フォレストサイドハウスの住人達(その14)
39 フォレストサイドハウスの住人達(その14)(494)
鶴岡次郎
2016/09/08 (木) 16:27
No.2892
「結論から言えば、佐王子さんは何の役にも立ちませんでした。
事前に事情を詳しく説明し、その業界の恐ろしさを誇張して教え、
なんとか幸恵さんの決心を変えさせてほしいとお願いしていたのですよ…。
それだのに・・・・」

恨めしそうな表情で千春が語っています。この話題になると今でもすっきりしない気分になるようで
す。

「一通り幸恵さんの話を聞き、幸恵さんが持ってきたパソコンのファイルを見て、
佐王子さんはあっさりと幸恵さんの申し出を引き受けたのです。
今日からでも彼の店で働いて良いと告げ、3ヶ月も働けば、パソコンの中に居る商売女以上の技量を
身につけることが出来ると保証したのです・・」

千春の説明は続きます。かなり前の事件なのですが、千春は鮮明に覚えている様子です。それだけ記
憶に残る事件だったのだと思います。

「あろうことか・・、幸恵さんなら売れっ子になるとまで言ったのよ…・。
何も知らない、幸恵さんは嬉しそうでした…・・。
私・・、あの時の幸恵さんの無垢な笑みを思い出すと・・、
今でも、罪の意識にさいなまれる…・・」

千春が沈んだ表情で説明しています。

「そうですか・・、
佐王子さんが賛成したのですか・・・・、
失踪の形をとったのも・・、
佐王子さんのアイデアですね・・・」

由美子が質問しています。

「ハイ・・・、
幸恵さんが黙って家を出れば、幸恵さんからお仕置きを受けたと受け取り、
ご主人が悩むだろうと・・、少し佐原さんを困らせるのもいい薬になると、
佐王子さんが提案して、幸恵さんもそのアイデアに乗ったのです・・」

「迷うことなく、幸恵さんを失踪させ、
その日の内にソープ嬢に仕立て上げたのでしょう・・・、
そうすることが、佐原夫妻が幸せを掴む道だと・・、
佐王子さんは確信していたのかしら・・・?」

由美子が質問しています。

「さあ…、私には良く判りません・・・
私自身は当時も迷いましたし、今でも、あれでよかったのかと釈然としません・・。
ただ・・、幸恵さんも佐原さんも幸せそうなのが、今となっては救いです…」

千春が自信無さげに返答しています。ここへきて、由美子も愛も、同じ気持ちらしく首をかしげてい
るのです。男と女の考え方の差と言ってしまえばそれまでなのですが、佐王子の思い切った対応は到
底女達には理解できない様子です。