フォレストサイドハウスの住人達(その19)
14 フォレストサイドハウスの住人達(その19)(619)
鶴岡次郎
2017/09/01 (金) 15:32
No.3040

さて・・、村上と由美子の過去の経緯を少し長く語りすぎました。話を本筋に戻します。スタンド
バーの出物を探しているとの触れ込みで、由美子が村上の経営する店を訪ね、出物の物件を三件ほど
実地に見学したのです。今日見学した物件にさほど惹かれていない由美子を見て、村上は少し焦りま
した。

前の店が倒産して、新規巻き返しで売り店舗の斡旋に絞って、新たに商売を始めた最初のお客が由美
子で、彼女を逃がすわけにはいかないと、村上は奥の手を使う腹を固めました。前の店では、店舗の
改装、備品の販売など、飲み屋のマダムを相手にすることが多く、店では数人のイケメンを従業員に
雇い入れ、彼らの色気を活用して、いい商売をやって来たのです。もちろん、社長である村上自身も
率先して、色気作戦で商売を展開して来たのです。

由美子を食事に誘うと、意外に簡単に受け入れたのです。村上は腹の内で、商談成立の勝利宣言をし
ていました。今まで酒場のマダムを食事に誘い、商談で失敗したことは一度もないのです。食事の
間、甘い言葉で女を操り、ホテルに連れ込めば、村上の勝ちパターンなのです。後は、長年磨いてき
た竿氏の技が女を狂わせるのです。こうして、まんまと、由美子は村上の罠に堕ちたように見えます…。


「今日見せていただいた店のお客は、やはり通勤客が多いのですか・・」

サラリーマンを相手にする店が多いと踏んだ由美子が質問しています。

「はい・・、お客様のおっしょる通りです…、
このあたりは、住人が少ないのです・・、
それでいて、有名デパート、有名老舗店舗や、観光名所も少ないですから、
観光客は期待できません・・・、
自然と通勤客相手の経営が主体になります…」

「そうですか、地域の住人が少ないのですか・・、
そうすると・・、村上さんも離れた所にお住まいですか…」

「いえ・・、私は近くのぼろアパートに住んでいます。
マンションや、アパートが他の地区に比べて少ない中での希少な物件です・・」

「事務所の近くに住んでいらっしゃるのですか・・、
それはいいですね…」

「そうでもありません・・、この周りには・・、
気の利いたスーパーはおろか、小売店も少ないので、
ここにいる住人は買い物難民ですよ・・・、ハハ・・・」

「じゃ・・奥様はお困りですね…」

「独り身ですから・・、その点気楽です…」

「それは・・、それは…」

近くに住んでいて、独身であることを問わず語りに明かしている村上の魂胆は見え見えです。独身で
あると聞かされて、由美子は驚きながらも、そんな時、女が見せる複雑な反応を意識的に見せていま
す。勿論、由美子は村上が独身でこの事務所の近くにある2DKのアパートの住人であることも千春
から聞いて良く知っています。まさに男と女の勝負が始まっているのです。

食後、ストレートに村上は自宅へ由美子を誘いました。咲江以外の女を自宅には招かない村上にして
は珍しく、由美子をアパートに誘ったのです。村上としても、由美子攻略に相当気を入れていて、あ
えて禁じ手の自宅への招待カードを切ったのだと思います。

ホテルへ誘うようなら軽く拒否して、自宅へ招くよう仕向けるつもりの由美子だったのですが、
あっさり自宅へ招待されることになり、あまりに好都合な展開に、由美子は内心で驚いていました。

「二時間ほどなら・・」

妖艶な笑みを浮かべている由美子です。

「失礼して・・、ちょっとあの人に連絡を入れます…、
若過ぎるイロを持っていると、何かと気を使うことが多いのよ…、フフ…」

若い愛人に遅くなる旨連絡を入れると言う、きわどい言い訳を言って、由美子はテーブルから立ち上
がり、トイレに向かいました。村上は勝利をこの時点で確信していました。