フォレストサイドハウスの住人達(その20)
48 フォレストサイドハウスの住人達(その20)(672)
鶴岡次郎
2018/03/14 (水) 11:05
No.3100
千春は当惑していました。こんなはずではなかったのです。以前の咲江はどこか頼りないところが
あって、村上との仲も、体の疼きに堪えかねて、心ならずも村上のところへ出向く様子だったので
す。そして、何よりも、村上との関係を恥じ、早く別れるべきだと咲江は悩み続け、千春にも何度も
相談していたのです。それが、今日は村上との関係を、むしろ誇らしげに咲江は語っているのです。

「どうしたの咲江…、
村上さんとは別れるべきだと・・.、
優しい旦那様を裏切っているのがつらい・・・と、
悩み・・、悲しんでいたのは・・、咲江だよ…」

「そうだよ・・」

「なら…、
旦那様が素晴らしい変身を遂げたのだから・・・、
もう・・、村上さんに頼る必要はないでしょう…
村上さんだって・・、
あなたが居なくなっても、それほど不自由しないと思う…」

「確かに・・・、そうだった・・、
一ケ月前までは・・、千春の言う通りだった…
でも・・、事情が変わったのよ…」

「どんな事情なの…」

「ゴメンナサイ…、
千春にさえ・・、
まだ・・、その事情を言えない・・
いずれ、その時が来たら、
私の中で、気持ちが固まったら…・
千春には、真っ先に伝える・・、
それまで・・、待ってほしい…・・」

「・・・・・・・」

「ただ・・、これだけは言える…、
私と、彼の仲は・・・、
以前とは比べ物にならないほど、
深く、強くなったのよ・・」

「・・・・・・・・」

千春の説得で咲江が村上と別れると決断するならそれが一番で、その可能性も十分高いと千春は由美
子たちと話し合っていたのです。そして、千春は咲江を説得できると、密かに自信を持っていたので
す。ところが、いざ話し合ってみると、以前より咲江の気持ちは強固になり、村上への思いがより深
く、強くなっているのです。

千春は知りませんが、経営している会社の倒産騒動で、一時的性不能に陥った村上を助け出した実績
が咲江を変えたのです。咲江なしでは村上は生きていけないとまで思いこんでいるのです。これで完
全に、村上の愛を勝ち取ったと自信を持っているのです。その強気な姿勢に、事情が判らない千春は
驚いているのです。それでも千春は、この場でその事情を・・、咲江と村上の仲が深く、強くなった
事情を・・、無理には聴きだそうとはしませんでした。咲江が千春の説得を受け入れないことは計画
に織り込み済みだったのです。

千春は決断を下しました。この場でこれ以上、咲江と言い争っても、千春の力では咲江を説得して、
村上と別れさせることは不可能で、これ以上の深追いは止めて、次の作戦を始動することにしたので
す。