フォレストサイドハウスの住人達(その14)
40 フォレストサイドハウスの住人達(その14)(495)
鶴岡次郎
2016/09/09 (金) 13:57
No.2893
「私・・・、思うんだけど…、
さすがの佐王子さんでも、その時は確信まで持てなかったと思う・・・
迷いながら、幸恵さんの気持ちを優先させたのだと思う…・
けなげな幸恵さんの気持ちを大切にしたいと彼は思ったのよ…」

愛が突然口を挟んできました。

「うん…、私もそう思う…、
幸恵さんの気持ちは本当に純粋で、誰でも応援したくなるから・・・、
佐王子さんもその気持ちを大切にしたいと思ったに違いない・・・」

千春が頷きながら愛に同意を示しています。

「でも・・、
もし、佐原さんが幸恵さんの気持ちを正しく理解しなかったら…、
仮に・・、理解できたとしても・・、
汚れてしまった妻を許せる度量を佐原さんが持っているのか・・・、
そんな心配を佐王子さんは抱かなかったのかしら…・」

由美子がひとりごとのように呟いています。彼女自身へ問いかけているようにも聞こえます。

「幸恵さんの佐原さんを思う強い気持ちに打たれ、一方では、高い社会的地位にある佐原さんの人物
を評価して、この夫妻であれば、少しくらい危ない賭けをしても、どん底まで転落しないと佐王子さ
んは読んだのだと思う。

万が一、賭けに失敗して、佐原さんご夫婦の仲がこじれても、お二人なら時間をかけて修復できるは
ずだと、佐王子さんは読み切っていたのだと思う…・」

由美子の問いかけに愛が返事をしています。

「なるほど、愛さんの説には一理ある…、
もし・・、私が当時の幸恵さんの立場に立っていたとしたら・・・、
佐王子さんは、ソープ嬢への道を私には与えないと思う・・・、
何故なら、スケベーな私は直ぐに娼婦の道に溺れ、どん底に落ちることになるから・・・、
むしろ・・、尼さんに成れというかもしれない・・、ハハ・・・」

千春がおどけて愛の説明に同意を示しています。由美子もつられて笑っています。

「それにしても…、
不思議な縁と言えば、それまでのことだけれど・・、
ほんの数時間前までは、互いに名前さえ知らなかった私たちが、
10数年来の親友のように互いの秘密さえ共有するようになっている・・・」

「そうね・・、そういわれれば、不思議なことね・・・、
でも・・、ちっとも違和感はない・・、
こうして三人で、私の店の中に座っているのが普通に思える・・」

愛の言葉に千春と由美子が大きく頷いています。

「たまたまあの日、公園を通りがかった私が、普段は利用しないトイレへ入り、そこで一生忘れられ
ないトラック事件にかかわりを持った。そして、一方では、千春さんを知る以前に、千春さんのお友
達である幸恵さんの旦那様と偶然、公園で知り合い、私も愛さんもどっぷりと幸恵さん失踪事件にか
かわりを持つことになっていた・・・」

「そのままで終わっていれば、千春さんのトラック事件と幸恵さんの失踪事件は、由美子さんと私の
中では決して重なることはなかった…。
二つの独立した事件として、いつまでも私たちの記憶に残っているだけだった…」

「私が余計なあがきをして、由美子さんを探し出し、
二つの事件を重ね合わせることになった・・
なんだか・・、悪いことをしたような気がする・・・・」

「ううん・・、これも運命なのよ・・・、
神様か・・、何かわからない力が働いて千春さんを動かした。
公園で幸恵さんの旦那様を見かけ、この売店にお連れした時から、
今日の結果と成り行きは、決まっていたと私は思っている…。
私たち三人はいずれ、こうして友達になる運命だったと思う…」

「そうね・・、運命だね・・、
二つの事件とも泉の森公園が事件の発端場所であり、
私の売店で事件はさらに成長した・・・。
そう考えると、この狭くて、汚いこの売店もまんざら捨てたものではないのね・・。
これからも、この売店でいろいろな事件が起きるような気がする…。
さあ・・、おしゃべりを一休みして・・、お茶にしましょう…。
いつものように、お一人様150円いただきます・・・・」

売り物の缶コーヒーと駄菓子が三人の前に出されました。三人の女の会話はとどまることがありませ
ん。これから先、いくつかの事件がこの場所で語られ、三人の女はそれぞれにその事件にかかわりを
持つことになります。いずれ、面白い事件が起きたなら、また立ち寄ることになると思います。