フォレストサイドハウスの住人達(その19)
7 フォレストサイドハウスの住人達(その19)(612)
鶴岡次郎
2017/08/03 (木) 16:53
No.3033
「女優の代役が居ないとなると、ショーは取りやめだね・・・、
他に・・、変わる出し物はないしね・・・
間が持たないよ・・・」

宴会が終わるとセックスショーをやるのがいつもの習慣で、それ以外の催しを考えたこともなかった
のです。ショーがないとなると、食事が終わった後、お客たちをそれぞれ自室へ戻すことになりま
す。それではせっかくのおもてなしが、尻すぼみで終わることになります。

「このショーと、その後の交流が楽しみで、
寄合に出席されている親分衆が多いからな、
ショーがないと判ると、相当お叱りを受けそうだな・・」

どうやら、セックスショウの後の楽しみもありそうなのです。ショーがないとなると、その後の楽し
みも自然消滅する様子です。

その時でした…。

「私では・・、どう・・・」

「姐さん…・」

組員達の窮状を見かねた由美子が自ら名乗り出たのです。大親分の連れ合い、大姐御の由美子から声
がかかったのです。意外な展開に組員たちは緊張しています。

「通りすがりで、聞こえてきたのだけれど・・、
困っているようね・・・、
私で良かったら、力になるわよ・・・、
こう見えてもショーに出演した経験は数度あるのよ・・
自分で言うのもなんだけれど・・・、
以前、出演したショウではアンコールの拍手が止まなかったのよ‥」

「それは・・・、
姐さんなら・・、文句ありません…・」

色の道での由美子の武勇伝は組員達の間でもよく知られていて、セックスショウに出演し、大好評を
得た噂話なども全員が良く知っているのです。

「姐さんが出演していただけるなら、
これに勝る方策はありませんが・・、
親分が…・」

「Uさんなら・・、
私が説得する・・、
じゃ・・、それで決まりね・・」

由美子の体を人目に曝すのを嫌うUへの気配りで、口にこそ出しませんが、本音を言えばセックスを
見せることを由美子は嫌っていないのです、どちらかといえば見せたい方なのです。過去に何度か
ショウに出演したのも、義理に縛られ、やむを得ず出演したふりを見せていましたが、本音を言え
ば、ウキウキしながらショーに出ていたのです。今回も、組員たちの会話を聞いていて、誰か由美子
の出演の提案をしないか、焦れながら待っていたのです。いつまで待ってもその提案が出ないので、
結局、自ら名乗り出たのです。

ところが・・、簡単にUを説得できると思ったのですが、由美子の説明を聞いてもUはなかなか納得
しませんでした。最近、Uは由美子への嫉妬心が強くなり、その気持ちを隠そうとしなくなっている
のです。嫉妬してくれること自体は歓迎なのですが、親分としての大局観を捨ててまで、焼きもちを
焼くことには、少し閉口している由美子です。

「Uさん・・、歳を取ったね・・・、
昔は、もっと理解があったのに…」

「旦那様に約束しているのです…、
どんな時でも・・、奥さんを守ると・・
だから・・、
たかだか・・、寄合の催しに穴が開くのを防ぐ目的で・・、
セックスショーに奥さんを出演させることなど出来ません・・・
セックスショーは中止しても構いません・・、
その程度のことで、天狗組の信用が落ちることはありませんから…
ご心配なく・・・・」

もう・・、十年を超える愛人関係を続けているのですが、Uは由美子のことを奥さんと呼び、鶴岡を
旦那様と呼び続けているのです。Uは余裕です。ショーの中止をそれほど気にかけている様子はあり
ません。このままではショーは中止に追い込まれます。ここで引っ込んでは、せっかくの楽しみがフ
イになるのです、由美子は必死です。

「組の信用を守るのが一番の目的ではない…、今日まで、組の皆が今日の総会と催しを成功させるた
め、寝食の時間を惜しんで頑張ってきたのを、私はよく知っている‥。そんなみんなの努力を、なん
とか生かしたいと私は考えたの・・。
私だって…、観衆の前で恥ずかしい姿を見せるのは死ぬほどつらい・・・」

ここで言葉を切り、由美子はUの表情を盗見しています。もう・・、一押しだと由美子は、その表情
から読み取っています。

「でも・・、考えたの…、
組長夫人として、ここは堪えるべきだと思った…、
私一人が恥ずかしいのを我慢すれば…、
皆の苦労が報われ・・、
同時に、組の名誉も、Uさんの名声にも、傷つけることが避けられる・・、
ここは一番・・・、少しの時間、我慢しようと思った…
だから・・、Uさんも、少しの間・・、目と耳を塞いでいてほしい…」

組の名誉を守り、組員たちの窮状を救うためだと、由美子が説明すると、Uもそれ以上抵抗できませ
んでした。Uは渋い表情で頷きました。