フォレストサイドハウスの住人達(その14)
5 フォレストサイドハウスの住人達(その14)(460)
鶴岡次郎
2016/05/16 (月) 13:42
No.2856

「そう思うのは無理ないけれど、彼らはプロじゃないのよ・・、
総会の恒例行事で当番組長夫妻が営みを見せることになっているのよ・・・。
彼らは夫婦のセックスを神聖なものと考えているから、
経済的にどんなに追い詰められても・・・、
それを見世物にして金を掴む商売には手を染めることはしない…」

「ゴ、・・ゴメンナサイ・・・、
そんなつもりで言ったのではありません…」

かなり真剣な表情で、強い言葉を使う由美子の様子を見て、悪いことを言ってしまったと気が付いた
千春が驚き、恐縮しています。千春にとっては軽い戯言程度の質問だったのですが、どうやら由美子
はかなりまじめにその言葉をとらえている様子なのです。愛が助け舟を出しました。

「どうやら・・・、千春さんは…・、
的屋魂(たましい)の琴線に触れてしまったようだね・・・、
由美子さん・・、そこまで話したなら、言いたいことを全部・・、
最後まで言ってしまった方が良いよ・・、
ここで終わると、気まずさだけが残ることになる…」

愛が忠告しています。

「うん・・、では少しだけ、私たちのことを話します。
今後のこともあるしね…、何から話せばいいのかな…・」

軽く頷いた由美子が話の筋を考えている様子を見せています。はらはらしながら千春が由美子の表情
を見つめています。

「的屋の稼ぎはそんなに多くない、露天商の商いだけでは食べて行けないから飲食店や、行商を副業
にしているものも多い。副業が本業になって、露天商から足を洗う者も少なくない。

時には町の有力者に便宜を図ってもらうため仲間の女を差し出す組長もいる・・・。
でも・・、私の知る限り、シロクロショウに手を出している者はいない。
セックスショウで金を掴むことは売春より下と見ているのだね…。

私たちにとってセックスは・・、
幾つになっても、生きることと同じ意味を持っているの・・、
世の中にはいろいろな社会集団があるけれど、
私たちは、どの集団よりセックスを神聖化していると思う・・」

「由美子さんの仲間にはセックスを神聖な行為だと思っている人たちが多い、
だから、そのセックスを見世物にして金を稼ぐことなどは絶対しない・・・、
由美子さんはそう言いたいのね…・」

愛が由美子の説明の補足をしています。由美子が深く頷き、千春は神妙な表情を保っています。

「私たちは、これと言って大きな財産を持っているわけでなく、稼ぎになる技を持つ集団でもない、
ただ仲間内の結束力だけが大きな武器なのです。そんな組織の結束力の源が組員個々の意識です。
的屋の仕事をこよなく愛する個々の組員の意識です。そして、愛する男女のセックスが組の結束力の
基盤だと考える者が多い。
セックスが夫婦の結束を固め、結果として仲間の絆を深めると信じているのよ。だから、セックスは
私たちの間では神事に近い行為として大切にされている。
間違っても、セックスを見世物にして金を掴む発想は私たちの中には存在しないと思います…・」

「スミマセンでした。軽はずみな推測をしてすみませんでした…
私自身が尻軽ですから、ついそんな風に考えてしまったのです…。
皆さんのプライドを傷つけるようなことを言ってスミマセンでした…」

千春が素直に謝っています。

「私こそ・・、スミマセン…、
柄になく生意気なことを言ってしまいました。
よく考えれば、千春さんが誤解したのはある意味当然かもしれない・・・。
そう思われる背景が私たちの社会に存在するのは確かだから…・」

千春が謝り、由美子がそれを快く受け入れて、その場は再び暖かい雰囲気に戻っています。