フォレストサイドハウスの住人達(その16)
29 フォレストサイドハウスの住人達(その16)(549)
鶴岡次郎
2017/02/13 (月) 11:03
No.2956

「時々思うんです・・、
本当にあれでよかったのかと…
彼と寝なかったら・・・、
こんなに苦しまなくてよかったのです…」

咲江夫妻の不仲を改善するには、坂上夏樹を鍛え上げ、夫妻の性生活を改善することがまず必要だと
の結論になり、夏樹に女を与え、女体の機微を教え込み、一人前の男に鍛え上げることにしたので
す、この計画に千春は両手を挙げて賛成したのです。女を選ぶ段になっても、由美子と競うように積
極的に名乗りをあげ、由美子を押しのけて、夏樹の指導係に名乗りを上げたのです。

あの時は、親友の夫を寝取ることに何も抵抗感を見せていなかったのです、それどころか彼に抱かれ
る期待感で浮き浮きした様子さえ見せていたのです。それが現実に夏樹に抱かれると、親友の旦那と
寝たことが、意外に重く千春の心に覆いかぶさっているのでしょうか・・、あるいは・・、千春の中
で別の何かが起きたのでしょうか…。

千春の表情をじっと見つめながら、由美子は考えました。

〈夏樹さんにセックスを教える目的で接した千春さんは、
彼が予想外に素晴らしいことを全身で感じた・・・、
感じれば感じるほど、遊び心を忘れることになり、
親友の旦那を寝取った裏切り行為を全身でしっかり確かめることになった、

夏樹さんの腕の中で悶えながら・・、
千春さんは、友の旦那を寝取った罪の重さを改めて実感したに違いない・・・

女って…、
いけない関係で感じれば感じるほど、
心の中に芽生える罪悪感は高まるものだから・・・〉

由美子なりに千春の苦悩をそのように解釈したのです。

性的に未熟な親友の旦那と寝ると決めた時、千春は軽い遊びの気持ちだったはずです、それだけに友
を裏切る意識は弱かったのです。ところが・・、その快感が予想をはるかに超えるものだったので
す。こんなにいい思いをしている・・、咲江に悪いことをしている・、快感が罪悪感を拡大させたの
です。

〈毎日のように咲江さんと会ったいるはず・・・。
何も知らない咲江さんと会うたびに、
千春さんは・・、酷い罪悪感に苛まれているに違いない・・、

この事態が来ることを予見すべきだった…、
あの時、積極的に夏樹さんに抱かれたい様子を見せていたから・・・、
夏樹さんの訓練担当を千春さんに譲ったけれど…、
判断を誤ってしまった…・、
取り返しのつかない失敗をした…〉

千春が落ち込んでいるのを見て、由美子は由美子で、判断を誤ったことを悔いていたのです。

〈人妻に不倫の関係を強要した私の罪は重い・・・、
千春さんを押しのけてでも、私の体を提供するべきだった…〉

由美子自身も罪の意識を強く感じていたのです。

「千春さん一人が悪いのではない・・、
一番悪いのは私…、
親友の夫との不倫を千春さんに強要したのだから・・・、
許してください…」

「由美子さん‥‥」

由美子が深々と頭を下げています。視線の定まらない表情で千春が由美子を見ています。愛は硬い表
情です。