フォレストサイドハウス(その13)
4 フォレストサイドハウス(その13)(419)
鶴岡次郎
2016/02/16 (火) 14:23
No.2809

「ありがとうございます・・・。
気の向くまま他の男に抱かれている浮気妻と、
そんな彼女を認め結婚生活を続ける夫・・、
こんな私たち夫婦を、素晴らしい夫婦だなんて…、
まさかそんな言葉が聞けるとは、夢にも思っていなかった…。
本当にうれしい・・・。
やはり・・、私の思った通りの方だった…」

「・・・・・・・・・」

窓の女の手を握り、その手を激しく振り、涙さえ滲ませながら、千春は大きな感動を隠そうとしない
で話しているのです。女はただ微笑みを浮かべて、頷きながら話を聞いています。

その女に会いたい一心で公園の隅で一週間もじっと待ち伏せをした行為・・、大げさに再会を喜び、
涙さえ流している様子・・、どれをとってもかなり異常です。それでも、普通の人なら薄気味が悪い
と思うこの千春の行為を、窓の女はあっさりと受け入れているのです。

どうやら窓の女は千春の隠された性を正確に理解しているようです。そして同じ性を持つ者同士、千
春の心の動きがかなり正確に読めているようです。普通なら異常と思える千春の反応も、千春の立場
に立てば当然の行為だと理解できているのです。

「やむを得ない、人には言えない事情があって、この方法しか解決策がないと判っていても・・、
私たちのやっていることは、決して許されることではありません。
世間に知られれば、夫も私も・・、そして可愛い息子だって、
厳しい社会的制裁を受けかねないのです…」

〈この人はかなり自分の性や行為を卑下している・・。
…そんなに大げさに考える必要がないと思うけれど・・、
確かに、妻が他の男に抱かれるのは普通ではありえないことだけれど・・。、
そうした女が居ても仕方ないと思う・・・、
そしてそんな女の性を知りながら彼女を愛し、妻にして、
自由に泳がせている男が居てもおかしくないけれど…〉

千春のおしゃべりを聞きながら、窓の女は胸の内で反論していたのです。妻の浮気を放免することを
そんなに卑下する必要がないと思っているのです。それでもあえて反論しません。千春の滑らかなお
しゃべりは止まる様子を見せていません。口を挟まないで気のすむまで千春に話をさせるつもりに窓
の女はなっています。

「私たち夫婦の秘密は、今までどなたにも話したことはないのです。ところが、あなたを見て、この
人ならと思えた、私は迷いなく私たちの秘密をあなたにあっさり話すことができた。こんなに簡単に
大切な秘密を他人に話すことができたことに、私自身が一番驚いています。主人だって、きっと、こ
の話を聞けば驚き、そして、大いに感激すると思います・・・・・」

よほど千春はこうした会話に飢えていたのでしょう・・、窓の女という、いい聞き手を得て、堰を
切ったように千春の話は続きます。女はニコニコほほえみを浮かべて聞いています。