フォレストサイドハウス(その13)
5 フォレストサイドハウス(その13)(420)
鶴岡次郎
2016/02/22 (月) 12:56
No.2811

「先日、恥ずかしい姿をあなたに偶然見られた。見られた方も、見た方も、普通なら互いに気まずい
思いになり、あの日のことは思い出したくもない惨めな経験として意識の外へ追い出そうとするもの
です。

しかし、実態は違っていた。あなたに覗き見られたおかげで、あなたの優しい、思いやりのある視線
を感じ取ることができたおかげで、私たちはとってもいい時間を過ごさせていただきました。あなた
に見られたことで私たちの情事が一層充実したものになりました。この気持ちは私だけでなく、先日
の男性も、「花を添えていただいた・・」と心から喜んでいました。

お別れした後、あなたのことをじっと考えておりました・・。なぜあの方の視線があんなに優し
かったのか、じっと考えました。そして、考えに考えた末、私の好色な性をあの方は正確に理解して
いるのだと結論付けたのです。私の性を理解しているからこそ、あんなに破廉恥な情事にふける私を
軽蔑するわけでもなく、驚きの目で見るわけでなく、優しく受け入れてくれた。そう思ったのです。

あの方であれば、世間で受け入れてもらえない私の行為を正しく理解していただけるかもしれな
い・・・、通常の社会規範とはかけ離れた生活をする私たち夫婦を正しく理解していただけるか
も・・、と淡い期待を抱いたのです。そう思うと、居ても立っても居られない気持ちになりました。

もう一度、お会いしたくて、いろいろ考えた末・・、ここで待ち伏せすることにしたのです。
でも・・、正直言って・・、お会いできる可能性は5分5分だと思っていました。お会いできて本当
にうれしい・・」

窓の女の手を握り、興奮を隠さないで千春はハイテンションで話しています。

「ああ・・、私ばかりおしゃべりをして、ご挨拶が遅れていました…。
申し遅れましたが、私・・・、浦上千春といいます。
公園前のマンションの住人で、商社に勤める主人と4歳になる長男がいます」

自己紹介して千春が頭を下げています。

「ご丁寧に・・・、
私は八丁目に住んでいる、鶴岡由美子といいます。
主人は定年退職して悠々自適の生活です。
二人の子供は家を出て自立しています…」

お互いに信用できると感じ取った様子で、隠さず自己紹介しています。

「千春さん・・、少し時間が取れますか・・、
よかったら、私と一緒に友達のいる売店に行きませんか・・・、
そこでいろいろおしゃべりしましょう・・、
私・・・、あなたとゆっくりおしゃべりがしたいと思っているの・・」

「はい・・、喜んで・・・」

「じゃ・・、ちょっと、愛さんに連絡するわね…
ああ・・、彼女は公園の傍にあるアパート、泉の森荘の管理人夫人なの・・、
三津崎愛さんという・・・、
アパートの一階に売店があるでしょう、
ああ・・、あなたは知っていたわね…、
あの売店で店番をしながら、私たちおしゃべりするのよ・・」

携帯を取り出し、愛に話しかけています。

「ああ・・、もしもし・・、私・・・
今そちらに行く途中で・・、そう・・、公園でね・・・、
珍しい方にお会いしたの・・・、そう・・、女性・・・

ううん・・・、
あなたは会ったことがないはずだけれど、会えばわかる方よ・・・、
そう・・、そのとおり・・・、勘が良いわね…、
では、一緒に行くからね・・・」

愛が快諾した様子です。