「私も、随分と考えました・・。
結局、全てを話すことにしたのです・・・。
それは、千春の・・、いえ・・、千春さんの幸せを考えた上でのことです」

「千春さんの幸せを考えた上ですか…、
僕にはそうは受け取れませんでした・・・。

はっきり申し上げると、最初は僕に対する嫌がらせだとさえ思いました。
私を千春さんから遠ざける作戦だと受け取りました。

そして、今回の三者会談が佐王子さんの演出だと判った今でも、
千春さんの過去をそこまでさらけ出す必要はなかったのでは・・・、
この思いは捨てきれません・・・・」

何か感じるところがあるのでしょう、浦上が執拗に質問を続けています。佐王子も浦上の質問の狙
いをある程度理解している様子で、かなり慎重に構えています。どうやら男二人の勝負はまだ終
わっていない様子です。


[30] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(160)  鶴岡次郎 :2014/04/21 (月) 15:55 ID:UV5e0h7o No.2511

この質問が出てくるのを佐王子は予想していました。そしてもちろん、説得力のある答えも準備し
ているのです。ただ浦上の様子を見て、適当にあしらえる相手でないと判断したようで、佐王子は
言葉を選びながらゆっくりと話し始めました。どうやら、彼の説明で浦上を完全に納得させる自信
がないようです。

「浦上さんがそう受け取ったのは当然です。
あなたを少しイラつかせて、本音を引き出すつもりだったのですから・・・。
やや、過激な言葉を使ったことは謝ります。

あなたの質問の件ですが、お二人の将来を危うくするようなことは言いたくなかった、
出来ることなら、このことは千春さんと私だけの秘密にしておきたいと思っていました。
千春さんも多分そのつもりだったと思います。

いろいろ考えた結果、秘密をお話しすることが千春さんにとってベストだと思ったのです・・、
それで千春さんの了解も得ないで、私の独断でお話ししたのです」

「そうですか・・、千春さんのためを思ってのことですか…、
だめですね・・・、私にはやはり納得できません…。

ご覧の様に、未熟者ですから、佐王子さんの本心が良く理解できません。
面倒なことをお願いするようで申し訳ありませんが、
経験の乏しい僕にも判るように説明いただけませんか・・・」

佐王子に対する浦上の評価がかなり好転しているのです。見かけによらずしっかりした考えを持った
男、彼の職業や、見かけで判断した以上にできる男だと浦上は佐王子を評価しているのです。言葉
使いも丁寧になっています。経験の深い先輩に教えを乞う姿勢さえ見せているのです。

「もし私が売春のことをあなたに伏せていたら・・・、
千春は・・、いえ・・、千春さんは・・、
一生その秘密を抱えて、あなたと暮らすことになる。
そんな苦労を、彼女にさせたくないと思いました・・・」

浦上が頷いています。

〈そのことは勿論考えた…、
最愛の夫には勿論、誰にも話せない秘密を抱えて生きることは、確かにつらいことだ、
しかし、秘密を話せば僕が彼女を見捨てることを、心配しなかったのか・・

どちらを取るか・・、難しい判断だ・・・・
僕なら、この場は秘密を守る道を選ぶと思う・・・・〉

浦上の釈然としない表情を見て、佐王子は少し慌てていました。

「私がその秘密を話して、それで離れて行く男であれば・・、
浦上さんはそれだけの男だと・・、
あなたを取り逃がしても・・、
千春さんにとって惜しい男ではないと思ったのです・・。
千春さんにはもっといい男が似合うと思ったのです・・・」

そこで佐王子は口を止め、いたずらっぽ笑みを浮かべて浦上を見て、そして視線を千春に向けま
した。千春の瞳から涙があふれていました。それでも、必死で泣くのを我慢しているようです。

〈驚いた・・・、この人は僕の心を読み切っている…、
僕が不審に思っている事実をズバリと突いてきている…
この人にはかなわない・・、
釈然としないが、佐王子さんには悪気がないようだから・・、
これで良しとしよう…〉

佐王子の説明に浦上は苦笑を浮かべて大きく頷いています。ようやく納得した浦上を見て、佐王子
が何度も、何度も頷いています。


[31] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(161)  鶴岡次郎 :2014/04/23 (水) 16:22 ID:z32FHhMA No.2512

佐王子に笑みを返しながら、浦上はまだあきらめきれないようで、佐王子の言葉の裏を探っていた
のです。

〈佐王子さんの説明は一応筋が通っているが…、
それでも、売春のことを口にして良い理由としては軽すぎる…、

その一言で、私は千春さんをあきらめていた可能性もあった、
その一言で、千春さんが望む結婚話は消える可能性が高かったはず、
これほど重大な秘密をバラすには、それなりのもっと深い理由があるはず。
佐王子さんは本当の理由を隠している…、そうに違いない…

そうか…、もしかすると…、
千春さんと結婚する僕に、そのことを知らせる必要があった・・、
そうだ・・、それだ・・、そう考えると全ての謎が解ける・・・、

では、その必要性とは何だ・・・、
破談の危険を犯しても、売春のことを僕に告げる必要性とは…
判らない・・・・〉

浦上と結婚したいと望む千春の希望を聞き、佐王子は初めから千春と浦上を結び付ける積りで、今
日の会見を自作自演したのです。そうであれば、千春と浦上の縁談話を根底からつぶしてしまう可
能性を秘めた売春の件を、あえて口に出すのは少し変だと浦上は考えたのです。千春と口裏を合わ
せて隠し通すことだって出来たはずで、むしろ、そうするのが普通の選択だと浦上は考えたのです。

確かに、佐王子の説明はなかなか説得力のあるものですが、浦上はそれだけでは納得していなかった
のです。勿論、佐王子が悪意を持って、本当の理由を隠しているとは疑っていないのですが、ある複
雑な理由があって、佐王子は本音を今は隠していると浦上は考えているのです。

浦上が複雑な悩みを抱えていることなど気づかない様子で、佐王子は真正面から浦上を見つめて、少
し改まった口調で口を開きました。

「あなたは私の予想を超える素晴らしい方でした。
千春のこと、安心して任せることができます。
よろしく、お願い申します…」

佐王子が浦上に深々と頭を下げています。浦上も頭を下げています。千春を見て、佐王子がやさし
い口調で言葉を出しました。

「千春・・、良かったな、いい人に巡り合えて・・、
もう・・、会うことはないと思うが、今まで、本当にお世話になった・・・。
幸せになるんだよ・・・・」

「佐さん・・・、佐王子さん…
私こそ、…本当にお世話になりました…。
うう・・・・」

もう・・、千春は堪えることが出来ないで、テーブルの上に泣き崩れました。店に居る他の客が何
事かと彼らを見ていますが、男二人が笑みを浮かべているのを見て、トラブルでないと判断した様
子で、騒いだりしないで静かに見守っているのです。

「では・・、私はこれで失礼します・・」

佐王子が立ち上がり、千春と浦上も遅れて立ち上がりました。三人は丁寧に頭を下げて別れのあい
さつを交わしました。そして、その場で潔く背を向けた佐王子が出口へ向けて大股で歩き始めまし
た。

ぼんやりと佐王子の背中を見つめながら、浦上はまだあの事を考えていたのです。

〈なぜ・・、売春のことを僕に話す必要があたのだろう・・
これで・・、秘密は闇に葬り去れるのか…、
時間が経てば、いずれ忘れるだろうが・・、気になるな・・・・〉

奥歯に物が挟まったような、そんなすっきりしない気持ちで浦上は佐王子を見送っていました。


[32] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(162)  鶴岡次郎 :2014/04/25 (金) 13:03 ID:eNnkX25c No.2513

二、三歩、歩いたところで突然佐王子が立ち止まり、振り向き、笑顔で浦上に声をかけました。

「浦上さん・・、
言い忘れたことがありました・・、
ちょっといいですか…?」

立ち止まったまま手招きしているのです。浦上が立ち上がり、佐王子のところへ歩み寄りました。
千春に聞かせたくない話があると判断したのです。

声を潜めて、浦上の耳に顔を近づけて佐王子は話しています。笑みを浮かべて話しているので、仲
のいい友達が別れ際に、人には聞かれたくないきわどい話を交わしているように見えるのです。千
春も首をかしげ、笑みを浮かべ、男二人を見ています。どうやら、千春には佐王子のささやき声は
届いていない様子です。

「今からお話しすることは私とあなただけの秘密です。
勿論、千春さんにも聞かれたくないことです。
緊張しないで、不自然でない程度に笑みを浮かべて聴いてください・・」

佐王子に呼ばれて、ある期待から全身に緊張感をにじませていた浦上が肩の力を抜き、笑みを浮か
べて男同士のたわいない戯言を聞いている雰囲気を出しています。

「浦上さん…、
売春の件をあえて暴露した理由(わけ)を・・・、
あなたは納得していませんね…」

びっくりした表情で浦上が佐王子の顔を見ています。まさかそこまで読まれているとは思ってい
なかったのです。

「そんなにびっくりした顔をしてはダメです…、
笑って、笑って…、そうです・・」

「驚きました…。
判りましたか…、
佐王子さんには、本当にかないませんね…」

「お客の表情を読むのが私の仕事ですから・・」

「若造の考えていることなど、
あなたにとってはすべてお見通しってことですかね・・・」

すこしすねた表情を浮かべて浦上がつぶやき、佐王子がにっこり微笑んでいます。

「私は先ほど申し上げたように女衒です。
女のことは、女本人よりよく知っているつもりです・・
女の体を売り買いする女衒の私から見て、千春さんは千人・・、
いえ、多分、数万人に一人の女性です。

数知れない女性を抱いてきた私でも・・、
彼女ほどの女性は彼女と他一名しか知りません。
その意味で、あなたは選ばれた幸運な男性です・・」

予想外の、大変な話になりそうな予感で浦上は、体が震えるほどの緊張を感じていました。そして、
佐王子が今まで隠していた本音をいよいよ話し出すのだと感じ取っていたのです。


[33] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(163)  鶴岡次郎 :2014/04/26 (土) 15:29 ID:QVyeAXME No.2514

佐王子に言われたとおりそれまではにこにこ笑っていたのですが、佐王子がいよいよ核心に触れる
内容を話し出すと判ると、笑みを忘れて、佐王子を睨み付けるように見ています。無理もありませ
ん、これから結婚しようとする女の隠された性、それもかなり突飛な性を、この4年間千春をさん
ざん弄び、彼女を売春婦に仕立て上げた憎い50男から聞かされるのです。浦上が平静状態を保て
ないのは当然です。

「浦上さん、そんな怖い顔をしてはいけません、
笑いを絶やさないようにしてください。
くだらない冗談を聞かされているふりをしてください」

佐王子の注意を受けて、また浦上が笑い顔を作っています。

「一流靴店に勤めている女性がその一方で売春をしているのは、
だれが考えても破廉恥で、異常なことですよね、
普通こんな恥ずかしいことは、誰にも話しませんよね、
まして、相手が結婚相手となれば、なおさら、この秘密は隠します。

それにもかかわらず、彼女をそうした境遇に落とした張本人の私が、
あえてその秘密を、婚約者であるあなたに話しました。
何故そんなことをした・・、そんな秘密を暴露する必要はなかったと・・、
誰でも不思議に思いますよね・・・。
あなたが、そのことで私を詰問したのは当然です・・・」

浦上が軽く頷いています。

「私の説明で納得してほしいと思ったのですが・・、
案の定、頭の切れるあなたは私の説明では満足していなかった。

私があえて、千春の秘密をあなたに話したのは・・・、
千春と結婚するあなたには、千春の本性を知ってほしい・・、
知るべきだと考えたからです・・・」

必死で笑顔を作っていますが、浦上の視線は宙を漂っているのです。彼の頭の中で様々な考えが駆
け巡っているようです。

「売春稼業を始めさせたのは私です・・・。
その意味で、この場で、あなたに殴り倒されても私は何の文句も言えません、

しかし・・、
今から申しあがることは決して私自身の犯した罪を擁護するためのものではなく、
あなたと千春さんの幸せを考えた上でのことだと、理解して欲しいのです。

もし私がその道を付けていなかったら・・・・、
今頃、彼女はもっとひどい環境で、
どこかの風俗店でその稼業をやっている可能性が高いのです。
おそらく、そうであれば、あなたとの結婚話が出ることはなかったでしょう…」

佐王子が手引きをしていなかったら、千春は堕ちるところまで堕ちたはずだと、佐王子は言ってい
るのです。これが佐王子の言い訳でないとすると・・、釈然としない気持ちなのですが、浦上はた
だ黙って聞いていました。


[34] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(164)  鶴岡次郎 :2014/04/29 (火) 11:01 ID:HSnIyvu. No.2516
かなり思い切ったことを言ったので、怒りや、拒否反応を見せるのではと、佐王子は心配して、浦
上の様子を探っているのです。

〈おや・・、この若造…
見込んだ通り中々の男だ…、
この程度の話では狼狽えないようだ…〉

質問も、文句も、口に出しそうにないのを察して、佐王子はゆっくりと口を開きました。いよいよ
核心に触れるつもりのようで、珍しく彼の表情が少し固くなっているのです。

「彼女は特別な女性であることを忘れないでください・・。
言い換えれば・・・、そう・・・・、
その家業をやるために生まれてきた女だと言っても過言ではありません」

ここまで露骨な話を聞かされても、浦上は少し笑みを浮かべて、宙に視線を漂わせている姿勢を変
えないのです。佐王子の話に耳を傾けているのは確かなようで、話が途切れると、次を促すように
佐王子を見るのです。むしろ、慎重に言葉を選んでいる佐王子の方が緊張気味です。

「勿論・・、彼女自身はそのことについて自覚していません・・。

残念ながら、この世の中は彼女のような女性が生きてゆくにはあまり制約が多すぎます・・・。
実を言うと、私の稼業でも、彼女のような女は生き辛いのです。
そのことがあまり好きだと、商売が商売でなくなり、やりすぎて体は勿論、精神までも壊すことに
なるのです。何事も、ほどほどが良いのですよ・・・。

多くの男は彼女のような女を求めながら、いざ、その女を手中にすると、
自分では意識しないで、その女の魅力を封じるようになるのです。
女を十分喜ばせることができないのに、
狭い檻の中に縛り付けるのが、男なんですよ…・」

ここで、大きく息を吐き出し、佐王子は卑屈な笑みを浮かべて、浦上に同意を求めるようなしぐさ
を見せています。浦上は姿勢を崩しません。

「他の男には目もくれないで、一人の男性を守って生涯暮らしてゆくことは・・・、
おそらく・・、彼女自身は一生懸命頑張ると思いますが・・、
不可能に近いことだと思います・・。

一般的な意味での結婚生活を立派にやり遂げようとすると・・・、
いずれ・・・、彼女は心に重篤な病を持つようになるでしょう・・」

ストレートな表現を好む佐王子ですが、この時ばかりは遠回しに、核心をずらせて話しているの
です。そのうえ、言葉を選びながら話しているので、話がとぎれとぎれになっています。

「佐王子さん…」

じれた浦上が不満そうな表情を浮かべています。ついに、口を開きました。それでも笑みを浮かべ
ているのは立派です。

「おっしゃっている意味が今一つよく理解できません・・・、
私なりに、あなたの言葉の裏を無理に理解すると・・、

将来・・、それもかなり近い将来・・・
彼女の思いにかかわりなく・・・、
千春さんは、いずれ売春婦に戻ることになると・・、

あなたはそう思っているのですか・・?」

「・・・・・・・」

浦上の質問に、佐王子が黙って頷いています。


[35] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(165)  鶴岡次郎 :2014/04/30 (水) 13:57 ID:sFSlN1hE No.2517

二人の男は黙って見つめあっていました。短い言葉のやり取りでしたが、意図は浦上に完璧に通じ
たと佐王子は感じ取っていました。

〈この若造・・、
見かけもなかなかの二枚目だが・・・・
頭も切れるようだ・・・、
俺の言っていることを間違いなく受け止めたようだ…。

さて・・、そこまで知った上で、千春を嫁に出来るかな…、
今、しきりに考えているようだが、どんな結論を出すか、楽しみだ〉

浦上の視線は自身の胸の内に向けられ、佐王子から得た新らたな情報によって自身の決意に変化が
生じていないか、注意深く確かめているのです。

〈娼婦になるために生まれた来た女…、
万に一人の女・・、
僕はそんな女に惚れたらしい・・・・。

一目で惚れた時点で、僕には千春以外の選択肢はなくなっているのだ…。
どこまで行けるか判らないが、行き着くところまで行こう…、
先のことを考えるより、先ず、彼女に溺れる生活を楽しもう・・・〉

短時間で浦上は結論を出していました。晴れやかな表情で佐王子に向かって大きく、力強く頷いて
いました。佐王子は・・、目を潤ませて、何度も・・、何度も頷いていました。

「私のアドレスです。いつでも連絡をください。
千春さんのことで相談に出来るのは、私だけだと思ってください・・
私が今日話したことが少しでも気になる現象を目にしたら、
迷わず、必ず一報ください・・。
早期発見が大切です…、
対処方法を誤ると、みんなが不幸になりますから・・・」

謎のようなささやきとメモ用紙を残して佐王子は足早にレストランを出て行きました。


「何を話していたの…、
ずいぶんと楽しそうだったけれど…」

席に戻ってきた浦上に千春が質問しています。

「いや・・、男同士のたわいのない話だよ・・」

「何・・、聞きたい…、
私には話せないこと・・」

「そうでもないが…」

不自然に隠すと、馬脚を現すことになると浦上は考えました。

「千春さんの好きなラーゲは・・、
後ろからだと佐王子さんが教えてくれた・・」

「エッ・・・、嘘・・、そんなこと話し合っていたの…、
スケベー…、嫌ね…、
男の人っていつもそんな話をしているの・・・、
ねえ・・、他にも何か言っていた…」

「後ろからしながら、前を触るといいと教えてもらった。
その他、いろいろ教わったが・・、
それはその場になれば実戦で千春さんにも教えます、

佐王子さんは言っていた・・。
・・・とにかく好き者だから・・、
夜のサービスを欠かさないようにと言われた・・」

「あら・・、あら…
大変なお話ね・・、
ねえ・・、それで、三郎さんはどう答えたの…」

「頑張りますと、言ったさ…」

千春が大声で笑い出し、浦上もつられて笑っていましたが、佐王子の残した言葉が大きく彼の上に
乗しかかっていました。それでも、千春を幸せにできるのは彼自身だとの思いにすこしの迷いもあ
りませんでした。


[36] 新しいスレへ移ります  鶴岡次郎 :2014/04/30 (水) 14:11 ID:sFSlN1hE No.2518
章が変わりますんで、新スレを起こします。  じろー


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