フォレストサイドハウスの住人達(その14)
34 フォレストサイドハウスの住人達(その14)(489)
鶴岡次郎
2016/08/03 (水) 14:55
No.2887

「それにしても驚きました・・・・、
愛さんも、由美子さんも、お隣の佐原さんとお知り合いなんて・・・、
本当に奇遇ですね…」

千春が本当に驚いた表情で無邪気に笑っています。

千春が佐原家の隣人だという由美子の懸念は的中したのです。表面上は笑みを浮かべていますが、
由美子は少し迷いを抱えていました。そして、迷った末に結論を出していました。千春とはこれか
ら先も親しく付き合うつもりですが、この事件については軽々しく話題にすべきでないと由美子は
決めたのです。隣人ですから、あるいは幸恵失踪事件について千春は何らかの情報を持っているか
もしれませんが、千春から先に話題を出さない限り、由美子からこのことを話題にしないと決めて
いたのです。

一方・・、千春は千春で、由美子と愛が佐原家と付き合っていたことを知ってびっくりしながらも、
どこまで佐原家の事情を知っているのか・・、知らないのなら、どこまで事実を二人に話していいも
のか・・、千春なりに悩んでいたのです。

幸恵の失踪を手助けし、佐王子の店を紹介したのは千春です。そして千春も少し遅れて幸恵と同じ店
のソープ嬢となり、幸恵の借りているアパートで一緒に男遊びをする仲になっているのです。

千春自身のことは二人には何も隠すつもりはないのですが、こと幸恵に関しては事実を話すことはで
きないのです。佐原家とはただの近所付き合いの仲だと二人には話そうと、千春は腹を固めているの
です。女三人、こと佐原家に関しては互いの腹の内を探り合う対決になっているのです。

「佐原さんの奥様はよくご存じなのですか…」

由美子がそれとなく探りを入れています。

「ハイ・・、
実の娘のように可愛がっていただいております・・。
家の子なんか・・、私より幸恵さん・・、奥さんの名前ですが・・、
幸恵さんの方が良いというのですよ・・・、
今日だって、私の勤めがある日ですから・・、
幼稚園から帰ったらまっすぐ幸恵さん家に行っているはずです・・」

「千春さんがお勤めの時は幸恵さんがお子さんを預かることになっているのですね、
まるで実家の母親のようですね・・、うらやましい・・」

「由美子さんのご実家は…?」

「母は私が結婚した年に亡くなりました…」

「それは失礼しました…、お寂しいですね・・」

どこまで行っても、由美子と千春の会話は核心に迫りません。傍で聞いている愛は事情がある程度
読めるだけにイライラしています。愛が覚悟を決めました。

「幸恵さんと、千春さんは同じ店にお勤めなんでしょう・・?」

「・・・・・」

「・・・・・・・」

愛の爆弾発言に由美子も、千春も目を見開き、あぜんとしています。そして、突然二人は笑い出した
のです。かなり大声で笑い続けています。一人、愛だけが苦虫をかみしめたような膨れ面をしていま
す。