フォレストサイドハウスの住人達(その14)
22 フォレストサイドハウスの住人達(その14)(477)
鶴岡次郎
2016/06/25 (土) 16:46
No.2875

かなり難しい話を披露している愛ですが、何かを企んでいる時の癖で彼女の目元が少し緩んでいま
す。どうやら、愛の狙いは「セックスと女の幸せ」を語りつくすことではないようです。その話題を
展開しながら、二人の女・・、すさまじいともいえる情欲を持った千春と由美子に・・、何かを伝え
たいと思っている様子です。

愛と付き合いの長い由美子も、この時点で愛が何事か企んでいると漠然と感じ取っていました。普段
の愛は決して昔話を自分から切り出したりしないのです。それが積極的に看護師長をしていた頃の思
い出話を披露しているのです。タブーをあえて犯して昔話をする以上、愛にはしかるべき理由がある
はずなのです。勿論そのことを追求するほど由美子は野暮ではありません。ここはおとなしく愛の企
みに乗るつもりになっています。

「愛さんの言うとおり、女の一生でセックスはかなり大きな比重を占めている。これは疑いのないこ
とだと思います。それで、人生に行き詰まった女たちは、セックスと縁を切ることで女の人生を変
え、新たな生活を得ようとするのですね・・・。
浮世を捨てて尼僧になるのはその典型的な例ですね…」

この時点でも愛の真の狙いを由美子は判っていないですが、その企みを応援するつもりになって愛の
言葉を上手くフォローしています。

「由美子さんの言う通りよ、
セックスは女を不幸にする元凶の一つでもある・・・。

でも・・、そうは言っても…。
セックスがいつも女を不幸にするとは・・、
私は決して思わない・・。

今まで言ってきたことと矛盾するかもしれないけれど、
セックスをして、その結果として不幸になる女より、
むしろ、セックスしない女が不幸になる確率の方がずっと高いと思う…
あなた方は勿論そう思うわよね…・・」

由美子と、千春が当然だと言わんばかりに頷いています。それでも彼女たちは愛がなぜ、この場でこ
のような話題・・、かなり哲学的話題・・、を選んだのかその意味を掴み切れていません。

「不幸になる女たちを見ていると・・、
彼女たちは男に抱かれる時・・、
その先に待ち受けている様々な事象に、
ほとんど無関心であることが多い・・。

男の欲望と自身の体から沸き上がる感情に押し流されて…、
自分が妊娠できる体であることさえ、ほとんど忘れているのよ…。
このことに、驚きを通り越して、怒りさえ抱くことが多い…」

由美子と千春が神妙な表情を浮かべ頷いています。

「男に抱かれる前に・・・、
その行為の後に来る結果にもっと想像力を働かせていれば、
かなりの確率で不幸を回避できたはずだと思うことが多い・・」

愛の説明に二人の女が何度も頷いています。どうやら二人とも痛いところを突かれた思いになってい
る様子です。その道ではベテランであるはずの由美子と千春でも、男に抱かれた後、その行為を後悔
することが少なからずあるようすです。