フォレストサイドハウスの住人達(その19)
21 フォレストサイドハウスの住人達(その19)(626)
鶴岡次郎
2017/09/22 (金) 11:41
No.3048
「今・・、冷静になって考えると・・・、
間違っていたのは・・、私だった…、
そう思い始めています・・・
お二人に、謝るべきは・・、
私かも知れないと思い始めています…・・」

村上は勿論、由美子でさえ・・、女同士、咲江の気持ちは十分理解できると自負している由美子でさ
え・・・、咲江の言葉に当惑しているのです。この場で、咲江が謝罪の言葉を発するとは…、想像す
ることさえ、できていなかったのです。

〈私に・・、謝りたいって‥…!
この方・・、何を考えているのかしら…、
それとも…、何かの罠…?
いえ、いえ・・、そんな姑息な策を使う方ではないはず…、
判らない・・〉

微笑みを絶やさない由美子ですが、心中では咲江が発した謝意の真意が分からなくて、当惑している
のです。

「私があなたの彼を・・、
盗み取ったのかもしれません…」

「・・・・・・・・」

咲江の言葉に由美子が少し首を傾けて、微笑んでいます。さりげなく、咲江の言葉を否定しているの
です。

「そうだとすると、責められるべきは私です…・。
お約束いたします。もう彼には絶対会いません…。
心ならずも・・、あなたの彼に手を付けたことをお許しください…」

由美子の愛人を寝取っていたのは咲江だと言い張っています。そして・・・、深々と頭を下げていま
す。そんな咲江を由美子は、優しい表情で黙って見つめています。ここで反論することの無意味さを
由美子はよく理解しているのです。この場を丸く収めたいと願う咲江の狙いを由美子は黙って受け入
れることにしたのです。村上も口をはさみません。ここは女二人のやり取りを最後まで見極めるつも
りのようです。村上もなかなかの人物です。

「それにしても、圧倒的なあなたの力がちょっとうらやましい・・、
私では・・・、どんなに頑張っても…、
総一郎さんをあのように追い詰めることができません・・。
あなたと私を比較して・・・、
どこが違うのでしょうね・・・、
私だって、それなりにいい女だと思うのですが…、
今となっては・・、それが一番悔しい…・」

本当に悔しそうな表情を作り、そしてその後、声なく笑っているのです。由美子も笑みを浮かべてい
ます。

「お邪魔しました…。
ああ・・、総一郎さん・・、
いえ・・、村上さん・・、
合いカギはテーブルの上に置いて行きます・・・」

入ってきた時と同じように、咲江は煙のように二人の前から消えたのです。