フォレストサイドハウス(その13)
41 フォレストサイドハウス(その13)(456)
鶴岡次郎
2016/05/04 (水) 14:41
No.2847

「私どうかしていたのかしら…、
由美子さんの経歴を愛さんから教えてもらった直後だのに・・、
噂の女を由美子さんとは思わなかったのでしょう・・、
あれだけの情報を与えられていながら・・、
気が付かないなんて…、
普通・・・、そんなことありえない……」

ぶつぶつ独り言を言いながら、千春がしきりに頭を捻っています。由美子の経歴を愛から教えられた
時、佐王子から聞かされていた的屋の情婦が由美子だと気が付かなかったことがかなり気になってい
る様子です。

「ああ・・、そうか・・・、
そういうことなんだ…・、

判りました…、
これこそが、由美子さんのミステリアスなところなのね・・、
男たちと同じように私も・・、
由美子さんのマジックに嵌っていたのですネ・・・。
ああ・・、スミマセン・・、マジックだなんて…・。
他に適当な言葉が見当たらないのです・・」

千春が少し大きな声を上げ、慌てて由美子に頭を下げています。由美子が苦笑いしながら首を軽く
振っています。

「そうか・・・、そうなのね・・・
私にも読めてきた…。
千春さんも由美子さんに騙された口なんだ…、
何百、何千と言う男たちと同じように、騙されたのね…」

「何よ・・、愛さん・・・、その言い方、引っかかるな・・・・
何百、何千の男をだましている性悪女のように聞こえますが・・」

「あら・・、違ったかしら…・
ハハ・・・…」

愛と由美子が朗らかに笑っています。

「愛さんのおっしゃる通りです・・。
私の中に居る噂の女のイメージと由美子さんが一致しなかったのです・・・。
あまりに違いがありすぎて・・、気が付きませんでした・・・。
佐王子さんの話を聞いてイメージしていた女性はもっと・・、
性悪女そのものでした・・・」

千春が朗らかな表情で話しています。

「ここへきて・・、初めて・・・
佐王子さんの言っていた由美子さんの凄さが・・・、
今、ようやく実感できました…・」

感動した面持ちを隠さないで千春が由美子に話しかけています。

「佐王子さんから由美子さんの生き方を教えられた時、
私はとうていそんな女には成れないと・・・、
強く反発しました…。
今の今まで、その女のことを意識して忘れるようにしてきました。

そんな女など存在するはずがない、
男たちは騙されているのだ、
女の私なら、簡単にその女の化けの皮をはがしてやる…。
そう思っていたのです」

千春が正直な気持ちを吐露しています。愛が軽く頷いています。

「由美子さんにお会いして、その神秘的な凄さがよく判りました。
佐王子さんが言っていたことが正しかったと素直に認める気持ちになりました。
これからは、少しでも由美子さんに近づきたい…、そう思っています・・」

「・・・・・・・」

由美子の手を取り、千春がほとんど泣きそうになりながら話しかけています。由美子が黙って頷いて
います。女の業にかかわる苦悩を共有する女二人、心がまた一歩近づいた瞬間でした。