フォレストサイドハウス(その26)
14 フォレストサイドハウス(その26)
鶴岡次郎
2020/07/01 (水) 16:14
No.3278
「郁子には何も話していません。
いずれ判るにせよ・・・、
今は・・、
彼女はそっとしておきたいのです・・・・」

「・・・・・・・」

意外な展開に佐王子は少しびっくりしていました。てっきり安田家では深刻な離婚話が出ているだろ
うと思っていたのです。良くて賠償金の請求、悪くすれば警察沙汰になる可能性も佐王子は危惧して
いたのです。そのことに備えて腹積もりは固めていたのです。

「佐王子さんを男と見込んでお願いします…
私が郁子の秘密を掴んだこと・・、
あなたに面談を申し込んだことを・・、
今は・・、隠しておきたいのです・・・、
勝手なお願いで申し訳ありませんが、ご協力願えますか‥‥?」

「勿論・・・、了解です。
むしろ、私から、そのことをお願いしたい気持ちです‥」

晴れやかに佐王子は答えました。安田太郎への好意を隠そうとしていないのです。

「ありがとうございます…、
いろいろ失礼なことを申し上げたにもかかわらず・・、
こちらのわがまままで快くお聞き届けていただき・・、
感謝します・・・」

電話の向こうで安田太郎が頭を下げている雰囲気を感じ取り、佐王子も深々と頭を下げていました。
そこで二人は電話を切りました。

「ふう・・・、
バレてしまったか…、
それにしても・・・、
安田さん・・・、
若さに似合わず、なかなかの人物だな・・、
土曜日が楽しみだ・・・」

受話器を置いて、佐王子は大きく息を吐き出し、不敵な笑みを浮かべて独り言をはっきりと口にしま
した。追い詰められた状況を楽しんでいるようにさえ見えるのです。郁子を堕落させた事実を旦那に
握られたことを心配しているより、どうやら安田太郎の人物そのものに興味を持った様子で、本気で
安田太郎との面談を楽しみにしている様子なのです。