フォレストサイドハウスの住人達(その19)
4 フォレストサイドハウスの住人達(その19)(609)
鶴岡次郎
2017/07/27 (木) 14:02
No.3030
それから・・、数日後の夕暮れ時・・、あでやかな女性の姿が村上装備の事務所に在りました。どこ
から見ても玄人筋、下町の酒場のマダムを連想させる濃くて、派手な化粧です。大きく胸の開いた鮮
やかな黒白ストライプのブラウス、黒のロングスカートに黒のヒールです。真昼の太陽の下ではかな
り奇抜な衣装に見えますが、日が落ち、街の灯が目立ち始めるこの時間には、それなりにきれいで、
魅力的に見えます。

10から20席ほどのスタンドバーの出物を探しているという触れ込みで女はこの事務所を訪ねてい
るのです。どうやら、それなりの紹介者を立てているようで、村上総一郎は下にも置かない丁寧な応
対をしています。

事務机が5客ほどある事務所内には村上一人です。詳しい事情をその女性客は知らない様子ですが、
事業に失敗して、村上装備は事業内容を絞り、数人いた従業員も全員が辞め、今は社長である村上総
一郎が一人、不動産のあっせん業を続けているのです。おそらく、この女性客は再出発した会社の初
めてのお客と思われます。一目でその女性客を上客だと村上は判断した様子です。

「お客様のご希望に沿うような店は案外需要が多いのです・・・、
先日も、この先の裏手にある店が売りに出たのですが、すぐに借り手が出ました・・、
ご存知のように出すものを出せば、どんな店でもその日のうちに手に入れることができますが・・、
今、三軒の出物を預かっています・・・。
それをまずお目に掛けます…」

如才なく村上は女の懐具合を探っているのです。条件が良くて、店主が手放すつもりがない店でも、
金さえ積めば、無理が叶うと言っているのです。

一時間ほどかけて、三軒の店を下見しました。いずれも事務所から徒歩圏内の距離にありました。い
ずれの店も営業中でしたが、店主は快く見学させてくれました。

「村上さん・・・、
今日見せていただいたものも悪くはないのですが・・・、
ピーンと来るものが少ないのです・・」

「そうでしょうね・・・、
お客様が商売をやられるなら、もう少し静かなところがいいですね・・」

人通りの多い表通りに近い物件より、裏通りの、少しやばい雰囲気のところの方が女の雰囲気に
合っていると暗に言っているのです。女の様子から、お色気を売り物にした裏商売ができる場所がい
いと村上は思っているのです。女はただ笑っています。

気が付くと夜の9時過ぎになっていました。村上の誘いに乗って女は夕食を一緒にとることになった
ようです。村上の狙い通りです。

村上装備のお客は80%以上が女性店主です。そこを踏まえて、村上を含め従業員は魅力的な男性を
そろえていました。色と商談、この二つは切っても切れない関係があると、長い経験から村上は確信
しているのです。

目の前に座っている女性客は、買い気そのものは旺盛なのですが、物件内容にまだ不満がありそうな
のです。それでも村上の食事の誘いに乗ったということは、村上との関係を切る気がない・・、すな
わち商談成立の可能性は残されている・・、この後の仕上げはベッドの上で・・と、久しぶりに村上
は竿氏の血を騒がせているのです。

数日前の村上であれば、色で女客を落とすことなど到底、無理だったのですが、咲江の献身的な奉仕
のおかげで、その気になれば無理なく女を抱ける体に戻っているのです。まして、目の前にいる女客
は村上好みの細身で、どことなく男ぽくて、それでいて、言葉の端々、ちょっとした動きから、男根
を直撃するようなお色気がにじみ出ているのです。その上、これが大切なことなのですが、かなり有
望な商談が目の前にぶら下がっているのです。総力を挙げて・・、そういえば大袈裟ですが、村上は
全力で女を落とすと、決心しているのです。