フォレストサイドハウスの住人達(その23)
6 フォレストサイドハウスの住人達(その23)(739)
鶴岡次郎
2018/10/24 (水) 18:04
No.3180

夫に隠れて村上に抱かれていた時は、罪悪感と、自己嫌悪感でボロボロになっていたのです。一時は
発作的に死さえ考えたことがあったのです。それが、村上との関係を許されてからは、さすがに深刻
な罪悪感は消えましたが、その反面、夫への大きな負い目は拭い難く、根がまじめな咲江だけに、夫
に感謝の気持ちと愛情を伝えたい思う感情は少し異常と思えるほど高まっているのです。罪悪感とは
違った意味で咲江は自分自身を追いこんでいるのです。

〈私が夫の立場なら・・、
絶対に他の女を抱く夫を許せない…。
それだのに、夫は笑って総一郎さんに私を預けた・・、
私はその大きな愛に何もお返しをしていない・・、
それどころか、夫の好意に甘えてばかりいる‥
こんなことで良いのかしら…、
私にできることが何かあるはずだ…・〉

ピリピリと張り詰めた気持ちでいるわけではないのですが、夫が何かを言えば、必要以上に反応し、
その発言の裏に隠れている夫の真意を探る習慣が咲江の日常になっているのです。村上を家に呼ん
で、一晩泊まらせて、ゆっくり相談したいと夫が言い出したのです。そして、かなり粘って聞いて
も、夫は村上を招待する真の目的を明かそうとしないのです。これでは咲江でなくても、疑心暗鬼に
陥ります。

〈村上さんにお願いしたいことって…、
何だろう…、
悪い話ではないと言っているから・・・、
別れ話や、苦情ではなさそうだけれど…。
私・・、何か不都合なことをしていないだろうか‥
判らない・・、でも、考えても仕方ない・・、
私の愛情で、夫の不満や、不安を取り除こう・・・〉

愛人を与えられ好き放題にセックスを満喫できる環境を与えられているわけでから、夫の大きな愛に
報いるには、咲江もまた夫が自由に女遊びをすることを認めようと思った時期もあったのです。しか
しいくら考えても夫に浮気を勧める気にはなれませんでした。

結局咲江が選んだ道は、献身的なサービスでした。日常の食事や身の回りのケアーを十分にし遂げる
のは勿論ですが、特に閨でのサービスが重要だと考えたのです。セックスで不満を与えない、どんな
女より咲江のセックスが楽しいと思わせることが使命だと、咲江は自分自身に言い聞かせたのです。

仕事の都合もあり、夫婦のセックスは週二度までと決めています。咲江はこのセックスの時間に、大
げさに言えば、命を懸けるのです。村上によって開発され、彼の手で磨かれたセックステクニックを
余すところなく夫に向けて発揮するのです。

これほど献身的で、この上なく充実した妻の愛情は男にとって夢のようなことですが、当の夏樹の身
になれば、喜んでばかりいられない事情があるようです。
咲江の献身的なサービスが夫夏樹を追い詰めることになっていることを、勿論、咲江は気がつきませ
ん。今日も自問自答を重ねながら、閨でのサービスに精神を集中している咲江です。

〈夫は私とのセックスに満足しているだろうか…?
慣れから、手抜きのサービスになっていないか…?
はしたない女だと思われるのが嫌で、セーブしていないか・・?
少しでも、妻とのセックスに不満を持つようなら・・、妻失格だ・・・!
いろんな男を知っている千春に言わせると・・、
夫の持ち物は市の文化財にしても良いほど立派だそうだ…、
もっと、もっと、大切にしないと、バチが当たる…〉

その夜、いつものように夫のモノをくわえながら、今日もやるぞと咲江は覚悟を固めているのです。

〈思い切り、淫乱な私を夫に見せつけよう‥、
淫らな女の本性を夫に見せつけよう…。
夫が余計なことを考える余裕がなくなるまで攻めよう‥
そのためには私が、先ず、夢中になることだ…・〉

その夜、咲江の攻撃は見事でした。咲江は数えきれないほど、夏樹は三度も逝きました。