フォレストサイドハウスの住人達(その20)
28 フォレストサイドハウスの住人達(その20)(653)
鶴岡次郎
2017/12/12 (火) 10:34
No.3078
「さあ・・、
彼女が店に戻る前に、我々は消えよう…」

「ハイ・・」

「それから・・・、
言わなくても判っているだろうが…、
今日のことはすべて忘れるんだ・・、
彼女に街で会うことがあっても、知らんふりを通すんだ・・
いいね・・・・」

「ハイ・・、お約束します‥」

若い男二人、力強く頷いています。

「それでこそ・・・、
男だ…、
これはお土産だ・・」

咲江の股間をぬぐうため、男たちがそれぞれに供出した、ハンカチをそれぞれの持ち主に差し出して
います。それらは愛液を吸い取って、ずっしりと重く感じるほど濡れているのです。

「ああ・・、
床と椅子を汚したようだ・・、
悪いが・・・、
そこの紙ナプキンで拭きとっておいてくれるか・・」

年配の男がそう言い残して、振り返りもしないで、速足でレジに向かいました。若い男二人は大急ぎ
で、椅子と床の掃除を済ませ、走るようにして、店を出て行きました。


若い男二人は、互いに顔を合わせることを避けるようにして、黙りこくって、仕事場である工事現場
への道を急いでいました。そして、先ほど経験した事実を繰り返し思い浮かべていたのです。

〈本当に・・、
あの女のアソコに、触り・・、
愛液を啜ったのだろうか…・〉

二人には先ほど経験したことが夢の中の出来事のように思えるのです。

〈舌に残るこのあまい味・・・、
狂い出したくなるこの香り…、
間違いなく、僕は・・・
あの女を、自由にしたのだ…〉

二人は歩を進めながら、先ほどの甘い経験を何度も、何度も、反芻しているのです。そして、濡れた
ハンカチをそっと鼻に押し当て、咲江の香りを胸一杯吸い込んでいるのです。

〈初めてだった…、
女性のアソコに、あんなに長い時間、触れたのは・・・、
初めて、口にしたこの味、この香りを、決して忘れない…〉

若い二人は今日の思い出を胸の奥深くそっと収めることにしたのです。

職場である建設現場に戻ると、忙しい日常が二人を待っていました。二人は先ほどの甘い経験を
すっぱりと脳裏から消し去り、仕事に飛び込んでいきました。二人は同じ職場で働く仲間同士で、
何度も飲みに行ったり、食事に行ったりする仲です。それでも、二人は申し合わせたように、その後
は、咲江とのことを話題にすることはありませんでした。もちろん、他人に話すことなど思いもよら
ないことなのです。今日の出来事は、彼らは胸のうち奥深く収める覚悟を固めているのです。

一方、年配の男は自宅への道をとぼとぼと辿っていました。時々立ち止まり、空を仰ぎ見たり、通り
の草花を眺めたりしています。一人暮らしの身ですから、急ぎ帰宅する必要はないのです。

「それにしても…、
いい女だった…、
久しぶりに・・・、ソープへでも行ってみるか…」

股間が元気を取り戻したことを年配の男はことのほか喜んでいるのです。

「お嬢には・・、
もう・・、会うこともないだろうけれど・・
幸せに暮らしてほしい・・・」

年配の男は・・、我が娘を思うように、咲江の幸せを祈っているのです。


三人の男達にとって、咲江と過ごしたわずかな時間のことは、夢の中のことのように思えたことで
しょう。咲江が与えた思い出は、大切に、男たちの胸に、いつまでも、残され、女性への憧憬、愛
情、優しさ・・、そういったすべての善意を育てる源になることでしょう。