フォレストサイドハウスの住人達(その17)
33 フォレストサイドハウスの住人達(その17)(584)
鶴岡次郎
2017/05/10 (水) 15:37
No.2999
ここで突然・・、笑みを浮かべた表情を消し、少し改まった表情に戻しました。咲江の表情の変化に
気づいた千春が、少し不安そうにして咲江を見ています。その場に緊張した雰囲気が広がっていま
す。

「このことは言わないでおこうと思っていたのだけれど・・・、
やはり・・、言おうと思う…、
もやもやした気持ちを抱いているのがつらいの・・・」

千春は少し構える様子を見せています。

「私の嫉妬心から出た言葉だと思うかもしれないけれど、
決してその感情だけに支配されたわけではない…、
この先も、千春とはいつまでも、今のままの親友でいたいから・・・、
今感じていることを千春に知ってもらいたいと思ている…」

ここまで聞いても、咲江が何を言い出すのか千春には見当がつかない様子です。いえ・・、もっと正
確に言えば、千春にはある程度まで咲江の心の内が見えて始めているのです、しかし、そのことを認
めるのがつらくて、千春は自分の心に芽生えた不安を無理やり消し去っているのです。それでも、姿
勢を正して、聞く体制を作っています。

「異常なほど潔癖症である夫が、とにかくソープへ武者修行に出る決心をした。これは画期的なこと
で、よく我慢して、決断してくれたと私は感謝している・・・」

千春が軽く頷いています。やはりそのことに触れてきたと・・・・、千春の中に黒雲のように不安定
な気持ちが広がっています。

「でも・・、私には判るの…、
彼の頑張りはここまでが精いっぱいだったと思う…。
お店に行き、女のいる部屋の扉を開けるまでが、彼の限界だったと思う・・・」

確信をもって咲江が言いきっています。

夫婦の危機を回避するため、自らを鍛えるため坂上夏樹はソープを訪ねる決意を固め、ソープへ出向
き、ソープ嬢の部屋の扉を開けるところまで行ったのです。夏樹をよく知る、妻、咲江は夏樹の行動
はここまでだと言い切っているのです。

「当然のことだけれど、私は一度もソープへ行ったことがない・・、
でも・・、ある程度までは想像がつく…、

いかにもそれらしい、スケベーな調度品・・、
あたりに充満するセックスと、女のすえた匂い・・、
何人もの男がその部屋で精を吐き散らしたに違いないのです・・。

正直言って・・、
その部屋で女に触れるなど、彼には到底無理だったと思う…
部屋に入ったものの、そこかしこに生息する細菌のことを思って、
そこから直ぐに逃げ出したくなったと思う…・・」

「・・・・・・・」

静かに話す咲江の言葉を千春は冷静に受け止めていました。ソープのことをそんな風に言う咲江のこ
とが少し気に障るのですが、当たらずとも遠からずの内容ですから、反論はもちろん、言い訳も言わ
ないで、黙って、咲江の言葉を受け入れているのです。

「では・・、何故…、
彼はその部屋に留まったか…・、
その訳は…・・、
それは・・、その部屋の主があなただったからよ・・・、
千春がそこに居たからだと思う・・・」

「・・・・・・・・」

笑みを失った二人の女はじっと見つめ合っています。この展開を千春は予想できていたようで、静か
に聞いています。もちろん、咲江も冷静です。二人の女は顔をそらさず視線を静かに合わせていま
す。