フォレストサイドハウス(その26)
19 フォレストサイドハウス(その26)
鶴岡次郎
2020/08/22 (土) 16:24
No.3284
苦悩の表情を必死で抑え込もうとしている安田を見ながら、佐王子がゆっくりと口を開きました。

「私のやっていることが・・、
違法で不条理な行いであることは自覚しております、
いずれ、何らかの報復、処罰を受ける時が来ることは覚悟しております。
しかし・・、これが私の生きる道、商売なのです」

佐王子が真剣に語り始めました。

「奥さんを堕落させたのは、私です‥。
それでも私は安田さんに頭を下げません‥。
これが私の生きる道だからです・・。
勿論、懲罰は甘んじて受けます‥。
私が出来る範囲内で、賠償交渉にも応じます‥」

「・・・・・・・・」

低い声で、しかし明瞭に佐王子が語っています。安田太郎は黙って佐王子を見つめています。

「もし、安田さんがそれをお望みなら・・・、
無条件で奥様から手を引きます‥
どう・・・、されますか・・・・?」

「・・・・・・」

佐王子の質問に安田太郎は答えません、じっと佐王子を見つめているばかりです。佐王子はようやく
安田の異常な表情に気がつきました。安田の表情には当惑の影が色濃く表れているのです。郁子を苦
界に引き込んだ佐王子への怒りでもなく、かといって嫉妬でもなく、ただ困惑している表情なので
す。佐王子の提案を理解することさえできない奇妙な混迷ゾーンに安田太郎は入り込んだ様子です。

「安田さん・・・、
大丈夫ですか…、
黙っていないで何か言ってください・・、
今日、ここへいらっした目的は何なのですか‥
私を懲らしめるためにいらっしたのでしょう…」

「・・・・・・・・」

安田太郎は心ここにあらずといった風情なのです。佐王子は次の言葉を飲み込み安田の異常な表情を
じっと見つめています。

「ああ・・・、
そうですか・・・・
無理ありませんようね…
予想もしなかった奥様の裏切りを知ったのですからね…」

ここへ来て佐王子はようやく安田の精神状態を理解した様子で、笑みさえ浮かべて優しい表情で安田
を見ているのです。

「ああ・・・、
失礼しました・・・」

ようやく我を取り戻した様子で安田太郎が苦笑いをしています。