フォレストサイドハウスの住人達(その15) 
26 フォレストサイドハウスの住人達(その15)(520) 
鶴岡次郎
2016/11/03 (木) 15:02
No.2921
「でも・・、咲江は違う気がして・・・、
純粋で、穢れを知らない咲江のことだから・・、
村上と別れた後もずっと罪悪感を抱きつづけ、
永久にその罪を忘れることが出来ないで、
肩身の狭い思いで一生を過ごすのではないかと心配しているのです・・
そうであれば・・、思い切って、家庭を捨て、自由に生きた方が…・」

それ以上は語ろうとしないで千春が視線を落としています。自説に自信が持てないのです。それで
も、親友だけに・・、普段の明るく、素直な咲江を知っているだけに・・、犯した罪の重さに咲江
が一生苦しみ通すのではないかと千春の心配は尽きないのです。

「友を思う千春さんの気持ちは立派だと思う・・。
でも、咲江さんはお人形じゃないのよ・・、
血の通った・・、情欲も人並みにある大人の女なのよ・・・、
聖処女のように親友を枠にはめて思うのはちょっとね…・、
千春さんの気持ちを知ったら、彼女もきっと重荷に思うよ・・」

「・・・・・・」

はっとして千春が由美子の表情を見ています。ようやく何かに千春は気が付いた様子です。

「ああ・・・、そうなんですね・・・、
私・・・、知らず知らずの内に・・・
咲江の中に自分の理想像をはめ込んでいたのですね…・」

「・・・・・・・・」

笑みを浮かべて由美子が頷いています。

「気ままに他の男に抱かれ、さらには、ソープ勤めさえやっているのですが、当然のことながら、
決してこれが正しい生き方だと思ったことは一度もありません。それどころか、いつも言いしれな
い劣等感を持っているのです。

浮気の罪の重さに慄く初心な咲江をみて・・・、
こんな女こそ、理想の女だと・・、
こんな女になりたいと・・、私・・思い込んでいるのです…。

咲江が罪悪感に苦しむ様子を見て、
そんなに悩むなら、家庭を捨て、好きな相手との生活を選ぶべきと考え・・、
咲江に私の考えを押し付けようとしているのですね…」

何かが吹っ切れたのでしょう、嬉しそうな表情で咲江が語っています。

千春の気持ちは由美子には良く判るのです。かって、由美子も千春と同じように、好色な自身を卑下
し、出来ることなら何も知らなかった、普通の主婦に戻りたいと何度も思ったことがあるのです。し
かし、その願いは空しい結果しか生みませんでした。

そんな時・・・、夫の言葉が由美子を救ったのです。

〈由美子はそのままが良い・・、
浮気をして、ケロンとしている由美子が好きだ…、
浮気をして悩んでいる由美子なんて、何の魅力もないよ…
これからも・・、好きなように生きてくれたらいいよ…
ただし・・、私を捨てないことが条件だよ…、フフ…・〉

それを契機に由美子は、自身の犯した罪に毅然と立ち向かう気持ちを固めたのです。

「ようやく、判ってくれたようね・・。
千春さんには千春さんの人生があるように・・、
咲江さんには咲江さんの人生がある・・・。

男遊びを繰り返しても、平然として生き抜く女を演じる千春さん・・、
初めての浮気の罪深さに慄きながら、それでも浮気を続ける咲江さん・・、
それぞれに人生があるのよ、

何が正しいかなんて・・、
誰にもわからないし、そのことを追求する意味さえない…」

「はい・・、
私・・、知らず知らずに・・、
自分の頑なな考えを咲江に押し付ける処でした…。
罪を犯した、咲江自身が身の振り方を決めればいいのですね・・、
私がとやかく口を出す必要はないのですね…」

「そうよ・・、
私たちは寄り添うけれど、咲江さんを支配してはいけない・・。

私たちがお膳立てをして・・、
苦しみ抜いている咲江さんを少しでも楽にしてあげよう・・、
その先は・・、咲江さんの自由意思に任せましょう…

村上と別れるにしても・・、このまま進むにしても・・、
それは彼女の自由意思・・・

私たちは・・、私たちの考えで、
できる限りのサポートをしましょう…
そのサポートを咲江さんが拒むなら、潔く引き下がりましょう…」

「はい・・・」

千春の表情に明るさが戻っています。