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一丁目一番地の管理人(その29)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2012/06/16 (土) 14:20 ID:jmbiKYhs No.2250
朝森の所へ戻ってきた敦子はむしろ積極的に、朝森にとって空白の半年あまりのことを語りつく
しました。露天商の仲間に竹内ともども拾われて、彼らと家族同様の、いやそれを越えた関係を
築き、敦子は明らかな変貌を遂げていました。敦子自身その変化を自覚していて、新しい彼女自
身に誇りさえ持ち始めていたのです。

敦子にとって、朝森と一緒に暮らすことが最大の願望でした。そして心身ともに変貌し、成長し
た彼女を、彼が受け入れてくれるなら、この上の幸せはないと思っていたのです。しかし、一方で
は、いかに朝森でも、男に抱かれると心と身体が分離して、その瞬間、夫を忘れ、相手の男に惚
れて、堕ちてしまう敦子の体質を、易々と受け入れることは難しいだろうと、敦子は観念してい
たのです。

自身の特異体質を抑え朝森についてゆくか、自分に忠実に生きるため、朝森の下を去るか、敦子
は大きな賭けをするべく、敦子を大きく変貌させた半年の経験とその特異体質の片鱗を夫、朝森
に曝しだしたのです。

結局敦子の賭けは、見事に成功しました。異常な経験を積んで変貌し、成長した敦子を、朝森は
むしろ喜んで受け入れたのです。物語はいよいよ最終章に入ります。最期までご支援下さい。


毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字
余脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるよう
にします。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸
いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 1779(1)、文頭にこの記号があれば、記事番号1779に一回修正を加えたことを示します。
                                      
                                      ジロー


[2] 一丁目一番地の管理人(422)  鶴岡次郎 :2012/06/17 (日) 16:20 ID:jkqM7e5A No.2251

二人の女

ここは警察庁の奥まった所にある伍台参事官の部屋です。よく手入れされた黒皮製のソファーに
深々と腰を下ろし、伍台は来客と話し合っています。あまりご機嫌はよくない様子です。伍台の
前にいるのは土手の森組員殺人事件を担当して、見事犯人を逮捕して、各方面から賞賛を受けた
警視庁の柏木管理官です。

「・・で、結局、竹内寅之助も、敦子も何もしゃべらないのですか・・・」

「ハイ・・、
竹内にかけた殺人容疑は消えましたから、参考人質問しか出来ない制約があり、それほど突っ込
んだ取調べが出来なかったのは確かです。しかし、何らかの容疑で彼らを逮捕できたとしても、
彼等は多分何もしゃべらないと思います。彼等のガードはそれほど固いものでした。おそらく、
組織から手が伸びて、彼等の口を封じ込んでいるのだと思います。

竹内は、借金苦で夜逃げしたことまでは認めましたが、それとて、彼に金を貸したウラ金融業者
から何も被害届けが出ていませんので、この件では彼を追及できないのです。また、夜襲を受け
た件は、飲み屋での個人的な偶発トラブルのせいだと言い張って、ウラ金の名前は勿論、夜襲を
受けた暴力団のことも、何もしゃべらないのです。

敦子と言う竹内の情婦に至っては、参考人質問に応じることさえ最初は拒否しました。勿論、売
春容疑については一切否定しました・・。

結局、これといった新しい事実を彼らから聞きだすことは出来ませんでした。そして、私どもが
聞き込みをした直後、二人は別れることになったようで、女は東京に居る旦那の下へ戻り、男は
的屋仲間との生活を続けています」

柏木の説明に、伍台は苦い表情で頷くばかりでした。

ここで、土手の森殺人事件に関わる事実を整理してみます。池袋の違法組織、輪島組の構成員、
圧村和夫が土手の森公園で殺害され、その死体第一発見者が敦子だったのです。捜査本部は初動
捜査の段階で、竹内と敦子を捜査対象リストから除外していました。このミスが後々まで捜査を
混乱させ、犯人逮捕を遅らせることになったのです。

かねてから真黒興産と輪島組に関心を寄せていた警察庁の伍台参事官は、土手の森殺人事件の被
害者が、輪島組の構成員だと知り、積極的にこの事件に介入してきました。その頃犯人像の搾り
出しに苦労していた捜査本部の柏木管理官は、異例ではありますが、伍台の捜査への介入を歓迎
したのです。

伍台の助言を得て、捜査本部はようやく敦子とその夫竹内寅之助を有力容疑者の一人として割り
出し、竹内の自宅マンションを急襲したのですが、その時、既に二人は高飛びした後でした。捜
査本部は警察の動きを知って二人が逃げたと断定し、この事実こそが二人が圧村殺害の犯人であ
る決め手になると考えたのです。

しかし、伍台参事官は違う見方をしていました。土手の森殺人事件の発生後間も無く、竹内商事
が倒産し、竹内と敦子が夜逃げすることになった事実に伍台参事官は注目したのです。

東南アジア諸国との取引でそれなりの成功を収め、細々ながらそれなりの実績を上げていた貿易
会社、竹内商事が突然倒産に追い込まれたのは、創業以来取引をしていた銀行から借りていた金
を貸しはがされたのが直接の原因でした。そして、その銀行に圧力をかけたのは真黒興産だった
のです。竹内商事倒産劇には真黒興産の意志が働いている・・、伍台はそう考えたのです。

この事実を掴んだ伍台は竹内と真黒興産の間に何らかのトラブルが発生したと推測したのです。
しかし、竹内商事と真黒興産の間には何ら商取引が存在せず、竹内と真黒興産の間にも個人的な
関係は何もありませんでした。

結局、竹内と真黒興産の間を結びつけるのは、殺された圧村和夫であり、竹内の情婦敦子である
と、伍台は断定しました。そして、以下のような大胆な仮説を立てたのです。

すなわち、敦子は真黒興産が抱えている高級娼婦の一人であり、竹内と圧村の間に、敦子をめぐっ
て、金銭的なトラブルが発生し、圧村は殺害された。警察が竹内を逮捕すれば、敦子の線から、
真黒興産の秘密売春組織の実態が炙り出されることになる。そのことを恐れた真黒興産が竹内商
事を倒産に追い込み、竹内と敦子が夜逃げするように仕向けた。二人が逃げている間に、真黒興
産は売春組織の存在証拠を根こそぎ消し去るつもりだと、伍台は考えたのです。

圧村殺害の背景に広域売春組織の秘密が隠されているとの伍台の説明を聞いて、捜査本部は色め
きました。警視庁の柏木管理官にしても、話題性の少ない殺人事件を担当することになったこと
を少し恨んでいたのです。伍台が取り逃がした広域売春組織の実態を暴くカギが潜んでいると聞
いて、管理官以下の捜査官達の目の色が変わりました。そして、竹内と敦子の二人を重用参考人
として全国に手配したのです。しかし、警察より先に竹内を探し出したのは、ウラ金融業者が
放った追っ手でした。(1)


[3] 一丁目一番地の管理人(423)  鶴岡次郎 :2012/06/18 (月) 12:45 ID:ED/uktXY No.2252
2251(1)

それにしても、警察が介入してくるのを何よりも恐れているはずのウラ金が何故、世間を騒がす
ような荒仕事をしたのか、竹内を夜襲したウラ金の思惑が何処にあったのか、今となってはそれ
は不明ですが、おそらく夜襲の件は、それほど大騒ぎにならないと犯人達は甘く考えていたとの
だと思います。

一度痛めつければ、さらなる襲撃を恐れ、竹内が隠した金の有り場所を吐き出すと、犯人たちは
考えたのです。そして、たとえ負傷しても、叩けば埃の出る身ですから、竹内は決して警察に駆
け込まないと確信していたのです。もし、竹内から金が引き出せない場合は、最終的には敦子を
売り払って、それなりの資金を回収する算段だったと想像されます。

しかし、ウラ金も、彼等の指示を受けて竹内を襲撃した地元の暴力団組織も、まさかこの事件に
警視庁や、警察庁が直々に関与するとは思ってもいなかったのです。所轄署の扱いに止まれば、
何とか当局の追及から逃げ切れる準備をしていたはずなのです。この意外感は地元の所轄署でも
同じだったはずです。

警視庁が登場してきたことで、ウラ金と地元の暴力団組織は、事件の幕引きを急ぎ、組織の構成
員を自首させました。自首してきた構成員を逮捕した所轄署も早い事件の幕引きを願う気持ちは
一緒でした。飲み屋での個人的なトラブルに起因する傷害事件として異例のスピードで送検を完
了したのです。結果として竹内は借金を棒引きにしてもらって、自由の身になれたのです。

そして、肝心の土手の森組員殺人事件の犯人は以外のところに居ました。

敦子を囲い込んだ代償として、竹内は圧村に100万円を支払うことにして、自宅近くの居酒屋
で圧村と落ち合い、金を支払ったのです。その居酒屋にたまたま同席していて地元の大工、風向
井 篤がその金銭授受の光景を目撃していたのです。

彼は、親方から見放され、一ヶ月近く仕事が無くて、その日の食費にも事欠くほど困窮していた
のです。風向井は圧村の後をつけ、ゆり子とのデートの約束を果たすため、土手の森公園に入った
圧村を襲い、100万円を奪ったのです。

判ってしまえば、単純な強盗殺人事件だったのですが、真黒興産と警察庁が介入してきたことで、
事件は複雑な側面を見せることになったのです。


目の前で事件の経緯を説明している柏木の顔を見ながら、伍台は全く別のことを考えていました。

〈・・今回も捉えることは出来なかった・・・〉

柏木の背後に、真黒興産の社長、井上悦郎が声を出して笑っている姿を、伍台ははっきりと見て
いたのです。

「参事官・・、
これから先はどうすれば良いでしょうか・・」

「どうするも・・、何も・・
私は真黒興産を追い続けます・・。
今回も、上手く逃げられましたが、
必ず奴らの尻尾を掴んで、公の場にひきづり出してやります・・」

「・・・・・・・」

伍台の鋭い眼光で睨まれて、柏木は思わず面を伏せました。


[4] 一丁目一番地の管理人(424)  鶴岡次郎 :2012/06/19 (火) 14:45 ID:YG8.GvjE No.2253
「そうなると、これから先も敦子から眼が離せませんね・・、
対象が警視庁管内にいますから、彼女は私達に任せてください・・」

「いや・・、
敦子を追い続けるかどうか、正直言って、決めあぐねています。

既に警察が眼をつけた対象を真黒興産はそのままにはして置かないでしょう。
放置しておくということは、すなわち、我々にとっても価値がないと言うことだと思います・・」

伍台が冴えない表情で話しています。敦子の話題が出て、柏木が何かを思い出したようです。

「もっと早くそのことに気がついていれば、捜査方針にも影響が出たかもしれませんが、実は、
竹内のマンションが敦子の夫、朝森健次郎の名義に変更されていました。彼が逃亡する前のこと
でした、このことを見逃していたのは私のミスでした。

そして、最近、敦子は竹内と別れて朝森のアパートへ戻ってきました。
おそらく、二人は近々に、竹内のマンションへ引っ越すものと思われます・・」

「そうですか・・・、竹内がマンションを敦子に与えたのですか・・・。
なるほど、そうですか・・・、なるほど・・・」

柏木の話を聞いて、少し考える様子を見せていた伍台が、ニッコリ微笑み、何度も頷いています。
どうやら、マンションを敦子に与えた竹内に今までとは異なる興味を持った様子です。

「竹内の考えていることが段々判ってきました・・
私が思っていたより、彼は、はるかにまともな、出来る、いい男のようですね」

竹内を褒める伍台に柏木がいぶかしげな視線を向けています。人妻をおどかし、騙して、情婦に
して、借金を踏み倒して夜逃げした50男は、エリート官僚である柏木から見れば、人間のクズ
に見えているのです。

「おそらく、夜逃げの時、竹内は後々の生活を考えてマンションの権利を密かに敦子の夫に移し、
ほとぼりが冷めた頃取り戻すつもりだったと思います。だからと言って、竹内とその・・、
そう・・、朝森が共犯だったとは思いません。朝森は多分、マンションが自分名義になっている
ことに、しばらく気が付かなかったはずです。

倒産、夜逃げ、そして傷害事件など、今回、竹内を襲った出来事が彼の人生観を変えたのだと思
います。東京に戻ることをあきらめ、仲間との生活を続ける気になった。多分、的屋の生活の中
に、彼の新天地を見つけたのでしょうね・・。

それで、贖罪の意味を込めて、敦子と朝森にマンションを与えたのです・・・。

浮気の代償としてはあのマンションは高価過ぎますが・・、
竹内の敦子に対する愛情がそれだけ大きいということですか・・・
こんなことが出来る竹内はそれなりの人物だと言えますネ・・・」

人それぞれ人生がありますが、苦労して育てた会社が倒産し、愛人と一緒に夜逃げして、露天商
の仲間に入り、遂には取り立て屋の夜襲を受け、瀕死の重傷を負ったのです。会社社長の恵まれ
た地位から、あっという間に社会の底辺まで陥落した気分になったはずだと、伍台は竹内の心中
を推し量っていたのです。

人生の暗転を体験した竹内には、露天商仲間の友情や、敦子の愛情がかけがえのないものに思え
たはずです。老後のために残していた唯一の財産であるマンションを敦子に与えても惜しいとは
思わなかったのです。そして、生きる勇気を再び与えてくれた露天商の仲間とこれから先の人生
を生きる決意を固めたのです。

これだけの決断をした竹内を出来る人物だと伍台は評価しているのです。


「ところで・・・、
その・・、朝森という敦子の夫は、敦子のことを、全て、承知の上で、
元の鞘に収めたのですか・・?」

「ハイ・・、多分・・・」

「そうですか・・、普通の男にはなかなか出来ないことですが・・・、
その、朝森という男は何者ですか・・・」

「大手機械メーカー、三田芝浦製作所のエンジニアーで、設計課長をしています。
調べた限りでは、T大卒の、肩書きどおりの優秀なエリート社員で、今回の事件とは一切かかわ
りがなく、むしろ竹内に妻を騙し取られた被害者だと、我々は考えております。
敦子とは郷里が同じで、二人は親が決めた見合い結婚だと職場の知人が証言していました」

「そうですか・・・、
二人は話し合って、離婚を思い止まり、一緒に生きることにしたのですね・・、
それにしても、朝森という男、なかなかの人物ですね・・・」

「そうでしょうか・・・、
私には彼の気持ちが理解できません・・」

有名国立大の法学部を卒業し、キャリアーの道を順調に歩んでいる柏木管理官が伍台の感想に反
論しています。柏木にとって、敦子は許せない女ですし、ふしだらな妻を許し、家に迎え入れる
朝森の気持ちも理解できないようです。


[5] 一丁目一番地の管理人(425)  鶴岡次郎 :2012/06/22 (金) 14:49 ID:iG2ami12 No.2254

「先ほどの話では、柏木管理官は朝森さんと同窓でしょう・・・。
勿論、学部は違うはずですが・・・」

「ハイ・・、彼が二年先輩です。
それだけに、余計、朝森さんの行為が許せないのです。
他の男と逃げ出して、半年も隠れていたのですよ、
私だったら、とても許すことは出来ません。

100歩譲って、許すことになったとしても・・、
直ぐ一緒に生活を始めるのは非常識です。
もう少し時間をかけて、お互いの心が歩み寄るのを待つべきです。

あれでは、獣と同じです・・・」

朝森と柏木はほぼ同年代で、学部こそ異なりますが、同じ大学を卒業しているのです。それで、
柏木はなんとなく朝森に親近感を持っていて、その親近感が逆に作用して、朝森の行為に柏木は
苛立っているのです。

「そうですか・・・、
エリートの君には、朝森さんの生き方は理解できないでしょうね・・・、
無理ないことです・・・。

ところで、柏木君・・・、
お子さんは何歳になりましたか・・・?」

警察庁の参事官ではなく、同窓の先輩口調で、笑みを浮かべた伍台が訊ねています。

「ハイ・・、上の息子は今年中学生になり、下の娘は小学6年生です。
伍台先輩のお子さんは・・・」

そこで柏木は口を閉ざしました。数年前に伍台が離婚して、子供は彼の元妻と暮らしていること
を思い出したのです。

「ハハ・・・、良いんだ・・、
確か・・、娘は今年高校を卒業するはずだ・・、
息子は検事になった。血は争えないものだね・・・・」

伍台が笑って、その場をとりなしています。


「私の友人で、元会社重役だった男がいるんだが・・・、
彼の奥さん、由美子さんと言うのだが・・・
いつ頃からのことか、私もはっきり知らないのだが・・、
由美子さんには夫公認の愛人がいて、月の内半分はその愛人と生活している。

彼等のことは良く知っているが、そんな不思議な三角関係の中で、
夫婦仲は昔どおり・・、いや、昔以上に良い関係だ・・。
由美子さんも生き生きと生活しているし、旦那もそれなりに幸せそうだ・・。

朝森夫妻の話を聞いて、由美子さん夫婦を思い出している。
君は朝森夫妻の行動を理解できないと言ったが、
正直言って、私も君の気持ちに近い感想を持っている・・。
しかし・・、多分・・・、
由美子さん夫妻なら、朝森夫妻の心境を正確に理解できると思う・・。

人の罪を暴き、逮捕する役目を担っている我々は、
世の中には人それぞれ固有の人生があり、
人それぞれ、大切にしているモノが違うことを、
しっかり、知っておくべきだと思っている・・」

自身に言い聞かせるように伍台が言うのを、頭を垂れて柏木は聞いていました。


[6] 一丁目一番地の管理人(426)  鶴岡次郎 :2012/06/23 (土) 13:57 ID:0Cuj1U3A No.2255

「君の意見を聞いていて、私は一年前の私自身の姿を見るような思いに捕らわれていました・・。

その頃の私であれば、中年男と一緒に夜逃げした敦子の気持ちなど、理解しようともしなかった
でしょう。半年も一緒に暮らしていた男と別れ、元の夫のところへ戻ってきた敦子も敦子だが、
それを黙って迎え入れた朝森を、男の風上にも置けない奴だと軽蔑したと思います・・。

しかし、この一年、私は先ほど言った由美子夫妻と親しく付き合うようになり、次第に視野が開
けてきた気がしています。

自分で言うのは少し気が引けますが、一生懸命勉強して、難関の大学に合格し、公務員試験にもパ
スし、一応キャリアーとしてて順調に仕事をして来ました。私のこの半生は間違っていなかったと
自信を持って言えます。しかし、由美子夫妻の生き方を見ていると、これで良かったのかと思うこ
とがあるのも事実です・・。

私の生き方を急に変えることは出来ませんが、由美子さん夫妻や、朝森夫妻のような生き方もあ
るのだと、彼らを理解する柔軟さは失いたくないと思っています」

しんみりと語りかける伍台の言葉に、思い当たることがあるのでしょう、身じろぎもしないで柏
木が耳を傾けています。

「先輩・・、よく判りました・・・、ご忠告ありがとうございます。

朝森さん夫妻のことを、頭から軽蔑したのは、私の間違いでした。
おっしゃるとおり、目下のところ、彼等の生き方は私には理解できませんが、これから先、
私なりに勉強してみます。一方的に、私の狭い経験で物事を判断しないように心がけます・・・」

さすがにエリート官僚です。伍台が言わんとすることをいち早く察知しているのです。しかし、
その頭の良さが、そのスマートさが、時には障害になることには、さすがの柏木も気が付いてい
ないのです。これから先、もっと深刻な障害に出会った時、もっと深い教訓を柏木は得ることに
なり、その時また大きく成長するのです。

「うん・・、そうだね・・、
正しいのは自分だけだと思い始めると、僕たちの仕事は、勤まらないと思う。
僕も最近、ようやくそのことに気がつき始めた。遅すぎるよネ・・・。

多分、私などには想像もつかない経験と知恵を朝森さんは持っているのだと思う。
これだけの試練を乗り越えた若い二人なら、
これから先は立ち直って、しっかりした家庭を作ることが出来るでしょう、
多分、九州にいる竹内さんもそのことを望んでいるでしょうね・・・。

柏木管理官・・、どうでしょう・・、
竹内と朝森夫婦に関しては、もう関わらないことにしませんか、
これから先、彼らからは何も聞き出せないと思います。
そして、下手に彼らに触れると、組織の手で彼らが消されるかもしれません。

そっとして置きましょう・・」

「ハイ・・、私も参事官の意見に同感です・・」

その日、二人会話はそれ以上進みませんでした。柏木は今後の協力を約束して伍台の部屋から出
て行きました。〈1〉


[7] 一丁目一番地の管理人(427)  鶴岡次郎 :2012/06/24 (日) 16:11 ID:32JccgU2 No.2256
2255(1)

柏木が部屋を出て行ってから、伍台は今日の予定を秘書に確かめました。珍しく今日は会議の予
定はありませんでした。それでも机の上には決済を待つ書類が山のように積まれています。その
書類にチラッと眼を走らせましたが、それに手を出す様子ではありません。

「いよいよ、その時が来たようだな・・、
これが由美子さんが言っていた潮時なのだろう・・・」

伍台はそう呟いて、どっかりと椅子に腰を下ろしました。何時になく全身に疲れを感じていまし
た。深々と身体を埋めて、その疲労感を伍台は楽しんでいました。それは、仕事の後に襲ってく
る疲労感ではなく、重大な決断を下した後にやってくる安堵感に近い感情でした。柏木から聞い
た朝森夫妻の行動が伍台の背中を押したようで、彼はある決断を自らに下していたのです。

「あれから8年・・、過ぎてしまえばあっという間だったが・・、
随分と長く感じた8年だった・・・」

声に出すとより実感が湧き上がっていました。


十年前、伍台が東北S市の警察署長に就任が決まった時でした。子供達の進学教育の都合で妻、
喜美枝は夫伍台に同行せず、彼は単身赴任をすることになったのです。S市にも有名な進学校が
ありますから、教育面では何も心配する必用はなかったのですが、東京育ちの喜美枝のわがまま
で、一家は離れて暮らすことになったのです。伍台が強く推せば、喜美枝もわがままを押し通す
ことはなかったのですが、夫婦生活にやや倦怠感を感じていた伍台は喜美枝の主張に反対しな
かったのです。

伍台の単身赴任は3年続きました。一年過ぎた時、街で会った男の甘い口車に乗って喜美枝は浮
気をしてしまいました。男は繁華街でイタリアン・レストランを開いている独身の40男でした。

一度だけと喜美枝は思っていたのですが、夫不在の生活の中で、40歳に近い成熟した女に
とって、その男は麻薬のようなものでした。付き合いを重ねる内に、男も喜美枝も真剣になり、
遂に、女は離婚を夫に申し出ました。

このことに一番反対したのは、喜美枝の実父母でした。喜美枝の父、荻原四郎は警察庁の理事官
にまで上り詰めた人で、娘の幸せを考えながらも、離婚で伍台の将来が閉ざされることを一番心
配したのです。

伍台自身は離婚を望んではいませんでしたが、既に喜美枝の心も体もその男の虜になっている状
況を見て、伍台は離婚の覚悟を固めたのです。義理の父母を伍台が説得して、ようやく離婚に漕
ぎつけました。

離婚後一年ほどして、伍台は警察庁に栄転しました。義父、荻原が心配した離婚の影は伍台の出
世にはほとんど影響しなかったのです。

離婚したものの、喜美枝とレストランの経営者とは、結局結婚できませんでした。不況の嵐をま
ともに受けて多額の負債を抱えてレストランは倒産し、経営者の男は母国イタリアに逃げ帰った
のです。傷心を抱えたまま、喜美枝は実家に戻り、子育てに専念し、無事長男を卒業させ、祖父
や父とおなじ法曹界に進ませることが出来たのです。

養育費を定期的に送り、子供たちとは時々会っていたのですが、喜美枝と伍台は離婚後は一度も
会うことはありませんでした。


〈妻の浮気を知った時、私は彼女を軽蔑することで、悔しさを紛らしていた。
未練は残ったが、ふしだらな女を見限ることにした。
当時・・、いや・・一年前までは・・、
その決断が出来た自分を誇りに思っていた・・。

それがどうだ、今では、当時の自分を幼かったと反省している。
あの行為が正しかったと、胸を張って言えなくなっている。
別の道があったのではと、後悔することが多い・・・。
妻、喜美枝を生身の女として見るべきだったと反省するようになっている・・。

由美子さんが僕を変えたのだ、
彼女と過ごした一年が、僕の感性を根底から変えてしまったのだ・・
そして、こんなに変わってしまった、自分自身を僕は喜んでいる〉

椅子に身を沈めたまま、笑みを浮かべて、明らかに一年前と変わっている自身の考え方を伍台は
再確認しているのです。それは、彼自身が驚くほどの変貌振りなのです。そして、彼を変貌をさ
せたのが、由美子なのです。伍台の考え方をこれほど変えた由美子と伍台の関係に、ここで少し
触れてみます。


[8] 一丁目一番地の管理人(428)  鶴岡次郎 :2012/06/25 (月) 11:53 ID:kxRVycgk No.2257

夫、鶴岡の学友である伍台とは、鶴岡と婚約した頃からの付き合いで、男の女の関係というより
は、仲のいい友達のような付き合いを続けていました。親しくなった男とは、早い機会に情を通
じてきた由美子にしては珍しいことです。

伍台と男女の関係を持ったのは最近のことで、数年前、伍台が未だS市の警察署長だった頃です。
由美子は既にそのころ、Uの情婦になっていて、的屋仲間とS市の祭礼へ商用で行ったのです。
そこで、市内見回り中の伍台と偶然再会したのです。その頃、伍台は妻、喜美枝との仲がうまく
行っていなくて、離婚協議中でした。

S市で情熱的な夜を過ごした後、伍台と由美子はその後会うことはありませんでした。二人が情
を交わしてから二年後、伍台の警察庁への栄転が決まりました。東京へ戻ってきた伍台が鶴岡家
を訪れたのは転勤後三年経った時で、その頃伍台が心血を注いで捜査に当たっていた広域売春組
織の摘発に、由美子の手を借りたいため鶴岡家を訪問したのです。その捜査そのものは由美子の
活躍もあり、大成功に終わりました。そして、この事件を契機にして伍台の名前は警察庁内外に
知られるようになりました。

鶴岡家を訪ねた時、伍台は聞かれるままに、妻、喜美枝と別れて一人寂しく官舎暮らしている事
実を告げたのです。伍台が離婚した時期と、由美子と伍台の肉体関係が出来た時期が一致してい
ることに気がついた由美子は愕然となっていました。

〈・・伍台さんの離婚は、私のせいかもしれない・・・〉

女性に限らず誰でも、浮気相手が浮気の直後離婚した場合、その離婚はあの浮気のせいではと思
うものですが、この時の由美子もその懸念を抱いたのです。既に紹介したように、伍台の離婚は
妻、喜美枝の浮気が原因なのですが、由美子はそのことまでは知らされていなかったのです。

伍台にS市で再会した時、彼が影を背負っているように感じた由美子は伍台にそのことを訊ねま
した。夫婦仲がゴタゴタしていて、伍台が傷心を抱えて単身で暮らしていることを聞かされて、
由美子の女心が疼きました。顔見知りの伍台の妻、喜美枝を裏切ることに抵抗を感じながら、二
人は夏祭りの興奮をそのまま受け継いで、情熱的な一夜を過ごしたのです。その時以来、喜美枝
に対して由美子は後ろめたい思いを抱き続けていたのです。

〈・・・もし私が原因だとしたら・・、放っては置けない・・〉

伍台が離婚したと聞いて、由美子の女心が激しく動きました。それ以来、二人は月に一、二度の
頻度で会うようになりました。その頃には喜美枝の浮気が離婚の原因で、由美子の責任は何もな
いと知るようになっていたのですが、深みに入り込んだ関係を元に戻すことは出来ませんでした。


カラダの相性が良かったせいでしょうか、二人の仲は急速に接近しました。自然の流れで、由美
子には心を許し、伍台は胸の内を全て、彼女に曝すようになっていました。

「私と離婚したものの、喜美枝と浮気相手の仲は直ぐに破局を迎えました。

男に逃げられ、多分、熱病から冷めたのだと思います。
一度だけ私に電話を入れてきました。
あの時、喜美枝の話をちゃんと聞いてやるべきだったと・・、
今でも後悔しています。

それ以来、喜美枝の動向は気にしていました。
彼女が一人で立派に子育てしたことも良く知っていました。
勿論、男の影はその欠片も有りませんでした。

出来ることなら、彼女と再婚して、もう一度人生を立て直したい・・。
何度も・、そう思いました・・。

しかし、私はどうしても、喜美枝が犯した罪を忘れることが出来ないのです。
たぶん、目の前に裸体の喜美枝が現われたとしても、
僕は彼女を抱けないと思います・・・。

彼女が心を込めて作ってくれたご馳走だって、
口に入れた直後、吐き出してしまうと思います・・。
僕はそんな、意気地のない男なんです・・・」

情熱的な一時を過ごし、全身が濡れた由美子を腕の中に抱きしめたまま、伍台は喜美枝への思い
を由美子に語っていたのです。彼のなえた男根を右手であやしながら、由美子は笑みさえ浮かべ
て、伍台の話を聞いていたのです。



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 【例】「交際BBS(東・西)で募集している〇〇です」、または「募集板(東・西)の No.****** で募集している〇〇です」など。
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