フォレストサイドハウスの住人達(その24)
4 フォレストサイドハウスの住人達(その24)
鶴岡次郎
2019/02/12 (火) 17:17
No.3195
一歩踏み出すと後は簡単でした。カラオケ店のスタッフとも懇意になり、一緒にカラオケを楽しむ男
を紹介してもらうようにもなりました。もちろん、スタッフたちはカラオケルーム内で、怪しいプレ
ーが行われることを承知しているのですが、あまり派手に遊び過ぎて他の部屋から苦情が出ない限
り、干渉はしないのです。こうして、月に一度か、二度、男達をつまみ食いするのが二人のひそかな
楽しみになったのです。

あくまでも遊びだから、恋愛感情が沸かないよう、どんなに良い男でも同じ相手と再会しないことを
守って、二人の危険な遊びは一年近く続きました。ところが、二人にとって幸なのか不幸なのか分か
りませんが、佐王子の網に二人は引っ掛かったのです。

この頃、SFマンションを拠点にした自宅売春ネットに欠員が出来て、新しい女を発掘すべく、マン
ション周辺で佐王子は狩りを始めていて、マンション住人の動向を注意深く観察していたのです。先
ず子供が居ないこと、50歳未満、佐王子の職業的心琴を鳴らす女性、夫婦仲が良い家庭、そんな基
準で選び始め、すでに候補者を10人ほど上げるまでに調査は進んでいたのです。

悠里と加奈はその10人の中でも上位に入る女でした。彼女たちの行動を注意深く観察して、彼女た
ちがカラオケ店で男をひっかけていることまでも佐王子は突き止めていました。ここまで調べが進む
と、残るは最後の仕事、二人を抱き、佐王子の刻印を二人の心と体に刻み込むことです。これまで、
数えきれない女性を落してきた佐王子ですが、この最後の仕上げにとりかかる前は、今でも興奮で夜
もよく眠れないのです。

良く晴れた初夏の某日、13時過ぎ、二人の女の足がカラオケ店に向かいました。夕食の支度を始め
る午後5時ごろまでが彼女たちの自由時間です。何事か楽しそうに話しながら、日陰を拾ってゆっく
りと二人の女は歩いています。

二人はおそろいの花柄模様で、ノンスリーブのワンピース、素足に色鮮やかなハイヒールのサンダル
履きです。後ろから見ると、白い下着がワンピースの薄い生地を通して見えます。張り込みを続けて
いた佐王子が彼女たちの後に続きます。

女二人はカラオケ店のフロントにいる若い男と顔見知りらしく、楽しく戯言を交わしています。

「加奈さん・・・、
適当な方が見えましたら・・・、
いつものように、ご案内いしても構いませんね…・」

「ハイ・・、いつものようにね‥」

嫣然と笑って加奈が答えています。

その男は一人でカラオケの練習に来たとフロントで、若いスタッフの男性に告げました。男を見た店
のスタッフは少し迷いましたが、この時間、そうたくさんの来客が望めないので、最終的には加奈と
悠里の判断に任せるつもりで、その男を誘ったのです。

「先ほどご来店されたご婦人二人ずれで、非常に綺麗な方たちですが・・、
一緒にカラオケを楽しむお相手を探しておいでです。
ご一緒されてはいかがですか・・・」

「誰かに聞いてほしい歌でもないが…、
暇を持て余しているので、一緒に遊んでくれるなら願ってもないことだ・・、
ああ…、料金はその女性たちの分も含めて俺が支払うから…
ああ・・、それから・・、これは少ないが取っておいてくれ…・」

万札を一枚スタッフに握らせようとしました。チップをいただくのなら帰りでいいとスタッフは差し
出された万札に手を出そうとしませんでした。

「俺が嫌われて、交渉決裂になることを心配しているんだね‥、
これは・・、俺を女性たちの遊び相手に選んでくれた君へのお礼だよ…、
取っておいてくれ…
女性に嫌われることには慣れているから、
心配しないでいいよ・・、ハハ・・・・」

その男は笑みを浮かべ万札をスタッフの掌に押し付け握らせました。

「ありがとうございます。いただいておきます‥。
3号室にお二人はおいでです‥、ご幸運を祈っております‥。
お会いになり、話し合いが万一不調に終わるようなら、
御面倒ですが、フロントまでお戻りください、
お客様には別の部屋をすぐに準備いたします」

男は自信いっぱいの笑みを見せて、背を向けて廊下の奥に向かいました。その様子を見て、案外二人
の女は彼を受け容れるかも知らないとスタッフの若い男は思ったのです。

その男がドアーを開けた時、二人の女は少しガッカリしていました。そして二人は顔を見合わせて、
互いに頷いていました。この男はパスすることで二人の気持ちは一致したのです。もう少し、明るい
雰囲気の男が良いと判断したのか、あるいは本能的に、少しやばい系の男だと感じ取ったのかもしれ
ません。(2019_02_13@)