フォレストサイドハウス(その13)
37 フォレストサイドハウス(その13)(452)
鶴岡次郎
2016/04/21 (木) 14:19
No.2843
「結婚した後…、
体の中で悪い虫が騒ぎ出し、夫と佐王子さんが相談して、
佐王子さんに再び抱かれるようになった頃でした…」

千春がその時を思い出しながら、豊かな笑みを浮かべて話し始めました。

「夫が認めてくれているとはいえ、
人妻が他の男に抱かれるのは異常なことです。
肉体は満足しても、心は日々すさんで行きました。
佐王子さんに抱かれた後、
罪悪感と自己嫌悪感で押しつぶされそうになっていた時・・、
保さん・・・、いえ・・、佐王子さんが・・、
慰めと元気づけのために、こんな人もいるよと・・、
ある女性の生き様を話してくれたことがあったのです・・・」

「その人が・・、由美子さんだったのね…・」

「ハイ・・・、その時に限らず私が行き詰まった時、佐王子さんは私にいろいろと女の生きる道を
教えてくれました。そしてその都度、彼は具体的に実在の女を登場させて、その女の生き様を話し
てくれるのです。勿論名前までは明かしてくれませんが、彼の話に登場する女たちはみんな彼が抱
いた女だと私は気が付いていました。感銘する話も多いのですが、どちらかと言うと、反発を感じ
る話の方が多かったと思います・・・」

「それはそうだね・・・、
他の女の話は、それがいくらありがたいお説教でも、
女にとっては、ごめんこうむりたいものだからね・・・、
それが判らない佐王子さんではないと思うけれどね…、
多分・・、千春さんを理想の女に育てるため、
野暮だと知りながらも、嫌われる仕事を買って出ているのね・・」

「そうかしら・・、
私を恋愛対象の女と見ていないのだと思います…、
いつも、自分の娘に説教するような口ぶりです…。
散々に抱いていながら、女とみなしていないなんて・・・、
失礼なことだと思いますが・・」

やや不満そうな口調ですが、千春の表情は笑っているのです。

千春が語り続けます。

「当時、彼はある闇の組織に身を置いていて、同じ組の者からでさえ嫌われる売春組織の一員でし
た・・。その女の方と出会ったのは、そうした闇社会で活動中のことだったそうです。その方は表
向きは堅気のサラリーマンの妻で、小学生と中学生になる子供を育てながら、一方では、著名な的
屋の親分の情婦でもあったのです・・」

話し始めると忘れていた内容が鮮明に思い浮かんでいる様子で、よどみなく話し続けているのです。


「的屋・・、知っているか・・?・・・、そうだ・・、その通りだ・・・、古い言葉で最近はあまり
使わないが、お祭りなどで屋台を出している業者のことをそう呼んでいるのだ。正業のないヤクザと
は基本的に違うのだが、それでも彼女が育った社会では親しくなる機会がなかった別世界の人である
のは確かだ・・。その夫人はある事情から的屋の親分の愛人になった。勿論その方のご主人も承知の
上でのことだ…・」

佐王子はその女のことを千春にこのように紹介したのです。

「その親分の愛人となった夫人は、その日から毎日のように親分に抱かれるのは勿論のこと、月の内
何度か、仲間の親分衆へも貸し出されるようになった。それが彼らの習慣だったのだ。こうして、夫
人は毎日のように違う男を相手するようになり、抱かれた男の数もあっという間に100人を超え
た。普通の家庭の主婦であった夫人が娼婦並の男性経験をすることになったのだ。

このように話すと、夫人は堕ちるところまで堕ちた場末の娼婦の様に変貌したと思うだろうが、上品
な雰囲気は変わらず、ただ、多数の男達と接した結果、一寸した仕草ににじみ出る色香がさすがと思
わせるほどすごいものに変わって、もう・・、誰も近づけないほどの雰囲気を持った女に成長してい
た・・・・・」

その夫人にかなり入れ込んでいる様子を隠さないで佐王子は話していました。