フォレストサイドハウスの住人達(その21)(674)
41 フォレストサイドハウスの住人達(その21)(713)
鶴岡次郎
2018/07/19 (木) 16:39
No.3148
「本気で奥様を奪う作戦を練りました・・。
しかし・・、結局できませんでした…
あきらめる以外・・、道はなかったのです‥‥」

肩を落とし、村上は視線を床に落としています。その時のことを思い出し、やりきれない思いに
なっているのです。恋する女をあきらめると決断した男、気落ちしている哀れな姿を隠そうとしない
男を、しっかり抱きしめたいと咲江は思いました。しかし、出来ませんでした。泣き叫んでいる女心
を咲江は必死で抑え込んだのです。ここで村上を抱きしめれば、確実に、もう一人の男、夫を、突き
放すことになると、咲江には判っていたのです。どんなに村上を憐れんでも、夫を捨てて、彼の元に
走る気持ちにはなれなかったのです。

この場に居る三人三様に、思いにふけっているのでしょう・・、沈黙の時がゆっくりと流れていまし
た。

「私ごとき者のところに、奥様を引き留めてはおけない・・、
今なら、大恩ある咲江さん一家の崩壊が防げる・・、
縁を切るべきだと思いました・・。
それで・・、ある女に頼んで、芝居を打ちました・・」

驚いた表情で咲江が村上の顔を見ています、そして次の瞬間、あの女、由美子のことに触れるつもり
だと察知しているのです。

「咲江さん・・、
先日の女は私が金で雇った女です‥」

村上が先手を打って、由美子の素性を明かしました。驚いた表情を浮かべて咲江が村上を見ていま
す。そして慌てて口を挟みました。

「総一郎さん・・・、
アッ・・、社長さん‥‥、
あの女のことは主人には一切話していません…
苦しくて、悔しくて・・、告白する気になれなかったのです。
だから・・・、説明をしないと…、主人には判りません…」

また未告白の話題が明らかになったのです。坂上は苦笑を浮かべて咲江を見ています。

「そうですか・・、
あの女のことは旦那様には話していないのですね‥
何も、秘密にすることではないと思いますが…。
いいでしょう…、私から事情を説明します…」

笑いながら村上が言っています。

「奥様と別れるため、卑劣な手を打ったのです…。
ベッドで別の女と親しくしているところを奥様に見せつけて・・、
奥様をあきれさせ、私を軽蔑するように仕向けようと考えたのです…。
狙い通り、奥様は怒って、私を捨てました・・」

事情を察知して坂上が頷いています。

「咲江さん・・・、
あのような別れは・・・、
私の本意でなかったことだけは信じてください、
もっと、ちゃんとした別れ方をするべきでした‥
でも・・、別れ話をするのが怖かったのです…
心優しいあなたが別れを知って、泣き出すと、
私自身の決心が揺らぐことを恐れたのです‥・・」

「・・・・・・・」

「これが・・、私が申しあげたいことの全てです…」

そこで言葉を切り、村上は深々と頭を下げました。涙を一杯貯めた目で、咲江が村上を見ています。
坂上はゆったりと構えていて、笑みさえ浮かべています。