フォレストサイドハウスの住人達(その16)
28 フォレストサイドハウスの住人達(その16)(548)
鶴岡次郎
2017/02/10 (金) 10:44
No.2955

「千春さんを満足させるまでに、夏樹さんを変身させることができた…、
これは千春さん、そしてソープへ夏樹さんを誘った旦那様のお手柄だね・・・
坂上さんをソープへ誘うと決まった時、私は千春さん夫妻にとっては酷な計画だと反対したのだけれ
ど、見事にやり遂げたね・・・、本当にご苦労様でした…・・」

冴えない表情を浮かべている千春に気を使ってのことでしょうか、愛が最大限の賛辞を並べていま
す。

「あとは、咲江さんがその結果に満足するかどうかだね・・
旦那に抱かれて、村上を忘れることができればいいのだけれど…、
そのことでは、その後、咲江さんの様子に変化はないの…・
相変わらず、村上に恋い焦がれているの…・」

愛が千春に聞いています。

「咲江とは毎日のように会っていますが・・、
彼女の口からはそのことに関してはまだ何も出ません・・。
変わったことといえば・・・・・、
以前はよく話題にした村上の名前が出ません…」

「村上の名前を出さなくなったことは大きな変化だね・・」

「ハイ…、私もそう思います…、
一定の効果はあったと思います…」

慎重に千春が語っています。いや・・、慎重というより、咲江のことにこれ以上は触れたくないそぶ
りさえ見せているのです。難しい作戦をやり遂げた、凱旋報告なのですから、もう少し得意そうに、
楽しそうに話してもいいと思えるのですが、千春の様子が少し変なのです。

「思い切って咲江さんに聞いてみたらどう・・・、
毎日抱かれているのかとか…、
旦那様のテクが凄く良くなったのとか…、
毎夜のセックスに大満足しているとか・・・、
お二人の仲だったら・・、
そんな会話は普通でしょう…?」

「はい・・、以前は何でも話し合うことができました。
今は・・・、何となく・・・、
私自身に遠慮ができて・・・、
セックスのことを素直に話題に出せない気分なのです・・・」

「千春さん・・、あなた・・、もしかして・・・、
咲江さんの旦那様に抱かれたことを気にしているの…・、
咲江さんを裏切ったと思っているのでは…?」

この時点で、ようやく由美子が千春の変化に気が付き疑問を口にしています。

「そうよね・・・、目的はどうあれ・・、
親友の旦那と寝たわけだから・・、気になって当然だね…、
アッ…、失礼、言い過ぎました・・」

思わず不注意な言葉を漏らし、愛が謝っています。

「いえ・・、いいんです…、
咲江の旦那と寝たことは事実ですから・・・
彼と寝て・・、彼の味を忘れられなくなった…、
私って‥‥、最低ですよね……」

以前の千春だったら、冗談交じりの反撃をして、愛の失言を笑い飛ばすはずですが、今の千春には、
愛のきつい失言を笑い飛ばす余裕さえない様子なのです。それどころが、愛の言葉を真正面で受け止
めて、自己嫌悪の言葉さえ発しているのです。その場の雰囲気が一気に冷え込みました。失言を発し
た愛はすっかりしょげかえっています。