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フォレストサイドハウスの住人たち(その6)

[1] スレッドオーナー: 鶴岡次郎 :2014/02/26 (水) 16:25 ID:qM/Z/gzY No.2480

佐王子に説得されて、シュー・フィッターの仕事に専任することを決意した加納千春は、佐王子が
描いた戦略通り、見事に闇の仕事を切ることに成功しました。それだけではなく、仲間の店員たち
も彼女の巧みな誘導で足を洗うことができたのです。一番喜んでいるのは何も知らされていない店
長かもしれません。
さて、闇の仕事を切り捨てた千春に次の仕事が待っています。佐王子の言う通りであれば、「管理
された形で売春をする仕事」が待っているはずですが、どんな展開が待っているのでしょうか、相
変わらず普通の市民の物語を語り続けます。ご支援ください。なお、トンボさんのご指摘に従い物
語の冒頭で、これまで語ってきた登場人物を整理して説明をいたします。

毎度申し上げて恐縮ですが、読者の皆様のご意見、ご感想は『自由にレスして下さい(その
11)』の読者専用スレにご投稿ださい。多数のご意見を待っています。    

また、文中登場する人物、団体は全てフイクションで実在のものでないことをお断りしておきま
す。

発表した内容の筋を壊さない程度に、後になって文章に手を加えることがあります。勿論、誤字余
脱字も気がつけば修正しています。記事の文頭と、文末に下記のように修正記号を入れるようにし
ます。修正記号にお気づきの時は、もう一度修正した記事を読み直していただけると幸いです。

  ・ 文末に修正記号がなければ、無修正です。
  ・ 文末に(2)とあれば、その記事に二回手を加えたことを示します。
  ・ 『記事番号1779に修正を加えました(2)』、文頭にこの記事があれば、記事番号1779に
    二回修正を加えたことを示します。ご面倒でも読み直していただければ幸いです
                                        ジロー   


[17] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(147)  鶴岡次郎 :2014/04/02 (水) 14:47 ID:tMslJCJI No.2497

相手には問いただすことができない悩みと、募る恋心の狭間に立って、男と女は互いに心の中に激
しい葛藤を抱きながら、それでも二人は会うことを止めませんでした。二人が最初に出会ってから
三ヶ月が経過していました。この頃には、男も女も次の段階に進むべきだと、二人の関係について
潮時の到来を感じ取っていたのです。

いつものように激しい時間を過ごし、ホテル近くのプチ・レストランで遅い夕食を摂っている時、
話があると、改まった表情で浦上が話しかけてきました。

「ご存知のように、私はバツ一の身だが・・・、
こんな私でも良ければ・・・、
結婚してほしい・・・・・」

「・・・・・・」

浦上は千春を真っ直ぐ見て言いました。

千春29歳、浦上35歳の時です。浦上の態度と日頃の付き合いから、いつかこんな話が出ると予
想できていたのでしょう、千春は驚いた様子を見せないで、じっと浦上を見つめていました。

「ありがとうございます・・、
本当に嬉しい・・、
もう・・、私にはこんな言葉は永遠に聞けないと思っていました」

堪えられないのでしょう・・、ここで言葉を切り、ハンカチで目をぬぐっています。男は神妙な表
情でじっと待っています。

「女の子って・・、物心がつくと、いつの日か、自分だけの王子様が現われて、
手を取り、宮殿に案内してくれる日を、夢見ているのです。

それが、25を過ぎ、30歳近くになると、
私には王子様は来ないかも・・と、思い始めるのです・・・」

うっすらと涙を浮かべて千春は話しています。この調子ならいい返事が聞けそうだと浦上は喜んで
います。

「せっかくのお言葉ですが、
浦上さんのお申し出を受けることは出来ません・・・」

「エッ・・・・」

低い声ですが、千春はよく通る、明瞭な発音で浦上に伝えました。それまでいい返事を予感してい
た男は、ビックリして次の言葉を出せないのです。

「出来るものなら、浦上さんのお申し出を受けたい・・、
心からお慕い申し上げている浦上さんと結婚したい・・。
しかし、私はそんなことは出来ない・・、
いいえ、そんな世間並みの幸せを求めてはいけない女なのです・・」

「理由(わけ)を教えてください・・。
何が原因なのですか、理由(わけ)も知らないで、
このまま別れるなんて出来ません・・」

浦上が当然の質問をしています。

「理由(わけ)を聞かないで下さい。
聞けば私が嫌いになります。
何も聞かないで、このまま別れてください・。
せめて、良い思い出だけを残して別れたいのです・・」

目に涙を浮かべ、千春は必死の表情を浮かべ、浦上に訴えています。


[18] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(148)  鶴岡次郎 :2014/04/03 (木) 11:21 ID:mRzcyLUI No.2498

千春の必死の表情を見て、この場になっても千春が必死で隠そうとしている事実があるのだと浦上
は察知して、事態が最悪のシナリオで展開し始めたことを冷静に噛みしめていたのです。

〈そうか・・、やっぱり男がいるのだ、
それも人には言えない不倫の関係…、
問題は、その男にどこまでかかわっているかだ…〉

どうやら浦上はかなり出来る男のようです。予想した最悪の事実を突きつけられても、浦上は決し
て希望を失っていませんでした。どこかに抜け道があるはずだと考えを巡らせているのです。

〈お金だけの関係であれば、こちらにも勝算がある…、
しかし・・、心も体も男に惹かれているとなると・・、
厄介なことになるが・・〉

想像したように愛人がいる、それもかなり深い関係の男がいると浦上は受け止めていました。勿論
このことは彼の想定範囲内のことです。黙ったまま、平静な表情で千春を見つめているのです。

「三郎さんと初めて男女の関係を結んだ時、
いずれこの日が来ると思っていました。
最初から分かっていたのです。

でも・・、判っていても、止めることはできなかった…、
どうすることもできなかった…」

ここで女が顔を伏せ、肩を震わせて泣き出しました。男は言葉を発しないで、女の姿をじっと見つ
めていました。遅い時間ですから店内にはそれほどお客は多くないのですが、それでも千春が泣い
ている姿を見て、心配そうにこちらを見ている人もいました。

やがて・・、ゆっくりと千春が顔をあげました。頬は濡れていますが、涙は出ていません。決意を
固めた厳しい表情をしています。

〈ああ・・、
なんてきれいな顔なんだろう・・・、
ぼくは、千春を心から愛している…〉

男は・・、この場にふさわしくない・・、ここまでの経過をすべて忘れたように、魂を奪われた、
うっとりした表情で女を見つめていました。

「今日でお別れです・・。
お店にも・・、もう・・、来ないでください・・・。

これまで本当に楽しかった…、
幸せな時間をありがとうございました・・・・

これからは、街で会っても、互いに知らない関係です。
さようなら・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・」

涙も見せずこれだけのことを言ってのけました。浦上にそれ以上の追求をゆるさない、断固たる意
志を込めた表情です。この世の物とは思えない千晴の表情に取り込まれていた浦上は現実に引き戻
され、何も言えないで、ただ千春の顔を見つめていました。

〈きれいな顔をして、僕の息の根を止めるような言葉を吐いている・・・、
・・どうしてこんなに強く、僕を拒否するのだろう・・、
何かがあるはずだ・・、彼女をこんなにかたくなにする何かが・・、

今ここで、そのことを追及しても、彼女は絶対吐かないだろう…、
この場は、これ以上事態をこじらせないことが大切だ…〉

現実に戻った浦上の頭の中で、いろいろな考えが駆け巡っていました。結婚の申し出を断り、その
上、別れ話の理由さえ告げようとしないのです。何か・・、かなり異常な事実が女の態度をかたく
なにしている、そして今、女は普通ではない状態に居ると、浦上は判断していたのです。


[19] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(149)  鶴岡次郎 :2014/04/05 (土) 15:11 ID:D8QYWfSM No.2499

男は冷静な表情で女を観察しています。どうやら、浦上は千春をあきらめたわけではないようです。
彼なりに千春の意志の固さを読み取り、他人の目が多いこの場で追求することの愚かさを察知して
いるようです。ここで女を更に追い込めば、女は心にもないことを言ってしまい、更に遠くへ彼女
を追いやる危険があると浦上は察知しているのです。このあたりがさすがバツ一経験者であり、交
渉ごとに長けた優秀な商社マンと言えます。

一方女は違います。意に反して別れを切り出した女は男の深層心理を理解することなどできる状態
ではないのです。別れを切り出せば、男から何らかのリアクションがあるはずだと構えていた千春
は、何も言わないでじっと自分を見つめている浦上を見て、戸惑い、そしてその後、深い失望の中
に落ち込んでいたのです。


〈ああ・・、とうとう言ってしまった…、
心にもないことを…、

三郎さん、あきれて言葉も出せない様子・・、
当然だよね・・、
理由も言わないで別れてくれという女を許すはずがない・・・、
これで、すべてが終わってしまった…。

それでも・・、せめて、私の手を取り
『行かないでくれ…』と言ってほしい…。
でも・・・、それは無理な望み・・、

何も理由を言わないで、突然別れ話を出したのだから、
殴られても文句が言えない身・・、

ああ・・・、とうとう・・、私の夢が消えてしまった…〉

あまりにかたくなな態度を見せる千春に嫌気がさして、二人の仲はこれで終わりだと浦上が判断し
て、何も反論しないのだと千春は受け止めていたのです。

ゆっくりと立ち上がり、深々と頭を下げて、潔く浦上に背を向けました。そして、一歩、二歩、店
の出口へ向けて歩を進めたのです。浦上が立ち上がり、声を出しました。かなり大きな声で、その
声は静かな店の中、隅々まで届きました。

「千春さん・・・・!
もう、一度・・、一度だけでいい・・、
会う機会を作ってください・・・」

女は立ち止まりました、しかし振り向きません。店内のお客にも、店員たちにも、浦上の声を届い
たようです。劇的な別れの場に立ち会い、全員が我がことの様に、不安な気持ちで、じっと千春を
見つめているのです。

「私から連絡を入れます・・・、
その時はぜひ・・、会ってください・・・」

千春の背に浦上が静かな声で頼みました。

「・・・・・・・・」

背を見せたまま、千春がこっくり頷きました。浦上はもちろん、店内のお客も店員も、その場にい
るみんながホッとして顔をほころばせているのです。

千春はそのまま振り向かないで、しっかりした足取りで店を出て行きました。男はじっと千春の背
を見つめていました。その後、千春が帰りのタクシーの中で涙をあふれさせ、必死で声を押さえて
いたのを、浦上は知らないと思います。


[20] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(150)  鶴岡次郎 :2014/04/07 (月) 12:21 ID:Cv1rvMRg No.2500

次の日、千春はいつもの様に出勤しました。そして佐王子からいつもの様に連絡がありました。そ
の客を断らず、千春は指定されたホテルに出向き、そこで待っていたお客に抱かれました。60歳
近い会社役員でした。いつも以上に千春は乱れました。悶え狂う千春の瞳になぜか、いっぱい涙が
あふれていました。その客が帰った後、千春は佐王子に連絡をいれました。

「・・佐(サァ)さん…、お願い…、抱いてほしい…、
今日は一人になりたくないの……」

泣きながら話す千春の声に異常な気配を感じ取り、佐王子は理由を聞かないで、すぐその場で予定
を変更して、そのホテルへ行くことを約束しました。

佐王子が驚くほど千春は乱れ、最後には失神してしまいました。一時間後、千春がようやく目覚め
ました。佐王子はソファーに座りスコッチの水割りを飲んでいました。

「私・・、気絶したようネ・・・
こんなに濡れているし・・・、恥ずかしい・・・」

カラダの下にバスタオルを二枚敷いているのですが、少し絞れば愛液が滴り落ちるほど、それは濡
れているのです。全裸の身体を起こし、眩しそうに男を見ながら、女がかすれた声で話しかけてい
ます。大声で叫び続け、女の声が少し枯れているのです。

「佐(サァ)さん・・、
私・・、求婚された・・・。
都内にある大手商社に勤める35歳の男性・・。
バツ一で、4年前、奥さんを癌で亡くして、子供はいない・・、
お店で出会った・・・、とっても素敵な人なの・・・」

「・・・・・」

手にしたグラスをテーブルに置いて、佐王子が千春を見ています。ベッドの上に座り千春が微笑ん
でいます。べっとり濡れた股間が男の視線を捕らえています。

「とってもうれしいお話で、
多分・・、私にはラストチャンスだと思う・・
こんないいお話は、もう来ないと思う・・」

「ラストチャンスでもないと思うが・・、
千春がいいと思う男であれば、きっとお前にふさわしい男だよ・・・
経験豊富な千春がその気になるほどだから、あちらの方も使えるのだろう・・」

「ハイ・・・、
佐(サァ)さん以外の男と関係して初めて失神しました・・」

「そうか・・、それなら何も文句ないな・・」

「でも・・・、
私、きっぱりと断ってしまった・・・」

「・・・・・・・・」

驚いた表情で佐王子が千春を見ています。今にも泣き出しそうな彼女の表情を見て、立ち上がり
ベッドに近づいてきました。男根がブラブラと揺れていました。


[21] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(151)  鶴岡次郎 :2014/04/08 (火) 15:45 ID:9W89rUJU No.2501

彼女の側に座り、女の肩に右手を掛け、顔を覗き込みました。男の股間から千春の好きな強い香り
が立ち上がり女の鼻腔を刺激していました。

「だって・・、
こんな汚い女が、あの方のお嫁さんになれるはずがない・・・」

「お前・・、まさか・・・、
何もかも言ってしまったのか・・・?」

千春がゆっくり首を振っています。

「何も言っていない・・、
でも・・、何も知らない素人女とは思っていないと思う…
私…、ベッドでは何も隠さなかったから…、

いずれそのことがバレて、蔑まれ・・、捨てられる前に、
私から・・・、別れて欲しいと告げた。
別れる理由(わけ)は聞かないで欲しいとも言った」

「相手はそれで納得したの・・?」

千春がまた首を振っています。

「もう一度・・、会って欲しいと言っていた・・。
私は・・、会いたいけれど、もう・・・、会えない・・、

会えば、もっと離れたくなる・・・、
辛いの・・・、
だって・・・、どうしょうもないもの・・・・・」

そこで千春は大粒の涙を流し始めました。顎から落ちた水滴が裸の大腿部に落ちていました。


千春から別れ話を切り出され、とりあえずその場で結論を出すのは先延ばしにしたのですが、事態
は不利な状態であると浦上は覚悟していました。数日経って、ほとぼりがさめるのを待って、浦上
から連絡を入れるつもりだったのです。

ところが、あの日から2日後に、思いがけなく千春から連絡が入りました。電話の向うで他人行儀
な語り口で話す千春の声を、浦上は悲しい思いで聞いていました。彼女から連絡を入れてきて、話
がしたいと言って来たのは、決していい話ではなく、決定的な別れの言葉を告げるためだと浦上は
察知していました。

指定された時間より20分以上前に喫茶店に入ると、一番奥まった席に既に千春が来て待っていま
した。彼女の側に、浦上の知らない50歳程の男が座っていました。浦上の知らない種類の男、サ
ラリーマンではない雰囲気の男です。その男の持つ独特のオーラ、そして、その男にすべてを託し
て、寄り添うように座っている千春の姿を見て、浦上は奈落の底へ落ちるような絶望感に襲われて
いました。

〈・・・あの男は何者だ…、
どう見ても素人とは思えない雰囲気だが…
あの男が千春の愛人なのか・・・・・

そうだとすると…、
千春を取り戻すのは不可能かも…〉

普段、佐王子は目立たない、平凡な服装をしています。ところが今日は、紫色のカラーシャツに、
純白のブレザー、そして濃紺の細身のパンツ、白と紺のコンビの高級靴を身に着けているのです。
どこから見ても隙のないその筋のお兄さんの雰囲気を出しています。さすがに良く似合います。

佐王子を見て、浦上は完ぺきなまでに打ちのめされていました。少し残っていた千春奪還の希望を
浦上は完全に失っていたのです。


[22] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(152)  鶴岡次郎 :2014/04/09 (水) 16:25 ID:RBTVHB1o No.2502

浦上とその男は硬い表情のまま初対面の挨拶を交わしました。浦上は社用の名刺を差し出したので
すが、その男は佐王子保と名乗り、名刺は持っていないと卑屈な笑みを浮かべて言いました。

「初対面早々で、失礼だと思いますが…、
佐王子さんのご職業を教えていただけませんか…」

一番気にかかっていることを浦上が素直に聞いています。佐王子が笑いながら答えました。

「浦上さん・・・、正直な質問ですね・・。
何者だろうと私のことをあれこれ考えておられるのでしょう・・、
本来であれば素人の方に正体を明かさないのがお決まりなのですが・・・・、

いいでしょう・・、
今日のところは、私の稼業を伏せていては、話が進みませんので、
何もかも、きれいさっぱり、お話しすることにします…」

やや芝居がかった口調で、もったいをつけています。浦上はぶぜんとした表情で佐王子を見つめて
います。

「あなたのように、何不自由のない家庭で育ち・・、
良い大学を出て一流商社にお勤めのお方はご存じないかもしれませんが・・、
私は・・・、竿師をやっています。
竿師ってご存知ですか・・・?」

「・・・・・・」

男の言葉にビックリして、男の顔を見て、そして千春の顔を見ています。千春の表情は変わりませ
ん。そうした話題が出ると覚悟をしていた様子で、千春は顔色も変えていないです。それでも固い
表情を保ったままです。

「女を騙して・・、騙すと言っても、口先だけでなく、私の身体で女を騙すわけです。
女が私の身体から離れられなくなった頃を見計らって、女から金を巻き上げるのです。
勿論、女に金がないと判ると、私のために働いてもらいます・・。

こんなことをやっているのが、竿師です・・・・」

勿論、聞きかじりですが、浦上も竿師のことはそれなりの知識を持っていたようです。そして、千
春と一緒にいる男が竿師だと判ると、全身が震えるほどの恐怖心と奈落にまっさかさまに落ちるよ
うな絶望感を抱いていました。

「そんな汚い仕事をしている竿師の私が千春と一緒にここへ来た・・。
どうして、千春と一緒にいるのか、
その先を聞きたくない・・、知りたくない・・と、
浦上さんは感じておられるのではないですか・・・」

ここで口を閉じ、笑みを浮かべたまま佐王子は浦上の表情を見ています。必死で心の中にある動揺
を隠そうと浦上は頑張っています。

「もし、このまま何も聞かないで帰るとおっしゃるのなら、
私は無理に引きとめません・・・・。
当然、あなたと千春の仲もここで終わり、私もあなたの前から消え、
ここでお会いしたことも含め、これから先も、一切関係がないことにします・・」

浦上の心の動揺をあざ笑うかのように、誘いの言葉をかけているのです。浦上にはほとんど佐王子
の言葉が聞こえていませんでした。必死で立ち直ろうと努めているのです。

「どうですか・・、浦上さん…・、
貴方が聞きたいとおっしゃるのなら、
私と千春の関係、そして、私が千春に何をしてきたか、
全て話したいと思いますが、どうされますか・・・?」

浦上は堪えました。この場を逃げ出せば全て終わりになり、千春を失うことにはなるが、これ以上
の被害は受けないのです。逆に、このままこの男の話を聞けば、どんな難題を吹きかけられるか
判ったものではないのです。それなりの金を要求され、ことがこじれれば、一流商社社員の身分さ
え危なくなる可能性が出てくるのです。


[23] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(153)  鶴岡次郎 :2014/04/11 (金) 14:45 ID:BBZ/K3K. No.2504
10秒、30秒、・・60秒ほど浦上は黙ったまま男の顔を見つめていました。千春が心配して浦
上の顔を見上げるほど、彼の沈黙は続いたのです。佐王子はさすがです、浦上の強い視線を真正面
から受けても、視線をそらすことなく、表情を変えないで堪えているのです。やがて・・、ゆっく
りと浦上が口を開きました。

「お話をうかがわせていただきます・・。
貴方がご存知のことを全て、ありのまま全て話してください。
結婚を申し込んだのはそれなりの覚悟を決めての上です。
千春さんが私を受け入れたくない理由をしっかり確認したいのです」

姿勢を正し、しっかり男の顔を見て、浦上は明瞭な言葉で、それでいて静かな口調で返事しました。
表面上、浦上は完全に立ち直っています。彼の様子を見て、先ほどまで見せていた笑いの表情が佐
王子から消えています。

「千春を罠にかけたのが、4年前です・・。
その頃、彼女は入社4年目で、シュー・フイッターとして実績を重ね、
店内でも段々にその実力が認められるようになっていました・・」

ゆっくりと佐王子が語り始めました。その先の話の展開がわかるようで、さすがに千春は耐えがた
い表情を浮かべ面を伏せています。千春を見て浦上は少し心配そうにしていますが、案外冷静な表
情です。千春につらい思いをさせても、この機会に千春の過去をすべて知りたいと浦上は決めてい
るようです。

「当時千春が勤めていた店の恥を話すことになるので、これから話すことは、聞き流して記憶にと
どめないようにしてほしいのですが・・・・、

多分、浦上さんには想像もできないことだと思います、詳しい内容は省略しますが、当時、千春の
店では限られた数人の女店員がお色気サービスをして、靴の売り上げを競っていました・・」

どうやら千春は浦上との出会いを佐王子に話していない様子です。偶然、訪問した店で、千春のお
色気サービスを受けたことが縁で、浦上は千春と知りあい、結婚を申し込むまでに二人の仲が発展
したのです。こうした経験から浦上には佐王子の話はよく理解できました。勿論、お色気サービス
の内容を知っているとは浦上は言いません。

「千春のお客と私のお客は良く似た種族に属する方々で、金が有り余っていて、それでいてスケ
ベーな方々です。そんなお客から千春たちの店の噂を私が聞きだすのは時間の問題でした。

お客様方の噂話を聞いた私は、商売に使える女がその店にかなり居そうだと直感しました。早速、
その店を覗いた私は数人居る女性フイッターの中で際立つ女を見つけ出しました。それが千春で
す・・・」

そこで口を止め、佐王子はコーヒー・カップに口を添え、不味そうな表情を浮かべました。コップ
の中のコーヒーはすっかり冷めているのです。そうした動作の中でも視線は浦上から外さないので
す。浦上もしっかり佐王子の目を捉えています。

「私はあらゆる手を使って千春を誘惑しました。その結果、彼女は私に惚れ、いや・・、多分私の
カラダに惚れたのだと思いますが、とにかく、彼女は私の言いなりになってくれました。

勿論、私もそれなりに千春に大切にしました。しかし、私はプロの竿師です。何のわけなく女に惚
れることはありません。付き合うようになってしばらくしてから、千春に男を紹介しました。

私に溺れていた千春はいやいやながらも、あがらうことが出来ないで、私が宛がった男達に抱かれ
ました。それ以来4年、千春は表の仕事と並行して、私と一緒に裏の稼業を続けています・・・」

竿師の佐王子と関わった以上、堕ちるところまで堕ちた筈だと、浦上は千春の身の上を予想してい
たのです。予想通りの内容を聞いて、ビックリはしていませんが、その事実を改めて突きつけられ
て、浦上はひどく落胆していました。そして、激しい感情が浦上の中から湧き上がっていました。

浦上の落胆した様子と、吹き上がる感情の処理に耐えかねている浦上を見て、佐王子は複雑な表情
を浮かべ、千春は消え入りそうに恥じ入っているのです。おそらくこの時点で、佐王子と千春は三
人の話し合いはここで終わると観念していたのです。


[24] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(154)  鶴岡次郎 :2014/04/15 (火) 16:01 ID:QJBcMWNY No.2505
浦上が席を立って、それを最後に二人の関係が終わると、千春は覚悟を決めていました。それだ
けに、衝撃的な話を聞いても席を動かず、ただ黙って佐王子を睨み付けるようにしている浦上を
見て、千春は当惑していました。

〈三郎さん・・、何を考えているのだろう…、
裏切られた怒りと、あまりにひどい私の話を聞いて・・、
あきれ果て、怒ることさえ忘れているのかもしれない…。

いずれにしても、これで終わった…、

何も知らせないで、判れるより、
むしろ、こうした形で終わることができたことを感謝すべきかもしれない・・〉

浦上の中に噴出した感情は、不思議なことに千春への怒り、蔑みの感情ではありませんでした。激
情の矛先はもっぱら佐王子に向けられていたのです。あからさまに千春の過去を暴き立て、彼女を
辱める佐王子に対して、浦上は怒りで身体を震わせていたのです。

〈なんて男だろう…、
果たして・・、ここまであからさまに・・、
何も隠さず、売春行為まで僕に話す必要があったのか・・、

もう少し、こちらの気持ちを汲んでいれば、そこまで言わないだろう・・、
側に居る千春をそこまで辱める必要はないだろう・・・、

愛人とか、情婦とか・・、やんわりと言えばそれなりに理解できるのに、
もう少し受け入れ易い言葉を選ぶことだって出来たはず・・・。

いや、いや・・、これは彼の作戦だ…、
嫌がらせの事実を並べ立て、僕を彼女から引き離そうとしているのだ・・
彼の挑発に乗ってはいけない…〉

浦上は必死で戦っていました。そして、佐王子がことさらのように千春の悪事をバラしているのは、
浦上を千春から排除しようとする佐王子の強い意志が働いていると考えたのです。そうであれば、
そんな作戦に乗ることは出来ない。浦上は自身の信念を貫く気持ちをあらわに出して、佐王子を睨
みつけていたのです。

「佐王子さん・・、
それであなたのお話は終わりですか・・、
もう・・、隠していることは有りませんね・・」

静かに、抑揚の無い調子で浦上が言葉を発しました。予想に反して冷静に反応する浦上を見て、佐
王子が本心で驚いた表情を浮かべています。

「いや・・・、驚きましたね…、浦上さんは冷静ですね…・、
こんな話を聞いても、さすが一流会社の方は肝が据わっているというのか、
割り切っていると言うのか、案外平静ですね・・、驚きました・・」

佐王子が、本心で驚いた表情を浮かべています。千春もびっくりして浦上を見つめています。

「もしかしたら・・、
浦上さんはこの程度の話は予想できていたのですね、
素人には見えない私が千春と同席しているのを見て、
この話の展開を予想していたのですね…、

う・・・ん・・・、それにしても、たいしたものだ・・、
サラリーマンにしておくのはもったいない度胸ですね・・、はは・・」

佐王子の低い笑い声が空ろにその場に広がっています。


[25] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(155)  鶴岡次郎 :2014/04/16 (水) 15:33 ID:zUhgHqm6 No.2506

佐王子の嘲笑を浴びても浦上は表情を動かしません。千春は・・、もう・・、この先の展開が全く
読めないようで、うつろな表情を浮かべ二人の男をかわるがわる見ているだけです。

「佐王子さん、あなたの真意が良く判りません。
あなたは、千春さんの過去をことさらの様に印象悪く暴き立てていますよね・・・。
何か企みがあるように思えてならないのですが・・・」

衝撃的な千春の秘密を聞かされ、ここで浦上が正常心を失い、狼狽え、わめき散らすことさえ想像し
ていたのです。それが、佐王子の暴露話を冷静に受け止め、その内容を分析し、その暴露話の裏に
隠された佐王子の企みさえ、浦上は暴こうとしているのです。

佐王子の予想を裏切る浦上の反応だったのです。浦上の言葉に、否定も肯定もしないで佐王子はた
だ苦笑を浮かべているだけです。そして、浦上が案外手ごわい相手と分かったのでしょう、彼から
積極的に浦上に攻撃をかけないと決め、ここは浦上の出方を見る姿勢を見せているのです。

勿論、佐王子の戸惑いを浦上は的確に捉えていて、それまで押されぱなっしだった佐王子に対して、
一矢報いた気分になっていたのです。

「お答えがないようですが・・・、
いいでしょう・・、
あなたが何を企んでいるか、今はそのことには触れないでおきます・・」

あっさり浦上が佐王子の追及を止めています。一呼吸おいて浦上が口を開きました。すっかり落ち
着いた様子で普段の浦上に戻っています。

「あなたが私より先に千春さんと関係を持ったことは認めます。
しかし、これだけは言っておきたいのです。

このままあなたとの関係を続けたとしても、
その先・・、千春さんが幸せになるとは思えないのです・・・」

ここで次の言葉を飲み込みました。愛しい千春の名前を口に出したことで、浦上の中にこみ上げって
くる何かがあるようです。それまで冷静さを見せていた表情にわずかな変化が出ています。無理も
ありません、最愛の恋人が最悪の男に奪われようとしているのですから…。

「私は千春さんを誰よりも深く愛しています。
多分、あなたより、私は千春さんを幸せにできると思っています・・

お願いです・・・、
千春さんのことを少しでも気にかけているのなら、
僕たちの関係に口を挟まないでいただきたいのです…」

さすがの浦上も自分の気持ちを抑えきれなかったようです。千春を恋する気持ちが浦上の中で暴発
しているのです。佐王子を睨み付けるようにして、それまで考えていた筋書とは違う挑戦的な言葉
を吐き出してしまったのです。

学生時代武術に励み、180センチを超える偉丈夫です。取っ組み合いになれば、小男の佐王子を
押さえつける自信が浦上にはあるようです。腕力勝負への自信が挑戦的な言葉を吐き出させたのか
も知れません。

「おや・・、おや、相当な自信ですね…・、
しかし、そうとばかりは言えないと思いますよ…、
あなたから見て、今の千春は不幸に見えますか・・?

毎日好きな仕事に情熱を燃やし、
夜ともなれば、私が紹介した紳士たちの手で天国に上る思いをしている。
まさに、千春は女ざかりを謳歌していると思うけれどね…」

笑みを浮かべた佐王子がやんわりと反論しています。


[26] フォレストサイドハウスの住人たち(その6)(156)  鶴岡次郎 :2014/04/17 (木) 13:21 ID:r/3YMEEY No.2507
佐王子に反論しようと浦上は思ったのです。しかし、彼の言う通り、千春にはどこにも陰が見当た
らないのです。売春というみじめな稼業を4年も続けていた女の陰がどこにも見当たらないのです。
それどころか、今を盛りに咲き誇る女の魅力を満々と湛えて、毎日を楽しんでいるのが良く判るの
です。浦上は黙って佐王子を睨み付けているだけでした。

「それにね・・、
あなたは何か勘違いをしているようだ・・・
あなたは、千春との関係に口を出すなと言っているが・・・・、

俺の女に手を出したのは・・・、
浦上さん・・・、
それは・・、あなただよ…」

一転して笑みを消し、鋭い視線を浦上に向けました。浦上がはっとして身構えています。

佐王子の突き刺すような視線を浴びて、浦上は全身が金縛りにあったような気分で、視線を外すこ
とも、言葉を発することも出来なくなっていました。取っ組み合いになれば、小男の佐王子を難な
くねじ伏せることができると思っていた自信は吹き飛んでいます。背筋が寒くなるような殺気さえ
浦上は感じ取っていたのです。どうやら佐王子がその本性を見せ始めたようです。

「俺の女を寝取っていながら、俺に向かって、
平然として、二人の関係に口を出すなと言っている・・・。
俺のことを素人でないと判っていながら、俺に歯向かっている・・。
浦上さん・・、あなたの、その勇気は認めるよ…。

しかしね・・、よく考えてほしいのだよ…、
本来なら、あなたはボコボコにされても、文句が言えないのだよ、
浦上さん…、あなたは俺の女を寝取ったのだからね・・・・」

抑揚のない、低い声で佐王子は語っています。浦上の知らない修羅場を何度もくぐってきた男だけ
が持つ不気味さを存分に見せつけながら佐王子は笑みさえ浮かべて話しているのです。浦上はただ、
黙って聞いていました。逃げ出さないで佐王子の話を聞いている・・、そのことだけ取り上げても、
浦上はよくやっているとほめてやりたいと思います。並の男ならとっくに逃げ出しているでしょう。

「俺は大人しく話し合うつもりでここへ来たんだよ・・、
その俺に向かって、口を出すなとあなたは言っているのだよ・・、
これは誰に聞いてもらっても、あなたが間違っていると言うだろうね…・

浦上さんが認めているように、俺が先に手を付けて、
千春は今では俺の女になっているのだよ、
俺の女に手を出した男に、俺が文句をつけるのは当然だろう・・
頭の良い浦上さんならこの道理が判るだろう・・・・・・」

ゆったりとした口調で、笑みをたたえて、それでもすさまじい殺気を迸らせながら佐王子は話して
います。さすがに怯えた表情を隠せませんが、それでもけなげに、浦上は目を逸らそうとはしませ
んでした。必死で睨み返しているのです。

言いたいことを言い尽くしたのでしょう、佐王子が口を閉じ、次の言葉を出そうとしないでじっと
浦上を見ているのです。今度は浦上が答える番です。そのことが判っていながら、浦上は口を開く
ことができませんでした。背中に冷たい汗が流れているのを感じ取りながら、浦上は必死で恐怖心
と戦っていました。

口がからからに乾き、舌が上あごに張り付いたようになっているのです。ゆっくりと右手を伸ばし、
テーブルの上のコップに指をかけました。震えているのが彼にも判ったのでしょう、コップを持った
手を持ち上げないで、しばらくじっとしています。そして、おもむろにコップを取り上げ、喉に冷
たい水を流し込みました。手の震えはかろうじて止まっています。



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