フォレストサイドハウスの住人達(その23)
8 フォレストサイドハウスの住人達(その23)(741)
鶴岡次郎
2018/10/31 (水) 16:36
No.3182
二週間後、休日前の夜、村上は坂上家を訪問しました。暑い盛りでしたが、白い上下のスーツに身を
固めて緊張した面持ちでやってきました。

「本日はお招きにあずかり・・、
遠慮なくお邪魔しました…・」

「お忙しいところ・・、
わざわざお越しいただき感謝申し上げます。
長男と、長女です。
さあ・・、おじさんに挨拶をしなさい・・」

マンションの前で待っていた坂上一家の出迎えを受けて、村上が丁寧に頭を下げ挨拶をしています。
坂上夫妻と小学生の長男、幼稚園生の長女が丁寧に頭を下げています。

咲江から招待された時、村上自身も坂上夏樹の真意が読めませんでした。それでも村上は何も質問し
ませんでした。坂上の大きな度量のおかげで、咲江との関係を続行させてもらっている村上は、坂上
の指示であれば命までも差し出す覚悟を常々示しています。この時も、坂上の真意は不明ですが、何
も聞かないで坂上家訪問を快諾したのです。


賑やかな食事が終わり、子供たちが子供部屋に引き下がり、大人三人は居間に席を移しています。村
上はほとんど飲めない様子で、お茶をゆっくり味わっています。夏樹と咲江はいける口のようで、そ
れが食後の習慣になっているのでしょう、ブランデー・グラスをいとおしそうに舐めています。

「いや…、ごちそうになりました…。
久しぶりに楽しい食事を楽しみました・・。
良いですね・・・、
家族揃って食事するのは・・」

「お粗末様でした…、
子供たちが騒いで落ち着かなかったでしょう‥?」

「いやいや・・、
お子さんたちに囲まれて食事するのは初めての経験です。
家庭を持ったことがありませんし、
子供の頃、早くに両親がなくなりましたから・・・、
一家だんらんがこんなに楽しいとは想像さえしていませんでした‥」

幼い頃も含めて家族団らんの思い出は村上にはない様子です。

「こんな家でよければ…
これからも・・、遠慮なくお越しください…」

夏樹が愛想よく言いました。

「ありがとうございます…、
幼いお子さんと接するのは・・
初めての経験でしたが…
楽しいものですね・・」

「そういえば・・、
子供たちも村上さんにすっかり甘えていましたね…
近くに親戚が居ないので、
家族以外の方と食事をしたのは、
あの子たちは初めてなはずなのですが…・」

最初の内、子供たちは緊張していたのですが、優しく声をかける村上にすぐに慣れてきて、実のおじ
いちゃんに接するようになっていたのです。

「ご一緒に食事をするだけでも、貴重な経験でしたが・・、
こんな得体の知れない男のことを・・、
『銀座のオジサン…』と、呼んでいただいたりして・・・、
一生の思い出になりました…」

「・・・・・・・・」

子供たちと親しく話し合えたことに村上はすごく感動して、うっすらと涙さえ出しているのです。夏
樹と咲江が村上の感動ぶりをに驚き、すぐには言葉が出ない様子です。