フォレストサイドハウスの住人達(その19)
18 フォレストサイドハウスの住人達(その19)(623)
鶴岡次郎
2017/09/12 (火) 14:38
No.3044
たくさんの修羅場を潜り抜けてきた男の行動はさすがに素早いものでした。誰かが暗闇に潜んでい
る‥と、察知したのでしょう、由美子の体から滑り降り、膝をつき、上体を起こし、隙のない、鋭い
表情を声が聞こえて来た方向に向けています。手を広げ、由美子をかばう姿勢さえ見せているので
す。それまでセックスに溺れていた男とはとても思えません。暗闇の中に少しでも異常を見つけれ
ば、ちゅうちょしないで裸のまま、とびかかっていく姿勢です。

しかし、村上には何も見えないのです。それでも誰かが潜んでいる気配は感じ取っている様子です。
一方・・由美子は‥、この異常事態を予想していたかのように、素早く起き上がり、タオルケットを
抱き寄せ、拍手の聞こえて来た方向に背を向けて座っています。

「お見事でした…、
お二人とも、さすがですね・・・」

女の声が暗闇から響きました。村上の表情が曇っています。その声の主に心当たりがあるのです。同
時に、それまで全身から発散されていた戦闘色が消えています。敵でないと察知したのでしょう。

「いずれのお姐さんか存じ上げませんが・・・、
さどや・・、その道では名のある方だと思います…。
総一郎さんを相手に・・、ここまで戦えるとは…、
立派でした…、驚きです…・・」

軽く拍手をしながら女が一人、居間から寝室方向へゆっくり歩いてきました。投光器の作り出すもう
一つの光の輪の中に女が入ってきました。

「奥さん…」

村上が呻き声をあげています。

ワンピース姿の咲江が手をたたきながら、光の輪の中に立ち止まりました。もちろん笑みはありませ
ん、緊張した面持ちで二人を見つめているのです。

「女は・・、お前一人だけだと・・、
あなたはいつも言ってくれた・・
でも・・・、そんな甘い言葉なんか信用していませんでした…、
あなたには何人も・・、
他に女が居るはずと覚悟していました・・・」

ベッドに座っている村上を見ながら咲江は静かに語っています。すでに何事か覚悟を固めた女の決意
が見える話しぷりです。

「それでも・・、抱かれている時は幸せでした・・、
あなたに抱かれて・・、
初めて…・、
私は女の喜びを知りました・・。
咲江が一番だと言う・・、
あなたの言葉を信じてもいいと思ったこともあります・・・」

咲江の瞳から涙があふれています。

「でも・・、その女と絡み合う姿を見て・・、
全てが嘘だったと分かりました…
いえ・・、いいの…、あなたの言い分は判ります…。
今日は・・、最後まで聞いてちょうだい…・・」

村上が何かを言おうとして、咲江の手がその言葉を遮っています。男は頷きながら、口を閉じること
にしたようです。

「私との絡みなど・・、
あなたにとっては子供の遊びにもなっていなかったと悟りました・・・。
あなたはいつも・・、
私では満足していなかったのだと・・、思い知らされました・・・」

咲江の頬に涙が流れ、それが顎から床にしたたり落ちているのです。女子力の差をまざまざと見せつ
けられ、嫉妬心さえ忘れている様子です。