フォレストサイドハウスの住人達(その14)
32 フォレストサイドハウスの住人達(その14)(487)
鶴岡次郎
2016/07/27 (水) 16:07
No.2885

「佐原さんから教えられたのでもなく・・、
マンション内をキョロキョロ覗きまわったわけでもない・・、
今の今まで、佐原さんと千春さんを結び付ける証拠は何も掴んでいなかった、

それが・・・、千春さんと佐王子さんの関係を聞いて・・、
突然・・、閃いた・・・。
一つの謎が解けると、後は簡単だった・・・。
どう・・、名探偵由美子の話をもっと聞きたい…?」

由美子が二人の女の表情を見ながら少し威張って見せています。二人の女が笑いながら頭を下げてい
ます。判ったから早く話せと背ついているのです。

「それでは謎解きをするわね・・・」

由美子がゆっくり語り始めました。


佐原と由美子、愛が知り合いになって、二、三ヶ月経った頃でした。その頃には、佐原も喜んで歓迎
しますし、彼との会話が楽しいので、休日になると二人の女は気軽にマンションを訪れるように
なっていたのです。

その日、由美子と千春はいつものように連れだって佐原の自宅へ向かいました。マンションの入り口
で案内を請い、佐原が部屋の中でキー操作して玄関ゲイトを開けます。住人がゲイトを開けない限り
何人もそのマンションには入れない仕組みになっているのです。

45階建てのビルで、3階以上が住宅に使用されているかなり大きなマンションで、各階に50室が
あります。佐原の居る十六階までエレベータを使います。エレベータを出るとエレベータホールで
す、そこから各部屋を結ぶ廊下が伸びていています。廊下は原則ビルの中心部に作られていて、各部
屋はすべてビルの外面に接しているので、どの部屋からも、街の景観を楽しめるようになっていま
す。特にビルの南側が公園ですから、公園に面した部屋は人気があるのです。

二人がエレベータを出ると、佐原が玄関ホールで待っています。佐原を先頭に、愛、そして最後尾に
由美子が、少し薄暗い廊下を歩きます。めざす1613号に近づいた時、佐原家の隣の家、1614
号室前を最後尾の由美子が通りすぎた直後、扉が内側から開けられて・・、誰かが部屋から出てきま
した。

「振り返るのも行儀が悪いし、ただ気配だけを感じ取っていた。
その男性が・・、そう・・、明らかに男性の気配だった…」

「その時私も一緒だったはずだけど・・・、
私は何も感じ取れなかった…」

「その方はすさまじい男の精気を発散していた・・。
恥ずかしいけれど、女の芯がくらくらと来て、濡れだすほど感じていた・・・、
振り返ってその男の顔を見たい欲望を必死で抑えていた・・・・」

「・・・・・・」

千春と愛があきれた表情を浮かべ由美子の話を聞いています。勿論、男の精気を感じ取ることが出来
る由美子の特殊能力を愛は良く知っています、しかし千春は知らないはずです。

背中で男の精気を感じ取り、濡れ始めたと言う由美子の表現はまともではありません、それでも千春
は黙って耳を傾けているのです。ここで下手な質問を発すると、由美子から失笑されると警戒してい
るのでしょうか・・、あるいは由美子の特殊能力にそれほど驚いていないのでしょうか・・。

「この男はただ者でないと思った…、
でも・・、彼のことを佐原さんに聞くわけにはゆかないし、
気にはなるけれど、彼のことは忘れるともなく、今日まで忘れていた…」

ここでコップを取り上げ、中の冷たい水を一気に飲み干しています。妖しくうごめく白い喉を愛と千
春がじっと見つめています。早く話の先が知りたいのです。