フォレストサイドハウス(その13)
38 フォレストサイドハウス(その13)(453)
鶴岡次郎
2016/04/22 (金) 16:29
No.2844

「もともと稀代の才能に恵まれていた夫人の性感は、激しい情交を重ねることで大きく花開いた。夜
の夫人は昼間の淑やかな様子からは想像もできないほどすごかったと思う・・・。おそらく一度でも
その女に接した男は生涯彼女の虜になるほどだったと思う。その証拠にこと女性に関しては、百戦錬
磨の全国の親分衆が列をなしてその夫人を抱く順番を待っていると噂されていたほどなんだ…。勿
論、ご主人も夫人のその変化を歓迎されていた・・・」

「でも・・、いろいろな男の味を知ったら、女は元へは戻れないと思う・・、
結局、その夫人はご主人の元を離れ、家庭は崩壊し、
いずれ、彼女自身はどん底の社会に堕ちることになるのでは・・」

千春が当然の質問をしています。

「そうだね・・、夫人のような環境に堕ちた女のほとんどは、
二度と這い上がれない社会の底辺に落ちるものだ・・・。
俺も・・、そんな女を数え切れないほど見てきた…」

千春の追及にあっさり佐王子が折れています。できれば反論してほしいと思っている千春は少し不満
げにしています。

「主婦が体の欲するままに男遊びをすれば、彼女の家庭が崩壊し、いずれ女は社会の底辺に落ち込ん
で行く…、これが一般的な結果だね…。

しかし、その夫人の場合は違った・・・、
一年経っても、三年経っても、彼女は勿論、彼女の家庭も変わらなかった…」

「・・・・・・・」

その訳が知りたいのだと、千春は黙って佐王子を見つめています。

「実を言うと、私も一度その夫人と接したことがある。
その時感じたのだが、私と一緒に居る間・・・、
私の腕の中では、夫人は完全に私の女になっていた・・。

ご主人のことも、情夫である親分のことも、全部忘れて、
私のことだけを考えている雰囲気だった。
私自身は『夫人に愛されている』と、全身で感じることが出来た。

そうはいっても私もその道のプロだから、女の演技に騙されることはない。
そんな私が『・・・惚れられている・・』と感じたのだから、
姐さんはあの瞬間、本気で、私に惚れていたに違いないと思う・・・」

「・・・・・・・・・」

他の女との関係をここまであからさまに千春に話したことがありません、うっかり口が滑ってし
まったのです。千春の反発を待っていた佐王子ですが、彼女が口を開かないのを知り、また話し始め
ました。

「全てが終わって、衣服を着けてお話しする段になると、その時は礼儀正しい令夫人の居ずまいに
戻っていて、わずか30分前、私の腕の中で娼婦の様に悶えた夫人の姿はどこにもなかった」

「・・・・・・・」

何か言いたそうなそぶりを見せるのですが、心のもやもやが言葉にならない様子で、千春はじれった
そうにだんまりを続けています。