フォレストサイドハウスの住人達(その15) 
22 フォレストサイドハウスの住人達(その15)(516) 
鶴岡次郎
2016/10/29 (土) 15:01
No.2917

「旦那様に告白しないとなると・・・、
さらに、問題解決は難しくなる…・、
咲枝さん自身が自発的に村上と切れるのが一番いいのだけれど、
これがまた難しい・・・、
むしろ・・、現状維持で秘密をひた隠し続ける道の方が簡単に思える・・」

愛が難しい表情で言っています。

「愛さんのおっしゃる通りです…、
愛欲の関係を清算するには、二人はあまりに長く付き合い過ぎた・・。
私の経験から言っても、咲江さんが村上との関係を清算するのは難しい・・、
彼女の体が別れることを許さないと思う…

それに・・、仮に・・・、別れることが出来ても・・・、
その先に待っているのは地獄・・・・
そう考えると・・、別れることが、本当に最善の策なのかしらとさえ思う……」

千春が呟いています。由美子が千春のつぶやきを聞いて少し気にしています。

「千春さん・・、
何か言いたいことがあるのなら、聞かせて…
村上と別れることが出来ても…
その先は地獄・・・と、言ったわね…
私・・・、そのことが少し気になっているのよ・・、
もしかして・・、別れる必要がないと思っているの…?」

「ハイ・・、確かに迷っています・・、
とんでもない発想で、お二人には叱られる覚悟で言います…」

何事か決心をした表情を浮かべ千春が由美子と愛を見詰めています。

「もし・・、村上と切れることが出来ても・・・、
自分の犯した罪の意識から咲江は永久に逃げられないと思うのです。
昔の朗らかで、明るい咲江は永久に戻ってこないと思うのです・・
そう・・・、考えると・・・、私…・・」

ポツリ、ポツリと千春が話しています。堪えて涙を抑えていますが、今にも泣きだしそうです。

「無理に村上と別れないで、家族を捨てる道もあるのではと思うのです・・。
幸い彼は独身ですから・・・、
彼と所帯を持てば、旦那様や、子供の顔を見ないで暮らせることになります、
家族を捨てた罪の意識は残りますが・・・、
逃げ場のない不倫の罪からは解放されると思うのです・・・。
ゴメンナサイ・・、そんなバカなことさえ考えてしまうのです…」

「・・・・・・・・」

愛がびっくりして何かを言い出そうとして、慌てて口を押さえています。軽はずみなことは言えない
と愛はとっさに考えたのです。由美子は黙って千春を見つめています。

「本当は・・、私にも・・、どうしていいか判らないのです・・。
村上と別れるべきだと思いながらも・・・、
一生、罪の意識を背負って行くよりは・・・、
たとえ、人の道から外れても・・・、
村上と面白おかしく暮らした方が咲江は幸せかなとも思うのです…
本当にバカな話だと思うでしょう…、でも可能性はあると思っています・・・」

千春が首を垂れ、そっと涙を拭いています。

「一生・・、犯した罪の意識に怯えるより・・、
思い切って、村上と一緒になる道もあると言いたいのね・・
むしろ、そちらの道が人間らしいと千春さんは思っているのね・・
バカな話だなんて・・、そうは思わない…、
咲江さんの幸せを本当に願っている千春さんだからこそ・・、
そんな発想が出たと思う…・」

微笑みを浮かべて愛が言っています。千春はただ頷くだけです。

先ほどまで、村上と戦い、咲江を取り戻す勇ましい話が展開されていたのですが、一転して、その場
に少し沈んだ雰囲気が流れています。村上と関係を続けるのも一策かな・・、といったムードが流れ
ているのです。