フォレストサイドハウス(その13)
40 フォレストサイドハウス(その13)(455)
鶴岡次郎
2016/05/01 (日) 11:07
No.2846

「結局、その時・・、
私にはその女の生き方が良く理解できなかった・・・、
反発する気持ちの方が強かったような気がする…。
佐王子さんも、それ以上のアドバイスはしなかった…

それで・・・、私はその夫人のことは意識して忘れることにした…・
私ごときでは、真似ることさえ難しいと思ったからです…
そして・・・、今日まで、彼女のことはすっかり忘れていた…・」

由美子と愛を前にして、千春は佐王子から聞かされたある女の生き方を事細かに説明しました。由美
子と愛がただ黙っています。

「いかがですか・・、
これが佐王子さんから聞いたある女の物語です・・・、
その夫人は今、目の前に居る方ですよね…・」

千春が笑みを浮かべて由美子に質問しています。

「偶然と言うのは恐ろしいモノね・・・、
それとも、これは神様が描いた私たちの運命かしら…・」

由美子がゆっくり口を開きました。

「そうよ、千春さんの思っている通りよ、
彼を知っている・・・・。
二度か、三度寝たことがある…、
もう何年も前のことだけれどね…」

「やっぱり…」

千春が少し気落ちした表情を見せています。愛はおろおろした表情を隠さないで二人の女の表情を交
互に見ています。少し気まずい雰囲気がその場を支配しています。

「千春さん・・・、
由美子さんの経歴を私が全部暴露したでしょう・・、
その時、どうして・・・
由美子さんがその女だと気が付かなかったの・・」

その質問にどのような意味を持たせようとしているのか意識しないで、愛が思いついたままを口に出
しています。質問を受ける千春の出方次第では気まずい雰囲気をさらに悪化させるかもしれないので
す。由美子がはっとした表情で千春と愛の顔を見ています。

「そうですよね・・、
もっと早く気が付くべきでした…、
由美子さんの愛人が的屋の親分だと教えられ、
かなり奔放に男性と関係を持っていると聞いたのですからね・・、
その時に、佐王子さんの話を思い出すべきでした・・
でも・・、私・・・、
本当に気が付いていなかった……」

千春自身も首をかしげています。

「顔を合わせたわけではないから・・、
他人の口から聞いた噂話だから・・・、
噂の人物が目の前に居ても、この人だと、判る人はむしろ少ないかも・・」

愛がとって付けたようにして慰めています。

「それは・・、そうかもしれないけれど…
それにしても不思議ね・・・」

千春自身、佐王子が話してくれた噂の女が、由美子だと気が付かなかった自身のうかつさに、本音で
驚いている様子です。