フォレストサイドハウス(その13)
3 フォレストサイドハウス(その13)(418)
鶴岡次郎
2016/02/15 (月) 13:59
No.2808

「いつもこの道を通るんですか…」

「この先に友達の店があるんですよ・・、
週に一度か、二度、お昼を過ぎたころ彼女を訪ねるの・・・、
彼女の店に行くにはこの道を利用するのが一番だから…」

「ああ・・、南口の傍にあるアパートの売店ですか・・」

「そう・・、店番を一緒にしながらおしゃべりするのよ・・」

「そうですか・・、お友達とおしゃべり・・、いいですね・・・」

そこで窓の女が突然立ち止まり、まっすぐに千春を見つめました。背の高い千春を見上げる格好で
す。

「今日ここでお会いしたのは偶然ではありませんね…、
あの日と同じように、わたしがここへ来ると思って待っていたのですね・・」

「はい・・、この時間、この道で待っていれば、
またお会いできるかもしれないと、淡い期待を込めて、
一週間ほど、ほとんど毎日、ここで待っていたのです・・・・」

「まあ・・・一週間・・・、それは、それは・・」

窓の女はかなり驚いています。そして、あることに突然気が付いた様子です。それはそうです、恥ず
かしい姿をさらしたとはいえ、名前も知らない女を探し当てるため一週間もさみしい公園の一角で辛
抱強く待っていたのです。女を探し出さなくてはならない重要な訳が千春に発生した。そしてその訳
は、千春の恥ずかしい姿を覗き見たことに深い関係があると思うのが普通です。窓の女はそれまでの
笑みを引っ込め、真剣な面持ちで千春を見つめ口を開きました。少し早口になっています。

「・・・で、何かまずいことが起きたのですか・・・・
あのことでしたら・・・
私・・・、
先日見たことは誰にも話していないし・・、
これから先も、誰にも話さないと約束できますが…」

「エッ・・・」

どうやら浮気がバレて、唯一の目撃者である窓の女と口裏を合わせるために、千春がここで待ち伏せ
をしていたと窓の女はとっさに考えたようです。

意外な窓の女の言葉と彼女の慌てようを見て、千春も驚いています。次の瞬間、窓の女がとんでもな
い誤解をしていることに気が付いています。そして突然、笑いだしています。窓の女は笑い出した千
春を見て当惑して、それでもあいまいな笑みを浮かべて千春を見ています。

「ああ・・・、ごめんなさい・・・、
ここは笑うところではありませんね・・・・・・、
でも・・・、あなたの発想が、あまりに面白くて、つい…、フフ…」

まだ笑いが収まらない様子で千春が口を押さえています。こうなると女はなかなか笑いが止まらない
のです、それを知っている窓の女は千春の笑いが収まるのをしばらく待つつもりになっているよう
で、ただ黙って立っています。

「ああ・・、苦しい・・、ごめんなさい・・・、
でも・・、ここで待ち伏せをしていたら、そう取られて当然ですね…
あなたを待っていたことは確かですが・・、
ただもう一度会いたかっただけなんです・・・。
スミマセン・・・・、フフ・・・・・」

千春の笑いを見て、ようやく窓の女は自分が犯したミスに気が付いた様子です。早合点したことに気
が付いたのです。

「なあ・・んだ、てっきりご主人に浮気がバレて、
私の口封じに来たのかと思ったわ・・・、
よく考えれば、お互いに名も知らない間柄だから、
私のところに探偵社の調査員が来る可能性はゼロですよね・・・、
心配して損しちゃった…、フフ・…」

「ご心配なく、主人にはすべてバレています・・・・、
・・と言うより、主人にはあの日のことはすべてを話しました。
勿論・・、あなたに見られたことも・・・
若い男に溺れ過ぎないようにと注意されました・・・・・」

「そう・・、いいご主人ね…
そして、あなたが素晴らしい女性だから、
ご主人もあなたを自由に泳がせているのね・・・・
素晴らしいご夫妻ですね・・・・・」

窓の女が千春の足先から腰そして胸、顔まで、千春を値踏みするようにゆっくり見て、ようやく千春
の人となりをそれなりに理解できた様子で、大きく頷き、つぶやくように言っています。