フォレストサイドハウスの住人達(その23)
9 フォレストサイドハウスの住人達(その23)(742)
鶴岡次郎
2018/11/07 (水) 11:39
No.3183

「今日・・、わざわざお越しいただいたのは・・、
村上さんに、お願いしたいことがありまして・・、
こちらから会社にお訪ねして、説明申し上げるのが筋とは思ったのですが、
日ごろのお礼も兼ねて、
心ばかりのお食事を差し上げたいと思ったのです‥」

笑みを浮かべて夏樹が口を開きました。いよいよ本題に入ったと、村上と咲江の表情に緊張感が現れ
ています。

「詳しい説明は省きますが・・、
私の担当している研究が、おかげで国際的に注目されまして・・・、
日本、米国、イギリスの研究者が参加して、
開発チームを結成することになりました。
その国際チームのリーダーに私が就任しました・・」

「ほお・・、それはおめでたいことですね・・・」

村上が感心しています。事情を事前に知らされている咲江は黙って微笑んでいます。

「ここから先は咲江にも話していないことなのですが…、
開発センターは日本にあるのですが、
米国、イギリスの開発チームは個々に現地で研究することになっています。
そのため、チームリーダの私は頻繁に両国を訪問して、
研究方向と内容をチャックする必要があるのです。
訪問の度に、現地に一、二ケ月ほど滞在することになります・・」

「えっ・・・、そんなに長い間、現地滞在になるの…?」

咲江がびっくりして問いかけています。どうやら坂上は妻と子供たちの気持ちを考えるあまり、長期
間家を空けることを家族に伝えることが出来なかった様子です。

「うん…、
咲江や子供に何と説明していいか、
考えがまとまらなくて…、
ここまで先延ばししてしまった・・。
申し訳ないが、そう言うことになる…」

苦しそうな表情を浮かべ夏樹が答えています。

「村上さんにお願いしたいのは・・・、
留守宅のことなのです・・・」

「・・・・・・」

村上が黙って頷いています。坂上夏樹の言わんとすることが村上にようやく読めたのです。

「ご承知のように・・・、
村上さんの愛情とご指導を受けて、咲江はすっかり変わりました。
夫の私が言うのは少し変ですが…、
本当に・・、いい女に変貌しました。
ただ・・、良いことばかりでなく・・・、
男気なしでは、おそらく三日は堪えられない体になりました……
これには、少々私も困惑しております‥‥」

「ああ…、なんてことを言うの…!
そんなにスケベーではありません…!」

思ってもいなかった夏樹の攻撃に咲江が猛反発しています。

「判ります…、
旦那様のご心配は、私にもよく判ります…」

村上がまじめな表情を作って、律儀に答えています。

「ああ・・、総一郎さんまで…」

咲江が怒りの表情を作って、二人の男を睨んでいます。その表情も長く持ちませんでした。にっこり
微笑んで言葉を出しました。