フォレストサイドハウス(その26)
18 フォレストサイドハウス(その26)
鶴岡次郎
2020/08/21 (金) 15:18
No.3283
「佐王子さんのお話をうかがい、
なんとなく事情が判り始めました・・」

売春稼業に転落した妻の事情が判り始めたのでしょう、安田が納得した表情でつぶやいています。

「子作りをあきらめることになり・・、
絶望的になっていたのです・・、
そんな時・・・
偶然佐王子さんに出会ったのですね…」

「正確に言えば・・、
偶然ではありません・・、
ガールハンテイングしている私が奥様に目を付けたのです…
これはチャンスだと思いました・・・・」

安田太郎から視線を外さないで佐王子はずばりと切り込んでいます。太郎の表情が少し歪みました
が、すぐに元に戻りました。

「もう・・、お気づきだと思いますが・・
素人の奥様に上手く取り入り、
彼女たちの心の隙間に忍び込み、
チョッとした隙を突いて、
彼女たちを私の世界にいざなう…、
それが私の商売です・・・」

「・・・・・・・」

太朗の顔を真正面から見つめて、佐王子ははっきりと告げました。佐王子の挑戦的な視線を安田太郎
はしっかり受け止めています。二人は数秒間にらみ合いました。最初に視線を外したのは佐王子でした。

「かまいませんよ・・・、
思い切り、私を投げ飛ばしても構いませんよ・・、
それで、幾分かでも安田さんの気が治まるなら・・」

すこし笑みを浮かべて佐王子が言いました。

「正直言って…、
佐王子さんをこの場で投げ飛ばしたい・・・、
今はそう思っています…、
しかし、もしそんなことをしたら…、
私は一生悩み続けることになります…
妻をそこまで追い込んだのは私だからです‥」

大きく息を吐き出し、安田太郎が顔をゆがめながら、無理に笑いを作り出しています。

「子作りをあきらめることになった妻は・・
生きる気力さえ失いかけていたのです・・。
そこへ・・、運悪く…
稀代の女たらしが通り合わせた…
郁子が抵抗できるはずがないですね…・‥」

「・・・・・・・・」

すこし笑みさえ浮かべて、自嘲的に安田太郎が言葉を吐き出しました。佐王子は黙って聞いていま
す。

「私がもっとしっかりしておれば・・・、
妻にそんな思いをさせないで済んだのですが…
いやいや・・、
あの時・・、私は何もできなかった・・・・
妻の気持ちを考える余裕を失っていました・・。
妻の苦悩を理解する努力さえしていなかった・・・」

自問自答している安田太郎を佐王子はじっと見つめていました。