フォレストサイドハウスの住人達(その20)
47 フォレストサイドハウスの住人達(その20)
鶴岡次郎
2018/03/13 (火) 13:28
No.3099
千春が咲江の顔をまっすぐに見ています。そして、咲江も千春を睨みつけています。二人がこんなに
真剣ににらみ合うのは初めてのことです。

「その道のプロに近い村上さんが、
素人女である咲江とのセックスに満足しているはずがない・・・。
私も曲りなりにその道のプロだから、良く判るの、
咲江や、もちろん私でも・・、
その足元にも及ばない、凄い女が彼の傍に居るはずだよ・・・」

「別の女が居るなんて…・、
そんなはずがない!・・・」

「・・・・・・・」

別の女が村上の傍に侍っていると・・、千春が言葉を滑らし瞬間、咲江の形相が変わりました。強い
意志を込めて、千春をにらみつけているのです。あまりの強い語調に千春がびっくりして咲江の顔を
見ています。

「彼の傍に・・・、
私以外の女が居るはずがない・・・、
彼にとって・・、
私は・・、ただ一人の女だよ…」

一言、一言かみしめるように、咲江が千春の言葉に反論しています。驚きの表情を隠しきれない千春
が、それでも必死で、咲江の表情から、彼女の意志を読み取ろうとしています。

これまでは、村上のことに触れると、感情的になって、その場を立つか、耳を塞いで、千春のアドバ
イスを聞こうとしなかったのです。明らかに咲江自身でもそうだと判っている村上の素顔を、千春か
ら改めて追及されると、逃げ場がないだけに感情的に反抗せざるを得なかったのです。

でも、今日は違うのです。自信をみせて千春の言葉に反論しているのです。この変化が進歩なのか、
それとも後退なのか千春は判断に迷っていました。

「ああ・・、私ったら…、
つい・・、感情的になってゴメンナサイ…、
他に女が居ると千春が言うから・・、
つい・・、カーっとなってしまった・・。
正確に言うとね・・・、
以前は千春の言う通りだったかもしれない・・、
彼の傍にはたくさんの女が居たと思う…
そのことは・・、悔しいけれど・・、認めざるを得ない…・」

「・・・・・・・」

咲江は冷静です、話の筋を通して、千春に説明しようとしているのです。一方の千春は彼女が、この
先、何を主張しようとしているのか、まだ完全につかみ切れていない様子で、当惑の中にいるので
す。

「でも・・、今は違うの…、
ある事情があって・・、
彼の周りから女たちが姿を消して・・・、
彼は私一人の者になったの・・、
私なしでは生きてゆけないと・・、
そう・・、彼が・・、言ってくれるの…・」

「エッ…、
そんなことて・・、
本当に、彼がそう言うの…・?
騙されているんじゃないの…・」

千春の反論の言葉に力がありません。あまりに自信たっぷりに自身の立場を説明する咲江を見てい
て、千春の中に不安が広がっているのです。何かが起こり、その事実が咲江を大きく変えたのだと、
千春は漸く気が付いています。

「男と女の仲は、当事者しか判らない事情があるのよ・・、
私のことを心配しくれる千春の気持ちには、いつも感謝している・・、
でも・・、
村上さんと、私との仲には誰も口を挟ませない!
それが、千春であっても、許さない…」

「・・・・・・・・」

「私以外の女が彼の傍に居るなんて…、
とんでもない話よ!・・・」

最後の言葉を吐き捨てるように言って、千春の顔を、また、にらみつけているのです。