フォレストサイドハウス(その26)
16 フォレストサイドハウス(その26)
鶴岡次郎
2020/07/29 (水) 15:09
No.3280
「失礼ながら、お若いのに、冷静ですばらしい決断をされましたね・・・。
そしてこの店を一人で訪ねるという大胆な行動力を発揮された…。
並みの方ではない、怖い方だと感じました・・・」

「・・・・・・」

佐王子の誉め言葉に安田は黙って苦笑を浮かべています。

「素晴らしい体格を拝見して思ったのですが・・、
武道を極められた方ではないかと推察しております・・・、
間違っていますか‥‥?」

「今はなまってしまって、ダメですが・・・、
学生の頃柔道をやりました・・。
4段まで行って、地区優勝したこともあります」

「やはりそうでしたか…」

佐王子が何度も、何度も頷いています。

「お聞きしたいのは・・、
何故、郁子があの商売に入り、
今も、楽しそうに続けているのか・・・
その訳が知りたいのです‥」

「・・・・・・・」

素直な口調で太朗が切り込みました。表情を崩さず佐王子は太郎の視線を受け止めています。そし
て、太朗の質問には今は答えるつもりはないことを佐王子の強い視線が伝えているのです。太郎は佐
王子の返事を待たないで発言を続けました。

「騙され、脅されて・・、
あの商売に引き込まれた…。
最初はそう思いました・・」

「・・・・・・・・」

佐王子の表情は変わりません。

「ビデオを何度も見て、詳しく分析している内に・・、
どうやら、その線はないと判断するようになりました・・。
警察に相談することを止めたのは・・、
妻は決して被害者ではない・・、
むしろ、妻は法を進んで破っていると思ったからです・・」

「奥様は被害者でなく・・、
犯罪者だと、安田さんは考えたのですね…」

鋭いところを佐王子が突いています。

「ハイ・・・、残念ながら・・・、
あのビデオを見る限りは・・・、
妻の無実を証明するのは難しい…
妻はあの商売を楽しんでいると・・・、
悔しいですが・・、
そう・・、思いました・・・」

ここまで佐王子を睨みつけ、挑戦的に語って来た太郎が、妻の罪を認めるくだりになって、さすがに
視線を落とし、肩をすぼめています。

「良く判りました・・・、
安田さんがそこまで考えておられるのをうかがい、
私も決めました・・。
ご質問にはすべて正直に答えます‥」

安田太郎の顔に強い視線を向け、佐王子は静かに、しかし力強く語りかけています。