フォレストサイドハウスの住人達(その15) 
25 フォレストサイドハウスの住人達(その15)(519) 
鶴岡次郎
2016/11/02 (水) 15:14
No.2920

千晴と愛がまだ納得していない様子を見て、由美子は思いました。

〈ああ・・、この人たちも皆と同じように・・、
罪悪感に打ちひしがれる浮気女を良しとする感性を持っているのね・・・、
普通はそう思うのが当然だけれどね・・、

口を拭って、毅然としている浮気女こそ立派だと私は思うけれど…、
なかなか私の気持ちは判ってもらえない・・、
ダメ元で、もう少し説明して見よう・・、
千春さんなら・・、あるいは・・、少しは判ってくれるかも…〉

千春と愛がやや当惑しているのは承知しているのですが、由美子はさらに自説を語ることにしたので
す。

「ある日突然、何かが起きて…・
彼を愛しいと思う気持ちが萎え・・、
彼への情欲が消えると・・・、
不思議なことに・・、
あれほど強かった罪悪感も衰えることになる・・・・、

浮気女の罪悪感って、そういうものなのよ…・
悲しい女の性だけれど、情欲と罪悪感は背中合わせなのよ・・
情欲が消えれば、罪悪感も消滅する…」

「・・・・・・・」

愛と千春はただ黙って聞いています。由美子の説明について行けないところがあるのです。

「浮気をして、相手の男に惚れてしまうと・・、
夫や、家族のことを思い・・、
女は酷い罪悪感を抱くことになるけれど…、

男への興味が消え、浮気が止まると・・・、
女は何事もなかったように口を拭うことができるのよ・・・、
要するに・・・、
浮気女の罪悪感はあきれるほど底が浅いと言える…・」

由美子が語るとその言葉に重みが加わります。それでも、愛も千春も心から納得した様子ではありま
せん。これではどこまで行っても平行線だと、由美子はある決心をして口を開きました。彼女にして
は珍しいことです。

「散々に浮気をして、夫を裏切っていながら・・、
罪悪感を過度に持たない方が良い・・、
それが・・、女が幸せに生きて行く知恵だと・・・。

浮気女その者である私が・・、何を勝手なことを言うと、
千春さんも、愛さんも思うでしょう・・、
その通りだと思う…。

でも…、判ってほしい・・・、
悪いことだと判っていても、
体の要求に理性が負けることってあるでしょう、

私にとって・・、男が欲しいと思う感情はまさにそれなの…、
どうしてもたまらくなって浮気をしてしまうのね・・・、
それを責められたら・・、ただ頭を下げることしかできない・・、
反省はするけれど、それ以上は何もできない…、

こんな時・・、私は何をすればいいと思う・・・、
私は・・・、
開き直って、与えられた人生を懸命に生きることしかできない…」

普段は絶対口にしない心の底を由美子が切々と語っています。

「良く判りました…、
由美子さんの説明を聞いていて、私には違和感がありません・・。
私も・・、由美子さんと同じ悩みを抱えています…。
これからは、由美子さんのおっしゃるとおり、
浮気をしても・・、毅然と自分に立ち向かい、
一生懸命、私の人生を生き抜きます・・」

千春が明るい表情で言っています。由美子は満足そうな顔をしています。