フォレストサイドハウスの住人達(その21)(674)
46 フォレストサイドハウスの住人達(その21)(718)
鶴岡次郎
2018/08/06 (月) 14:29
No.3153
「坂上さん・・、
私は散々に不摂生を重ねて来ましたので、
残された人生は、残り10年もないと思います‥。
その残り僅かな人生を、全て・・・、
咲江さんと坂上さんに捧げます…。
ありがとうございます。このとおりです…」

ソファーから滑り降り、床に正座して、村上は床に頭を付けています。

一度きりの浮気で、体の関係はなかったと咲江は嘘の告白をしたのです。その嘘を信じて、夫はすべ
てを許し、改めて村上の事務所に勤めることを認めてくれたのです。村上の告白で咲江の嘘がバレま
した。一年の浮気は長すぎます、離婚話も浮上するかもしれないと咲江は覚悟を決めていたのです。
それが、全てを許してくれたうえ、これからは夫公認で村上に抱かれることが出来るのです。村上同
様、咲江も感動の渦の中に居ました。

村上が夫に頭を下げているのを見て、咲江も夫にお礼を言うべきだと気がついたようです。急いで
立ち上がり、村上の傍に正座して、夫に向かって、心から感謝の気持ちを込めて首を垂れています。

村上と咲江の土下座を受け、坂上は嬉しそうな表情を浮かべています。顔を上げた村上が坂上を見
て、そして傍に居る咲江と視線が合いました。どちらからともなく顔が近づき、二人の唇が重なり合
いました。坂上の存在は気になりますが、興奮を抑えきれなくなったのです。

最初はおとなしく唇を合わせていたのですが、女の方が仕掛けて、互いに舌を絡め合う激しくキッス
になりました。

坂上はそんな二人から視線を外し、窓の外を見ています。二人はいつ果てるとも判らない状態です。
しっかり抱き合い、唸り声さえ発しているのです。坂上から公認された喜びが爆発しているのです。
このままの展開だと、二人は床に体を倒し、本格的に抱き合うかもしれません。坂上が振り向き、未
だ激しく抱き合っている二人に声を掛けました。優しい声です。

「咲江・・!
それくらいでいいだろう・・」

二人には坂上の声が届いていない様子です。二人に近づき、咲江の肩に手をかけ、少し大きな声で呼
びかけました。相変わらず優しいトーンです。

「咲江…!
もう・・・、いいだろう…」

肩を触られ、ようやく夫の存在に気がつき、慌てて、重なっている男の唇を離しています。男の舌を
深々と吸い込んでいて、音を立てて男の舌が抜き出されると、唾液が二人の唇の間に糸を張っていま
す。激しい吸引を受けたのでしょう、咲江の唇は少しはれぼったくなり、真っ赤に変色しています。
淫蕩に変形した妻の唇を眺めながら、苦笑の表情を浮かべています。坂上は少し妬ける気分になって
いるのです。

「ああ・・、あなた・・・・
スミマセン・・・、うれしくて…」

頬を染めて咲江が恥ずかしそうにしています。村上は坂上の顔を見ることが出来ない様子です。それ
でいて、二人は右手と左手を固く握りあっているのです。

「私は、これから研究所に寄って、
やり残した実験を片付けるつもりだ・・・、
咲江は先に・・、家へ帰ってほしい・・・」

ここで言葉を飲んで、からかいの笑みを二人に向けて、夏樹が言いました。

「それとも・・、
村上さんさえ、ご迷惑でなければ、
一晩お世話になり、明日の昼過ぎ帰って来てもいいよ・・・・
仕事を早めに終えて、おばあちゃんから子供たちを引き取り、
明日の朝、責任もって学校へ送り出すから…」

「エッ・・・、良いの…・?」

「これから先のことも含めて、二人にはつもり話もあるだろうから、
ゆっくりして来るといい・・。
子供たちには、お母さんは友達の家に泊まると伝えるから‥」

うれしそうな表情を浮かべる咲江に、優しい視線を送り、坂上夏樹は潔く背を見せて、玄関に向
かって歩き始めました。

村上が坂上夏樹を玄関まで見送りました。玄関で二人の男は固い握手を交わしました。これから先、
いつまで続くか判らないのですが、二人は咲江を共有することになるのです。ある意味で肉親以上に
近い関係になった二人なのです、万感を込めて二人は視線を絡めていました。

「では・・、お世話になりました…」

「こちらこそ・・、
明日の午後には奥さんを送り届けます・・」

互いに多くを語らなくても、心が通い合う気持ちになっているのです。