フォレストサイドハウスの住人達(その19)
19 フォレストサイドハウスの住人達(その19)(624)
鶴岡次郎
2017/09/17 (日) 11:57
No.3046

「奥さん・・、
いや・・、咲江…、
誤解だ・…!」

村上が絶叫しました。涙を一杯貯めた瞳で咲江は男を見つめています。

「この人とは今日が初めてだ…
私には咲江が一番だ…」

「いいんです・・、
あなたを責めるつもりはありません…
私だって、主人を裏切り、あなたに溺れていた・・・
いずれ・・、こんな日が来る運命だったのよ…・」

もう・・、笑みさえ浮かべ、割り切った表情です。

「あなたへの未練は残りますが・・、
今日を限りにして、主人のところへ戻ります…、
主人の愛撫があなたを忘れさせてくれるはずです・・・・」

咲江に背を向けて話を聞いている由美子の表情が少し緩んでいます。もちろん、由美子の表情は咲江
には見えないはずです。この咲江の言葉を引き出すために、これまで芝居を演じてきた由美子です、
真剣にやり合っている咲江と村上には申し訳ないと思う気持ちを残しながら、由美子は内心で達成感
を噛み締めていました。

「主人とやり直すつもりです・・・・。
あなたにはまだ・・、申し上げていませんが…、
主人は以前と変わって、すっかりたくましくなりました・・。
今の主人がいてくれれば・・、
あなたを忘れることが出来そうです…。
悲しいことですが・・、
もう・・、あなたに会うことはないと思います…
いえ・・、会ってはいけないと思っています…・」

「・・・・・・・・」

「いろいろお世話になりました…、
いい思い出を与えてくださったことに感謝します…」

「・・・・・・・」

淡々と別れの挨拶を述べる咲江を見て、さすが女たらしの村上です、勝負あったとあきらめたので
しょう、それ以上の言い訳さえ言わないのです。黙って女を見つめているのです。

ここで由美子がゆっくりと振り向き、真正面から咲江と顔を合わせました。裸体を器用にタオル
ケットで覆っています。初めて咲江と由美子は顔を合わせるのです。二人の女は無表情です。そし
て、どちらかともなく、黙って頭を下げています。

フロアースタンドの光の加減で、由美子からは、はっきりと咲江の表情が見て取れるのですが、咲江
からは由美子の顔は良く見えないはずです。意識して光の輪から顔を隠している由美子です。それで
も由美子の雰囲気は判るはずで、由美子の姿や表情を確かめて、やや思惑の外れた面持ちで咲江が由
美子を見つめています。咲江なりに、村上を寝取った由美子という女のイメージを描いていたので
す、そのイメージと現物の違いが大きくて、咲江は戸惑いを見せているのです。