フォレストサイドハウスの住人達(その15) 
24 フォレストサイドハウスの住人達(その15)(518) 
鶴岡次郎
2016/10/31 (月) 15:02
No.2919

浮気女の罪悪感の底が浅いことを由美子がこれほど情熱的に力説するには訳があるのです。浮気女が
罪悪感で悩むのは、身から出た錆で、致し方がないことだとしても、周りにいる者までも巻き込ん
で、彼女の罪悪感の犠牲者にしてはいけないと由美子は常々思っているのです。それが・・、浮気女
が気を配るべき最低限の礼儀だと由美子は考えているのです。

罪を悔いて悩むのであれば一人静かに反省すればいいことで、自身の中で燃え盛る罪悪感を制御でき
なくて、沈み込んだ姿を家族に見せたり、最悪自身の命を絶ったりして、残された夫や家族に迷惑を
かけるのは、二重の罪を犯すことになると由美子は考えているのです。

由美子にしても、最初からこの割り切った考えを持っていたわけではありません、散々に悩んだ末に
この考えに到達したのです。そして、出来ることならこの考えを全ての浮気女に教えたいと由美子は
思っているのです。

浮気をする以上、秘密を隠しきる覚悟と、バレた時の潔い身の処置方を常に準備するのは当然です
が、そのことに加えて、自身の罪の意識を表に出さないことが大切だと由美子は考えているのです。
むしろ、罪を犯したことなど一度もないとふてぶてしく構えるべきだと彼女は考えているのです。

夫から許しを得ているとはいえ、由美子自身、他の男に身をゆだねた直後、少なからぬ罪悪感にさい
なまれることが多いのです。男に抱かれている瞬間、その男が行きずりの男であっても、由美子はそ
の男に以前から惚れ込んでいるように、身も心も投げ出す厄介な癖があるのです。

一度燃え出すと、その男に身も心もすべて投げ出してしまうのです。それだからこそ、由美子に一度
でも接した男たちは誰も、「この女に好かれている・・、少なくても嫌われてはいないと・・」と、
思い込むのです。そして、由美子のことを永久に忘れないで、再会を求めるのです。

男と別れて一人になった時、どうしてあんなに燃えたのだろう・・、あの瞬間、夫のことを忘れ、男
の体に四肢を絡めて、身も世もなく絶叫した彼女自身のことを思い出して、悔いることが毎回なので
す。そして、最悪なのは、その罪悪感が家に着くころには跡形もなく消えていることなのです。そん
な由美子を彼女自身は嫌いでしかたないのです。

〈女の・・、いえ・・、浮気女の罪悪感なんて…、
こんなに儚いモノなのかしら・・、
それにしても・・、
自分ながら、あきれるほどあっさりしている・・・。
これで良いのかしら…〉

そして、何度も浮気の経験を積むと徐々にその感情にも慣れてくるのです。

〈良いも悪いも・・、これが私なのね…
くよくよ悩まないことにしよう…、

これは・・、もって生まれた感性・・、
神が私に授けてくれた・・、贈り物・・

夫や、家族を裏切ったことは事実だから・・、
その罪滅ぼしに・・、精一杯彼らに尽くそう・・・〉

かなり手前勝手な考えですが、ある時から由美子はそう割り切って、あまり彼女自身を責めないよう
にする習慣を身に着けているのです。