フォレストサイドハウスの住人達(その20)
13 フォレストサイドハウスの住人達(その20)(638)
鶴岡次郎
2017/10/16 (月) 10:36
No.3063
「あの・・、
私・・、近所に住んでいる者なのですが・・、
〇〇商事の市場調査を、ショートタイムで請け負っていて、
いろんな方のご意見聞く仕事をしています‥」

「・・・・・・・」

「こうして・・、お話しする機会を得たのもご縁ですから・・、
二、三分・・、お時間をいただいていいでしょうか…
チョッと・・、お尋ねしたいことがあるのですが…・・」

「僕たちは構いませんが・・・、
お手洗いは我慢できるのですか‥?」

「・・・・・・・・・」

その若い男の顔を覗き込むようにして、首を少し傾けて、咲江は黙って、にっこり微笑んでいます。

「アッ・・、変なこと口走りました・・、
スミマセン…」

真正面から咲江に見つめられ、ようやく、口にしてはいけない言葉を彼女にぶつけたことを知ったの
です。その若い男にすれば、先ほどまで洗面所を探していた女性の身が、わが事のように心配で、反
射的に、思わず、その心配事が口から出てしまったのです。若者は顔を真っ赤に染めているのです。
慌てる男の様子を、女は笑みを浮かべて、優しく見つめています。

「ふふ…・、ありがとう・・・、
でも・・・、まだ・・、大丈夫よ・・・、
我慢できます…、
洩れそうになれば・・、
駆け出してゆきますから…」

「アハハ…・、
駆け出して行く・・、とは・・、
面白いことを言うお嬢さんだ‥、
前を抑えて走るところが見たいものだよ‥」

「おじ様・・、
悪乗りし過ぎです…、
そんなはしたないことはしません・・、ふふ・・・」

「失礼、失礼・・、
確かに・・、お嬢さんには・・、
前を抑えて走る、はしたない姿は似合わないよね・・
なあに・・、駆け出すことはないよ・・、
ここですればいいよ・・、
この中に‥すればいいよ・・・
ハハ・・・・・・」

手にしたジョッキを顔の位置まで上げているのです。

「まあ・・、
おじ様たら・・・・」

さすがの咲江も、予想外の戯言を浴びて言葉を失っています。それでも笑みを忘れていません。

「・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

二人の若者の表情が固まっています。若い二人は、急いで咲江の反応を確かめています、心配そうに
彼女の顔を見ているのです。咲江は笑っています、二人の若者はほっとした表情を浮かべています。