フォレストサイドハウスの住人達(その24)
10 フォレストサイドハウスの住人達(その24)
鶴岡次郎
2019/03/11 (月) 11:14
No.3201
いつものことですが、女を落とすこの瞬間、佐王子は一番緊張し、やりがいも感じるのです。悠里の
回答を聞きながら、いつものように、少しざらついた感覚を覚えていました。

〈カラオケ店で男アサリをする女だから・・、
墜とせるとは思っていたが・・、
こうも割り切った考えを見せつけられると、少し白ける…・
もう少し・・、
葛藤してくれても良いのだが・・、最近の傾向だね・・〉

不満とも、愚痴とも、取れる思いを抱きながら、それでもにっこり微笑み悠里の手を握りしめまし
た。

「判った…、
早速、その準備にかかるよ・・」

「よろしくお願い申します‥。
月に一度は佐王子さんに抱いてほしい…、
それと・・、
勝手ですが今の生活・・、
夫と暮らす生活は失いたくないのです・・、
秘密はしっかり守っていただけますね・・・、
それが、売春を引き受ける条件です…・」

「判った…、
その二つの条件を飲むよ…」

佐王子が即答しています。悠里がにっこり微笑み頷いています。

「幸せな家庭の専業主婦、それが悠里の魅力なのだ・・、
はっきり言って・・、
普通の主婦であること、このことがこの商売の売りでもある…。
だから、悠里の秘密を守り切ること・・、
そのことは、悠里のためだけでなく、
私にとっても大切なことなんだ…
女を守り切ること、これが私の仕事の一番大切な部分なんだよ‥
それが出来なければ、私は廃業しなければいけないんだ・・
いや・・、たぶん、この世に存在することが許されない・・・」

プロの顔になって佐王子が説明しています。

「俺と、俺の組織が命を懸けて悠里の家庭を守ることを約束する。
ただ、俺たちが悠里の家庭を壊すことはしないが…、
時として、悠里自身の気のゆるみから危機がやって来ることがある・・、
そのことを心得ていて、
悠里自身も家庭を守り切る強い覚悟でいてほしい・・・
くれぐれも、自分から家庭を壊すようなふるまいをしないでほしい…」

悠里が神妙に頷いています。佐王子の説教はまだ続くようです。昔は女に説教することなどなかった
のです。どうしたのでしょうか‥。

「最後に言っておくことがある…、
先ほども言ったけれど、悠里の魅力の源は専業主婦であることなんだ・・、
立派な旦那が居て、幸せな家庭の主婦であることなんだ‥。
全身からあふれる幸せ感が、男心を引き付けるのだよ…。
どんなに良い女でも・・、
旦那を粗末に思い始めた主婦にはその魅力に陰りが出るものだ‥。
これは私の長い経験から言えることだ…」

真剣な面差しで佐王子は話しています。全裸で情事の余韻を色濃く残している悠里も、真剣な表情で
聞いています。佐王子の気持ちが通じた様子です。

「旦那様を大切にしてほしい・・、
もし、旦那を粗末に思い始めたら、
それが私との縁の切れ目だと、思ってほしい‥。
その気配を少しでも感じたら・・、
私は即刻、悠里から手を引くから、そのつもりでいてほしい・・・」

「判りました…、
しっかり、覚えておきます…、
これから先、いろいろご心配をおかけすると思いますが、
よろしくお願い申します…・」

こうして、佐王子の狙い通り、初めて会ってから二ケ月後には、悠里は自ら望む形で、自宅売春を始
めることになったのです。


それから一ケ月後、悠里はここまでの経緯を加奈に説明しました。

「エッ・・・、
それって…、売春でしょう…・・」

悠里の説明を聞いて加奈は絶句しています。

@ 2019_3_12 本文に一部修正を加えました