フォレストサイドハウスの住人達(その20)
42 フォレストサイドハウスの住人達(その20)(666)
鶴岡次郎
2018/02/28 (水) 10:58
No.3094
「もし、あの人に会っていなかったら・・・、
間違いなく、今頃、私は・・、
社会の底辺を這いずり回っていると思う・・・
男狂いで危ないところまで来ていたところを救ってくれた・・」

「あの人って…、
ああ・・・、ご主人のことね…」

「・・・・・」

咲江の質問に、千春は黙って首を振っています。

「その人に勧められて、今の仕事に就いた・・・」

「ああ・・、佐王子さんのことか・・・・・」

そうだったのかという表情で、咲江が頷いています。ことあるごとに千春から聞かされていて、咲江
はソープの店主である佐王子のことはかなり良く知っているのです。しかし、千春が咲江に話したの
は最近のソープ勤めの話で、若い頃の千春の話を聞くのは咲江にとっても初めてのことなのです。

「銀座にある靴店に勤務していたことは話したことがあるよね・・・、
ある日、私のお店に偶然主人がやって来た・・。
勿論主人はお店に初めて来た人で、男狂いの対象ではなかった。
波長が合ったということかしら、一目で互いに好きになり、
普通の恋人同士の付き合いを経て、二ケ月後に、結婚を申し込まれた」

なつかしそうに、幸せな表情を浮かべ千春が話しています。

「うれしかった‥、でも・・、彼を欺くことは出来なかった・・。
私はすべてを告白した・・。
数えきれない男に抱かれている淫乱な女だと告げた。
50男の情人(いろ)が居ることも告げた・・・。
それでも・・・・、主人は私と結婚すると言ってくれた・・・」

「良く、それで、・・・・・・・」

「・・・ご主人は結婚を決意したわね・・」の言葉を飲み込んで、咲江は目を見張り、千春を見つめ
ています。

「うん・・、そのことでは主人に一生頭が上がらない。
今でも時々、そのことを話題にすることがあるけれど、
主人も首をひねっているのよ・・、
何故、結婚したのかな…、だって…・
後悔しているのかしら・・・、ふふ‥‥」

「千春のことが本当に好きなんだよ‥」

「そうはいっても・・、淫乱な私が家庭を持つなど、
無理があるのは自分でも、良く分かっていたから、
主人との結婚を本気で考えることが出来なかった・・・、
それで・・、あの人に主人と結婚すると報告した・・、
喜んでくれて、その世界から足を洗う方法や・・、
未来の夫を上手く騙す手練手管など・・
いろいろアドバイスをしてくれると思ったのに、
意外にも、強く反対された・・、
どうしても結婚をあきらめないのなら、
一度主人に会いたいと言いだした・・」

「あら、あら・・・
佐王子さん、きれいごとを言っても、本音が出てしまったのね‥‥、
千春に惚れ込んでいて、手放したくないと思ったのね・・・
一匹狼のような人と思っていたけれど、案外いいところあるわよ・・・・」

過去話で、結果が判っているだけに、興味半分で、笑いながら咲江がコメントしています。