フォレストサイドハウスの住人達(その14)
26 フォレストサイドハウスの住人達(その14)(481)
鶴岡次郎
2016/07/11 (月) 12:11
No.2879

思いやりにあふれた愛の忠告に千春ばかりか由美子もいい気分になっています。その場にゆったりと
した楽しいムードが漂っています。この良いムードに乗って、由美子は気になっている問題をこの
際、片付ける気持ちになりました。

「ところで千春さん・・・、
あなた・・、公園前のマンションに住んでいると言ったわね・・・」

「ハイ・・、FSマンションですが…」

「そう…、
間違っていたらゴメンナサイね・…、
千春さんのお部屋は1614号室じゃない…?」

「・・・・・・」

正確に部屋番号を言い当てられて千春が絶句しています。おびえさえ漂わせた表情で由美子を見つめ
ているのです。

「ああ・・、ごめんなさいね・・、
誰だって、びっくりするわね・・・、
明かしてもいない住所を言い当てられたら・・・」

「・・・・・・・」

「ごめんなさいね・・、
驚かせるつもりはなかったのよ…・・、
これには訳があるのよ…、説明するわ・・・・」

由美子がここで言葉を切り、あっけにとられている千春を笑顔で眺めながら、ゆっくりと話し始めま
した。

「一年ほど前だった、いつものように愛さんのお店に寄るつもりで公園を通り抜けている時
だった…、公園のベンチに座っている50過ぎの男性を見つけた。人通りの少ない場所であまりに寂
しそうだったし、かなりのイケメンだったから、思わず声をかけてしまった…」

「エッ…、また・・・、公園ですか・・、
由美子さんは・・・、公園での出会いが多いですね・・」

「ああ・・、
そういえば千春さんと出会ったのも公園だったわね・・」

「そうよ・・、浮気をしている現場を覗かれたのよ・・」

「間違わないで!
好きで覗いたのではありません・・
あんなに大声を上げていたら、誰だって覗きます…
あの時の声が公園中に響いていたのよ…・
ふふ・・・・・」

「そうかしら・・、
そんなに大声を上げていたかしら…、
自分ではよく覚えていないのです…」

「それほど夢中になっているっていうことかしら・・
ご主人が教えてくれるでしょう…・」

「ハイ・・・、時々・・・、
主人からも、他の人からも、笑いながら後でよく言われます…。
本当に、そんなに大声を出しているのですか…・?
恥ずかしい…・」

「今更恥ずかしがっても、遅い…!
さすがの千春さんでも、夢中になると自分では気が付かないのね…
意識してあんな大声は上げ続けられないものね…、
もし、それが出来たなら・・、プロで通用する…」


「・・・・・・」

言ってしまってから、まずい失言をしたことに、由美子は気が付いています。ソープ勤めの千春がそ
の道のプロであることに気が付いたのです。勿論、千春も由美子の失言に気が付いています。いつも
の千春なら軽口を返すのですが、とっさに返す言葉が出ないのです。それでも、気まずい雰囲気には
なっていません。